おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第706号

雑吟     永徳天真選

一番槍 呆(ぼ)け防止 言(ちゅ)どん算数(さんす)は すごた無(の)し [桑元行水]
二番槍 大(ふ)て国(くん)が 大豆(でっ)のよな島(し)め 目を見出みでっ [折田さくら]
三番槍 亭主(てし)の影 踏(ふ)んちけながら ウォーキング [おんじょどい]
四番槍 ハイヒール 初(はっ)めじゃったか とんくりっ [前田あやめ]
五番槍 若(わっ)か筈(はっ) 何(ない)も考(かん)げじ 日を暮(く)れっ [石野蟹篭]
六番槍 何事(ないごっ)も 直(いっ)き纏(まと)まい 女姉妹(おなごきょで) [満吉満秀]
七番槍 振られたや 馬鹿女(おなご)がち 空(そ)れ叫(おら)っ [大西学老]

渋柿集

中村雲海 良(よ)か巳年(みどし) 思(おも)わん税が 還付(もど)っ来(き)っ
まだ八十歳(はっじゅ) まだ働けち 吐(か)やす五体(ごて)
常識(じょうしっ)ち 説明(せつめ)ゆすれば 尚荒(あ)れっ
人生は 敵(て)き囲(かこ)まれっ 強(つ)よけなっ
鍬(くゎ)をペンに 替(か)えっ爺(じ)さんが 郷句(く)い励(はま)っ
有川南北 こん夜更 何処ん誰(だい)じゃろ 行(い)っピーポ
横断(よこぎ)っと 危(あっ)ねど婆様(ばさま) 其処(そ)け車(くいま)
孫んチュー 洟水(はな)ずいベラッ 塗(ぬ)っくれっ
赴任(き)て二年 焼酎党(しょつと)いなった お偉(えら)さあ
奥様(こじゅ)真似で 九官鳥が 亭主(とと)を叱(が)っ
弓場正己 趣味ん会 言(ちゅ)どん行(い)た先(さ)か 赤暖簾
参院ぬ 奪(と)ろち餌(えさ)をば 精一杯(せっぺ)撒(め)っ
財布(ふぞ)を嫁(よ)め 渡(わ)てたや直(いっ)き 呆(ぼ)けが来(き)っ
女子会ち 言(ゆ)て出て行(い)たが 婆(ばば)ん会
順不同 言(ちゅ)どん亭主(とのじょ)ん 席(せ)か下座
堂園三洋 誰(だい)じゃろか 良(よ)か湯ん最中(さな)け 電話ベル
乾杯の 長(なが)か挨拶(えさ)つば 喉が叱(が)っ
蚤(のん)よっか 小(こ)め心臓で 出世せじ
バーん請求(つけ) 我(わ)が計算(さんにょ)とな 相当(じょじょ)な違(ち)げ
腰掛けが 女房(かか)ん大尻(うじい)で 横(よん)ごなっ
永徳天真 飲(の)ん平(べ)宅(げ)へ 廃品回収(かいしゅ) 先(さ)き訪(こと)っ
奥様(おっさん)ち 道(み)つ訊きかれたが まだ独身(ひとい)
数(かん)ぜんな 出発(しゅっぱ)ちゃ出来(でけ)ん バスん旅(たっ)
辛(こ)え登(のぼ)ゆ 頑張(きば)っ山頂(さんちょ)ん 良(よ)か眺め
煙(け)び煙(け)びち 子供(こどん)が騒動(そど)ん 飯盒(はんご)炊(た)っ
樋口一風 飲(の)んの座も 一匹鴨(いっぴっがも)は 隅(すん)で飲(や)っ
七転(ななころ)っ 八起(やお)っち不合格(おて)た 子い説教(せっきょ)
反抗期 俺(お)いそっくいの 議(ぎ)を吐(か)えっ
忙(せわ)しキス 安(や)し口紅(くっべん)な シャち付(つ)けっ
議(ぎ)たれ婆(ば)が 静(さず)だともえば 舟を漕(け)っ

山椒集 題「甘(あ)め」     有川南北選

甘(あ)め審査 そいで原発(げんぱ)ちゃ 破壊(うっが)れっ [桑元行水]
嫁(い)たっみっ 甘(あ)もあなかった 玉ん輿 [樋口一風]
初孫(はっまご)い 砂糖(さと)よっも甘(あ)も 蕩(とろ)くい目 [諸木小春]
五客一席 甘(あ)も養育(おえ)た 罰(ばっ)じゃろ子供(こど)み 盥回(たれまわ)し [入来創雲]
五客二席 梅ケ渕(うめがふ)ち 詣(め)れば合格(うか)っち 甘(あ)め考(かん)げ [原田菊男]
五客三席 焼酎(しょつ)タバコ 止(や)めっ甘(あ)めとで 爺(じ)あ糖尿(とうにょ) [伊地知 孝]
五客四席 服装(ない)で甘(あ)も 見たか応待(おうた)や 平社員(ひら)が出(で)っ [江口紫朗]
五客五席 耳元(みんもと)で またねちママん 甘(あ)め見送(おく)い [今井夢紫]
選者吟 甘(あ)もなめっ 帰(もど)や担架い 乗(の)っ下山(おじ)っ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

楽(たの)し旅行(たっ) 一寸(いっすん)先(さっ)の 闇(やん)が待(ま)っ [西 幸子]
寝返(ねがえ)いも 気安(きや)すやいでた 多(う)け政党(せいと) [新地十意]
日銀ぬ 気前ん良(よ)かて 変えた首相(しゅしょ) [伊地知 孝]
四天王一席 暗(く)れ娑婆を アベノミクスが 盛(も)い上(あ)げっ [上薗佳笑]
四天王二席 女子柔道(じゅうど) 猛者ん幹部を 投げ飛(と)べっ [澤津乙名]
四天王三席 トンネルか 橋で走(はし)いか 錦江湾(きんこわん) [北村虎王]
四天王四席 沙羅ちゃんの メダルが見えた ソチ五輪 [諸木小春]
選者吟 おれんじん 赤字が減(へ)いか 食堂車

郷句相撲 題「疑(うた)ご」

横綱(東) 外交ち 腹は疑(うた)ごっ 手は握手 [植村昭子]
横綱(西) 騒動(そど)ん度(かし) 悪戯坊(てんご)を疑(うた)ご 目が刺(さ)せっ [上山天洲]
大関(東) 肌もじゃが 本当(まこ)っ男か 疑(うた)ご指(いっ) [諸木小春]
大関(西) 計画(くん)崩(く)えっ 秤(ちき)よ疑(うた)ごた リバウンド [今井夢紫]
関脇(東) 裏返(かわしん)め 着(き)ちょい下着を 疑(うた)ご女房(かか) [澤津乙名]
関脇(西) 子が財布(ふぞ)を 取(と)っち疑(うた)ごた 可哀相(ぐら)し老母(はほ) [楠八重渓流]
小結(東) 野暮じゃっち 思(お)もどん疑(うた)ご 女房(かか)ん化粧(けしょ) [畑山真竹]
小結(西) 飲(の)ん歩(さる)っ 金(ぜん)の出所(でどこ)ゆ 疑(うた)ご女房(かか) [原田菊男]
筆頭(東) 長(な)げ病気(やんめ) 癌じゃらせんか 疑(うた)ご母親(はほ) [樋渡草団子]
筆頭(西) 夢じゃ無(ね)か 目をば疑(うた)ごた サクラサク [福冨野人]
二枚目(東) 似(に)らん顔(つ)れ 俺(おい)が子じゃろか 疑(うた)ご父(ちゃん) [新地十意]
二枚目(西) 体罰(たいばっ)の 疑(うた)ごを娑婆が 暴(あば)っ出(で)っ [弓場正巳]
三枚目(東) 衿(えい)の口紅(べ)に 疑(うた)ごた顔(つら)で 睨(ねぎ)い女房(かか) [山元自在鉤]
三枚目(西) 予報(よほ)は晴れ 疑(うた)ごっ妻(かか)は 傘を持(も)っ [樋口一風]
四枚目(東) 残業を 女房(かか)が疑(うた)ごた 頃が花 [有馬純秋]
四枚目(西) 俺(おい)が子か 隣(とない)の旦那(だん)ね 似てきでっ [石野蟹篭]
五枚目(東) 若作(わかづく)い 燕じゃ無(ね)かち 疑(うた)ご友達(どし) [西 幸子]
五枚目(西) 疑(うた)ご目で 夫(とと)ん動(いご)くば 勘(かん)ぬしっ [市来流星]
六枚目(東) 百点に 本当(ほん)の事(こっ)かち 爺(じ)の疑(うた)げ [石原ミエ子]
六枚目(西) 財布(ふぞ)が無(ね)ち 俺(お)ゆば疑(うた)ごっ 睨(ねぎ)い妻(かか) [中囿和風]
七枚目(東) 倦怠期 厳(いみ)しか女房(かか)ん 疑(うた)ごた眼 [日隈英坊]
七枚目(西) 残業(ざんぎょ)をば 疑(うた)ごて女房(かか)は やれ電話 [萬福平次]
八枚目(東) 耳(み)む疑(うた)ご 七十歳(ななじゅ)ん爺(じい)が 孕(はら)ませっ [おんじょどい]
八枚目(西) 酔漢(よくれぼ)ん 寝言(ねご)つ疑(うた)ごた 厳(いみ)し女房(かか) [満吉満秀]
親方吟(東) 疑(うた)ごえば 限(きい)が無(な)か様(よ)な 爺(じ)の素振(そぶ)い [満留ぐみ]
親方吟(西) 届けたや 目付(めつ)っが悪(わ)りち 疑(うた)ご署長(しょちょ) [伊地知 孝]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「ほとくい」より抜粋)

樋渡草団子 情強(じょづ)え奴(わろ) 庭石(にわい)す上げた 霜柱(しもばした)
孫曾孫 真中(まんな)け爺(じ)さん 酔(よ)た笑顔
単細胞(たんさいぼ) 竹ん如(ご)たっち 褒(ほ)められっ
福重山鳥 儲(も)け上(あ)がっ 歩(あゆ)ん方(かた)ずい おかしゅなっ
金儲(ぜんも)けん 話(はな)しゃ上手(うめ)どん 財布(ふぞ)は空(から)
孫ん声 聞(き)たや病気(やんめ)も 飛(つ)で逃(に)げっ
福園東風 親ん夢 軽石(がいし)頭(びん)てな 荷が重(おぶ)し
安(や)し会費 案(あん)の定(じゅ)野菜(やせ)を ずし食(か)せっ
昨日(きぬ)冗談(わや)く 言(ゆ)たばっかいち 葬式(そし)き泣(ね)っ
藤崎政男 夕立(さだ)つ飲(ぬ)だ 布団な竿を 弓(ゆ)みなけっ
十五夜(じゅごや)相撲(ずも) 満月(つっ)とめ飲んだ 力水(ちからみっ)
嫁が来(き)っ 煤けた台所(なが)し 花が咲(せ)っ
藤高春風 毒(どっ)じゃっち 叱(く)るたが位牌(いへ)にゃ 猪口(ちょ)く供(あ)げっ
食(く)ちょっとい 煩(やぜ)ろし姑(ばば)が 洗(あ)るでけっ
磨(みが)っ切(き)っ 台所(なが)す女(おなご)ん 鏡(かが)みしっ

第79回鹿屋大会 席題「ほろめっ」     入来創雲選

老夫婦(おんじょみと) ほろめっかたで 婆(ば)を介護 [花園ちづ]
友達(どし)が先(さ)き 嫁(い)たっほろめっ 三十娘(さんじゅおご) [永徳天真]
痛(いた)か膝 寝(ね)らじほろめっ 夜が明(あ)けっ [白浪]
ほろめてん 上(あ)がらん給料(はれ)い 厳(きび)し春(はい) [有川南北]
ペチャパゆば ほろめっ方(かた)で 吸(す)わぶい子 [堂園三洋]
結婚(といえ)当初(はな) ほろめっ方(かた)で また頑張(きば)っ [二見愚楽満]
選者吟 寄付集(つな)が ほろめっ陰じゃ 焼酎(しょちゅ)は飲(ぬ)っ [入来創雲]

第78回鹿屋大会 兼題「大事(でし)」     永徳天真選

大事(でし)な娘(こ)を 猫ん子んごっ 呉(く)れち言(ゆ)っ [福岡放電]
大事(で)し看(み)たで 涙(なんだ)もカラッ 爺(じ)の葬式(おんぼ) [諸木小春]
偽医者が 大事(でし)な所(とこい)も 診察(み)てくれっ [下本地郷二]
大事(でし)な鍵(か)ぐ 彼い渡(わた)せっ 夫婦(みと)気取(きど)い [澤津乙名]
大事(でし)な息子(こ)を 尻(し)い敷(し)っ出(で)けた 憎(にっ)か嫁 [江口紫朗]
命(いの)ちゃ 大事(でし)免許返納(へんの)を した親爺(おやっ) [中村雲海]
選者吟 開示資料(しりょ) 大事(でし)な所(とこ)ゆば 黒(く)ろ塗(なす)っ [永徳天真]

その他の秀句 (順不同)

湯治(とっ)の宿 女房(かか)と二人(ふたい)じゃ 日が長(なご)し [新地十意]
金(ぜん)な無(ね)ち 見(み)すい通帳(つうちょ)を 別(べ)ち準備(しこ)っ [中囿和風]
ざっぺらっ 診断(みた)てた割(わ)いな 多(う)け薬(くすい) [伊地知 孝]
試着室(しちゃっしっ) 鏡(かが)みゃ買(こ)え言(ちゅ)が 財布(ふぞ)が心配(せわ) [上池酔人]
万物(ばんぶっ)の 霊長(れいちょ)同士で 惨(む)げ戦争(いっさ) [前田あやめ]
パソコンが 爺(じ)の固(か)て頭(びん)て 匙(さ)ず投(な)げっ [江口紫朗]
総入歯(がんぶい)が 虫歯(むし)べなろそな お萩(はぎ)好(す)っ [石原ミエ子]
遅(お)せ帰(もど)い 風呂ん菖蒲(しょっ)どま 煮(に)とくれっ [村田子羊]
母(かか)ん日は 妻(かか)を横座い 奉(たてまつ)っ [矢野猫柳]
草籠(くさてご)ん 底(そ)け筍(たけんこ)は 息(い)く殺(こ)れっ [福園東風]
見舞(みめ)籠(てご)い 美事(みご)て産毛ん 走(はし)い枇杷 [実方天声]
飲(の)ん方(かた)ち なれば病気(やんめ)あ け忘(わす)れっ [江口紫朗]
寒(さ)み晩な 亭主(てし)が温(ぬっ)めた 寝床(と)け入込(へく)っ [今井夢紫]
味(あっ)の有(あ)い 顔(つら)じゃらいねち 妙(す)だ褒(ほ)め様(よ) [永徳天真]