おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第694号

雑吟     永徳天真選

一番槍 新(に)け茶碗 また喧嘩かち 娘(こ)が笑(わ)るっ [佐伯山神]
二番槍 鼻紙(はなが)みも ならん宝籤(くし)どん 年中(ねんじゅ)買(こ)っ [上薗佳笑]
三番槍 何(な)ゆ食(く)なち 義理(ぎい)で尋(き)かいが 飯(めし)と汁(しゅい) [吉岡道場]
四番槍 茶柱(ちゃばした)い 重(お)び腰こす上(あ)げっ 靴(く)つば履(ふ)ん [おんじょどい]
五番槍 山芋は 山で掘れ言(ちゅ)て 担(かた)げ出(で)っ [棚網 鮎]
六番槍 卸(す)い方(か)てな 惜(てこ)ね気がすい 股(また)大根(でこん) [工藤天然]
七番槍 床(と)け入(い)って 数(か)んぜた羊(ひつ)じゃ 二千匹(にせんびっ) [石塚律子]

渋柿集

中村雲海 義理(ぎ)ゆ欠(か)けん 香典(ひで)い所帯(しょて)繰(ぐ)や 火の車(くいま)
ブスじゃいが 心美人の 女房(か)け恵(のさ)っ
法(ほ)の知(し)れん 宗教(しゅうきょ)い嵌(はま)っ 親は泣(ね)っ
バスん旅(たっ) 朝かあ飲(の)んじゃ 盛(も)い上(や)がっ
蟻地獄(ぶっつんこ) まだ床下で 世を暮(く)れっ
有川南北 議(ぎ)が多(う)こし 棚(た)ね腐(ねま)ろそな 消費税
原発(げんぱっ)が 骸骨(さねこ)ち見(み)ゆい 事故ん跡
朧月(おぼろづっ) 家(え)の空(そ)れ猫が 喚(おら)っ晩
夕暮刻(よのいもて) 亡親(おや)が恋(こい)しち 寺ん鐘
子は全部(ずるっ) 都会(まっ)せえ巣立(すだ)っ 淋(げん)ね親
弓場正己 和(な)つ言(ゆ)えち 願(ね)ごが効果(きっめ)ん 無(な)か女房(おかた)
頑張(きば)れよち 言(ゆ)たや退(や)めます 言(ちゅ)て戻(もど)っ
上役(うわや)くば ぐりっ騙(だま)けた 言訳(ゆわけ)上手(じょし)
景色(けしっ)どま 見(み)らじメールん バスツアー
日の一日(ひして) 喋(しゃべ)いが婆(ばば)ん 惚(ぼ)け防止
堂園三洋 石橋(いしば)すば 何度も叩(たた)っ 慎重派
年金日 今日(きゅ)どま塗(なす)ろち 可愛(むぞ)か婆(ばば)
夫婦(みと)喧嘩 亭主(てし)の涙(なんだ)で 終了(しめ)いなっ
此方(こっち)いも 遣(よこ)せテレビん 豪華料理(じゅい)
世の中で 見(み)ろごちゃ無(ね)とが 婆(ばば)んミニ
永徳天真 長(な)ご掃除(そつ)も せん箒(ほ)き蜘蛛(こっ)が 糸を張(は)っ
こいもエコ 半身浴(はんしんよっ)の 宅(やど)ん風呂
誰様(だいさあ)か 日傘どん差(せ)た 田舎道(みっ)
新卒(しんそっ)が 荒波(あらなん)の娑婆(しゃ)べ 擾(こな)されっ
台所(おすえ)ずい 付(ち)っ来て邪魔な 結婚(といえ)当初(はな)
樋口一風 学者(がっしゃ)肌 酔(よく)ろかたいも 一講義(ひとくさい)
誰(だい)かじゃが 挨拶(えさっ)笑(わ)れしっ 擦(す)い違(ち)ごっ
素手で訪(き)っ 魔王(まお)を一本 飲(ぬ)で帰(もど)っ
奢(おご)られた ばっかい好(す)かん 世辞(めし)も言(ゆ)っ
多(う)か子供(こど)ま 年頃じゃって まだ独身(ひとい)

山椒集 題「空気(くうき)」     有川南北選

肥満(だんべ)女房(かか) 空気ベッドが ペサッなっ [尾崎若狭]
大(ふ)とか鼻 汚れ空気を 倍(ばい)吸込(すく)っ [入来創雲]
原発(げんぱっ)が 空気も何(ない)も 汚(よご)らけっ [西ノ園ひらり]
五客一席 据え膳ぬ 空気が読(よ)めじ 食(く)損(そこ)ねっ [おんじょどい]
五客二席 背が低(ひ)きで 空気が足(た)らん 満員車 [樋口一風]
五客三席 倦怠期 同(ひと)っ空気を 吸(す)ごちゃ無(の)し [吉岡道場]
五客四席 飲(の)ん会の 空気を変えた 横杵者(よんごもん) [井手上政暎]
五客五席 会場(かいじょ)違(ち)げ 飲(ぬ)で歌(う)とたなら 妙(す)だ空気 [中囿和風]
選者吟 獲(と)れん日は 猟犬(いん)も空気を 勘(かん)くろっ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

オレンジが 新幹線の 陰で泣(ね)っ [楠八重渓流]
一年目(いっねんめ) 絆で堪えた 様(よ)な列島(れっと) [上薗佳笑]
期待した 泥鰌(どじょ)もこん頃(ご)ら 色褪(いろあせ)っ [澤津乙名]
四天王一席 トンネルん 構想(こうそ)いマグマ 目を見出(みで)っ [弓場正巳]
四天王二席 埒(だ)ちゃ明(あ)かん 方(ほ)の無(ね)政治い 維新風(いしんかぜ) [新地十意]
四天王三席 分限者(ぶげんしゃ)い 配(くば)い計画(つもい)か 記念硬貨(どろ) [佐伯山神]
四天王四席 細(ほ)せ金(きん)の 延べ棒(ぼ)い見(み)ゆい 鰻(うなっ)の子 [工藤天然]
選者吟 飲兵衛(のんべ)いな まこち待(ま)っ長(な)げ 屋台村

郷句相撲 題「蹴(け)い」

横綱(東) 天ずいも 蹴(け)ろそな孫ん 逆上(さかあ)がい [石原ミエ子]
横綱(西) 頭(びん)てきっ 壁を蹴(け)ったや 爪を剥(へ)っ [中間紫麓]
大関(東) 降(ふ)い程(ひこ)ん 縁談ぬ蹴(け)っ 今アラフォ [満留ぐみ]
大関(西) 酔(よく)れ亭主(て)す 着替えさせかて 蹴(け)いたくっ [市来流星]
関脇(東) 春闘の 要求(ようきゅ)を蹴った 不況風 [澤津乙名]
関脇(西) 夫婦(みと)喧嘩 犬(いん)が蹴(け)らるい 八当(やっあ)たい [中囿和風]
小結(東) 謝罪(ことわい)を 言(ゆ)た後(あと)木戸を 蹴(け)っ帰(もど)っ [おんじょどい]
小結(西) 妻(かか)ん蹴(け)ゆ 股間(またば)い食(く)ろた 朝帰(あさもど)い [桜井吹雪]
筆頭(東) 鬱憤(うっぷん)が ごろ寝ん猫を 蹴(け)い上(あ)げっ [諸木小春]
筆頭(西) 好(す)っじゃ無(ね)ち 鼻で蹴られた プロポーズ [樋口一風]
二枚目(東) 多忙時(せしけどっ) 行(い)たや蹴られた 寄付相談(そだん) [日隈英坊]
二枚目(西) 蹴(け)っみたや 百円じゃ無(な)か 瓶の栓 [井手上政暎]
三枚目(東) 石蹴(いしけ)いも 昔の遊(あす)び なっしもっ [樋渡草団子]
三枚目(西) 寒(さ)み晩ち 足あすば入(い)れたや 蹴(け)ゆ食(く)ろっ [上薗佳笑]
四枚目(東) なでしこい 早(は)よ蹴(け)い込(こ)めち テレビ前 [西ノ園ひらり]
四枚目(西) 開(あ)かん戸を ここを蹴れ言(ちゅ)て 教(いっか)せっ [桑元行水]
五枚目(東) 電話途中(つと) 下知(げ)つすい女房(かか)を 足で蹴(け)っ [北村虎王]
五枚目(西) 亭主(てし)の蹴(け)や 女房(かか)い届(とじ)かん 蚤(のん)の夫婦(みと) [江口紫朗]
六枚目(東) 蒸暑(ほめ)っ晩 布団も女房(かか)も 蹴(け)いたくっ [佐伯山神]
六枚目(西) うな貴様(わい)が 言(ちゅ)たとか脛を 蹴(け)い倒(と)けっ [西迫順風]
七枚目(東) 蹴った上(う)へ 拳骨(とっこ)もくれた 厳(いみ)し女房(かか) [山元自在鉤]
七枚目(西) また浮気(うわっ) 治(なお)らん亭主(とと)を 蹴(け)いたくっ [花園ちづ]
八枚目(東) 釣(つ)い好(す)っが 魚(いお)は恵(のさ)らじ 手籠(てご)を蹴(け)っ [畑山真竹]
八枚目(西) 酔漢(よくれぼ)が 扉(ドア)どま引(ひ)かじ 蹴(け)いたくっ [工藤天然]
親方吟(東) 母親(はほ)が蹴(け)っ 長男(すよ)い届(とじ)かん 見合(みえ)話(ばなし) [石塚律子]
親方吟(西) 物別れ 短気が直(いっ)き 席(せ)くば蹴(け)っ [吉岡道場]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「ほとくい」より抜粋)

楠元フクエ 混浴(こんよっ)の 湯気(ほけ)から女房(かか)が 顔(つら)を出(で)っ
植(う)ゆい日が 良(よ)か日ち地火(じ)けも 播(ま)っ横杵(よんご)
現在(いま)よっか 惚(ぼ)けはすいめち 茗荷(みょが)を食(く)っ
倉元天鶴 畑(は)い急(いそ)っ 担籠(いねてご)ん中(な)け 子は揺(ゆ)れっ
水車小屋(ご)へ 眉毛(めげ)も小糠ん 粉(こ)を被(かぶ)っ
税務署い 妻(か)け泣(な)っ真似を させけやっ
黒岩涙月 酒癖が 悪(わ)りで飲(の)ん方(か)て 布令(ふれ)が来(こ)じ
しゃごだ勢(い)き 大尻(うじ)い噛(か)ん付(ち)た 茅(かや)ん棘(そげ)
道路(みっ)作(つく)い 石(い)す動(いご)けたち 地主(じぬ)しゃ騒動(そど)
郷田悠々 馬鹿言(ちゅ)たや 貰(も)ろたも馬鹿ち 吐(かや)す女房(かか)
考(かん)げごちゃ 無(ね)とか女房(かか)どま 高鼾(たかいびっ)
外股(そとがん)の 下駄を借(か)ったや 転倒(はんと)けっ
小園サチ くつろっが 良(ゆ)なっ喧嘩ん 種が減(へ)っ
退職(やめ)た亭主(と)て ビールを焼酎(しょちゅ)い 代(か)えち言(ゆ)っ
恥(げん)なさも 痛(いた)せひっ飛(つ)だ 痔の手術(しゅじゅっ)
児玉金蜻蛉 結婚(といえ)当初(はな) 卵は店を 変(か)えっ買(こ)っ
イーち言(ゆ)っ 口紅(べん)の付(ち)たシャつ ひっ破(きゃぶ)っ
太鼓(てこ)三味線(しゃん)ぬ 仰向(おね)っ見ながら パトロール

第78回鹿屋大会 席題「化粧(けしょ)」     石塚律子選

面接(めんせっ)の娘(こ)を 薄化粧(うすげしょ)で 送(おく)い出(で)っ [植村昭子]
付け睫毛(まっげ) みそ汁(しゅい)落(お)てっ 大騒動(うそ)でなっ [満留ぐみ]
タクシをば 待(ま)たせっ婆(ばば)あ まだ化粧 [樋口一風]
若(わ)け肌ち 誉(ほ)め誉(ほ)め塗(なす)い 化粧(けしょ)売場(ういば) [吉岡道場]
棺の中 化粧(けしょ)で仏(ほとけ)ん 顔(つら)いなっ [永徳天真]
そいで化粧(けしょ) した顔(つら)かよち 亭主(とと)ん愚痴(ぐぜ) [山元自在鉤]
選者吟 試供品(しきょひん) じゃどしこ化粧(ぬ)ってん 晴れがせじ [石塚律子]

第78回鹿屋大会 兼題「元気(げんき)」     樋口一風選

ご快癒を 願(ね)ごて記帳所(きちょう)じぇ 人ん波(なん) [石塚律子]
友達(ど)しゃ逝(い)たが 俺(お)や八十で まだ浮気 [中村雲海]
親かいの 小包(こづつ)む開(あ)けっ 元気付(ぢ)っ [福岡放電]
二時間目 元気な腹が 最早(もへ)叫(お)れっ [諸木小春]
元気ねち 蝶々(ちゅちゅ)かあ年中(ねんじゅ) 来(く)いメール [満吉満秀]
傘寿爺(じ)が 婚活(こんか)ち行(い)こち 新(に)け背広 [上野由美]
選者吟 今日(きゅ)も元気 隠居ん窓い 旗が出(で)っ [樋口一風]

その他の秀句 (順不同)

都会(ま)ち疲(だ)れた 五体(ごて)い優(やさ)しか 古里(さと)ん風 [萬福平次]
間違(まっ)げ無(な)し 俺(おい)が子じゃろか 呆(ぼ)やしこっ [楠八重渓流]
取(と)い戻(も)でっ 嬉(うれ)し悲(かな)しん 癌保険 [諸木小春]
何(ない)も無(ね)が 仲良(なか)ゆ暮らせち 遺言状(ゆいごんじょ) [山元自在鉤]
津波(つなん)よか 高(たか)か鯉幟(のぼい)で 気が晴(は)れっ [有馬純秋]
初夏ん風(か)ぜ 今日(きゅ)かあロックん 焼酎(しょちゅ)いしっ [工藤天然]
茶畑ん 茜襷(あかねだすっ)も 多分(かった)婆(ばば) [福冨野人]
年金日 孫ん暦(こよ)みも 丸(まる)があっ [前村泰山]
大切(でし)なもん 空気太陽 お前様(まんさあ) [棚網 鮎]
母(はほ)と女房(かか) 戦(いっさ)ん後(あと)か 重(お)び空気 [工藤天然]
メーデーに 出(で)い衆(し)は良(よ)かち 靴磨(くっみが)っ [埀野剣付鶏]
追出(うで)っから 新憲法を 読(よ)ん直(な)えっ [大田麦秋]
任(まか)すっち 言(ゆ)たて口出(くっだ)す すい社長 [江口紫朗]
寝床いも 線ぬ引(ひ)こそな 倦怠期 [上山天洲]
横杵(よんご)爺(じ)も 交際(つっきょ)っみれば 味(あっ)があっ [原田菊男]
厳(いみ)し爺(じ)も 孫と笑顔ん シャボン玉 [永徳天真]
料理(じゅ)やチンで 化粧(けしょ)あ百点(ひゃってん) 我家(やど)ん嫁 [今井夢紫]