おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第682号

雑吟     永徳天真選

一番槍 議員席(ぎいんせ)き 眠(ねぶ)いかぶった 税盗人(ぜいぬすと) [有馬純秋]
二番槍 入院で 元気まかせん 後悔(くけ)をしっ [谷村まさゑ]
三番槍 目覚(めざま)しゅば 黙(だま)らせてかい 一眠(ひとねぶ)い [澤津乙名]
四番槍 飯(め)す食(く)えば 薬(くす)ゆ飲(ぬ)だかち 婆(ば)が叫(お)れっ [伊地知 孝]
五番槍 三世紀 便秘じゃったか 厳(きび)し山 [佐澤汽車道]
六番槍 可愛(む)じ顔(つら)が 権高(けんだ)こなった 厚化粧(あっげしょう) [諸木小春]
七番槍 パソコンぬ 相手(えて)い顔(つら)どま 見(み)らん医者 [西ノ園ひらり]

渋柿集

中村雲海 うなこらち 言(ゆ)おごあっどん 隠す爪
笑(わ)れ顔(づら)で 心を掴(つか)ん 纏め役(やっ)
税金ぬ 納(おさ)めっみろご ちゃい貧乏(びんぶ)
外交が 誠(まこ)てお粗末(そまっ) 減(へ)い国土(こっど)
独裁(どくさ)ゆば 民主化(みんしゅ)けなそち 凄(わ)ぜパワー
有川南北 菅さんも 長(な)げ事(こ)ちゃあいめ 時事漫画
シャボン玉(だ)め 似たごっ消(き)ゆい マニフェスト
地震慣れ 震度1(いっ)どま 気(き)い付(つ)かじ
痛(い)てち医者(い)しぇ 行(い)たや老化ち 軽(か)り診断(みたて)
八十二歳(はちじゅに)で 我(わ)が歯は全部(ずるっ) 無(ね)ごっなっ
弓場正己 尖閣(せんか)くば け忘(わす)れさせた パンダ騒動(そど)
大部屋い 同病が集(よ)っ 医者吟味
店長の お薦めち書(け)た 売れ残(のこ)い
目薬(めぐす)ゆば 点(さ)すち孫どま 口(く)つ開(あ)けっ
陸(おか)と空(そら) 連休(れんきゅ)ん客(きゃ)くば 奪(ばこ)っ取(と)い
堂園三洋 飼易(けや)し亭主(とと) 期限切れでん 美味(うん)も食(く)っ
あと幾(いく)っ 寝ればち算用(つも)い 年金日
医者様(いしゃさあ)は 広告紙(チラシ)も出(だ)さじ 凄(わざ)え客(きゃっ)
満員車 直(いっ)き目の前(ま)へ 美人(シャン)の唇(すば)
なま好かん 課長(かちょ)ん見舞(みめ)いな 安(や)しバナナ
永徳天真 犬(いん)と猫 どっちもどっち まめらせじ
いしたよう 風呂ん天井(てんじょ)ん 露(ち)が掛(か)かっ
鼻ん穴(す)が 行違(いっす)い美人(シャン)の 香(か)ぜ開(ひ)れっ
見ちゃおれん いっちゃいっちゃん 若(わ)け二人(ふたい)
良(よ)か所(とこ)や 沢山(ずばっ)あっとに 目立(めだ)っ欠点(あら)
樋口一風 両方(まんぼ)とめ 正論じゃっで 止(と)め難(にく)し
厄介(やっけ)じゃっ 仕事(しごっ)もせんて 腹あ減(へ)っ
口(くっ)も立(た)っ 頭脳(びんた)も切(き)れっ 可愛(む)ぜ無ね美女(シャン)
赤(あか)か爪 洗(あ)れやっめをば 亭主(て)し仕込(しこ)ん
平(ひら)ん奴(と)が 社長(しゃちょ)ん十八番(おはこ)を 先(さ)き歌(う)とっ

山椒集 題「素抜(すに)っ」     有川南北選

素抜(すに)たなあ 紐が付(ち)ちょった 婆(ばば)ん財布(ふぞ) [伊地知 孝]
降灰(へ)が埋(い)けた 野菜(やせ)を涙(なんだ)で 爺(じ)は素抜(すに)っ [桑元行水]
苗物(なえもん)ぬ 植(う)ゆれば素抜(すに)っ 非道(ひ)で烏(からし) [米元年輪]
五客一席 鼻毛どん 素抜(すに)っ遊(あ)すじょい 呆(ぼ)え会議 [吉岡道場]
五客二席 里帰(さともど)い 何(ない)じゃかいじゃち 素抜(すに)っ来(き)っ [弓場正巳]
五客三席 後追(あとえ)孫 素抜(すに)こちすれば 先(さ)き走(はし)っ [西迫順風]
五客四席 名アナん 受けが民放(みんぽ)い 素抜(すに)かれっ [諸木小春]
五客五席 酔(よ)くれ亭主(てし) 素抜(すに)かれたとも 気付(きづ)かんじ [吉丸セツ子]
選者吟 大学(だいが)くば 手玉(てだ)めけ素抜(すに)だ カンニング [有川南北]

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

震度7(なな) 語学(ごがっ)研修(けんしゅ)を 地獄(じご)きしっ [楠八重渓流]
太(ふ)て指(ゆっ)で 明日(あした)負けてち メールしっ [桑元行水]
民主化ん 火の粉が諸国(しょこ)き 火をつけっ [澤津乙名]
四天王一席 桜島(さくらじ)め 負(ま)けじ新燃岳(しんもえ) 自己主張 [山元自在鉤]
四天王二席 パンダ騒動(そど) 大変(わ)ぜ血税(けつぜ)ゆば うっ食(く)ろっ [弓場正巳]
四天王三席 シンボルち また戻(もど)っきた 鶴マーク [石塚律子]
四天王四席 菅総理 八百長(やおちょ)をすれば 良(よ)かろそな [二見愚楽満]
選者吟 今度(こん)だ長(な)ご 続け根占(ねしめ)ん 海(うん)の道(みっ) [堂園三洋]

郷句相撲 題「沈(しず)ん」

横綱(東) 想い出も 村と同時(いっど)き 沈(しず)んダム [澤津乙名]
横綱(西) 泳(およ)っ練習(けこ) メタボん女房(かか)が 尻(し)や沈(しず)ん [吉岡道場]
大関(東) 元気言(ちゅ)が 沈んだ声が 気いかかっ [満留ぐみ]
大関(西) 寝込(ねく)だ女房(か)け 亭主(とと)ずい沈(しず)ん 闇(やん)の所帯(しょて) [折田さくら]
関脇(東) 葬祭場(そうさいじょ) 沈んだ音で 盛(も)い上(あ)げっ [諸木小春]
関脇(西) 交互(かたいご)ち 漕(こ)がんな沈(しず)ん 介護舟 [津留見一徹]
小結(東) 牛(べぶ)鶏(とい)に 続(つじ)っ噴火じゃ 気も沈(しず)ん [日隈英坊]
小結(西) どん底い 沈(しず)ん目覚めた 性根(いっだまし) [上薗佳笑]
筆頭(東) 根(ね)ん深(ふか)せ 理事長(りじちょ)ん顔(つら)あ 沈(しず)ん込(く)っ [石塚律子]
筆頭(西) 慣(な)れん着物(いしょ) 肥満(だんべ)あ首(くっ)が 衿(え)い沈(しず)ん [今井夢紫]
二枚目(東) 自民党 沈(しず)ん民主党(みんしゅ)ん 足(あ)す狙(ね)ろっ [伊地知 孝]
二枚目(西) うらぶれっ 沈(しず)ん夕日に 目い涙(なんだ) [西迫順風]
三枚目(東) 轟沈で 湧いた戦争(いっさ)い 騙(だま)されっ [新地十意]
三枚目(西) ダムん底(そ)け 沈んだ郷中(ごじゅ)が 懐(なつ)かしゅし [米元年輪]
四枚目(東) 検診の 結果待(ま)っ間(はざ) 沈(しず)ん俺(おい) [佐伯山神]
四枚目(西) 太陽(ひ)が沈(しず)ん 目が冴(さ)えっきた 飲(の)ん平(べ)亭主(てし) [福冨野人]
五枚目(東) ボロ船は 漁礁(ぎょしょ)い沈めち 薄情(つれ)ね指示 [山元自在鉤]
五枚目(西) チョコが来(こ)じ 沈(しず)ん長男(すよ)をば 慰(なぐさ)めっ [江口紫朗]
六枚目(東) 飲(の)ん平(べ)亭主(てし) 沈(しず)ん夕日い 喉が鳴(な)っ [北村虎王]
六枚目(西) 法螺(ぎら)は言(ゆ)が コップ一杯(いっぺ)で 沈没(しず)ん奴(わろ) [上山天洲]
七枚目(東) 発表日 沈んだ顔(つら)が にこっなっ [樋之口墨矢]
七枚目(西) 日(ひ)が沈(しず)ん 晩酌(だいや)め向(む)こて 野良(はい)帰(もど)い [市来流星]
八枚目(東) 陽(ひ)が沈(しず)ん 頃(こ)れな乳飲(ちの)ん子(ご) 小言(ぐぜ)でけっ [盛満椒平]
八枚目(西) 鰥(やもめ)料理(じゅい) 味噌ん塊(ごろた)が 底(そ)け沈(しず)ん [入来義徳]
親方吟(東) 良(よ)か縁談(はな)し 沈んだ家族(けね)い 花が咲(せ)っ [西ノ園ひらり]
親方吟(西) 島ん娘(おご) 沈(しず)ん夕日い 彼(ぬ)す想(おも)っ [樋口一風]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「くろぢょか」より抜粋)

日高九百坪 引越しの 加勢人(かせ)で人気が 大概(てげ)わかっ
参観日 とぼけちょい子を 目で叱(く)るっ
糸瓜(いとうい)が ごろ寝をしちょい トタン屋根
日高山伏 悪(わ)り癖で 飲(の)ん方(か)てなれば 焦掻(こげこさ)っ
こいも義理(ぎい) 言(ちゅ)かたで飲(の)んけ 飛(つ)で行(い)たっ
朝帰(あさもど)い 大概(てげ)な言訳(ゆわけ)じゃ 済(す)まされじ
平 たき 新採用(しんさいよ) ネクタイ結(むす)び 父親(ちゃん)も加勢(かせ)
歯の疼(うず)き 事(こと)ん無(ね)女房(かか)を 叱(く)るたくっ
無縁墓(むえんば)け 一本呉(く)れた 彼岸花
平中小紅 若(わ)け娘(おご)と 課長(かちょ)を張(は)い合(よ)た パート女房(かか)
浮気(うわっ)どま 胸ん奥(おっく)で 常時(ねんず)しっ
倦怠期 振った醜青年(ぶにせ)が 恋(こい)しゅなっ
平水  水桶(みったんご) 担(かた)げ過(す)ぎじゃろ 背が伸(の)ばじ
花時計 蝶々(ちゅちゅ)も十時ん 針(は)り休憩(よく)っ
遠(と)おなった 耳(みん)にせからしゅ 物を言(ゆ)っ

第77回鹿屋大会 席題「選挙(せんきょ)」     諸木小春選

大法螺(おぎら)をば べらっ並べた 選挙戦 [澤津乙名]
こん大地震(うな)へ 話題(わだ)やふっ飛(つ)だ 都知事選 [石塚律子]
笑(わ)る稽古(けこ)も 選挙区向(む)けん 顔(つ)れ変(か)えっ [吉岡道場]
一票(いっぴゅ)差い 選挙ダルマが 夜泣(よな)くしっ [樋口一風]
選挙カー 田の神(かん)ずいも 挨拶(えさ)つしっ [鯉太郎]
後出しで 又(また)出馬(で)ろ言出(ちゅで)た 都知事選 [弓場正巳]
選者吟 学級委員(がっきゅいん) 選挙い落(お)てっ 泣(な)っでけっ [諸木小春]

第77回鹿屋大会 兼題「灰(へ)」     有川南北選

どしこでん 灰(へ)なあ有(あ)っどち 噴(ふ)っ見(み)せっ [樋口一風]
灰(へ)被(かぶ)いの 洗濯物(あれもん)の見(み)っ ヒスが出(で)っ [前村泰山]
桜島(しま)が有(あ)い限(かぎ)や こん灰(へ)と 永(な)げ付合(つっけ) [中村雲海]
何処(どこ)ん灰(へ)を 使(つ)こたか不安(せわ)な 粽(ま)く貰(も)ろっ [仏心]
昨日(きぬ)洗車 したとに今朝は 降灰(へ)がベラッ [有川南北]
灰(へ)の向(む)くば 見て洗濯物(あれもん)な 庭(に)へ走(はし)っ [吉岡道場]
選者吟 気付(きぢ)た時(と)か 手遅れ諭吉(ゆき)ちゃ 灰(へ)いけなっ [永徳天真]

その他の秀句 (順不同)

連休(れんきゅ)いな 取(と)いかけ目かけ 孫が集(よ)っ [吉岡道場]
爺婆(じば)育(おや) し鹿児島弁(かごっまべん)ぬ 上手(じょ)じ語(かた)っ [市来流星]
女房(かか)よっも 娘(こ)の下知(げ)ち怖(びび)い 横杵(よんご)亭主(てし) [北村虎王]
ナースいも 友達(どし)言葉(こと)べなっ 長(な)げ入院(にゅいん) [江口紫朗]
竹ん子を 奪合(ばこ)た揚句(あげ)きな 境界(さけ)諍(いさ)け [畑山真竹]
パート女房(かか) ビールを威張(いば)っ 飲(の)んでけっ [新地十意]
社長(しゃちょ)どんも 一緒(いっど)き並(な)るだ ハロワーク [中囿和風]
声変(こえが)わい すれば訪(き)もせん 都会(まっ)の孫 [上薗佳笑]
還暦(かんれっ)と 古希を過(す)れたや 直(じ)き米寿 [上瀬明星]
素抜(すに)だ札(さ)つ むいねち亭主(とと)ん 財布(ふ)ぜ戻(も)でっ [満留ぐみ]
素抜(すに)っかあ 一枚(いっめ)は戻(も)でた 気弱(いめ)な亭主(とと) [上薗佳笑]
堰(せ)く切れば 止(と)め繰(く)いも無(な)か 自由(じゆ)ん波(なん) [上薗佳笑]
政治どま 見(み)ろごっも無(ね)ち 切(き)いテレビ [堂園三洋]
稀(まれ)けんな 如何(どげん)かよ言(ちゅ)て 手を探(さぐ)っ [西浦大器]
早苗饗(さのぼい)にゃ 街(ま)ち住(す)ん婿も 人数(に)じ計算(つも)っ [鈴木芳子]
玄関(ふんごん)の 鬼(おん)に土下座ん 午前様(ごぜんさあ) [伊地知 孝]
倹(つま)し女房(かか) 思(と)もたや我(わが)ん 臍(へそ)を繰(く)っ [内野茶柱]
気取(きど)ってん 驚(たまが)った勢(い)き 鹿児島語(かごっまご) [木佐貫白猫]
灰(へ)いなった 爺様(じさ)めな悪(わ)りが 青年(にせ)い恋 [石塚律子]