おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第684号

雑吟     永徳天真選

一番槍 破産(やいほげ)っ 化(ば)けっ出(で)ろそな 容姿(よ)しけなっ [福冨野人]
二番槍 昆布巻(こんぶま)く 作(つく)っあっでち 女房(かか)あ旅(たっ) [埀野剣付鶏]
三番槍 川内(せんで)から どしこあっかち 円ぬ描(け)っ [有馬純秋]
四番槍 思(おも)た通(と)い 括(くび)れっ嬉(うれ)し 海開(うんびら)っ [津留見一徹]
五番槍 下知(げ)つすれば 部下じゃ無(な)かどち 厳(いみ)し妻(かか) [満吉満秀]
六番槍 色もあっ 味(あっ)も出た声 二葉節(ふたばぶし) [西 幸子]
七番槍 あん時(とっ)の 短気が祟(たた)っ 今も平(ひら) [福原福多]

渋柿集

中村雲海 心がけ 思い遣(や)いしっ 早(は)え出世
被災地を 思えば易(やさ)し エコ暮らし
飲(の)ん方(かた)が 多(う)けで 団結力(だんけっりょっ)があっ
あん短気 年(と)す取(と)っ地域(ちい)く 盛(も)い上(あ)げっ
出しゃばいの 物言(ものご)ちゃ全部(ずるっ) 仕入物(しいれもん)
有川南北 無我ん境(さけ) 眠気を禅の 棒(ぼ)が撓(しな)っ
復興費 子供(こどん)手当を 先(さ)き弄(いじ)っ
朝帰(あさもど)い 腋(わっ)の下ずい 嗅(かず)ん女房(かか)
不精(ふゆ)な女房(か)け 薬缶なピーピ 高(たか)おらっ
梅ちぎい 揺れば灰(へ)どが 頭(びん)て舞(も)っ
弓場正己 目薬(めぐす)ゆば 差(さ)そち孫どま 口(く)つ開(あ)けっ
何処をどう 飛(つ)で回(まわ)っとか 放射線
定年な 危(あっ)なか離婚 適齢期
今日(きゅ)も何(ない)も 仕事(しご)ちゃせんどん 腹は減(へ)っ
お開きち 言(ゆ)てから焼酎(しょちゅ)ん 残(のこ)ゆ飲(ぬ)っ
堂園三洋 白髪(したが)をば 染めたが女(おな)げ きし持(も)てじ
堅(か)て老爺(おんじょ) テレビは年中(ねんじゅ) NHK(エヌエチケ)
英語ずい 入込(へく)っずし重(お)び ランドセル
見え見えん お世辞じゃっどん 嬉(うれ)しゅなっ
美男子(よかにせ)ち 思(おも)たか美人(シャン)が 俺(お)いニコッ
永徳天真 立話(たっばな)しょ 夕立(さだっ)がつうつ 帰(もど)らせっ
本人が 来たで悪口(あっご)は すたっ止(や)ん
酔(よ)くれぼい 吸い付(ち)た蚊どま くりったん
ま少(ちっ)とち 言(ゆ)っ乗(の)っちゃ来(こ)ん 見合(みえ)写真
若(わ)け後妻(あと)を 貰(も)ろたや馬力(ばり)く 取(と)い戻(も)でっ
樋口一風 差支(つけ)は無(ね)ち 言(ゆ)ても川内(せんで)あ 心配(せわ)を焼(え)っ
埒(だ)ちゃあかじ 帰(もど)や自棄酒 振られ青年(にせ)
もう駄目(ぼっ)ち 言(ゆ)どんコップあ 空(か)れなけっ
吝嗇家(かんちん)も 今度ん地震(なえ)にゃ 義援金
被災地を 思えち焼酎(しょちゅ)を 減(へ)らされっ

山椒集 題「難儀(なんぎ)」     有川南北選

難儀しっ 育(お)えた子供(こどん)に 盥回(たれまわ)し [入来創雲]
日本中(にほんじゅ)が 難儀を背負(かる)た 凄(わ)ぜ災禍 [江口紫朗]
有難(あいがと)で 看病(かびょ)ん難儀も どっか飛(つ)っ [吉岡道場]
五客一席 くずれ亭主(て)し 買(こ)てずいすごちゃ 無(な)か難儀 [福冨野人]
五客二席 定年(てねん)亭主(て)し 面倒(めんで)か三度 料理(じゅ)い難儀 [植村昭子]
五客三席 難儀しっ 納めた税(ぜ)ゆば 雑(ざ)ち使(つ)こっ [市来流星]
五客四席 難儀どま すごちゃ無(な)か言(ちゅ)て まだ一人(ひとい) [弓場正巳]
五客五席 見(み)いな良(え)が 作(つく)や難儀な 棚田農業(ざっ) [中囿和風]
選者吟 難儀した 今は昔の 壕(ごう)ん跡(あと) [有川南北]

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

被災者(ひさい)しぇち 幼児(ちび)せか割った 貯金箱 [諸木小春]
レアアース 錦江湾の 沖(お)き輝(ひか)っ [弓場正巳]
原発(げんぱっ)が ガラス細工ち 知った事故 [津留見一徹]
四天王一席 早(は)よ逃げち 命(いの)つば懸(か)けっ 叫(おろ)だ娘(おご) [澤津乙名]
四天王二席 間引きおっ 風邪をひこそな 相撲部屋 [福原福多]
四天王三席 アナログい 日日(ひにっ)が無(ね)どち 急(せ)っ立(た)てっ [前村泰山]
四天王四席 鹿屋かあ 手が届(とど)こそな 甲子園 [吉岡道場]
選者吟 川内(せんで)かい 家(う)ちゃ何(なん)キロち 心配(せわ)をえっ [堂園三洋]

郷句相撲 題「天気(てんき)」

横綱(東) 今日(きゅ)は二合(にご)ち 女房(かか)ん天気が 決(き)むい焼酎(しょちゅ) [石塚律子]
横綱(西) 良(よ)か娘(おご)が 言(ゆ)えば晴(は)るそな 天気予報(よほ) [弓場正巳]
大関(東) 晩な慈雨(うれ) 昼(ひ)や農作(さっ)日和(びよい) 婆(ばば)ん願(ね)げ [西 幸子]
大関(西) お天気屋 今日(きゅ)は良(よ)か顔(つら)で 良(よ)か挨拶(えさっ) [今井夢紫]
関脇(東) 虫干しち 干(ほ)しよな着物(いしょ)が 見当(みあ)たらじ [石塚律子]
関脇(西) 仕出し屋を 度度(はいと)天気が 振(ふ)い回(ま)えっ [福冨野人]
小結(東) 天気屋ん 機嫌取(と)い方(か)て 疲(だ)れ倒(と)けっ [満留ぐみ]
小結(西) 雨ん日あ 多(う)け客(きゃ)き嬉(うれ)し パチンコ屋 [米元年輪]
筆頭(東) 風向(かざむっ)で 天気が解(わか)い 病気(やんめ)女房(かか) [樋之口墨矢]
筆頭(西) 社長(しゃちょ)ん機嫌(ごっ) 秘書あ天気で 教(いっか)せっ [江口紫朗]
二枚目(東) よか天気 婆(ばば)はパーマ屋 爺(じ)は昼寝(ひいね) [有馬純秋]
二枚目(西) 天気予報(よほ) 雨が気いない 娘(こ)ん門出 [福原福多]
三枚目(東) 良(よ)か天気 満艦飾(まんかんしょっ)の 物干し場 [樋渡草団子]
三枚目(西) 予報士を 美人(シャン)に代(か)えたや 苦情(ぐぜ)が減(へ)っ [上薗佳笑]
四枚目(東) 折角(せっかっ)の 行楽(でば)いうらめし 傘マーク [澤津乙名]
四枚目(西) 天気よか 桜島(しま)ん灰(へ)を見(み)い 布団干し [折田さくら]
五枚目(東) 良(よ)か天気 球(たま)も調子(ちょ)し乗(の)っ またOB(オービ) [二見愚楽満]
五枚目(西) 外れ予報(よほ) 帰(もど)や傘どま け忘(わす)れっ [花園ちづ]
六枚目(東) 被災地ん 天気を気遣(きづ)こ テレビ前 [諸木小春]
六枚目(西) B型で 凄(わ)ぜ能天気 家(やど)ん妻(かか) [楠八重渓流]
七枚目(東) 久振(さしかぶ)い 雲雀(ひばい)が揚(あ)がい 良(よ)か天気 [入来創雲]
七枚目(西) 天気どま ピシャッち当(あ)つい 神経痛(ほねやんめ) [津留見一徹]
八枚目(東) 五月晴(さつっば)れ 年金鯉(ねんきんごい)が 空(そ)れ泳(およ)っ [植村昭子]
八枚目(西) 恥(は)ず晒(さ)れた 天気屋市長(しちょ)も 落選(ひっちゃ)れっ [市来流星]
親方吟(東) 雨いなっ 娘(おご)と嬉(うれ)しか 相合傘(あいえがさ) [樋口一風]
親方吟(西) 一杯(いっぺ)やろ 天気も悪(わ)いし 友人(ど)し電話 [西ノ園ひらり]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「くろぢょか」より抜粋)

山内成泰 小組合長(こぐんちょ)も 出来(でけ)んて町議(ちょうぎ) 出馬(で)ろち言(ゆ)っ
焼酎(しょちゅ)煙草 やめ言(ちゅ)がわがは 着物(いしょ)作(つく)い
巻上(まっきゃ)ぐい 計算(さんにょ)そろいと 触(かか)らせっ
山内ミキ 貰(も)ろた苗 出来(でけ)た茄子(なすっ)で お礼(れ)をしっ
真綿(ねばし)張(は)い まこて邪魔(ま)ぜない 皸手(あっがれて)
俄雨(にわかあ)め 萎(しなび)れ苗が 蘇生(いっきゃ)がっ
山路市子 体育の 後(あと)はびっ酸(す)い 教室(せっ)の臭(かざ)
里ん味(あ)じゅ 宅急(たっきゅ)ん便(びん)で 送(おく)っやっ
亭主(と)て隠(か)きっ 紬(つむ)ぐ買(こ)たなあ 着(き)やならじ
山下書方 土人形(つっにんぎょ) 雛壇の横(よ)け 座を貰(も)ろっ
はしい枇杷 桜島(しま)ん純情(じゅんじょ)を 包(つつ)ん込(く)っ
田の神(かん)に 御礼(ごれ)を言(ゆ)っかあ 庭上(にわあ)がい

第111回南日本薩摩狂句大会 兼題「料理(じゅい)」 石塚律子選

特選 愛ちゆう スパイスなんだ 切れた料理(じゅい) [上籠若菜]
秀一 女房(かか)ん料理(じゅ)い 慣れた舌でん 偶(たま)にゃ愚痴(ぐぜ) [池畑鉄亀]
秀二 寮暮らし 何(ない)よっか欲(ほ)し 母親(かか)ん料理(じゅい) [弓場正巳]
秀三 鰥夫(やもめ)爺(じ)あ 一昨日(おとて)ん料理(じゅ)よば 嗅(かず)で食(く)っ [上池酔人]
秀四 手の込んだ 料理(じゅい)つは未(いま)だ 食(か)せん女房かか [有川南北]
秀五 奥様(こじゅ)ん料理(じゅ)ゆ 褒(ほ)めたや隣(つっ)で 食(たも)れ言(ちゅ)っ [入来創雲]
軸吟 兵糧攻(ひょうろぜ)め 覚悟(かっご)で女房(おか)て 料理(じゅい)の小言(ぐぜ) [石塚律子]

第111回南日本薩摩狂句大会 兼題「掃除(そっ)」 楠八重渓流選

特選 風呂ん掃除(そ)ず したや駄賃な 老妻(ばば)んキス [工藤天然]
秀一 手荒(てあ)れ掃除(そっ) 塵(ごん)な亭主(とと)とめ 掃(はわ)っ出(で)っ [有馬青嵐]
秀二 便所(まなか)掃除(そっ) 此(こ)ん顔(つら)で良(え)ち 逃(に)げっ行(じ)っ [平松鉄夫]
秀三 掃除(そ)ずしたや 私宅(やど)ん車(くいま)ん 色あ白 [石塚律子]
秀四 箒(ほ)き雑巾(ざふ)く 結(きび)っ掃除(そっ)じゃち 不精(ふゆ)な奴(わろ) [原田菊男]
秀五 終(しめ)い入(へ)っ 裸ん儘(ない)で 風呂ん掃除(そっ) [入来創雲]
軸吟 掃除(そ)ず終えた 机を撫(な)でっ 辞令(じれ)ゆ待(ま)っ [楠八重渓流]

第111回南日本薩摩狂句大会 兼題「惚(とぼ)け」 樋口一風選

特選 顔(つら)ん傷(き)じゃ 猫ち惚(とぼ)けた 夫婦(みと)喧嘩(げんか) [津留見一徹]
秀一 惚(とぼ)けたや 孫(ちび)が真顔で 心配(せわ)を焼(え)っ [木佐貫白猫]
秀二 オレオレを 惚(とぼ)けた相槌(えは)が 揶揄(ちょく)らけっ [有馬青嵐]
秀三 寝惚(ねとぼ)けっ 夜中(よな)け爺様(じさま)あ 鉦(じん)叩(たた)っ [福冨野人]
秀四 夢ん中 寝惚(ねとぼ)け孫が 九九を言(ゆ)っ [新地十意]
秀五 にくゎさっち 笑(わ)るた惚(とぼ)けを 叱(が)やならじ [稲田切株]
軸吟 惚(とぼ)けてん 全部(ずるっ)見破(みやぶ)っ 妻(かか)ん勘 [樋口一風]

第111回南日本薩摩狂句大会 兼題「道(みっ)」 永徳天真選

特選 親不孝(おやふこ)を した奴(と)が人ん 道(み)つ吐(か)えっ [津留見一徹]
秀一 凄(わ)ぜ津波(つなん) 道(みっ)の真ん中(な)け 船が寝(ね)っ [有川南北]
秀二 道(み)つ聞けば 連(つ)れっ行(い)っがち 温和(な)ち田舎 [伊地知 孝]
秀三 散歩道(さんぽみっ) 女子寮(じょしりょ)ん前を 二度通(とお)っ [工藤天然]
秀四 人ん道(み)つ 踏(ふ)ん外(は)じた子と 償(つぐ)の罪(つん) [上籠若菜]
秀五 老夫婦(おんじょみと) 眺めん良(え)道(み)つ 緩(ゆ)る回(まわ)っ [前田一天]
軸吟 険(けわ)しどん 復興(ふっこ)ん道(み)つば 切(き)い開(ひ)れっ [永徳天真]

その他の秀句 (順不同)

返信の メールい婆(ばば)は 小半時(こはんとっ) [諸木小春]
玉(たま)ん輿(こ)し 後(あと)ん交際(つっけ)が 堪(の)さん親 [澤津乙名]
どげん楽(らっ) 亭主(て)しもフードを 食(か)すごちゃっ [石塚律子]
孫が見(み)っ 鬘(かつら)かち聞(き)た 古(ふ)り写真 [上山天洲]
付(つ)けんきっ 店で最終(しまい)の 梯子酒 [山元自在鉤]
加勢(かせ)ん衆(し)は 畦で茶飲(ちゃの)んの 機械植え [佐伯山神]
朝帰(あさもど)い おやっとさあち 凄(わ)ぜ皮肉(ひにっ) [原田菊男]
最初(いっき)かい 泣(な)こそな声ん 町議選 [二見愚楽満]
良(よ)か人ち 言(ゆ)われ続(つづ)けっ 出世せじ [日隈英坊]
難儀して 大学(だいが)く出(で)たて ニーてなっ [福山吉連]
携帯(ケータイ)も 器用(じく)い使(つ)こちょい モダン婆(ばば) [二見愚楽満]
初月給(はつげっきゅ) 孫が呉(く)れたて 使(つ)こきらじ [松元清流]
不景気い 無職(むしょ)く増(ふ)やけた 大(ふ)とか地震(なえ) [橋口笑二]
猫奴(わろ)が 俺(おい)が肴(しおけ)を 見て笑(わ)るっ [福山吉連]
実印も 出番に嬉(うれ)し 遺産分け [米元年輪]
結婚(といえ)当初(はな) 本の目次ん 順の料理(じゅい) [前田一天]
引張(そび)かれっ 折檻(せっかん)言(ちゅ)よな 耳(みん)の掃除(そっ) [福冨野人]
耳(みん)の掃除(そ)ず 頼(たの)だや投げた マッチん棒(み) [郷田悠々]
其処言(ちゅ)たが 何(ない)が其処じゃろ 田舎道(みっ) [上山天洲]
補聴器を 外(は)じっ家内(おかた)ん 愚痴(ぐつ)は聞(き)っ [日隈英坊]