おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第691号

雑吟     永徳天真選

一番槍 隣(つっ)が美人(シャン) カウンタで飲(の)ん 美味(うん)め焼酎(しょちゅ) [山元自在鉤]
二番槍 孤独死を せんめち家族(けね)ん 輪い加(かた)っ [西 幸子]
三番槍 職(しょ)き就(つ)かじ 生活保護ち 術(じゅっ)ね奴(わろ) [盛満椒平]
四番槍 長(な)ご生(い)ぎっ 友(どし)が居(お)らんち 愚痴(ぐぜ)い婆(ばば) [佐伯山神]
五番槍 新聞な 一方(いっぽ)向(む)き書(け)て 世論(よろん)言(つ)っ [中囿和風]
六番槍 セールスい 婆(ばば)は電球(でんきゅ)を 替(か)えさせっ [入来創雲]
七番槍 寝(ね)ちょったて 前立腺(ぜんりっせん)が 覚(おず)ませっ [大西学老]

渋柿集

中村雲海 ストレスを 焼酎(しょちゅ)い頼って 地獄(じご)く見(み)っ
纏め役(やっ) 大概(てげ)な事(こっ)ずや 辛抱(しんぼ)しっ
人を馬鹿(ば)け すっでかえっちゃ 貶(けな)されっ
夫婦(みと)喧嘩 ごめんち言(ゆ)えん 貧(ひん)な根心(ねしゅ)
稀勢の里 将来(やが)ちゃ横綱 大(ふと)か夢
有川南北 野次怒号(どご)で 国会(こっか)や貴重(たし)ね 時(と)く潰(つ)びっ
不精(ふゆし)ごろ 三刻(さんこっ)さがい 来た賀状
ギネスをば 狙(ね)ろたか桜島(しま)が 毎日(めにっ)噴(ひ)っ
車(くいま)ずい 空(そ)れ泳がせた 大竜巻(うまくじい)
退職(やめ)っかあ 女房(かか)が賄(まかね)ん 粗末(おろ)えこっ
弓場正己 寝(ね)っ時(とっ)も 散歩も重宝(ちょうほ) 爺(じ)の褞袍(どてら)
着替えをば すい度(かし)ギッタ入れ替(か)えっ
俺(おい)が胃と 仲良(なか)ゆ住(す)んじょい ピロリ菌
良(よ)か運気 待てど暮らせど 我家(わが)へ来(こ)じ
内定が 確定(かくて)いなって 春(はい)が来(き)っ
堂園三洋 年金で 婆(ばば)と稀(まれ)けん 小(ちん)け旅(たっ)
欲(よっ)な亭主(とと) 焼酎(しょちゅ)も煙草も 団子(だご)も好(す)っ
買(こ)た品(しな)ん 匂(かざ)が広(ひろ)がいエレベータ
痒(か)い顔(つら)を 掻(かか)じやならん 満員車
娘(おご)ん顔(つら) 電車ん中で 出来(でけ)上(あ)がっ
永徳天真 腹時計(はらどけ)や 年中(ねんじゅ)狂(くる)ちょい 卑(いや)し奴(ごろ)
貰(も)ろっきた チョコを食(たも)らん 悋気(じんき)女房(かか)
新築(しんちっ)の 隣(とな)い肩身(かたん)が 狭(せ)べぼろ家(え)
こげん狭(せ)べ 土地(じだ)じゃったとか 家解(えと)っ跡
親ん苦労(くろ) 知(し)たじ勝手な 議(ぎ)を吐(か)えっ
樋口一風 受験生(じゅけんせ)い 4コーナーち 鞭(む)つ入(い)れっ
豆ぐれじゃ 老獪(せなはげ)鬼(おん)なしれっしっ
鍋奉行(なべぶぎょ)い まだかまだかち 伸(ぬ)っ盛(ざか)い
義理(ぎい)チョコを 俺(おい)も人並(ひとな)み 貰(も)ろだせっ
一ヶ月 持(も)たじ白紙ん 日記帳

山椒集 題「割勘(わいかん)」     有川南北選

割勘(わいかん)で 酔漢(とら)ん守(も)いずい 受け被(かぶ)っ [福冨野人]
割勘(わいかん)で 払(は)るたデートい 恋(こ)や終(おわ)っ [吉岡道場]
タクシーも 割勘(わいかん)にした 厳(いみ)し女房(かか) [弓場正巳]
五客一席 割勘(わいかん)ち 一円硬貨(どろ)も 取(と)い幹事 [上薗佳笑]
五客二席 割勘(わいかん)に 最後(しい)ずい残(のこ)い 一斗甕(いっとがめ) [井手上政暎]
五客三席 割勘(わいかん)ち 言(ゆ)たや小便(しべん)ち 逃(に)ぐい奴(わろ) [福原福多]
五客四席 割勘(わいかん)の 声い皿をば 取(と)い替(か)えっ [吉丸セツ子]
五客五席 割勘(わいかん)に 義理(ぎい)堅(が)て下戸あ 顔(つら)を出(で)っ [入来義徳]
選者吟 割勘(わいかん)の 端(は)あ両拳(じゃんけん)で 結(け)ゆつけっ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

原子力(げんしりょ)か 要(い)らんち気合(きあ)ゆ 入(い)れっエコ [諸木小春]
浪花かあ 維新の同志(どし)が 鬨(と)く挙(あ)げっ [吉岡道場]
三代目(さんでめ)ん 坊(ぼん)なカジノん 餌食(えじ)きなっ [米元年輪]
四天王一席 粉飾(ふんしょっ)の 絡繰(からく)ゆ暴露 したカメラ [澤津乙名]
四天王二席 TPP(ティーピーピ) 農業(さっ)の後継者(あとつ)ぐ 悩(なや)ませっ [北村虎王]
四天王三席 佐多ん医療(いりょ) 一人(ひとい)の医者い 背負(かる)わせっ [樋口一風]
四天王四席 竜(りゅう)の首(く)びょ 強(つ)え嘴(くっばし)で 落(お)てた鷹(たか) [萬福平次]
選者吟 W杯(ダブルはい) 薩摩娘御(おごじょ)も 発止(はし)頑張(きば)っ

郷句相撲 題「赤字(あかじ)」

横綱(東) 実家(さと)からん 借(か)い貰(も)れで繰(く)い 赤字世帯(じょて) [佐伯山神]
横綱(西) 繰(く)や赤字 飲(の)ん代(で)をくれち 言難(ゆに)くなっ [吉岡道場]
大関(東) 宴会(のんかた)ん 赤字を係(かか)や 請(う)けかぶっ [入来創雲]
大関(西) 赤字言(つ)は 覚悟(かっご)ん上ん 農業(さ)き精出(はま)っ [楠八重渓流]
関脇(東) また赤字 女房(かか)ん溜息(ういっ)が 耳(み)み障(さわ)っ [伊地知 孝]
関脇(西) また赤字 今日(きゅ)かあ晩酌(だいやめ) 五勺(ごしゃ)きしっ [原田菊男]
小結(東) 赤字じゃが 意地で隣(とない)と 競(き)そ値下げ [新地十意]
小結(西) 間引(まび)くしっ 赤字路線な 息(い)く繋(つ)ねっ [福冨野人]
筆頭(東) 遣(や)い手社長(しゃちょ) 赤字は覚悟かっご 言(ちゅ)て儲(も)けっ [諸木小春]
筆頭(西) 総会で 赤字ん社長(しゃちょ)は 小(こ)む見(み)えっ [入来義徳]
二枚目(東) 赤字じゃが 放置(ほた)いもならじ 米作(つく)い [樋渡草団子]
二枚目(西) 開店日 赤字覚悟(かっご)で 客(きゃ)く集(よ)せっ [井手上政暎]
三枚目(東) 多(う)か子供(こど)む 赤字で育(おや)し 女房(かか)ん財布(ふぞ) [石原ミエ子]
三枚目(西) 厄介(やっけ)な 病(びょ)老々(ろうろ)介護で 赤字世帯(じょて) [西迫順風]
四枚目(東) 毎月(めえつっ)の 赤字あかじ付(つ)っ合(きょ)て 三十年(さんじゅねん) [石塚律子]
四枚目(西) 赤字じゃが お前様(はん)じゃっでち 商売(あっね)上手(じょし) [前村泰山]
五枚目(東) 家計どま パンクさせちょい 飲(の)んだくれ [澤津乙名]
五枚目(西) 孫ん娘(こ)あ 小遣(こつけ)が赤字 祖母(ば)べ相談(そだん) [今井夢紫]
六枚目(東) 凄(わ)ぜ赤字 じゃいが自家米(じかま)や 作(つく)ろ言(ちゅ)っ [畑山真竹]
六枚目(西) 財布(ふぞ)なんだ 何時(いっ)も赤字ん 遊(あす)っ好(ず)っ [上山天洲]
七枚目(東) 農業(さっ)の繰(く)い 余計(よ)け厳(きび)しゅない TPP(ティーピーピ) [満留ぐみ]
七枚目(西) 痛(い)て膝い 命(いのっ)の綱ん 赤字バス [津留見一徹]
八枚目(東) 赤字なあ パートい行けち 言(ゆ)えん亭主(とと) [西 幸子]
八枚目(西) 書道(しょど)ん 稽古(けこ)見事(みご)つ赤字で 直(なお)されっ [花園ちづ]
親方吟(東) ラブレタあ 赤字で訂正(なえ)っ 突(つ)っ返(も)でっ [樋口一風]
親方吟(西) 遺産分け 赤字も一緒(ひと)ち 連立(ての)っ来(き)っ [西ノ園ひらり]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「ほとくい」より抜粋)

今釜三岳 一(ひと)っ洗(あ)る 茶碗が堪(の)さん 島暮らし
飯(めし)食(く)時(ど)き 限(かぎ)っ子を叱(が)い 亭主(て)しゅ叱(く)るっ
実家(さと)を鼻(は)ね がっつい歯痒(はが)い 口答(くっごた)え
入来創雲 持った衆(し)は ずうず座敷(ざなか)ん 上座(か)み座(すわ)っ
横雨い 傘ん穴かあ 前を見(み)っ
インタビュー 顔(つら)ん大汗(うあせ)を 目でしぼっ
岩崎美知代 節句(せっ)の団子(だご) 帖佐人形(にんぎょ)いも 嗅(かず)ませっ
実家(さと)ん風(か)ぜ 当てたや止(や)んだ 血の病(やんめ)
揉(も)んかたが 足(た)らん高菜が 重石(い)す起(お)けっ
岩崎峰乗 南方(なんぽ)かい 裸足で頑張(きば)い 嫁が来(き)っ
昼(ひ)や鰻(うなっ)晩な鯛(て)か牛(ぎゅ)ち 大法螺(うぼら)吹(ふ)っ
九谷焼(くたんや)く 河豚(ふぐ)ん刺身(さしん)な 見事(みご)つ透(し)っ
上畠蟷螂 震えどま 盃(ちょっ)の一杯(いっぺ)でひたっ止(や)ん
儲(も)け上(あ)がっ 猫ん茶碗も 柿右衛門
馬鹿ち書(け)た 鏡(かがん)の口紅(べん)に気が晴(は)れっ
上原野風呂 カメラ呑(の)み すったい疲(だ)れた 胃の検査
短気妻(かか) 効(き)けん逆箒(さかぼ)く 叩(たた)っ折(ご)っ
わが娘(こ)なあ 叩(ど)えっくるそな 胡坐(いたぐらめ)
内村太郎 金(ぜん)な無(ね)が 娑婆ん極楽(ごくら)か 晩一合(いっご)
運(ふ)の良(え)奴(わろ) 三途ん川を 見て戻(もど)っ
年忌どが 済めばちんちん 口紅(べん)ぬ塗(ぬ)っ
内村風鈴 急カーブ ここでも事故か 小(ちん)け地蔵(じぞ)
小錦(こにしっ)と すったい疲(だ)れた 取(と)い直し
巨漢(うど)息子(むしこ) 亭主(とと)は叱(が)いかて 座(すわ)らせっ
梅木十字路 みんな寝(ね)っ 通夜ん線香(せんこ)も 消えた儘(ない)
人形(にんぎょ)箱 ひっくい返(か)えたよな 大家族(うげね)
二日山(ふっかや)め 醤油(しょい)つけ餅(もっ)の 匂(かざ)が舞(も)っ
上床余音 かけた鍋 相撲(すも)がバリバリ 焦(こが)らけっ
肥満(だんべ)でん 身綺麗(みぎれ)いすれば 品があっ
ようようち 女房(おかた)ん言(ゆ)ごっ 世を暮(く)れっ
永徳天真 内気(いめ)な親 わさわさ語(かた)い 嫁(よ)め疲(だ)れっ
腰掛(こしか)けっ 組(く)めば外(はず)るい 短(みし)け脚(あし)
解禁日 近(ち)こなっ庭で 釣竿(さお)を振(ふ)っ
江口ノブ 聞(き)っ損(そこ)ね 耳(みん)医者(い)せ行けち きし吐(か)えっ
島流し 女房(かか)は一人(ひとい)で 行けち言(ゆ)っ
帽子(ぼし)探(みし)け 店員(ういこ)も疲(だ)れた 大(ふ)て頭(びんた)
江平光坊 正月(しょが)ち来た 初孫天に 抱(だ)っ上(きゃ)げっ
息子(こ)が卒業(そっぎょ) したや惚(ぼ)けでた 教育(きょいっ)ママ
運動会(うんどかい) 女子高(じょしこ)じゃ乳房(ちち)も 躍(おど)らせっ
大迫三つ葉 車(くいま)事故 テレび出たどち 恥(げん)ね見舞(みめ)
女房(かか)んヒス また出(で)よたよな 包丁(ほちょ)ん音
抱(だ)っ癖が 付(つ)っちあっこも ならん孫
大重陣笠 鶏舎(こや)掃除 婆(ばば)あ換羽(ほろ)どん まっ被(かぶ)っ
入院(にゅいん)部屋 九時ん消灯(しょうと)い 目は冴(さ)えっ
口答(くっごた)え 母親(かか)は柄杓(くしゃっ)で 尻(け)つ叩(た)てっ
大田きか猿 料理(じゅ)や良(よ)かで 焼酎(しょちゅ)かい出せち 女房(かか)を叱(が)っ
都合(つご)都合(つご)で 親族(やうっ)ち言(ゆ)たい じゃね言(ちゅ)たい
三番鶏(しばどい)の 声も震(ふ)るちょい 寒(かん)の朝
大山元帥 割勘(わいかん)ち 勘定書(つけ)を見(み)っかあ きし吐(か)えっ
娘(こ)が嫁(い)たや 夫婦(みと)いな広(ひろ)か 座敷(ざな)けなっ
娘(おご)盛(ざか)い 飯(め)しょ食(く)度(たん)び 秤(ちき)い乗(の)っ

その他の秀句 (順不同)

じゃろじゃろち 言訳(ゆわけ)を女房(かか)は 聞(き)っ流(な)げっ [新地十意]
座敷(ざなか)ん毛 犬(いん)よか俺(おい)の 毛が多(う)こし [石塚律子]
ストーブを 準備(しこ)っかけちょい 長電話 [満留ぐみ]
持(も)てごった 亭主(てし)の仏壇(おむろ)い 供(あ)げたチョコ [米元年輪]
冷え性しょ妻(かか) 俺(おい)が股張(またば)い 足(あ)す差入(ぬく)っ [楠八重渓流]
居(お)れば邪魔 居(お)らにゃ徒然(とぜ)んね 粗大塵(そだいごん) [有馬純秋]
女房(かか)んヒス 諭吉(ゆき)つ見たなあ しちゃっ止(や)ん [伊地知 孝]
割勘(わいかん)の 端数(はした)は持(も)っち 見栄を張(は)っ [有馬純秋]
入試前 亭主(てし)の卵も 子い食(か)せっ [小石 巌]
大阪都 真実(まこ)ちなろそな 知事人気 [福山吉連]
卑(いいや)しか 浴(あ)びいめ飲(ぬ)じょい 通夜(よとっ)焼酎(じょちゅ) [橋口笑二]
渡(わた)い終(と)っ 最敬礼の 可愛(む)ぜ挨拶(えさっ) [吉岡道場]
取(と)い上(あ)げ婆(ば) 出番なまだち 悠然(ゆたっ)しっ [有川南北]
胸も尻(し)も ひっ破(ぱし)ろそな 娘(おご)盛(ざか)い[楠八重渓流]
好(す)っな女子(こ)い 故意(わざ)っ悪戯(けす)っちょ 腕白坊(きかんたろ) [中間紫麓]
葬式(おんぼ)焼酎(じょつ) 涙(なんだ)で薄め 黙(だま)っ飲(ぬ)っ [光凡]