鹿児島弁辞典「ぬ」}
「ぬ」
ぬ:能力・能 「良(ゆ)したもん 能(ぬ)の無(な)か亭主(て)しな 遣(や)い
手(て)女房(かか) [田代彦熊]」「能力(ぬ)が有(あ)っち 煽(おだ)てっ郷中(ごじゅ)ん 役(や)き付(つ)けっ [深道好之]」
ぬ:~を 「依存症(いぞんしょ)が ペンぬ吸(す)でけた 長(な)げ会議 [馬場日登巳]」「マネキンぬ 脱(ぬ)がせっ
買(こ)たが 似合(に)おわせじ [針持三毛猫]」
ぬ:飲む 「只焼酎(ただじょちゅ)を おてちき飲(ぬ)だて 票(ひゅ)は入(い)れじ [吉岡道場]」
「途方(つがらん)ね 飲(ぬ)だ上(うえ)不道徳(じも)ね 妻(か)け纏付(めち)っ [瀬戸口湯気]」
ぬ:縫う 「雑巾(ざふっ)ずい 縫(ぬ)みちゃ知(し)たんじ 買(こ)け走(はし)っ [片平桜子]」
ぬ:脱ぐ 「堪(の)さん言(ちゅ)っ 寝巻(ねま)くひん脱(ぬ)だ 熱帯夜 [山内成泰]」
ぬい:塗り・塗る 「塗(ぬ)いの箸(は)す 薄(う)しか鰒(ふぐ)刺身(さ)しゃ 擦(す)い抜(ぬ)けっ [池上黒ぢょか]」
「塗(ぬ)い過(す)ぎっ 背中(せな)け流れた 禿薬(はげぐすい) [堂園三洋]」
ぬいかゆい・ぬいかゆっ:塗り替える 「イチローが 安打記録(きろ)くば 塗(ぬ)い替(か)えっ [三條風雲児]」
「合宿(がっしゅっ)で 補欠(ほけっ)が記録(きろ)く 塗(ぬ)い替(か)えっ [入来創雲]」
ぬいぐすい:塗り薬
ぬいくん・ぬいこん:塗りこむ 「皺(しわ)ん中(な)け 塗(ぬ)い込(く)ん化粧(けしょ)ん 量(で)の無(ね)こっ
[六田紫好]」
ぬいたくい・ぬいたくっ:塗りまくる・化粧しまくる 「鏡(かがん)どま 要(い)らん顔(つら)をば 塗(ぬ)いたくっ
[有川南北]」「塗(ぬ)いたくっ 色気どこいか 妖怪(めん)になっ [弓場正巳]」
ぬいちくい・ぬいちくっ・ぬいつくい・ぬいつくっ:塗りつける 「乳離(ちちばな)し 胡椒(こしゅ)をば乳房
(ちち)い 塗(ぬ)いつけっ [桑畑茶坊]」
ぬいちっ:塗りつく
ぬいてもと・ぬいばし:塗り箸 「塗箸(ぬいてもと) 畳(たた)み蒟蒻(こんにゃ)く 追(う)てまわっ [野間小爺]」
ぬいど:盗人・泥棒 「がんたれ家(え) 盗人(ぬいど)も入(い)らん 兎小屋(うさっごや) [桜井吹雪]」
ぬかい:手抜かり
ぬかい・ぬかっ:ぬかる・泥濘る
ぬかいだ:泥田・湿田 「泥濘(ぬか)い田い 踏(ふ)ん込(こ)んだよな 呆(ぼ)え政治 [佐伯山神]」
ぬがすい・ぬがすっ:脱がせる 「マネキンぬ 脱(ぬ)がせっ買(こ)たが 似合(に)おわせじ [針持三毛猫]」
ぬがなか・ぬがね:能力がない 「能(ぬ)が無(な)かで 学歴(がくれっ)の方(ほ)が 邪魔(じゃ)めしなっ [植村聴診器]」
「血統書 付(つ)ちょった割(わ)いな 能(ぬ)の無(ね)犬(いん) [石塚律子]」
ぬがならん:脱げない・脱ぐことができない 「暑(ぬ)くしてん ひん脱(ぬ)がならん 防護服(ぼうごふっ) [澤津乙名]」
「よいなこっ 着たLサイズ 脱(ぬ)がならじ [吉岡道場]」
ぬかるい・ぬかるっ:抜かれる 「もへ妹(いも)ち 抜(ぬ)かれっしもた 姉ん胸 [上薗佳笑]」
ぬき:暖かい・暑い 「」「暑(ぬ)きかろと 我慢(きば)っ鬘(かつら)を 取(と)らん禿 [金井一馬]」
「暑(ぬ)き風を 女房(かか)越(ご)し送(おく)い 扇風機 [野間口鈴女]」
ぬき:暖かい・温かい 「貼(は)い終(と)った 障子(しょう)じ暖(ぬ)き陽(ひ)が 婆(ば)を訪(こと)っ
[岩崎美知代]」
ぬぐ:拭う 「エプロンで 涙(なんだ)をば拭(ぬ)ぐ 敷(し)かれ亭主(てし) [堂園三洋]」「初デート 汗を
拭(ぬ)ぐ拭ぐ 手を握(にぎ)っ [永徳天真]」
ぬくい・ぬくっ:抜ける 「秋(あ)か哀(かな)し こん頃(ご)ら抜(ぬ)くい 毛も失(う)せっ [有川南北]」
「片足(かたごて)あ 棺桶(かんお)け入(ぬく)っ 言放題(ゆほで)言(ゆ)っ [中村雲海]」
ぬくい・ぬくっ:挿入する・突き刺す・貫く 「冷え性(しょ)妻(かか) 俺(おい)が股張(またば)い 足(あ)す
差入(ぬく)っ [楠八重渓流]」
ぬぐどえっ:拭い通すの連用形 「義理(ぎい)の通夜 出(で)らん涙(なんだ)を 拭(ぬ)ぐどえっ [堂園三洋]」
「厳(いみ)し妻(かか) ドラめな頬(ふ)どん 拭(ぬ)ぐどえっ [瀬戸口湯気]」
ぬくまい・ぬくもい・ぬくもっ:温まる
ぬくむい・ぬくむっ:温める・暖める
ぬぐわん:拭わない 「福島ん 尻(しい)も拭(ぬ)ぐわじ 再稼動 [佐伯山神]」
ぬけあがい・ぬけあがっ:禿げる 「抜(ぬ)け上(あ)がっ 向(む)こ鉢巻(はちまっ)も ずい落(お)てっ [入来創雲]」
ぬけきらん:抜けきれない 「芋育(そだ)っ 田舎(いなか)訛(なま)いが 抜(ぬ)けきらじ [有川南北]」
ぬけさっ:間抜け
ぬけっ:抜けるの連用形 「二三歩で 宅(やど)ん玄関(ふんご)ま 裏(う)れ抜(ぬ)けっ [有川南北]」
「運動会(うんどかい) 昼飯(ちゅはん)が済めば 気が抜(ぬ)けっ [吉岡道場]」
ぬけん:抜けない 「指輪(いっがね)を 投げ付(つ)く思(と)もが 抜(ぬ)けんわろ [埀野剣付鶏]」
「掴(つか)ん取(ど)い 欲(よっ)な拳骨(とっこ)ん 手が抜(ぬ)けじ [吉岡道場]」
ぬし:恋人・愛人 「娘(こ)ん恋人(ぬ)すば 父親(ちゃん)な穿(ほ)ぐいめ 欠点(あら)探(さが)し[平瀬芙蓉]」
「初盆が 済んだや直(いっ)き 彼(ぬし)が来(き)っ [蔵ノ下夢石]」
ぬしただい:雨垂れ 「軒下雨(ぬしただ)い 不精(ふゆ)は鍋どん 洗(あ)るわせっ [野間口鈴女]」
ぬしと・ぬすと:泥棒・盗人 「ちょっとした 泥棒(ぬす)て遭(お)たよな
里帰(さともど)い [津留見酎児]」「盗人(ぬしと)どま 一背負(ひとかれ)じゃいが 火は裸 [野村三味]」
ぬすん:盗む 「宮大工 苦労(くろ)して盗(ぬす)ん 師匠(ししょ)ん技(わざ) [上瀬明星]」
ぬだ:伸びた 「伸(ぬ)だ孫い 婆(ばば)も驚(たまが)っ ちゃんこねっ 」
ぬっ:塗る 「捨(うっ)せ金(ぜん) 根ずい枯(か)れちょい 禿い塗(ぬ)っ [市来流星]」「年忌どが 済めばちんちん
口紅(べん)ぬ塗(ぬ)っ [内村太郎]」
ぬっ:抜く 「夫婦(みと)喧嘩 すい度(た)び戸籍(こせ)く 抜(ぬ)っど言(ちゅ)っ [有村土栗]」「可愛(む)ぜ
孫が 頑固(いっこっ)親父(とと)ん 骨を抜(ぬ)っ [樋口一風]」
ぬっ:飲む 「貰(も)れ風呂い 焼酎(しょちゅ)迄(ずい)一杯(いっぺ )貰(も)ろて飲(ぬ)っ [太良木五徳]」
「呻(うめ)っとに まだち助産婦(さんば)は 茶どん飲(ぬ)っ [楠八重紫庵]」
ぬっ:伸び・伸びる 「伸(ぬ)っ盛(ざか)い 少(ちっ)と大(ふと)めを 買(こ)っ着(き)せっ [弓場正巳]」
ぬっ:脱ぐ 「こら堪(の)さん また脱(ぬ)っでけた 女(おなご)酔漢(とら) [江平光坊]」「肥満(だんべ)
女房(かか) 服(ふ)く脱(ぬ)っかても 深呼吸 [福冨野人]」
ぬっか:暑い 「暑(ぬっ)かでち 便所(まな)け団扇(うっば)を 婆(ば)あ準備(しこ)っ [おんじょどい]」
「なま暑(ぬっ)け 焼酎(しょつ)を湯で割(わ)っ 汗をけっ [津留群志]」
ぬっか:暖かい・温かい 「縁側が 暖(ぬっ)かろち客(きゃ)き 茶を準備(しこ)っ [永徳天真]」「暖(ぬっ)か日ん
婆(ばば)ん日課は 薇(ぜんべ)採(と)い [三條風雲児]」
ぬっさ:暑さ 「暑(ぬ)き暑きち 言(ゆ)めち思(お)もどん こん暑(ぬっ)さ [樋口一風]」「こん暑(ぬっ)せ
炬燵(こた)つ背負(かる)ちょい よな子守(こもい) [中村雲海]」
ぬっさ:暖かさ・温かさ 「折角(せっかっ)の 吊柿(ついが)か暖(ぬっ)せ 腐(けっ)されっ [三條風雲児]」
ぬっざかい:伸び盛り 「伸(ぬ)っ盛(ざか)い 小(ちん)け茶碗じゃ 間(か)け合(お)わじ [江口紫朗]」
「鍋奉行(なべぶぎょ)い まだかまだかち 伸(ぬ)っ盛(ざか)い [樋口一風]」
ぬったくい・ぬったくっ:塗りまくる
ぬっびゃがい・ぬっびゃがっ:伸び上がる 「狭(せ)め宅地(たっち) 家屋(いえ)あ空せえ 伸(ぬ)っ上(びゃ)げっ
[長井春江]」
ぬっむい・ぬっむっ:温める 「寒(さ)み晩な 亭主(てし)が温(ぬっ)めた 寝床(と)け入込(へく)っ [今井夢紫]」
ぬっもい:温まる・温もり 「猪口(ちょっ)どんじゃ 温(ぬっ)もやならん 寒(さ)んか晩 [野瀬曲尺]」
「美人(シャン)レジん 手の温(ぬっ)もいが 釣銭(つい)と来(き)っ [堂園三洋]」
ぬなし・ぬなしごろ:能無し 「怠惰奴(ぬなしごろ) 最後(つま)や空腹(すっば)れ 起(お)こされっ [中間紫麓]」
「理屈ちくちゃ言(ゆ)が 仕事(しご)たきっせん 無精者(ぬなしごろ) [鮫島牧峰]」
ぬらかす・ぬらくい・ぬらくっ:濡らす 「片袖を 夕立(さだ)ち濡(ぬ)らけた 亭主(て)し悋気(じんき)
[加治屋心眼]」
ぬり:鈍い 「後(うしと)から ねじゅ巻(ま)こごちゃい 鈍(ぬ)り語(かた)い
[満留ぐみ]」「杵(きね)ん調子(ちょ)す ど鈍(ぬ)り手混(てま)ぜが 狂(くる)わせっ[樋口一風]」
ぬり:温(ぬる)い 「むくれ亭主(と)て ど温(ぬ)りビールを 揺(ゆ)すっ出せ [宮田隆翔]」「貰(も)れ風呂ん
温(ぬ)り湯ん皮肉(ひに)き 嚏(くしゃ)むしっ」
ぬるい・ぬるっ:濡れる 「濡(ぬ)るっでち 案山子(おどし)も嫌(き)ろた 破(やぶ)れ傘(がさ) [蕨迫四郎]」
「初賜杯(はっしは)い 嬉(うれ)し涙(なんだ)で 頬(ふ)が濡(ぬ)れっ [入来義徳]」
ぬるか:鈍い 「なま鈍(ぬる)か 茶は間(か)け合(お)わん 機械植え [三條風雲児]」
ぬれぎん:濡れ衣 「濡衣(ぬれぎん)も 被(かぶ)ろそな人(と)を 秘書いしっ [大和元気]」「濡れ衣(ぎぬ)ん
地獄(じご)く抜(ぬ)け出(で)た 菅屋(すがや)さん [満留ぐみ]」
ぬれねずん:濡れ鼠 「ハイキング 予報(よほ)が外れて 濡れねずん [坂口橘風]」
ぬん:飲む 「献血(けんけっ)の 晩な血液(ち)作(つく)い 沢山(ずばっ)飲(ぬ)ん [中村雲海]」
ぬんむい・ぬんむっ:温める