おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第689号

雑吟     永徳天真選

一番槍 暇じゃ言(ちゅ)っ 行(い)た図書館で 鼾(いび)くけっ [上山天洲]
二番槍 大掃除 大概(てげ)な所(とこい)で 鶏(とい)ゆ捻(ひね)っ [津留見一徹]
三番槍 若(わ)け二人(ふたい) 長尻(ながじ)が帰(もど)っ 直(いっ)きキス [前田あやめ]
四番槍 安売(やすう)いの ちらし念ぬば 入(い)るい女房(かか) [山路野菊]
五番槍 貸(か)せた金(ぜん) 返(もど)せち言難(ゆに)き 一番(いっ)の友達(どし) [桜井吹雪]
六番槍 サラダかい 虫が出(で)っ来た 手荒(てあ)れ料理(じゅい) [澤津乙名]
七番槍 昼メロが 不倫ぬ詳(くわ)しゅ 教(いっか)せっ [諸木小春]

渋柿集

中村雲海 禿で良(え)て 勿体(もった)ゆ付(つ)けっ バーコ-ド
良(ゆ)う嵌(うた)っ 友達(どし)が貸(か)せ言(つ)た 猫捕器(ねこといき)
鉄条網(てっじょも)も 罠も猪(しし)奴(わろ) きし舐(な)めっ
遅れたや 焼酎(そつ)をジョッキで 飲(や)らされっ
ずんだれっ 居(お)いが墓参(はかめ)あ 見事(みご)てもん
有川南北 可哀相(ぐら)しよな 弱々(よと)し師走の 蚊を潰(つ)びっ
年金が 支給(で)らな動(うご)けん 歳暮(せぼ)買物(けもん)
シーベルト 聞(き)てんわからん 放射能
呆(ぼ)え頭(びんた )当初(はな)かあ二流(にりゅ)を 狙(ねら)わせっ
腕白坊(きかんたろ) 叱(が)れば横向(よこむ)き 舌を出(で)っ
弓場正己 追抜(うに)た奴(と)を 次(つっ)の信号(しんご)が 堰(せ)っ止(と)めっ
太(ふと)か足 蟹(がね)なら食(く)でが あろごたっ
携帯(ケータ)ゆば 使(つ)こが払(は)るわん 給食費
補聴器を 婆(ば)が掛けた時(と)か 家内(けね)黙(だま)っ
息子(こ)と住(す)んか 一人(ひとい)で居(お)いか 今日(きゅ)も迷(まよ)っ
堂園三洋 パッとせん 顔(つら)じゃが内心(ねしゅ)は 悪(わ)る無(ね)俺(おい)
フレッシュな 女房(うっかた)が欲(ほ)し倦怠期
女子会ち 洒落た名いした 婆(ばば)ん模合(もえ)
クシャンずい 凄(わ)ぜ上品な 隣(つっ)の奥様(こじゅ)
仲人(なかだっ)が 満点言(ちゅ)たが 手荒(てあ)れ女房(かか)
永徳天真 おばさんち 呼べばおばさん 返事(へし)もせじ
酔(よ)くれ亭主(てし) どこで飲んだか 化粧(けしょ)ん匂(かざ)
這(は)い這(は)いの 幼児(ちび)が立ったち 家族中(けねじゅ)騒動(そど)
ただいまち キスかあ先(さっ)の 結婚(といえ)当初(はな)
鳴(な)い電話(でん)うぇ 直(へっ)ち出(で)やせん 不精(ふゆ)な家族(けね)
樋口一風 せんじゃった 用事(ゆし)が年末(ねんま)ち うっ溜(た)まっ
母(はほ)と妻(かか) どっちん肩も 持(も)っ難(にく)し
被災者を 思えばまだ良(え) 貧暮(ひんぐ)らし
言(ゆ)てんせん 叱(が)ればないよち 怖(わざ)い部下
年金の 足(た)しち食(く)しこん 隠居農業(ざっ)

山椒集 題「優(やさ)し」     有川南北選

人様(ひとさ)へな あげな優(やさ)しか 声が出(で)っ [吉丸セツ子]
喧嘩中(ちゅ)ん 電話い急(はた)っ 優(やさ)し声 [諸木小春]
歯痒(はが)いこっ 女性(おなご)にゃ全部(ずるっ) 優(やさ)し亭主(とと) [花園ちづ]
五客一席 リハビリを 優(やさ)しナースが 頑張(きば)らせっ [吉岡道場]
五客二席 人前じゃ 優(やさ)しが自宅(うっ)じゃ 叱(く)るたくっ [澤津乙名]
五客三席 亭主(とと)よっか 飼犬(けいん)に優(やさ)し 歯痒(はが)い女房(かか) [満吉満秀]
五客四席 人前じゃ 言(ゆ)こちゃ無(な)かよな 優(やさ)し女房(かか) [江口紫朗]
五客五席 おかえりち 月給日(はれび)ばっかや 優(やさ)し声 [石塚律子]
選者吟 参観日 今日(きゅ)の先生あ 叱(が)いやらじ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

効果0(ゼロ) 植えたヒマワや 首(く)ぶ垂(た)れっ [石塚律子]
学校(がっこ)かい 飛(と)ばい出(で)ちょった 書類騒動(そど) [今井夢紫]
猫ん目ん 日本の首相(しゅしょ)い 唖然(あけっ)なっ [満吉満秀]
四天王一席 呆(ぼ)え鉢呂 泥鰌(どじょ)ん出発(うった)ち 疵(き)ず付(つ)けっ [大西学老]
四天王二席 沈没(しず)ん前(ま)へ 種子屋久(たねやっ)航路 手を握(にぎ)っ [上薗佳笑]
四天王三席 国産の 大関(おおぜ)きほっと した国技 [米元年輪]
四天王四席 友好ち 人気(にんき)SMAP(スマップ) 歌(う)とまくっ [西 幸子]
選者吟 千年の 伊佐んケヤッが 大往生(だいおうじょ)

郷句相撲 題「問題(もんだい)」

横綱(東) 何時(いっ)ずいも 一兵卒(いっぺいそっ)が 問題児 [石塚律子]
横綱(西) 山積(やまづ)んの 問題(もんだ)い心配(せわ)な 日本丸 [福冨野人]
大関(東) 都合(つご)ん悪(わ)い 問題(もんだ)や裏で こそっ処理 [諸木小春]
大関(西) 問題(もんだ)ゆば 見たばっかいで ギブアップ [今井夢紫]
関脇(東) 呆(ぼ)え外交(がいこ) 領土問題(もんだ)い 火をつけっ [澤津乙名]
関脇(西) 唯一(ただひと)つ 問題(もんだ)や亭主(てし)の 浮気癖 [弓場正巳]
小結(東) 過ぎた口(くっ) そいが問題(もんだ)い なっ辞任 [満留ぐみ]
小結(西) 郷中(ごじゅ)ん寄合(よい) 問題(もんだ)や焼酎(しょちゅ)で ひっ決(き)まっ [原田菊男]
筆頭(東) 授業中(ちゅ)い 漫画を見(み)ちょい 問題児 [盛満椒平]
筆頭(西) 東電な 問題は無(ね)ち 小出(こだ)しせっ [満吉満秀]
二枚目(東) 白紙(したがん)で 出(で)っ問題が 悪(わ)いち言(ゆ)っ [山元自在鉤]
二枚目(西) 悪戯坊主(われこっぼ) また問題の 種を撒(め)っ [江口紫朗]
三枚目(東) 問題(もんだ)ゆば 山程(ずばっ)抱(かか)えっ 呆(ぼ)え政治 [植村昭子]
三枚目(西) 研修(けんしゅ)旅行(りょこ) コンパニオンが 問題化 [中囿和風]
四枚目(東) 問題の 境界木(さけぎ)を流(な)げた 山崩れ [入来創雲]
四枚目(西) 被災地ん 急(いそ)っ問題(もんだ)い 鈍(ぬ)り審議 [津留見一徹]
五枚目(東) 番組(ばんぐん)の 漢字問題(もんだ)ゆ 女房(かか)と競(せ)っ [有馬純秋]
五枚目(西) 軽(か)り口(くっ)が 問題(もんだ)いなって 首(くっ)が飛(つ)っ [楠八重渓流]
六枚目(東) 大臣が 問題(もんだ)いなけた 大(ふと)か失敗(へま) [北村虎王]
六枚目(西) 問題が 違(ち)ごっ狼狽(ばたぐ)ろ 一夜漬け [上山天洲]
七枚目(東) 問題は 負けたこっよか 選手起用(きよ) [二見愚楽満]
七枚目(西) 仕付けずい 学校(がっこ)い頼(たの)ん 問題児 [上薗佳笑]
八枚目(東) 披露宴 問題(もんだ)や嫁ん 十月腹(とつっばら) [西 幸子]
八枚目(西) 惚け防止 クイズ問題(もんだ)い 爺(じ)は励(はま)っ [市来流星]
親方吟(東) 問題(もんだ)や無(ね) 言(ちゅ)たて原発(げんぱ)ちゃ 崩壊(うっくや)っ [樋口一風]
親方吟(西) 同窓会(どうそかい) 健康(けんこ)問題(もんだ)い 花が咲(せ)っ [西ノ園ひらり]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「ほとくい」より抜粋)

石野博海 気の無(ね)見合(み)へ 手でも隠(かく)さじ 大(ふ)て欠伸(あくっ)
寝言(ねごっ)でん 虫(む)しゃ治(おさ)まらん 女性(おなご)ん名
荷いなっち 言(ゆ)かたで 詰(つ)むい 里土産
市来 登 出(で)しゃばいが 金(ぜん)出しなれば 隅(す)み曲(ま)がっ
新(に)か畳(たたん) 寝たい転(こ)ろだい 嗅(かず)んみっ
釣(つ)い外(は)じた 魚(いお)あ尺(しゃ)きなっ 二尺(にしゃ)きなっ
市来頬朗 鈍(ぬ)り女房(かか)を 姑御(しゅとじょ)ん下知(げっ)が 追(う)てまわっ
久振(さしかぶ)い 棘(そげ)抜(ぬ)き女房(かか)ん手を握(にぎ)っ
嘘もあろ 日長(ひな)げ湯治場(とっば)ん 郷里(さと)自慢(おぎら)
井上郷楽 電話口(でんわぐ)ち ハイハイハイち 飛(つ)で行(い)たっ
送(おく)ろかい 言(ちゅ)たや暗(くら)かで 良(よ)かち言(ゆ)っ
トラクタが 渦巻(ぎぎいも)をすい 一升(いっしゅ)播(まっ)
伊福福禄寿 石段ぬ 肥満(だんべ)は大息(ういっ) 立(た)っ止(ど)まっ
無口者(うんだまい) そいでん沢山(ずばっ) 子は作(つく)っ
口(くっ)まかせ 言(ゆ)た夫婦(みと)喧嘩 後悔(くけ)をしっ

第112回南日本薩摩狂句大会 兼題「野菜(やせ)」 諸木小春選

特選 冷蔵庫 奥(お)きなミイラん 野菜(やせ)が寝(ね)っ [有馬二天]
秀一 野菜(やせ)作(つく)い 買(こ)た方(ほ)が安(や)しち 女房(かか)ん愚痴(ぐぜ) [満吉満秀]
秀二 野菜(やせ)嫌(ぎ)れが ごろいと背負(かる)た 習慣病(しゅうかんびょ) [山元自在鉤]
秀三 母(かあ)ちゃんが 虫共(と)め野菜(やせ)を 送(おく)っ来(き)っ [石野蟹篭]
秀四 藪(やぼ)ん中(な)け 窒息(ちっそ)くすそな 無精(ふゆ)が野菜(やせ) [堂園三洋]
秀五 母親(かか)ん愛情(じょ)と 一緒(いっど)き連立(ての)っ 野菜(やせ)が届(き)っ [池田鉄亀]
軸吟 ベランダで 理科ん勉強(べんきょ)ち 野菜(やせ)作(つく)い

第112回南日本薩摩狂句大会 兼題「迷(ま)よ」 吉岡道場選

特選 年金が ぐらぐら揺(ゆ)れっ 迷(ま)よ老後 [津留見一徹]
秀一 家(え)探(さが)しで 精霊(しょろ)が迷(まよ)ちょい 震災地 [新地十意]
秀二 手術(き)れち言(ゆ)が 如何(いけん)すかいち 今日(きゅ)も迷(まよ)っ [弓場正巳]
秀三 引金(ひっがね)ん 指(ゆ)ぶ迷(まよ)わせた 親子鹿 [米元年輪]
秀四 道(み)ち迷(まよ)た 言(ちゅ)っ浄土かあ 爺(じ)が生還(もど)っ [上薗佳笑]
秀五 山遭難(やまそなん) 迷(まよ)っ動(いご)かじ 朝を待(ま)っ [弓場正巳]
軸吟 精霊(しょろ)どんが 迷(まよ)っ出(で)ろそな 後妻(あと)が来(き)っ

第112回南日本薩摩狂句大会 兼題「歯止(はど)め」 樋口一風選

特選 また再発(でよ)た 浮気ん歯止(はど)め 付(ち)て歩(さ)れっ [福原福多]
秀一 過疎ん里(さ)て 歯止めを掛けた 呱々(ここ)ん声 [藤崎秋太]
秀二 二次会の 歯止めをかけた 心細(きぼ)せ財布(ふぞ) [入来創雲]
秀三 今日(きゅ)も亭主(とと)は 呆(ぼ)けん歯止めち 郷句(く)い励(はま)っ [大西学老]
秀四 夫婦(みと)喧嘩 子供(こど)ま歯止めち カメれ撮(と)っ [大西学老]
秀五 放蕩(なぐれ)子い 老母(はほ)ん涙(なんだ)が歯止(はど)めなっ [花園ちづ]
軸吟 老(お)いらっが 歯止めん利(き)かん 恋(こ)ゆばしっ

第112回南日本薩摩狂句大会 兼題「楽(たの)し」 永徳天真選

特選 先(さっ)が無(ね)で 楽(たの)し事(こっ)かい 日取(ひど)ゆしっ [今井夢紫]
秀一 わが一世(ひとよ) 楽しかったち 婆(ば)の遺言(ゆおっ) [川上洋姫]
秀二 育(おや)し終(と)っ こいかあ楽(たの)し 夢を追(う)っ [吉岡道場]
秀三 楽(たの)しかろ 四十歳(よんじゅ)も若(わっ)か 新妻(つ)め恵(のさ)っ [有川南北]
秀四 楽(たの)しとも 一時(いっとっ)じゃった 結婚(といえ)当初(はな) [樋口一風]
秀五 他人(ひと)ん事(こ)ちゃ 良(よ)かれ悪(わ)いかれ 楽(たの)しゅ聞(き)っ [入来院彦六]
軸吟 すい苦労(くろ)も 好(す)っじゃっでくさ 楽(たの)し農業(さっ)

第112回南日本薩摩狂句大会 兼題「大世間(うぜけん)」 堂園三洋選

特選 婆(ば)ん電話 大世間(うぜけん)話(ばな)し 電池切れ [伊地知 孝]
秀一 大世間(うぜけん)の 欲(よっ)が平和を 打(う)っ壊(く)えっ [市来流星]
秀二 選挙前 大世間(うぜけん)一杯(いっぺ) 親戚(やう)ちしっ [池田鉄亀]
秀三 大世間(うぜけん)の 風評(ふうひょ)い牛(べぶ)も 米も泣(ね)っ [福原福多]
秀四 大世間(うぜけん)ぬ やらせで小馬鹿(こば)け したメール [上籠若菜]
秀五 黒ヂョカで 大世間(うぜけん)一杯(いっぺ) 失敗(どじ)な笑(わ)れ [諸木小春]
軸吟 大世間(うぜけん)に 嘘をばらまっ 選挙カー

その他の秀句 (順不同)

長(な)げ挨拶(えさ)ち 持ったコップを また下(お)れっ [楠八重渓流]
招待(しょい)じゃれば 水臭(みっく)せ焼酎(しょつ)も 我慢(きば)っ飲(の)ん [吉岡道場]
退職(やめ)たなあ 婆(ばば)ん手伝(こど)いで 楽(だ)き暮(く)れっ [福原福多]
亭主(てし)の料理(じゅい) 高価(た)こ付(ち)た程(ひこ)ん 味(あっ)がしっ [前村泰山]
茶節飯(ちゃぶしめ)す 啜(すす)っ師走(しわい)の 繰(く)い走(はし)っ [津留見一徹]
効(き)っ薬(くす)や 優(やさ)す握った ナースん手 [平松鉄夫]
五万石(ごまんご)く 吉良が向面(むけづ)れ 投げつけっ[松元景品券]
あのあのち 貴方(あなた)ち言難(ゆに)き 結婚(といえ)当初(はな) [上薗佳笑]
どう見(み)てん 可愛(む)ぜ児(こ)ち言難(ゆに)き 産(さん)の見舞(みめ) [工藤天然]
面接(めんせっ)の そん場じゃ言難(ゆに)き 不採用 [桑元行水]
異議有りち 隅(すん)くじらかい 横(よん)ごん議(ぎ) [堂園三洋]
出世街道(けど) 呆(ぼ)え亭主(て)しゃ途中(つと)で 息(せ)が切(き)れっ [中囿和風]
呆(ぼ)え料理(じゅい)も 立派(じっぱ)出来(でけ)たち 結婚(といえ)当初(はな) [山元自在鉤]
古(ふ)り靴(くっ)が 一層(いっだん)目立(めだ)っ 新(に)か背広 [工藤天然]
洗濯機 日和(ひよい)が良(ゆ)して 忙(せわ)しゅなっ [永吉正子]
野菜(やせ)ん具で 御箸(てもと)が立った 味噌汁(みそおっけ) [池田芳宏]
迷(まよ)たどん 容姿(よし)じゃ食(く)えんち 禿を選(え)っ [入来院彦六]
少子化い 歯止めち女房(かか)が また頑張(きば)っ [上薗佳笑]
二次会の 歯止め寂(さび)しち 亭主(て)しメール [上籠若菜]
楽(たの)し娑婆 じゃったち爺様(じさま) 目を落(お)てっ [上薗佳笑]
国(くん)よっか 先(さ)き大世間(うぜけん)が 支援の輪 [福冨野人]