おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第712号

雑吟     永徳天真選

一番槍 ヘルパーを あげん嫌(き)ろたて 今拝(おが)ん [湯田青秋]
二番槍 短(みし)け足(あ)し ないが似合(にお)かい 長(な)げブーツ [おんじょどい]
三番槍 反(そ)ねくって つっかえが要(い)っ 新(に)け課長 [棚網 鮎]
四番槍 あいがとち 一言(ひとこっ)添(そ)えっ 丸(ま)る暮(く)れっ [中囿和風]
五番槍 ナビ席(せっ)が 一(いっ)ちゃ一(いっ)ちゃん 歯痒(はが)い下知(げっ) [楠八重渓流]
六番槍 新聞ぬ 隅(すん)迄(ずい)読んだ 文化ん日 [大西学老]
七番槍 長(な)げ看病(かびょ)ん 女房(かか)いな借りが また出来(でけ)っ [吉岡道場]

渋柿集

中村雲海 雰囲気と 焼酎(しょちゅ)い呑(の)まれっ 大(ふ)て失敗(ちょんぼ)
気を遣(つ)こっ 手回(てまわ)すしたや 先(さっ)が居(お)っ
議(ぎ)が適(か)のっ 焼酎(しょちゅ)を減(へが)めち 孫が下知(げっ)
人が良(ゆ)し 振(ふ)い回(まわ)されっ 集(たか)られっ
早(は)え出世 敵(て)く寄(よ)せつけん 温和(な)ち語(かた)い
有川南北 酷(ひ)で夏(なっ)も 終(おわ)っ山でな 法師蝉(ずくりっしょ)
ゲリラ雨 凄(わ)ぜ竜巻(まくじい)も 連(つ)れっ来(き)っ
見物(みて)ん衆(し)を 唖然(あけっ)ならせた イプシロン
五輪ちゅが そん頃俺共(おど)ま 幾才(いくっ)かよ
敬老(けいろ)ん日 今年も郷中(ごじゅ)ん 役(や)く背負(かる)っ
弓場正己 若(わか)か娘(おご) じゃったで待った 無人駅(むじんえっ)
年金の 元を取(と)い間(はざ) 爺(じ)は生(い)ぎっ
ヘソ出しが 人気で売(う)るい 娘(おご)ん歌手
猿股(さるまた)を 買(こ)け行(い)っ言(ちゅ)たや 女房(かか)は来(こ)じ
亭主(てし)が洗(あ)る 皿は女房(おかた)が 洗(あ)る直(な)えっ
堂園三洋 無(な)か金(ぜん)ぬ 孫共(まごど)が来れば 握(にぎ)らせっ
医者殿(いしゃどん)な 抜(ぬ)こ言(ちゅ)が惜(たし)ね 虫歯(むしくれば)
俺(お)ゆ台所(おす)へ 立(た)たせっ女房(かか)は ドラマ見(み)い
夫婦(みと)喧嘩 最中(さな)けやっ来(き)た 邪魔な客(きゃっ)
歯痒(はが)い利子(じし) 雀ん涙(なん)で 税も付(ち)っ
永徳天真 注文の 料理(じゅい)がまだ来(こ)じ 険(けわ)し顔(つら)
バック中(ちゅう) あいややったど ドンち音
札(さっ)数(かん)ぜ 上手(じょし)じゃい筈(はっ)じゃ 元銀行(ぎんこ)
浴場(よくじょ)でな 社長(しゃちょ)も裸ん 只ん小父(おじ)
女房(かか)ん化粧(けしょ) 美的センスは 無(な)かよな態(ふ)
樋口一風 金(ぜん)が無(ね)で ダイエット言(ちゅ)て 昼飯(ひ)ゆば抜(に)っ
がらんつと 豆腐(おかべ)で妻(かか)ん 留守(ず)し耐(た)えっ
名刺いな 郷中(ごじゅ)ん役(やっ)ずい 全部(ずるっ)刷(す)っ
調子(ちょ)し乗って 遣(や)ったチップが 惜(お)すけなっ
助手席(じょしゅせっ)の 欠伸(あく)び運転(まくい)も 眠(ね)ぶけなっ

山椒集 題「人数(にし)」     有川南北選

ロケットん 勇姿を見(み)ろち 凄(わざ)い人数(にし) [満留ぐみ]
居(お)い丈(ひこ)ん 人数(にし)で足(た)らせっ 草野球 [上山天洲]
弥五郎(やごろ)どん 多(う)け人数(に)ず連(つ)れっ 浜下(はまくだ)い [澤津乙名]
五客一席 少(すっ)ね人数(にし) 交際(つっけ)無(な)か家(え)ん 通夜ん席(せっ) [萬福平次]
五客二席 足(た)らん人数(に)じ 心配(せわ)で大騒動(うそど)ん 避難先(ざっ) [植村昭子]
五客三席 減(へ)いでけた 人数(にし)が分校(ぶんこ)ん 灯(ひ)も消(け)せっ [吉岡道場]
五客四席 貰(も)ろ時(と)きな 寝込(ねく)だ婆(ばば)ずい 人数(に)し入(い)れっ [伊地知 孝]
五客五席 こら厄介(やっけ) 人数(に)じ入(い)れん奴(と)が 先(さ)き座(すわ)っ [佐伯山神]
選者吟 多人数(うにし)行(い)て 五輪五輪ち ラブコール

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

口先(くっさっ)で 御免じゃすまん 汚染水 [伊地知 孝]
こん猛暑(ぬっ)せ 発射(たっ)とも疲(て)せち イプシロン [上薗佳笑]
稲尾超(ご)え マーが球界(きゅうか)い 名を刻(きざ)ん [吉岡道場]
四天王一席 無差別(むさべっ)の 空襲(くうしゅ)ん如(ご)ちゃっ 豪雨(あめ)続(つづ)っ [有馬純秋]
四天王二席 四万十川(しまんと)ん 鮎も茹(いだ)った 酷(ひ)で暑(ぬっ)さ [石塚律子]
四天王三席 王室(おうしっ)じゃ 父親(ちゃん)もイクメン 手慣れた態(ふ) [今井夢紫]
四天王四席 知事様(さあ)も 厳(きび)し世論に 目が覚(さ)めっ [樋口一風]
選者吟 蘇れ 薩摩ん顔(つら)ん 御楼門(ごろうもん)

郷句相撲 題「遠(と)え」

横綱(東) 遠(と)え宇宙(うちゅ)い 出稼(でかせ)ぎ励(はま)い 吉田さん [澤津乙名]
横綱(西) 復興(ふっこ)いな 程遠(ほどと)え道(みっ)が まだ続(つ)じっ [吉岡道場]
大関(東) 遠(と)え耳(みん)が 平気で人を け死(し)ませっ [西ノ園ひらり]
大関(西) 遠(と)え耳(みん)に 振(ふ)い込(こ)め詐欺も 匙(さ)ず投(な)げっ [市来流星]
関脇(東) 筒抜(つっぬ)けい 耳遠(みんど)え爺婆(じば)ん 暮(く)らす見(み)っ [諸木小春]
関脇(西) 遠(と)え親類(しんじ) 選挙いなれば 近(ち)け親類(しんじ) [原田菊男]
小結(東) 遠(と)え記憶(きお)き なろそな戦争(いっさ) 語(かた)い継(ち)っ [石塚律子]
小結(西) 近(ち)けち言(ゆ)で 歩(あ)ゆだや遠(とお)か 田舎道(みっ) [樋口一風]
筆頭(東) 我(わ)が都合(つご)ん 悪(わ)りこちゃ耳(みん)が 遠(と)えで言(ちゅ)っ [佐伯山神]
筆頭(西) 耳(みん)の遠(と)え 真似もしながら 円満(ま)る暮(く)れっ [津留見一徹]
二枚目(東) 遠(と)え日をば 直(じ)き近(ち)こなけた クラス会 [おんじょどい]
二枚目(西) お浄土ち 遠(と)えち思(おも)たが もへ八十歳(さんじゅ) [上薗佳笑]
三枚目(東) 隣(とない)とな 遠(と)お近(ち)こ長(なが)か 交際(つっけ)上手(じょし) [西 幸子]
三枚目(西) 全(まっ)で遠(と)え 親戚(やう)つ選挙で 掘(ほ)い起(お)けっ [上山天洲]
四枚目(東) 弱々(よと)し五体(ごて) 兄弟(きょで)もちんちん 遠(と)おけなっ [樋渡草団子]
四枚目(西) 遠(と)えち言(ゆ)が 遺産分けにな 飛んで来(き)っ [白澤黒猫]
五枚目(東) 遠(と)え耳(みん)に 孫が中継(なかつ)ぐ して茶飲(ちゃの)ん [北村虎王]
五枚目(西) 選(え)い好(ごの)む しっ遠(と)おなった 貰(も)れ話(ばなし) [今井夢紫]
六枚目(東) 遠(と)え親戚(みう)つ 度々(はたれっ)訪(こと)い 選挙前 [入来創雲]
六枚目(西) 無料(ただ)焼酎(じょちゅ)ち なれば遠(と)えてん 出(で)っくらん [満吉満秀]
七枚目(東) 遠(と)え耳(みん)が 内緒話も 出(で)い大声(うごえ) [新地十意]
七枚目(西) 議員どま 当選(あが)れば遠(とお)か 民(たみ)ん声 [萬福平次]
八枚目(東) 耳遠(みんど)え婆(ば) 聞こえた様子(ふ)じゃが 別(べっ)な返事(へし) [樋之口墨矢]
八枚目(西) 遺産分け 兄姉(きょで)仲ずいも 遠(と)おなけっ [前村泰山]
親方吟(東) 異常気象(きしょ) 遠(と)え雷(かんなれ)も 心配(せわ)をえっ [満留ぐみ]
親方吟(西) 遠(と)え所(とこ)い 居(お)らじ脇(は)て来(け)ち 美人(シャン)ぬ呼(よ)っ [伊地知 孝]

第25回西日本薩摩郷句大会 兼題「悋気(じんき)」 石塚律子選

特選 収(おさ)まらん 悋気(じんき)が褌(へこ)を 切(き)い刻(きざ)ん [津留見一徹]
秀一 良(よ)か出来(でけ)ん 隣(つっ)の田圃い 虫(む)す呉(く)れっ [堂園三洋]
秀二 富士ん山(や)め 悋気(じんき)か毎日(めにっ) 激(はげ)し桜島(しま) [堂園三洋]
秀三 残念な こっじゃ悋気(じんき)も せん妻(おかた) [上籠若菜]
秀四 犬(いん)よっか 鼻が利(き)いちょい 悋気(じんき)女房(かか) [前村泰山]
秀五 相合傘(あいえが)せ 悋気(じんき)ん雨が ピタッ止(や)ん [新地十意]
軸吟 悋気(じんき)が病気(びょ) 困ったもんじゃ 宅(やど)ん女房(かか)

第25回西日本薩摩郷句大会 兼題「夜長(よなが)」 新地十意選

特選 オーロラが 夜長ん北欧(ほく)うぇ 旅客(りょきゃ)く呼(よ)っ [米元年輪]
秀一 赤子(こ)を寝(ね)せっ 女房(かか)は夜長い 一仕事(ひとしごっ) [花園ちづ]
秀二 大手術(だいしゅじゅ)ち 家族(けね)あ長(な)げ夜(よ)を 神(か)み縋(すが)っ [吉岡道場]
秀三 疲(だ)れ嫁ん 夜長ん看病(かびょ)を 目で拝(おが)ん [入来創雲]
秀四 川ん字が 逆(さか)さめなった 暑(ぬ)き夜長 [弓場正巳]
秀五 亭主(て)しゃ出張(しゅっちょ) 何度も目覚(おず)だ 長(なが)か晩 [北村虎王]
軸吟 茶一杯(ちゃいっぺ)で 夜長い粘(ねば)い 嫁御(よめじょ)貰(も)れ

第25回西日本薩摩郷句大会 兼題「箸(てもと)」 堂園三洋選

特選 未(ま)だ煮(に)えん 肉を押(お)さえっ 待(ま)っ箸(てもと) [津留見一徹]
秀一 盛(も)いの良(よ)か 皿を箸(てもと)で 引(ひ)っ寄(よ)せっ [原田菊男]
秀二 つん折(ご)った 輪島塗(わじ)め箸戦(なんこ)あ 叱(く)るわれっ [上籠若菜]
秀三 試食(ししょっ)用(よ)い 女房(かか)は箸(てもと)を 持(も)っ歩(さ)れっ [堂園三洋]
秀四 遊(あす)っ疲(だ)れ 幼児(こ)は箸(てもと)とめ 舟を漕(け)っ [有馬湧声]
秀五 火葬(かそ)も済(す)ん 箸(てもと)で探(さぐ)い 祖母(ば)ん金歯 [北村虎王]
軸吟 フレンチも 箸(てもと)一対(いっちょ)で 器用(じく)い食(く)っ

第25回西日本薩摩郷句大会 兼題「我慢(きば)っ」 永徳天真選

特選 姑(しゅ)て我慢(きば)っ 小姑こじゅうて我慢(きば)っ 今天下 [石塚律子]
秀一 酷(ひ)ど叱(が)れば パワハラち言(ゆ)で 我慢(きば)い課長(かちょ) [上籠若菜]
秀二 我慢(きば)いしか 手の無(ね)厄介(やっけ)な 消費税 [津留見一徹]
秀三 我慢(きば)っきた いじめを語(かた)い 切(せっ)ね遺書 [上籠若菜]
秀四 はいはいち 我慢(きば)っ仕(つか)えっ 後(の)ちゃ左遷 [満吉満秀]
秀五 痺れ足(あ)す 我慢(きば)っお経(きょ)どま 耳(み)み入(い)らじ [吉岡道場]
軸吟 口喧嘩(くっげんか) 負(ま)くっでいっも 亭主(て)しゃ我慢(きば)っ

第25回西日本薩摩郷句大会 兼題「ニュース」 堂園三洋選

特選 トウキョーち ニュースい震(ふ)るた 朝ん五時 [西ノ園ひらり]
秀一 ニュースしか 用事(ゆ)じゃ無(ね)て高(たっ)か 受信料 [石塚律子]
秀二 女子アナが 美人(よかおご)じゃっで 見(み)いニュース [津留見一徹]
秀三 隣(つっ)の婆(ばば) 郷中(ごじゅ)んニュースあ そら詳(くわ)し [米元伝喜]
秀四 喧嘩腰(けんかご)し ニュースを語(かた)い 北朝鮮(きた)んアナ [米元年輪]
秀五 縁の無(な)か 株価(かぶ)がニュースで 上下しっ [植村昭子]
軸吟 俺家(おいげえ)じゃ 三毛ん産(さん)どが 大(ふ)てニュース

第25回西日本薩摩郷句大会 兼題「励(はま)っ」 弓場正巳選

特選 熱(あ)ち声い 励(はま)っ応えた イプシロン [諸木小春]
秀一 傘寿でん 励(はま)れば登(のぼ)い エベレスト [植村昭子]
秀二 プレゼンの 励(はま)い国中(くんじゅ)が 沸(うぇ)っ五輪 [諸木小春]
秀三 苦労(くろ)をしっ 励(はま)っ育(お)えたて 盥回(たれまわ)し [入来創雲]
秀四 災害に 若(わ)け衆(し)が励(はま)っ 支援の輪 [植村昭子]
秀五 親子二代(にで) せっぺ励(はま)いが まだ借家 [上薗佳笑]
軸吟 茶柱(ちゃばした)が 立って良(よ)か日ち 今日(きゅ)も励(はま)っ

第25回西日本薩摩郷句大会 兼題「そろいと」 堂園三洋選

特選 切った痔を 時にゃそろいと 触(かか)っみっ [米元年輪]
秀一 先生の 背中(せな)けそろいと 馬鹿ち貼(は)っ [湯田青秋]
秀二 女房(かか)ん床(と)け そろいと行(い)たや 犬(いん)が叱(が)っ [満吉満秀]
秀三 若(わ)け歯医者(はい)しぇ そろいと抜けち 無理(むい)な願(ね)げ [新地十意]
秀四 名付な(つ)け祝(ゆえ) そろいと抱けち 赤児(こ)を回(ま)えっ [上籠若菜]
秀五 尿管ぬ そろいと入(い)るい 可愛(む)ぜナース [満吉満秀]
軸吟 土竜道(み)つ そろいと抉(くじ)っ 罠仕掛け

その他の秀句 (順不同)

どゆ見(み)てん 嬶天下(かかでんか)じゃい フルムーン [新地十意]
親馬鹿を息子(こ)が叱(く)るながい独(ひと)い立(だ)っ [おんじょどい]
ほいほいの 俺(お)いな釣(つ)い合(お)た 倹(つま)し妻(かか) [楠八重渓流]
生唾(なまつ)づば呑んだ場面とこいでコマーシャル [津留見一徹]
リモコンぬ女房(か)け付(つ)くごたい倦怠期 [福冨野人]
人数(に)じ加(か)てた奴(わろ)あ何処(ど)け行(い)た三次会 [楠八重渓流]
我(わ)がを人数(に)じ数(つも)いそこねた呆(ぼ)え幹事 [福冨野人]
肩書(かたがっ)が無(ね)でくさ気楽(きだ)き飲(の)ん歩(さ)れっ [小宮路〆鯖]
心電図金(ぜん)の工面が波(なん)に出(で)っ [津留見酎児]
聴け言(ちゅ)たが騒音じゃった社長(しゃちょ)ん歌 [樋口一風]
恥(げん)ね態(ふ)で 苦笑(にがわ)れしちょい 尻(しい)の養生(よじょ) [新地十意]
エロ本で鼻血はなづ打(う)っ出(で)た呆(ぼ)え夜長 [津留見一徹]
地金屋も要(い)らんち車(くい)めまだ我慢(きば)っ [小瀬一峻]
キスん間(は)ぜ鬘(かつら)じゃ無(な)かかそっ触(さわ)っ [上薗佳笑]