おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第692号

雑吟     永徳天真選

一番槍 倦怠期 当てつけい買(こ)た 抱(だ)っ枕 [おんじょどい]
二番槍 子が合格(うか)っ やっと焼酎(しょちゅ)どが 味(あ)じゅさせっ [西ノ園ひらり]
三番槍 憧(あこが)れん 制服(せいふっ)取(と)いけ 親子しっ [今井夢紫]
四番槍 いっのこめ 帰(もど)っおじゃした 燕どん [花園ちづ]
五番槍 励(はま)い手が 居(お)っで茶処(ちゃどこ)や 名を上(あ)げっ [畑山真竹]
六番槍 肖(あやか)ろち 婆(ばば)も浸(つか)った 美人の湯 [福冨野人]
七番槍 三流でん 合格(うか)ったたっで 出前寿司 [大西学老]

渋柿集

中村雲海 今年どま 娶(も)ろど嫁(い)っどち 語(かた)い兄妹(きょで)
人ん良(よ)か 人ち舐(な)めたや 絡(から)まれっ
安(や)し味噌は 思(おも)わん料理(じゅ)ゆば 狂(くる)わせっ
責任の 先(さ)き見えたとは 遣(や)い気じゃっ
乾杯は 焼酎(しょちゅ)でしかせん 頑固(いっこっ)爺(じ)
有川南北 辛(つ)れ総理 実行(や)ろも身内(みうっ)が 足(あ)す引張(そび)っ
首尾(び)のとれん 改革(かいか)か年中(ねんじゅ) 先送(さっおく)い
一度(いっ)だ死(し)ん また這上(へあ)がった 八ツ場(やんば)ダム
解散ち 吼(ほ)ゆい総裁(そうさ)や 何時(いっ)も同語(ぐゎい)
臍曲(へそま)がい 潮時(しお)い構(か)めなし はっ逝(ち)たっ
弓場正己 一旗を 揚(あ)ぐち出た限(ぎ)い 沙汰も無(の)し
顔(つら)よっか 金(ぜん)が目当てで 貰(も)ろた女房(かか)
何(ない)じゃろが 行列(ぎょうれ)つ見れば 並(な)るっ女房(かか)
憎(にく)まれが 長生(ながいっ)の元(もと) 家(やど)ん爺(じじ)
好(す)っじゃれば 年齢(とし)の差は無(な)か 適齢期
堂園三洋 全力(ぜんりょっ)で 頑張(きば)っ退職(やめ)たや 粗大塵(そだいごん)
底無しが たったの五合(ごんご) 提(さ)げっ来(き)っ
沢山(ずばっ)書(け)っ 切手が足(た)らん ラブレター
象(ぞ)ん鼻は 俺(おい)が手よっか 器用(じく)いあっ
パチンコで 儲(も)けっ回転(まわ)らん 寿司(す)すば食(く)っ
永徳天真 手を挙げた 横杵(よん)げ溜息(ういっ)の 郷中(ごじゅ)ん寄合(よい)
道路端 立(た)っ止(ど)まらせた 夫婦(みと)喧嘩
恋言(ちゅ)とは 押(お)したい引(ひ)たい 難(むっか)すし
可愛(む)ぜ口(く)つば 尖(とんが)らかせっ 議(ぎ)を言(ゆ)孫
好(す)っ好(す)っち 傍(そば)を離(はな)れん 可愛(む)ぜ女房(おかた)
樋口一風 サクラサク こいかあ親が 頑張(きば)っ番
頭割(びんたわ)い すればどしこも 無(な)か遺産
少(ち)す治(ゆ)なっ 看病(かびょ)しん嫁い もへ悪口(あっご)
横(よん)ご爺(じ)あ 煙(け)びかち孫も寄(よ)いつかじ
物好(ものず)っが 何(ない)の列(れっ)じゃか 並(な)るんみっ

山椒集 題「遠足(えんこ)」     有川南北選

波(なん)の追(う)て パンツも濡れた 浜遠足(はまえんこ) [西 幸子]
こらしたい 何(ない)の足(た)しなろ バス遠足(えんこ) [上薗佳笑]
春(はい)遠足(えんこ) 母(はほ)が喜(よろ)くだ 石蕗(つわ)土産 [北村虎王]
五客一席 朝寝しっ 遠足(えんこ)ん後(あと)を 追(う)た弁当(べんと) [津留見一徹]
五客二席 良(よ)か天気 遠足(えんこ)日和(びよい)に 弾(はず)ん足 [山元自在鉤]
五客三席 デーケアん 遠足(えんこ)が嬉(うれ)し 婆(ば)の一日(ひして) [西ノ園ひらり]
五客四席 孫遠足(えんこ) てるてる坊主(ぼ)ずば 軒下(のっ)べ吊(つ)っ [市来流星]
五客五席 遠足(えんこ)言(ちゅ)が 全(まっ)で歩(さる)かん バス旅行 [江口紫朗]
選者吟 幼(こ)め遠足(えんこ) ずばっ茅花(つばな)を 摘(つ)ん帰(もど)っ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

不景気を 背負(かる)っ難儀な 泥鰌(どじょ)総理 [上山天洲]
貴重(たし)ね票(ひゅ)が 馬鹿(ば)けされたよな マニフェスト [新地十意]
政界が 浪速(なにわ)ん乱(らん)に 狼狽(ばたぐ)ろっ [満吉満秀]
四天王一席 適材と 適所が首相(しゅしょ)ん 首(く)ぶ締(し)めっ [弓場正巳]
四天王二席 三代目(さんでめ)ん 舵(かっ)取(と)い不安(せわ)な 北朝鮮(きたちょせん) [米元年輪]
四天王三席 急患に 嬉(うれ)し天使ん ドクタヘリ [津留見一徹]
四天王四席 イチロせえ 惚(ほ)れっ川崎(かわさ)か 世界(せか)い翔(つ)っ [樋口一風]
選者吟 アミュランが 色直(いろなお)すして 客(きゃ)くば待(ま)っ

郷句相撲 題「鬼(おん)」

横綱(東) 朝帰(もど)い 木戸で待(ま)っちょい 鬼(おん)の女房(かか) [日隈英坊]
横綱(西) 鬼(おん)が出(で)っ 桃太郎(ももたろ)が泣(ね)た 保育園 [中間紫麓]
大関(東) 千匹(せんびっ)の 鬼(おん)よい厄介(やっけ) 姑(しゅと)小姑(こじゅと) [石塚律子]
大関(西) 鬼(おん)になっ デーケアい遣(や)っ 介護疲(だ)れ [吉岡道場]
関脇(東) 実家でな 鬼婆(おんばば)などち 言(ゆ)放題(ほで)言(ゆ)っ [澤津乙名]
関脇(西) 寒稽古 心を鬼(おん)に 送(おく)い出(で)っ [楠八重渓流]
小結(東) 内心(ねしゅ)ん鬼(おん) 豆播(まめま)っどんじゃ 出ていかじ [樋渡草団子]
小結(西) 可愛(む)ぜ鬼(おん)の 薄目が開(え)ちょい 隠(かく)れんぼ [福冨野人]
筆頭(東) 鬼(おん)の千 小姑(こじゅと)一人(ひと)い 叶(かな)わせじ [石原ミエ子]
筆頭(西) 鬼(おん)にした 子が帰(もど)らんち 大騒動(うそ)でなっ [埀野剣付鶏]
二枚目(東) 厳(いみ)し姑(しゅ)て 将来(さ)か看(み)らんどち 鬼(おん)の嫁 [西 幸子]
二枚目(西) ママゴンが 鬼面(おんづ)れなって 子を育(お)えっ [上山天洲]
三枚目(東) 鬼嫁(おんよめ)ち 言(ゆ)ながい嬉(うれ)し 態(ふ)の亭主(とのじょ) [諸木小春]
三枚目(西) 鬼役(おんやっ)の 姑(しゅと)い本気で 投(な)ぐい豆 [萬福平次]
四枚目(東) 節分で イクメン父親(ちゃん)な 鬼(おん)になっ [福山吉連]
四枚目(西) 俺(お)ゆ見れば 鬼(おん)が来た言(ちゅ)て 子供(こ)は逃(に)げっ [前村泰山]
五枚目(東) 九面(くめん)太鼓(でこ) 鬼気迫(せま)っよな 神楽舞(も)っ [有馬純秋]
五枚目(西) 大世間(うぜけん)な 鬼(おん)ばっかいの 冷(つん)て娑婆 [弓場正巳]
六枚目(東) 腕白小僧(きかんたろ) 似合(にお)た役(やっ)じゃち 鬼(おん)になっ [新地十意]
六枚目(西) 怒(はら)かけば 鬼(おん)も逃(に)ぐそな 女房(かか)ん顔(つら) [米元年輪]
七枚目(東) ち酔(よく)ろっ 帰宅(もど)りゃ玄関(ふんご)み 鬼(おん)が居(お)っ [山元自在鉤]
七枚目(西) 家族(けね)ん幸(さ)つ 火の粉い願(ね)ごた 鬼火焚(おんびたっ) [桑元行水]
八枚目(東) 俺(お)いな鬼(おん) 孫にゃ仏(ほとけ)ん 女房(かか)ん顔(つら) [伊地知 孝]
八枚目(西) 追出(うだ)された 鬼(おん)が暖簾で 盃(ちょ)く替(か)えっ [入来義徳]
親方吟(東) 退職(やむ)い朝 鬼(おん)の課長の 目い涙(なんだ) [西ノ園ひらり]
親方吟(西) 鬼(おん)になっ 寡婦(おなご)一人(ひとい)で 子を育(お)えっ [樋口一風]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「ほとくい」より抜粋)

大脇保子 バスが来(き)っ 眉毛(めげ)は高(た)こ低(ひ)く 走(はし)い出(で)っ
横(よん)ごいな 下から行(い)たっ 機嫌とい
長電話 猫が喜(よろ)くっ 御馳走(おそ)ゆなっ
尾崎美智子 イヤリング 薄(う)し耳朶(みんちゃ)べな 釣(つ)い合(よ)わじ
女房(うっかた)も 月(つっ)の明(あ)かいじゃ 美人(シャン)になっ
新(に)けズボン 煙草で穴(ほ)げた ぼやし亭主(とと)
織田岳児 不合格(おて)た同士(どし) 寝転(ねこ)ろだ土堤(ずべ)い 散(ち)い桜
風が無(の)し 竿い抱(だ)っ付(ち)た 鯉幟(こいのぼい)
不精(ふゆ)をしっ 台所(おすえ)は茸(なば)ん 傘が咲(せ)っ
小原庄太郎 焼酎(しょちゅ)臭(く)せち 飲めば寝場所を 変(か)ゆい女房(かか)
道(み)つ聞けば 杖を振(ふ)ったい 地面(じ)で書(け)たい
どけ行(い)たか 手紙(てが)ま絵府(えぼ)どが 付(ち)て戻(もど)っ
書川水平 がっついの 其処は吐(か)やさん 占師(おせんとい)
添(そ)ゆい真似 味噌は杓文字(めしげ)い へばい付(ち)っ
身寄(みのきれ)い 被(かぶ)い覚悟(かっご)ん 印(はん)ぬ押(え)っ
柿元棕櫚緒 返(かえ)い討(う)ち 遭(お)た碁は犬(いん)の 蹴(け)っ帰(もど)っ
表札(ひょうさっ)の 蒲鉾板い 蠅(へ)が止(と)まっ
大仏(だいぶっ)の 掌(てのひ)れ休(よ)くた 埃(ごん)落(お)とし
筧 三平 荒縄で 縦横(たてよ)こ田舎(さと)ん 宅急便(たっきゅびん)
尼寺ち 知(し)たじ精一杯(せっぺ)な 発情(さかい)猫
郷中(ごじゅ)ん猫 ずるっ連(つ)れ出(で)た 担売(いねう)い婆(ば)
加治屋心眼 来年(でねん)どま 来年(でねん)どま言(ちゅ)っ 年(と)すば取(と)っ
片袖を 夕立(さだ)ち濡(ぬ)らけた 亭主(て)し悋気(じんき)
宝子(たからご)ち 養育(おえ)た後継(あとつ)ぎゃ 養子(よ)し這込(へく)っ
金井一馬 来(く)い時刻(じかん) 小灯火(ことぼ)す針(はい)で 掻(か)っ立(た)てっ
坂上(さかの)ぼい 鼻を擦(こす)いめ 婆(ば)あ曲(ま)がっ
好(す)かん課長(かちょ) 胴上(ずあ)げで故意(わざ)き 取(と)い落(お)てっ
上畝 勇 草が敵(てっ) 毎日(めにっ)戦争(ゆっさ)ち 爺(じ)は頑張(きば)っ
無理(むい)な願(ね)げ 姉を産(う)んでち 子が催促(せじ)っ
もへ父(ちゃん)と 風呂にゃ入(い)らんち 娘(こ)が言(ゆ)でっ
上鶴信義 顔(つら)土産 病床(やんめ)ん母(かか)も 起(お)っ上(きゃ)がっ
子は多(う)けて 田舎(いな)け寂(とぜん)ね 独居(ひとい)世帯(じょて)
ダイエット あん肥(こ)え方(かた)じゃ 効(き)かすいめ
上鍋平句郎 磨(みが)っ映(ば)え せん顔(つら)じゃっち 鏡(かが)ま言(ゆ)っ
秋風(あっかぜ)が 障子(しょし)の穴(ほげ)かあ 訪(こと)っ来(き)っ
高齢(とし)な衆(し)が 病院(びょいん)に出揃(でそ)ろ 休(やす)ん明け
仮屋一正 駅弁な 一(ひと)っで足(た)ろち フルムーン
留守(ず)し行(い)たっ 庭い大(ふ)て字を 書(け)っ帰(もど)っ
下駄ん緒を すげたが縁で 結(むす)ばれっ

その他の秀句 (順不同)

度忘れで 済(す)ん内(う)ちゃ良(よ)かが 将来(さっ)が心配(せわ) [新地十意]
嫁(い)かん肚(はら) 粗(あら)を言(ゆ)でけた 見合(みえ)ん娘(おご) [吉岡道場]
下戸同士(どし)で 隅(すん)に曲(ま)がっせ ウーロン茶 [山元自在鉤]
金(ぜん)切(ぎ)れか 女房(かか)ん物言(ものゆ)い 棘があっ [諸木小春]
接待の ゴルフい一打(いっだ) 負(ま)くい腕 [中囿和風]
何(ない)も無(ね)が 都会(まっ)のストレす 取(と)い田舎 [上薗佳笑]
盗(ぬすと)焼酎(ぞつ) 俺(おい)よっか先(さ)き 息子(こ)が来(き)ちょっ [大西学老]
茶飲(ちゃの)ん友達(ど)しゅ 世間じゃ是(こい)ち 小指(こゆ)ぶ出(で)っ [桜井吹雪]
さすが社長(しゃちょ) 詫(わび)会見の 嘘涙(うそなんだ) [中囿和風]
遠足(えんこ)でん なかやバナナあ 食(く)ちゃみらじ [石塚律子]
雛祭(ひなじょゆえ) 兄(あにょ)はしおらしゅ 隅(す)み曲(ま)がっ [小野原一刀斎]
鏡(かがん)かあ 膿(うん)が出(で)ろそな わぜ面皰(にくん) [丸田みとえ]
疼(うず)っ歯を 焼酎(しょちゅ)で騙(だま)けた 休診日 [工藤天然]
まだまだち 散(ち)い際(ぎ)うぇ悩(なや)ん 名選手 [永徳天真]
万年暦(まんにょん)が 一声叫(おれ)っ 議(ぎ)は止(と)まっ [長山紫の君]
窮屈(きくっ)ねち 二次会(にじか)や平社員(ひら)で 飲(の)ん直(な)えっ [原田菊男]
砂糖(さと)焼酎(じょちゅ)が 亭主(とと)を肴(しおけ)い やれ賑(はず)ん [桑元行水]
焼酎(しょちゅ)小指(こいっ) 卒業(そっぎょ)が出来(でけ)じ 平(ひら)止(ど)まい [楠八重渓流]
反対を 拝(おが)ん倒した 熱(あ)ち二人(ふたい) [木強]