おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第704号

雑吟     永徳天真選

一番槍 メタボ腹 背中(せな)けも五キロ 肉(に)く背負(かる)っ [諸木小春]
二番槍 口止(くっど)めを 焼酎(しょつ)い全部(すっぱい) 吐(は)かされっ [吉岡道場]
三番槍 泣(な)っべしょが 卒園式(そつえんしっ)じゃ 大(ふと)か返事(へし) [今井夢紫]
四番槍 ランドセル 背負(かる)っ返事(へ)ずすい 稽古(けこ)もしっ [津留見一徹]
五番槍 田舎店 指(ゆ) ぶ折(お)っ客(きゃっ)の 数(か)ず計算(つも)っ [大西学老]
六番槍 晩酌(だいやめ)を 夢でやっちょい 休肝日 [白澤黒猫]
七番槍 大概(てげ)大概(てげ)な 郷句(く)で入選ち 大(ふ)て間違(まっ)げ [原田菊男]

渋柿集

中村雲海 女房(うっかた)を 仕込(しく)だた昔 今家来(けらい)
正五九(しょうごく)ん お祓(は)れあ大事(でし)ち 家族(けね)で参拝(め)っ
指導(しど)はせじ 先輩顔(づら)ん 吝嗇(けち)な心根(ねしゅ)
見れば買(こ)け 走(はし)っで宣伝紙(チラ)しゃ 塵(ちり)い出(で)っ
プレッシャが 取れて輝(かがや)っ 退職(やめ)た亭主(てし)
有川南北 温暖化 言(ちゅ)どんやっぱい 冬(ふ)や寒(さむ)し
駅伝が 一足(ひとあし)早(はや)か 春(は)ゆ告(つ)げっ
寝付(ねち)た嬰児(こ)を 春雷(はいかんなれ)が 目覚(おず)ませっ
ハクションと 一緒(ひと)ちひん出た 爺(じ)の入歯
痛(い)て真似ん 灸(やいと)で幼児(ちび)を 怖(びび)らせっ
弓場正己 女房(か)け向(む)こっ ごめんち言(ゆ)とは 何時(いっ)も亭主(てし)
新(に)けトイレ ボタンぬ全部(ずるっ) 押(え)て大騒動(うそど)
死刑言(ちゅ)た 裁判員な 鬱(うつ)いなっ
喧嘩凧 好(す)かん奴(て)態(わざ)と 絡(から)ませっ
円卓(えんたっ)も 社長(しゃちょ)ん両脇(りょうわ)か 席(せっ)が空(え)っ
堂園三洋 日記をば 今年(こと)しゃしっかい 書(か)こち買(こ)っ
交互(かたいご)ち 婆(ば)と転倒(はんと)くい 弱々(よと)し身体(ごて)
隣(つっ)の亭主(て)しゃ 課長(かちょ)じゃが宅(やど)は 只(ただ)ん平(ひら)
ロボットい 掃除(そっ)どまさせっ ドラマ見(み)い
美人(シャン)じゃっち 威張(いば)っちょっどん 将来(やが)ちゃ婆(ばば)
永徳天真 恥(げん)ねこっ 亭主(て)す叱(が)い声が 道(み)ち漏(も)れっ
星(ほ)す浴(あ)びっ 気分最高(さいこ)ん 露天風呂
イケメンの 色気い女房(かか)も 逆上(のぼ)せちょっ
小(こ)め怪我で 済(す)ん後塞(あとぜっ)の 交通事故(こうつじこ)
良(よ)か説法(せっぽ) 聞(き)たが現実(げんじ)ち 流(なが)されっ
樋口一風 神様(かんさあ)が こっちを向(む)かじ 不合格(ひっちゃ)えっ
爺婆(じいばば)ん 愛情(ぼんの)を背負(かる)た ひな人形(にんぎょ)
二日酔(ふっかえ)あ 昨夜(ゆべ)ん記憶(きお)くば 繋(つ)ねっみっ
縁談(もればなし) 焼酎(しょちゅ)が入(い)ったや 揉(も)めでけっ
まだ早(は)えて 飲兵衛(のんべ)あ花見(はな)む 組(く)ん立(た)てっ

山椒集 題「曲(ま)がい」     有川南北選

曲(ま)がい角(か)で 来たか化粧(けしょ)しも 念(ねん)が入(い)っ [吉岡道場]
済んだ事(こ)つ 後で議(ぎ)を言(ゆ)う 臍曲(へそま)がい [満吉満秀]
太(ふ)て孟宗竹(もそ)を 弓形(ゆんな)い曲げた なごい雪(ゆっ) [津留見一徹]
五客一席 右(み)ぎ余計(じんじ) 曲(ま)がっ行(い)こそな 次(つっ)の首相(しゅしょ) [石塚律子]
五客二席 頑固(いっこっ)爺(じ) こけも居(お)ったか 道(み)つ曲(ま)げっ [中間紫麓]
五客三席 バスん尻(し)や 宙(そ)れ舞(も)ちょいよな いろは坂 [今井夢紫]
五客四席 迫田植(さこだう)え 畦(あぜ)い合(お)たごっ 上手(じょ)じ曲(ま)げっ [楠八重渓流]
五客五席 曲(ま)がい腰(こ)しゅ 伸(の)べちゃ小走(こばし)い 婆(ば)のゲート [北村虎王]
選者吟 冬季(ふ)いなれば 降灰(へ)も鹿屋せえ 曲(ま)がっ訪(き)っ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

拉致家族(かぞ)き 今度(こん)だ今度(こん)だち 新組閣(しんそかっ) [諸木小春]
民主党(みんしゅと)を 木端微塵(こっぱみじん)にした 総選挙(せんきょ) [澤津乙名]
日本丸 何方(どっち)い舵(か)ずば 取(と)い計算(さんにょ) [佐伯山神]
四天王一席 あん民主 野次集団に また戻(もど)っ [上薗佳笑]
四天王二席 インタビュも 俯(くろじ)たないの 民主党 [樋口一風]
四天王三席 突然(ひょかっ)来た 引退(いんた)い寂(さび)し ゴジラ党 [吉岡道場]
四天王四席 ハムん歳暮(せぼ) 効(き)たかメジャ行(い)く うっ止(ちゃ)めっ [石塚律子]
選者吟 南端ぬ 生(い)かせ客(きゃ)く呼べ 佐多岬(さたみさっ)

郷句相撲 題「身震(みぶ)れ」

横綱(東) 朝帰(あさもど)い 三つ指(ゆっ)の女房(か)け 身震(みぶ)れしっ [おんじょどい]
横綱(西) 隣(つっ)の火事(か)じ 身震(みぶ)れが止(や)まじ 夜(よ)が明(あ)けっ [中間紫麓]
大関(東) 浮気をば 身震(みぶ)れをすいめ 詰(なじ)い女房(かか) [澤津乙名]
大関(西) 内視鏡(ないしきょ)い 身震(みぶ)れをさせた 爛(たんだ)れ胃 [津留見一徹]
関脇(東) 出た後(あと)ん トンネル事故い 身震(みぶ)れしっ [入来創雲]
関脇(西) 滝(たっ)飛沫(しぶ)く 被(かぶ)っ寒(かん)修行(しゅぎょ) 身震(みぶ)れしっ [市来流星]
小結(東) 境(さけ)諍(いさ)け 相手(えて)ん剣幕(けんま)き 身震(みぶ)れしっ [新地十意]
小結(西) 寒稽古 身震(みぶ)れしながあ 海(う)み浸(つか)っ [樋口一風]
筆頭(東) ちんがらっ なった車(くいま)い 身震(みぶ)れしっ [佐伯山神]
筆頭(西) 凄(わ)ぜ色気 身震(みぶ)れすいよな 女形(おんながた) [楠八重渓流]
二枚目(東) 臆病者(やっせんぼ) 破れ提灯(ちょちん)に 身震(みぶ)れしっ [郷田悠々]
二枚目(西) 白(しろ)か息(い)き 身震(みぶ)れも伴(ての)だ 露天風呂 [白澤黒猫]
三枚目(東) 孫と同名(ずっ) 身震(みぶ)れをさせた 車(くいま)事故 [北村虎王]
三枚目(西) 取(と)い締(し)まい ブレーキを踏(ふ)ん 身震(みぶ)れしっ [折田さくら]
四枚目(東) 拾(ふ)るた財布(ふぞ) 身震(みぶ)れすいよな 凄(わ)ぜ中身 [山元自在鉤]
四枚目(西) 大穴ん 馬券に身震(みぶ)れ しでた奴(わろ) [米元年輪]
五枚目(東) 日銀が アベノミクスい 身震(みぶ)れしっ [伊地知 孝]
五枚目(西) グラグラっ 来たや身震(みぶ)れで 腰(こ)しゃ立(た)たじ [弓場正巳]
六枚目(東) 見(み)ちょい方(ほ)が 身震(みぶ)れをすそな 大(ふ)て注射 [樋之口墨矢]
六枚目(西) 空ん旅(たっ) 着(ち)っ時(とっ)ぎいな 身震(みぶ)れしっ [前村泰山]
七枚目(東) 溝(み)ぜ転倒(かや)っ 身震(みぶ)れをしでた 酔(よく)れんぼ [日隈英坊]
七枚目(西) ひっかぶっ 夜中(よな)け身震(みぶ)れん 着替え騒動(そど) [今井夢紫]
八枚目(東) 身震(みぶ)れしっ 泣(な)っ子い鬼(おん)な 墨(す)む塗(なす)っ [西 幸子]
八枚目(西) 堅物(かたぶっ)も 身震(みぶ)れが止(や)まん 胸ん谷(たん) [上薗佳笑]
親方吟(東) 試飲ぬち 如何(いか)な二杯目(にへめ)ん 酢い身震(みぶ)れ [石塚律子]
親方吟(西) 順番(ばん)が来(き)っ 身震(みぶ)れを仕出(しで)た 挨拶(えさっ)下手(べた) [吉岡道場]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「ほとくい」より抜粋)

中間紫麓 また鬼(おん)に 園長(えんちょ)をなけて 豆で追(う)っ
注射よか 燗の良(え)焼酎(しょちゅ)が 風邪い効(き)っ
女風呂(おなごぶろ) 一杯(いっぺ)飲(ぬ)だよな わぜ語(かたい)
中村雲海 骨と皮 目を離(はな)されん 切(せっ)ね看病(かびょ)
馬鹿じゃ無(ね)か 水(み)ずば飲(の)んでん 肥(こ)ゆい女房(かか)
焼酎(しょちゅ)工場(こう)べ 唐芋(かいも)が走(はし)い 秋(あっ)の街道(けど)
西 タマミ 郷中(ごじゅ)ん寄合(よ)ゆ 隅(すん)からこじいでた 横杵(よんご)
忙(せし)こかて 生(うん)まれたよな 世を暮(く)れっ
担売(いねう)いが 一息(ひとい)く入(い)るい 坂ん口(くっ)
西迫順風 遠慮せじ 嫁もわが子ち 叱(く)る姑御(しゅとじょ)
箸(は)しょ投(な)げっ 手掴(てつが)み食付(くち)た 蟹(がね)ん料理(じゅい)
飛行場(ひこうじょ)い 絵符(えぼ)付(つ)っで来た 孫を抱(で)っ
西園不動 初孫(はっまご)い 孟宗竹(もそ)も折(お)るいめ 鯉(こ)ゆつねっ
田草取(と)い 夕立(さだ)ちゃ臀(しい)かい 降(ふ)いかかっ
考(かん)げなし 借(か)った金(ぜん)じゃろ 夜逃げしっ
西原未笑 初日の出 隣(つっ)の瓦も 新(に)こ見(み)えっ
妬(しょの)んよな 女(おなご)じゃなかち 女房(かか)を叱(が)っ
金(ぜん)が無(ね)や 安売(やすう)いずいも 縁が無(の)し
新田フサ 倦怠期 湯気(ほけ)出(だ)し女房(かか)も 飲(の)んけ出(で)っ
実家(さと)ん財(ざ)ゆ 笠い大法螺(うぎら)を 吐(か)やす嫁
茶摘(ちゃつ)ん娘(おご) 毛虫(ほじょ)い肌脱(はだぬ)ぐ しっ大騒動(うそど)
抜水凡々 雪(ゆっ)の朝 詩人気取(きど)っいで 縁(えん)に立(た)っ
面倒(めん)でこちゃ 地五郎(じごろ)任せで ひっ決(き)めっ
病人(びょにん)相手(えて) わがも時々(とっど)きゃ おかしゅなっ
野口嫁菜 退職(やめ)たぎい 鏡(かがん)も見(み)らん 女房(か)けしなっ
気丈(きじょ)な後家 担棒(さし)で五人の 子を養育(おえ)っ
頭(びんた)かあ 寝冷えをすそな 見事(みご)て禿
野瀬小さん 音んせん 花火(はなっ)じゃらよち 婆(ばば)が耳(みん)
結婚(といえ)当初(はな) 寝冷えをすそな 姿(よし)で寝(ね)っ
貰(も)れ風呂で 下着も洗(あ)るっ 歯痒(はが)い婆(ばば)
野間小爺 汁(おっけ)鍋(な)べ 身投げアマメで 飯(め)さ空食(からぐ)
泥溝(みぞ)浚(さら)え 素手でやっ来て 星(ほ)すまえっ
語(かた)い好(す)っ 用事(ゆ)ざ帰(もど)っかあ 考(かん)げちっ
野間口鈴女 知(し)たん間(こ)め 後妻(あと)い座った 茶飲(ちゃの)ん友達(どし)
皺ん中(な)け 幾坂(いくさか)越えた 仏顔(ほとけづら)
鍵(か)ぎょ掛(か)けじ 外出(で)てん心配(せわ)ん無(ね) 田舎住(ず)め
枦山一球 代議士ん 郷里(さと)は街道(けど)ずい 美事(みご)つなっ
胃袋が 二つあろそな 肥満(だんべ)女房(かか)
納屋通(なやどお)い 短躯(じっくい)妻(かか)は 消(き)えどえっ

その他の秀句 (順不同)

職(しょっ)も無(の)し か言(つ)て永久(えいきゅ)ん 当ても無(の)し [楠八重渓流]
内気人(いめじん)も 美人(シャン)にないっぺ 冗談(わや)く言(ゆ)っ [満吉満秀]
切(き)れん剃刀(そい) 皮とめ顎ん ひげを剃(そ)っ [前原人力車]
桜茶(さくらぢゃ)を 四十(しじゅ)ん手前で やっと飲(ぬ)っ [石塚律子]
飲(の)んごろが 開花予報を 気いしでっ [米元年輪]
素夫婦(すみ)てなっ 表札(ひょうさ)ち猫ん 名も入(い)れっ [工藤天然]
豆撒(まめま)くば 天井(つし)で笑(わ)るちょい 貧乏神(びんぶがん) [江口紫朗]
嫌(いや)じゃ無(ね)が そげん好(す)っでも 無(な)か亭主(とのじょ) [今井夢紫]
願(ね)ごわれっ 嫁(き)て牛(べぶ)ん如(ご)っ 使(つ)こわれっ [岩崎美知代]
飯(めし)の後(あと) デザートん如(ご)っ 多(う)け薬(くすい) [日隈英坊]
子分限者(こぶげんしゃ) 誰(だい)か泣(な)かんな 済(す)まん飯(めし) [津留見一徹]
辛(つ)れ別れ キスも半端で 発車ベル [樋口一風]
爺(じ)の膝で あのねあのねち 可愛(も)ぜ相談(そだん) [鈴木芳子]
短気者(たんきもん) 点滴(てんて)く自分(わが)で 早(は)よ落(お)てっ [満吉満秀]
酩酊(きけ)たなあ 当初(はな)ん遠慮(しんしゃ)か 嘘んごっ [有川南北]
禁煙ぬ 言(ゆ)てかあ十二支(えと)も 一巡(ひとめぐ)い [福原福多]
エコじゃっち 雨水溜(た)めっ 蚊どん飼(こ)っ [江吟]
多(う)け兄弟(きょで)も 介護ちなれば ひん逃(に)げっ [上別府印句]