おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第696号

雑吟     永徳天真選

一番槍 動(いご)っ出(で)た 腹を撫(な)で撫(な)で 胎児(こ)い語(かた)っ [吉岡道場]
二番槍 娘(こ)が言(ゆ)ごちゃ どもこも出来(でけ)ん 孫ん守(もい) [楠八重渓流]
三番槍 誰(だい)も来(こ)じ 語(かた)いもせんじ 今日(きゅ)も一人(ひとい) [井手上政暎]
四番槍 夜中じゃが まだ夜(よ)は長(な)げち 三次会 [原田菊男]
五番槍 土用(どゆ)鰻(うなっ) 一切(ひとき)れどんじゃ 効(き)っもはん [花園ちづ]
六番槍 夏休(なっやす)ん 部活(ぶかっ)ち孫も 遠(と)おけなっ [中間紫麓]
七番槍 大酔漢(うとら)をば 子猫い戻(も)でた 厳(いみ)し女房(かか) [市来流星]

渋柿集

中村雲海 世話いない 仏教じゃって 無(な)か心
少子化で 野球部員が 足(た)らじ騒動(そど)
リハビリん 帰(もど)や足湯で 生(い)っ上(きゃ)がっ
相手(えて)を読(よ)ん 力(ちから)が付(ち)たや 馬鹿(ば)けされじ
無(な)か馬力(ばりっ) 愛が足(た)らんち 嘆(なげ)っ女房(かか)
有川南北 満開の 桜(さく)れ廃校(はいこ)ん 花吹雪(はなふぶっ)
幼稚園 可愛(む)ぜトンネルで 卒業式(そつぎょしっ)
枕崎(まくらざ)き 鰹幟(かつおのぼい)が 空(そ)れ泳(お)えっ
連休(れんきゅ)疲(だ)れ 財布(ふぞ)も空(から)っぽ 大(ふ)て欠伸(あくっ)
お念仏(ねんぶ)つ 唱(あ)げかた纏付(めち)っ 蚊を叩(た)てっ
弓場正己 言訳(ゆわけ)どま ばっさい切った 女房(かか)ん勘(かん)
爺(じ)が声も 消しゴムん如(ご)っ 丸(ま)るけなっ
香水の 匂(かざ)が渦巻(うずめ)た 参観日
叱(が)らん言(ちゅ)で 全部(すっぱい)言(ゆ)たや 叱(く)るわれっ
金(ぜん)な出(で)っ 新築(しんち)き入(い)らじ 爺(じ)は逝(い)たっ
堂園三洋 娘(おご)んミニ 水銀柱と 反比例
桜島(さくらじ)め 蓋が出来(でく)れば ノーベル賞(しょ)
旅(たっ)の恥(は)じゃ 掻(か)っ捨(す)てち婆(ば)と 手を繋(つ)ねっ
稀(まれ)けんな 主役(しゅや)きなろごっ あろパセリ
貧乏(びんぶ)いな 匂(かざ)もまわらん 高価(た)け鰻(うなっ)
永徳天真 郷中(ごじゅ)公役(くや)き 錆食(さっく)れ鎌(がま)じゃ 効(しょ)をうたじ
マネキンと 同(づ)っじゃ無(な)かった 試着室(しちゃっしっ)
掃除(そ)ずしてん 風が隅(すん)せえ 灰(へ)を溜(た)めっ
脳もがた 昨夜(ゆべ)食(く)た料理(じゅい)も け忘(わす)れっ
長(な)げ化粧(けしょ)い 早(は)よせち叫(おら)っ クラクション
樋口一風 朝寝ごろ ラジオ体操(たいそ)は 夢でしっ
爺(じい)ちゃんち 来れば臍繰(へそく)や 痩(や)せ細(ほそ)っ
女房(うっかた)も 偶(まねけ)ん褒(ほ)めっ 愛(あ)ゆ繋(つ)ねっ
家(え)い居(お)って メールで用事(よ)ず言(ゆ) 倦怠期
坊主(ぼし)どんな 浄土(じょう)で行(い)たよな 態(ふ)い説教(せっきょ)

山椒集 題「世話(せわ)」     有川南北選

二三日(にさんち)が 婆(ば)べな限度ん 孫ん世話 [石塚律子]
子ん世話は 親い宛(あて)ごて 共稼(ともかせ)っ [江口紫朗]
釣れたかち 通(とお)いがかいが 要(い)らん世話 [おんじょどい]
五客一席 世話(せ)うぇならん 言(ちゅ)た嫁(よ)め今じゃ 看(み)てもろっ [佐伯山神]
五客二席 いらん世話 隣(つっ)の夫婦喧嘩(いさけ)を 婆(ば)は覗(のぞ)っ [花園ちづ]
五客三席 世話焼(せわや)っが めげじ持(も)っ込(く)だ 見合(みえ)写真 [吉岡道場]
五客四席 歌(うた)踊(おど)い 世話好(せわず)きゃ郷中(ごじゅ)ん 人気者(にんきもん) [松下青雲]
五客五席 火の車(くい)め 他人(ひと)ん世話かち 亭主(て)す叱(く)るっ [折田さくら]
選者吟 多人数(うにし)兄弟(きょで) 自然と上が 下ん世話

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

見てくれち 見せた衛星(えいせ)や 墜落(ひっちゃ)れっ [桑元行水]
親も子も 通学(つがっ)コースあ 命(いのっ)懸(が)け [今井夢紫]
市議選挙 無関心言(ちゅ)た 町(まっ)の声 [弓場正巳]
四天王一席 尖閣(せんかく)い 切(き)い口(く)つ穴(ほ)げた 凄(わっ)ぜ度胸(どきょ) [畑山真竹]
四天王二席 自然界(しぜんか)い 負(ま)けじ大(ふ)となれ 朱鷺(とき)ん雛 [工藤天然]
四天王三席 トッピーも さすが鯨(くじ)れな 歯が立(た)たじ [吉岡道場]
四天王四席 生(なま)レバを 是非(さいも)食(く)お言(ちゅ)う 健啖家(けんたんか) [石塚律子]
選者吟 ロンドンで はしと羽根をば つけ前田

郷句相撲 題「刺身(さしん)」

横綱(東) 釣(つ)いの腕 褒(ほ)め褒(ほ)め刺身(さし)み 食(く)れいちっ [諸木小春]
横綱(西) まだ動(いご)っ 刺身(さし)み弾んだ 海(うん)の宿 [津留見一徹]
大関(東) トロを食(く)っ 請求書(つけ)を見たなあ 抜けた腰 [山元自在鉤]
大関(西) 跳(は)ぬい魚(いお) 刺身(さし)みして食(く)た 夜釣船(よついぶね) [弓場正巳]
関脇(東) 女房(かか)奴(わろ)が 河豚(ふぐ)刺身(さ)す食(くゎ)せっ 救急車 [澤津乙名]
関脇(西) 刺身(さしん)盛(も)い 半値い成れば 奪合(ばこ)っ取(と)っ [満吉満秀]
小結(東) 古(ふ)り刺身(さし)み 中毒(あた)っ便所(まなか)で 夜(よ)を明(あ)けっ [満留ぐみ]
小結(西) 盛皿(もいざら)ん 刺身(さしん)ぬ下戸が 沢山(ごいと)取(と)っ [石野蟹篭]
筆頭(東) 庶民にな 〆鯖(しめさば)が良(え)ち 婆(ば)あ吐(か)えっ [西 幸子]
筆頭(西) 漁師(ふなと)料理(じゅい) 錆(さっ)くれ包丁(ほちょ)で 刺身(さし)む切(き)っ [樋口一風]
二枚目(東) 鯛(て)の刺身(さしん) 買(こ)よな手付(てつ)っで 鯵(あ)じゅ狙(ね)ろっ [畑山真竹]
二枚目(西) 鯛(て)の刺身(さし)み 釣(つ)られっ一日(ひして) 草毟(くさむし)い [工藤天然]
三枚目(東) 鯉の魚(いお) 刺身(さし)みなってん 生(い)きっちょっ [樋渡草団子]
三枚目(西) 河豚(ふぐ)刺身(さし)む 命(いのっ)懸(が)け言(つ)が ペロッ食(や)っ [楠八重渓流]
四枚目(東) 剥(は)がれんじ 皿い張(は)い付(ち)た ふぐ刺身(さしん) [佐伯山神]
四枚目(西) 小(こ)むしてん 爺(じ)が釣った鯵(あ)じゃ 刺身(さし)みしっ [今井夢紫]
五枚目(東) 河豚(ふぐ)刺身(さしん) 如何物(いかもん)食(ぐ)れも 後退(あとすだ)い [盛満椒平]
五枚目(西) 刺身(さしん)切(き)い 自分(わが)たちゃっかい 分厚(ぶあ)つしっ [萬福平次]
六枚目(東) 鱗(うろこ)ずい 添えた手荒(てあろ)か 鯛(て)の刺身(さしん) [入来創雲]
六枚目(西) 釣(つ)やならじ 値札を負(か)るた 刺身(さし)む釣(つ)っ [原田菊男]
七枚目(東) 盛皿(もいざら)ん 刺身(さしん)な下戸が 競(せ)っ食(く)ろっ [新地十意]
七枚目(西) 年金日 刺身(さし)む肴(さかな)で 女房(かか)が酌(しゃっ) [前村泰山]
八枚目(東) 生(い)っ作(づく)い 刺身(さしん)も跳(は)ぬい 舟ん上 [有馬純秋]
八枚目(西) 刺身(さしん)せか 有(あ)れあちびちび 独(ひと)い飲(ぬ)っ [上山天洲]
親方吟(東) 蒟蒻(こんにゃっ)の 刺身(さし)みすったい 疲(だ)れた顎 [石塚律子]
親方吟(西) パック儘(な)い 刺身(さしん)ぬ宛(あ)てご 手抜(てぬ)っ女房(かか) [吉岡道場]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「ほとくい」より抜粋)

末原一声 納屋ん馬場 鯣(すいめ)鮮魚(ぶえん)ち 磯ん匂(かざ)
一億(いちお)くば 狙(ね)ろ衆(し)が並(な)るだ 宝くし
島チョンの 土産黒砂糖(くろざと) 汚れ褌(へこ)
末村多櫛 街道(けど)端(ばた)ん 古(ふ)り瓦どま ずい落(お)てっ
牛(べぶ)じゃれば 買換(けか)ゆごっあい 不作(ふさっ)嫁(よめ)
草木をば 何(ない)の薬(くすい)か 爺(じ)は集(よ)せっ
鈴木佳根生 まぐれ猫 一度(いっど)食(か)せたや きし懐(な)ちっ
禿頭(はげびんた) 刈(つ)んしこ無(な)かて 値引(ねび)かのし
郷中一(ごじゅいっ)の 法螺吹(ほらふ)っじゃって 貸家(かし)へ居(お)っ
鈴木芳子 子ん寝顔 昼(ひい)の拳骨(とっこ)ん 手を責(せ)めっ
月(つっ)の夜ん 行水(あれ)ん素肌を 靄(もや)が巻(め)っ
あい限(かぎ)い 茶碗ぬ浸(つ)けた 不精者(ふゆしごろ)
瀬戸口和八久 寝てからも 天井(てんじょ)ん節(ふし)が 碁石(い)し見(み)えっ
破(ほ)げ襖(ふすま) 古新聞(ふいしんぶん)が 舌(べろ)を出(で)っ
湯治(とっ)の宿 木枕(きまく)れ蝉(せっ)の 声を聞(き)っ

第113回南日本薩摩狂句大会 兼題「無料(ただ)」 楠八重渓流選

特選 夫婦(みと)喧嘩 無料見(ただみ)じゃが言(ちゅ)て 婆(ば)と走(はし)っ [大西学老]
秀一 無料(ただ)言(つ)たや 夫婦(みと)でリヤカを 引張(そび)っ来(き)っ [有川南北]
秀二 無料(ただ)言(ちゅ)えば 病(やんめ)婆(ばば)ずい 人数(に)じ背負(かる)っ [津留見一徹]
秀三 癌検査 娘(おご)ん胸をば 無料(ただ)で診(み)っ [弓場正巳]
秀四 美人(シャン)が肩 無料(ただ)で揉(も)んがち 助兵衛(すけべ)亭主(てし) [伊地知 孝]
秀五 無料(た)で貰(も)ろた 豆腐(おかべ)を嗅(かず)ん 亭主(て)し食(くゎ)せっ [入来創雲]
軸吟 無料(ただ)とばし 思(と)もか払(は)るわん 給食費(きゅうしょっひ)

第113回南日本薩摩狂句大会 兼題「相手(えて)」 新地十意選

特選 世界(せか)ゆ相手(えて) 打上(あ)げた衛星(えいせ)や 海(う)み墜落(ちゃ)えっ [有川南北]
秀一 寄付貰(も)れも 横(よん)ごが相手(えて)じゃ 心配(せわ)が先(さっ) [上山天洲]
秀二 はあはあち 相手(えて)しも堪(の)さん 婆(ば)ん電話 [永徳天真]
秀三 大(ふ)て相手(えて)を 投(な)げっ花道(はなみ)つ 胸を張(は)っ [堂園三洋]
秀四 荒海(あらうん)ぬ 相手(えて)い大漁(たいりょ)ん 夢を追(う)っ [津留見一徹]
秀五 海(うん)の事故 相手(えて)が鯨じゃ 如何(ど)もならじ [有川南北]
軸吟 焼酎(しょちゅ)瓶が 相手(えて)じゃ治(なお)らん 湯治(とっ)の養生(よじょ)

第113回南日本薩摩狂句大会 兼題「食傷(しょっしょ)」 樋口一風選

特選 美男子(よかにせ)い 食傷(しょっしょ)で貴方(はん)に 嫁(き)たち言(ゆ)っ [工藤天然]
秀一 もへ五百回(ごひゃっ) 食傷(しょっしょ)すい程(ほ)で 桜島(しま)が噴(ふ)っ [上薗佳笑]
秀二 婆(ば)ん味噌汁(おっけ) 食傷(しょっしょ)どこいか 六十年(ろっじゅねん) [大西学老]
秀三 飲(の)ん方(か)てな 食傷(しょっしょ)言(ちゅ)あ無(な)か 宅(やど)ん亭主(てし) [福冨野人]
秀四 先(さ)か見(み)えん 仮設(かせっ)暮らしな もう食傷(しょっしょ) [上薗佳笑]
秀五 宿題(しくだ)いな 食傷(しょっしょ)をしたち 親(お)へさせっ [堂園三洋]
軸吟 夫婦(みと)生活(ぐら)し 食傷(しょっしょ)をしでた 倦怠期

第113回南日本薩摩狂句大会 兼題「鏡(かがん)」 永徳天真選

特選 鏡(かがん)前 黒帯(くろお)ぶぐっち 締(し)め直(な)えっ [稲田切株]
秀一 婆(ば)のヌーで 風呂場ん鏡(かが)ま 目を瞑(つぶ)っ [上籠若菜]
秀二 子を叱(が)れば 角(つの)が出(で)ちょっち 鏡(かが)むやっ [満留ぐみ]
秀三 自分(わが)を見(み)っ 何処ん婆(ばば)かち 鏡(かが)み聞(き)っ [下栗志乃]
秀四 稀(まれ)けんな 鏡(かが)みもヌード 拝(おが)ませっ [上薗佳笑]
秀五 姿見(すがたみ)い 母(か)けそっくいの 婆(ば)が写(うつ)っ [植村昭子]
軸吟 鏡(かがん)せえ 元気が無(ね)がち 独(ひと)い言(ごっ)

その他の秀句 (順不同)

鵜匠(うしょ)ん如(ご)っ 孫達(まごた)つ連れた 六月燈(ろっがっど) [津留見一徹]
年(とし)の沙汰 点滴(てんて)きょ拝(おが)ん 様(ざま)なこっ [西 幸子]
蹴(け)い肚(はら)か 見合(みえ)ん最中(さなか)ん 大(ふ)て欠伸(あくっ) [石野蟹篭]
貸せ言(ちゅ)たや 曽我どん向(む)っの 傘を出(で)っ [山下須奈穂]
海開(うんびら)っ 神主(ほい)さあ裸足(はだ)し 御幣(ごへ)を振(ふ)っ [境 戸緒流]
金運な 無(ね)どち手相見(てそみ)が 図星(ずぼ)す言(ゆ)っ [工藤天然]
乱れ飛(と)っ 蛍(ほたい)を過疎ん 宝(たか)れしっ [津留見一徹]
保育料(ほいっりょ)が 欲(ほ)し言(ちゅ)もならん 孫ん守(もい) [上籠若菜]
相手(えて)次第(しで)ち 言(ゆ)ちょい年齢(とし)かち 娘(こ)を叱(く)るっ [楠八重渓流]
馬面(うんまづ)れ 難儀をしちょい コンパクト [樋口一風]
長病臥(ながやん)の 女房(か)けも鏡(かがん)で 月(つ)く見(み)せっ [有馬二天]