おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第569号

雑吟     三條風雲児選

一番槍 また来(け)よち 言(ゆ)たや二度目も 素手で来(き)っ [安藤孟宗竹]
二番槍 ひょかっ来(き)っ 有(あ)いしこで良(え)で 貸(か)せち言(ゆ)っ [村田子羊]
三番槍 金(ぜん)工面 なんだ忘れた 顔(つら)で眠(ね)っ [江平光坊]
四番槍 貰(も)ろた香典(ひで) 中は空(から)じゃち 言(ゆ)もならじ [大迫三ツ葉]
五番槍 暇なしの 師走(しわ)しゃ男い なろごちゃ [上籠若菜]
六番槍 徘徊の 惚(ぼ)け老母(かか) 縛(きび)いわけいかじ [佐土原 隆]
七番槍 退職(やめ)たぎい 留守番(ずしばん)続(つづ)き 惚(ぼ)けでけっ [野村三味]

渋柿集

三條風雲児 もへ師走(しわす) こん頃(ご)ら女房(かか)も 着ぶくれっ
うそ震(ぶ)るっ 帰(もど)れば おでん鍋が待(ま)っ
口(く)ち入(い)れっ たぎった湯豆腐(ゆど)き 狼狽(ばたぐ)ろっ
兎(うさっ)狩(が)い 油断なでけん 薪(たくん)取(と)い
久振(さしかぶ)い 干菜(ほしな)ん汁(しゅい)に 生(い)っ上(きゃ)がっ
禁酒をば またがん壊(く)えた 歳暮(せぼ)ん焼酎(しょちゅ)
病(びょ)は癒(ゆな)や せんじ今年も 大晦日(としのばん)
上田 格 今朝採(と)れた 貝(け)じゃろ砂どん 被(かぶ)っちょっ
ご機嫌(っげん)が 元い戻(もど)らん 横(よん)ご杵(ぎね)
世の中を 小才(こだ)ばっかいで 切(き)い抜(ぬ)けっ
負(ま)くい前 補欠(ほけっ)も出(で)でた 甲子園
焼酎(しょちゅ)煙草 こいもいかんち 指(い)ぶ立(た)てっ
焼酎(しょちゅ)瓶で 耳(みん)ずい笑(わ)るた 隠居爺(じじ)
猪(しし)の肉(にっ) 自慢(おぎら)も黙(だま)っ 聞(き)て食(たも)っ
有川南北 退職(やめ)たなあ 昼飯(ひいめ)しゃ食(く)たい 食(か)じゃったい
トロ箱い 葱(ねっ)どん植(う)えっ 一人(ひとい)住(ず)め
風呂(ふ)れ入(い)らん 小(こ)ギャルが臭(く)せち 議(ぎ)を吐(か)えっ
見(み)ちょい方(ほ)が 恥(げん)ね人中(ひとな)け 手を連(つ)ねっ
通信簿 元気やっでち 諦(あきら)めっ
塚田黒柱 よいなこっ 禿も運命(さだめ)ち 諦(あきら)めっ
交際(つっけ)ん良(え) 妻(か)け年金な ずうず減(へ)っ
報復(ほうふっ)ち 言(ゆ)ちょいがつまや 人殺し
目が霞(かす)ん 女房(おかた)が美人(シャン)に 見(み)えでけっ
染(そ)むい毛が あっでまだ良(え)ち 思(お)め直(な)えっ
参考作品 英語どま 喋(しゃべ)いがなっが 挨拶(えさ)ちゃせじ [前田セツ]
担任が ハンサムじゃれば 役(や)く負(かる)っ [松田一雄]
肩書(かたがっ)が 女房(かか)ずい上座(かん)ぜ 座(すわ)らせっ [松元清流]
茶道(ちゃ)はすいが ドアどま尻(しい)で ドンちやっ [満石うらら]
新参(しんめ)親 寝(ね)ぼけち知(し)たじ 医者(い)しぇ走(はし)っ [胡頽子]
まだ独身(ひとい) 河童(がらっぱ)禿が 邪魔をしっ [村田子羊]
養子(よし)じゃれば 遠慮(しんしゃ)くしいし 物を言(ゆ)っ [永谷 勝]

山椒集 題「味(あっ)」     上田 格選

火も止(と)めっ 婆(ばば)ん舌先(したさ)き 味(あ)じゃ決(き)まっ [有馬凡骨]
よか味(あっ)ち 料理(じゅ)ゆばほめたや 酌(しゃ)くばしっ [平中小紅]
母親(はほ)ん味(あ)ず 宅急便で 送(おく)っ遣(や)っ [田代彦熊]
五客一席 五十年(ごんじゅねん) 鍛えた芸の 味(あ)ず見(み)せっ [大和 渚]
五客二席 婆(ば)ん枯れた 喉がハンヤい 味(あ)ず添(そ)えっ [津留見一徹]
五客三席 そばん出し 惚(ほ)れっ老舗い 婆(ば)と這入(へく)っ [鈴木一泉]
五客四席 旬の味(あっ) 松茸(なば)ん土瓶ぬ しため切(き)っ [有馬慶成]
五客五席 味(あっ)よっか 匂(かざ)い釣(つ)られっ 鰻(うな)ぐ買(こ)っ [規矩夫]
選者吟 薄味(うすあっ)も 慣れたがかった 気力(あや)がのし

龍虎集 「時事吟」     塚田黒柱選

報復(ほうふ)きな また報復(ほうふっ)が あろち心配(せわ) [大和 渚]
青田刈(が)い 田の神(かん)さあも 泣(な)っかぶっ [有馬慶成]
寄付が無(ね)ち 入札(にゅうさ)つさせじ 仇(かた)きょとっ [入来創雲]
四天王一席 日本一(にほんいっ) 婆(ばば)ん踊(おど)いで 座が弾(はず)ん [山路野菊]
四天王二席 計画ぐん立(た)てと 計算(さんにょ)が違(ち)ごた 人工島(じんこじま) [米元年輪]
四天王三席 三セクが 二転三転 揉(も)めどえっ [新地十意]
四天王四席 薩摩語(さつまご)で 通(と)えた春田ん ボスが逝(い)っ [埀野剣付鶏]
選者吟 安全ち 知事が黒牛(くろう)す 食(く)っみせっ

郷句相撲 題「吟味」

横綱(東) 志望校(しぼうこ)ん 吟味も恥(げん)ね 通信簿 [松元清流]
横綱(西) 安(や)し金利 夫婦(みと)で吟味ん 世帯(しょて)ん繰(く)い [菖蒲谷天道]
大関(東) 辞書吟味 結局(つま)や字の大(ふ)て とい決(き)めっ [坂元鶴山]
大関(西) 吟味言(ちゅ)も 無(の)して決(き)めちょい 女房(かか)天下 [有馬凡骨]
関脇(東) 夫婦(みと)ん旅(たっ) 土産吟味で 時間(と)く潰(つ)びっ [山田竜生]
関脇(西) 無駄(すだ)吟味 一番(いっばん)鶏(どい)が 鳴(う)とでけっ [倉元天鶴]
小結(東) 郷中(ごじゅ)ん寄合(よい) 吟味あ大概(てげ)で 焼酎(しょちゅ)いなっ [川村三生]
小結(西) 両親(おや)介護 吟味い兄弟(きょで)が 黙(だま)い込(く)っ [有馬慶成]
筆頭(東) 吟味した 高(た)け料理(じゅ)や俺(おい)が 口(く)ち合(お)わじ [塚田黒柱]
筆頭(西) 字画(じか)く引(ひ)っ 可愛(む)ぜ初孫(はっまご)ん 名を吟味 [棈松睦酔]
二枚目(東) 大息(うい)くちっ 放蕩(なぐれ)息子ん 嫁吟味 [佐土原 隆]
二枚目(西) 焼酎(しょちゅ)ん匂(か)ぜ 揉めた吟味が さっ決(き)まっ [川村 明]
三枚目(東) 議(ぎ)が多(う)こし 吟味だおれん 郷中(ごじゅ)ん寄合(よい) [郷田悠々]
三枚目(西) 見合(みえ)仕度(したっ) 座敷(ざな)け広げた 着物(いしょ)吟味 [今釜三岳]
四枚目(東) 吟味すい 暇もなかうち 買(こ)わされっ [満留ぐみ]
四枚目(西) 苦情(くじょ)吟味 役所(やっしょ)ん中を 盥回(たれまわ)し [永徳天真]
五枚目(東) 歳暮(せぼ)吟味 倹(つま)し亭主(とと)とな 時間(ひま)が要(い)っ [福山吉連]
五枚目(西) テロ事件 吟味ん顔(つら)は 吊(つ)い上(や)がっ [津曲とっこ]
六枚目(東) 着物(いしょ)吟味 亭主(とと)んたへっち ひっ決(き)まっ [満石うらら]
六枚目(西) 夏(なっ)台風(うかぜ) 吟味ん予報(よほ)を 相当(じょじょ)曲(ま)げっ [中村雲海]
七枚目(東) 半返し 吟味もしかて 痛(い)て頭(びんた) [堂園三洋]
七枚目(西) 銘柄(めがら)当て 飲(ぬ)だい嗅(か)ずだい 吟味しっ [有村土栗]
八枚目(東) 良(よ)か嫁を 吟味が長(な)ごし 貰(も)ろださじ [樋之口墨矢]
八枚目(西) 遺産分け 吟味が後(のち)な 喧嘩(けん)けなっ [那加野黎子]
親方吟(東) 句の吟味 捻(ひね)くい回(ま)えて がん壊(く)えっ [瀬戸口抱洋]
親方吟(西) 祝儀(はな)開(びら)っ 吟味い集(よ)った 鍋黒顔(へぐろづら) [入来創雲]

その他の秀句 (順不同)

駆落(かけお)つば すっ言(ちゅ)で許(ゆ)りた 歯痒(はが)い相手(えて) [村田子羊]
リストラで 焼酎(しょちゅ)は女房(おかた)が 取(と)い仕切(しき)っ [川村 明]
後妻(あとおか)て ペアんパジャマを 着(き)せられっ [諸木小春]
除夜ん鐘 今年も中途(つと)で 鼻が鳴(な)っ [金井一馬]
露天風呂 女房(かか)は名月(めいげ)つ 腹(は)れのせっ [田中末木]
長尻客(ながじきゃ)き 栓な抜(ぬ)かんじ 出(で)たビール [小瀬一峻]
あらいよち 作(つく)い涙(なんだ)で 相手(えて)をしっ [田原大黒]
酔(え)くれ客(ぎゃ)き 帰(もど)い支度(したっ)の 加勢(かせ)をしっ [押領司翠里]
一摘(ひとつま)ん 婆(ば)さまん塩で 味(あ)ず決(き)めっ [入来創雲]
旅支度(たっした)き 亭主(とと)あ焼酎(しょちゅ)かあ 先(さ)き準備(しこ)っ [倉元天鶴]
塵出(ごんだ)しも 身支度(みじた)き鏡(かが)む 見(み)い老妻(おかた) [竜王]
敬老(けいろ)ん日 過(す)ぎれあただん 爺婆(じば)べなっ [塚田黒柱]
子い恵(のさ)っ 貧乏暮(びんぶぐ)らしも 夢があっ [西 幸子]
出来(でけ)た姑(しゅと) 嫁ん悪口(あっご)い 戸を立(た)てっ [坂元鶴山]
一食(ひとかた)ちゃ 雑炊(ずし)い頼(たよ)った 月給日(はれび)前 [鈴木芳子]
百舌(もいぎっ)の 声も寂(とぜん)ね 過疎ん里 [川辺睡蓮]
初霜(はっしも)い 褌(へこ)をパンツい 穿(は)っ替(か)えっ [村田子羊]