おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第680号

雑吟     永徳天真選

一番槍 女房(かか)が病(や)ん 一人(ひとい)じゃ焼酎(しょちゅ)も 味(あっ)がせじ [井手上政暎]
二番槍 べっぴんに ならんで良(よ)かち 掃除嫌(ぎ)れ [西 幸子]
三番槍 八十八歳(はちじゅはっ) 今更鯖も 読(よ)まならじ [前田セツ]
四番槍 度胸(どきょ)も無(な)か 策(さっ)も無(ね)首相(しゅしょ)ん 日本国(にほんこっ) [有馬純秋]
五番槍 ボクシング じゃればタオルが 飛(つ)じょい首相(しゅしょ) [米元年輪]
六番槍 日本中(にほんじゅ)ん お客(きゃ)くさくらが 乗(の)せっ来(き)っ [桑元行水]
七番槍 長(な)げ挨拶(えさ)ち握った盃(ちょっ)が ひっ落(ちゃ)えっ [大西学老]

渋柿集

中村雲海 六十年(ろくじゅねん) 皆(みんな)と歩(ある)だ 郷句ん和
趣味言(ちゅ)どん 守らにゃならん 人ん道(みっ)
ほらじゃろが 閻魔ん裁(さば)か 地獄(じごっ)行(い)っ
愛されっ 生かされちょっち 気付(きぢ)た失敗(へま)
最早(もへ)古希か じゃいか此処かあ 本気(ほん)きなっ
有川南北 政界(せいか)ゆば 一兵卒(いっぺいそっ)が 掻(か)っ混(ま)ぜっ
奇妙(そっせ)んね トイれ神様(かんさ)ん 居(お)らい歌
春(は)や隣(とな)い 元気で帰(もど)れ 万羽鶴
胸を視(み)っ 生唾(つば)を飲(の)ん込(く)だ 亭主(て)す抓(つま)ん
今夜何(な)ゆ 食(く)たか家族中(けねじゅ)で 渇(こら)っ喉
弓場正己 合格(うか)ったや 受験の本な 芥(ご)み投(な)げっ
職(しょっ)が無(ね)で 今年(こと)しゃ卒業(そっぎょ)を 見合(みあ)わせっ
リコールで 市長も市議も 無職(むしょ)きなっ
キンキンの 声は女房(かか)じゃろ 女(おなご)銭湯(ぶろ)
健康の 秘訣(ひけ)つ言(ゆ)た奴(と)が 先(さ)き逝(い)たっ
堂園三洋 奥(おっく)かい 0点(だご)が出(で)っ来(き)た ランドセル
総入歯(がんぶい)も 飛(と)っ出(で)っしもた 絶叫大会(おらっぐら)
スマートち 娶(も)ろたが現在(いま)じゃ 肉(にっ)達磨
俺(おれ)ん家(ち)は 飲(の)ん屋が近(ち)けで 一等地
悩(なや)んどま 無(な)かよな顔(つら)を 無理(む)い作(つく)っ
永徳天真 こん地球(ちきゅ)は 揺(ゆ)れっおいがち 千鳥足(ちどいあし)
こりゃ怪(あや)し 寝言(ねご)ちちょいちょい 出(で)い女(おなご)
似(に)た同士(どし)が 居(お)った手酌(てじゃっ)の 縄暖簾
水溜(みったま)ゆ 飛んだが落(ちゃ)えた 短(みし)け脚(あし)
よいなこっ 二浪が合格(とお)っ 家族(け)ねも笑(わ)れ
樋口一風 誰(だい)じゃいけ 見舞(みめ)ん我が子を け忘(わす)れっ
梅ヶ渕(うめがぶ)ち 三年通(かよ)っ やっ合格(うか)っ
横(よん)ご爺(じ)を コピしたよな 子い育(そだ)っ
親父(とと)ん小言(ぐ)ぜ 鋤焼(すっきゃっ)なんだ 味(あっ)も無(の)し
首尾(び)あ取(と)れじ 本職(ほんしょ)き頼(たの)だ 日曜(にちよ)大工(でっ)

山椒集 題「気取(きど)っ」     有川南北選

結納(ゆいの)どが 済んだや早速(いっ)き 夫婦(みと)気取(きど)い [樋口一風]
なま温(ぬ)っけ 気取(きど)っミンクで 汗を掻(け)っ [石塚律子]
ハイヒール 気取(きど)っ歩(あ)ゆだや 転倒(はんと)けっ [郷田悠々]
五客一席 何(な)ゆすいも 小指(こゆ)ぶ立(た)たすい 気取(きど)い奴(ごろ) [おんじょどい]
五客二席 持(も)たんくせ 気取って釣銭(つ)ゆば 不要(い)らん言(つ)っ [楠八重渓流]
五客三席 借(か)い着物(いしょ)で 奥様(こじゅさ)を気取(きど)っ クラス会 [花園ちづ]
五客四席 入社式(にゅうしゃしっ) 気取(きど)っちゃみたが 無視されっ [上池酔人]
五客五席 人前じゃ 気取(きど)っ裏でな 議(ぎ)を吐(か)えっ [山路野菊]
選者吟 節分(せっがわい) 鬼(おん)に気取った パパい豆 [有川南北]

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

綱渡(つなわた)ゆ 袖で揺(ゆ)すぐい 自民党 [伊地知 孝]
日本一(にほんいっ) 韋駄天走(ばし)い 県が沸(うぇ)っ [吉岡道場]
辞(や)むっ言(ちゅ)た 鳩が巣箱で 議(ぎ)を吐(か)えっ [二見愚楽満]
四天王一席 危(あっ)ねはっ 仮免が舵(か)ず 取(と)っ迷走(めいそ) [石塚律子]
四天王二席 病(びょ)を背負(かる)た 鶴い鶏(にわと)や 息(い)く殺(こ)れっ [津留見一徹]
四天王三席 ノーベル賞(しょ) 一緒(いっど)き二人(ふたい) 拍手しっ [上池酔人]
四天王四席 火薬庫(かやっこ)ん 塊(かた)まいしちょい 北朝鮮(きたちょせん) [入来創雲]
選者吟 銅像で 天璋院な 里(さ)て帰(もど)っ [堂園三洋]

郷句相撲 題「首(くっ)」

横綱(東) 首(くっ)の皺 偽物(まげ)ん真珠で 壁をしっ [二見愚楽満]
横綱(西) 生(い)っの良(よ)か 首(くっ)折れ鯖い 喉が鳴(な)っ [今井夢紫]
大関(東) 首相(しゅそ)ん首(くっ) 何度(はいと)換(か)えてん 首尾(び)あとれじ [西 幸子]
大関(西) 恥(げん)ねこっ 総理ん首(くっ)が 代(か)わい国(くん) [米元年輪]
関脇(東) 横(よん)ご爺(じ)が 首(く)ぶ縦(た)て振(ふ)らじ 道(み)つ曲(ま)げっ [入来創雲]
関脇(西) 短(みし)け首(く)び 蝶ネクタイが びっしゃげっ [樋口一風]
小結(東) 首(く)ぶ洗(あ)るて 待てち吐(かや)した 職場長(しょっばちょう) [山元自在鉤]
小結(西) 首(く)び回(ま)えた 手をば離(はな)さん 結婚(といえ)当初(はな) [吉岡道場]
筆頭(東) シャち紅(べん)ち 寝首(ねく)ぶとろそな 悋気(じんき)女房(かか) [日隈英坊]
筆頭(西) 首(く)ぶ捻(ひね)っ 仕事しごちゃ捌(さば)けん 日曜(にちよ)大工(でっ) [前村泰山]
二枚目(東) ドンの首(く)び 鈴(す)ず掛けきらじ 内輪揉め [盛満椒平]
二枚目(西) 夫婦(みと)喧嘩 寝首(ねく)ぶ掻(か)こそな 議(ぎ)をば言(ゆ)っ [田中末木]
三枚目(東) 寝違(ねちが)えっ ロボットんごっ 動(いご)っ首(くっ) [澤津乙名]
三枚目(西) 妙(す)だ社長 無礼講(ぶれいこ)言(つ)たて 首(く)ぶ刎(は)ねっ [上薗佳笑]
四枚目(東) 爺婆(じばば)どま 首(くっ)も据(す)わらん 児(こ)を奪合(ばこ)っ [満留ぐみ]
四枚目(西) 如何(いけん)すい ローンの最中(さな)け 首(くっ)が飛(つ)っ [花園ちづ]
五枚目(東) 首(く)ぶかけっ 課長(かちょ)い吠(ほ)えちょい 平社員 [西ノ園ひらり]
五枚目(西) 負けた様子(よし) 首(く)ぶうっなげて 帰(もど)っ来(き)っ [中間紫麓]
六枚目(東) 首(く)び二重(ふた)へ 真珠を巻(め)てん 晴(は)れがせじ [石塚律子]
六枚目(西) 大臣も 余計(よけ)な物言(ものゆ)で 首(くっ)が飛(つ)っ [入来義徳]
七枚目(東) キスマーク 徳利(とっくい)シャツで 隠(か)きた青年(にせ) [北村虎王]
七枚目(西) 百点の 悪戯坊(てんご)い周囲(ぐる)や 首(く)ぶ捻(ひね)っ [上山天洲]
八枚目(東) 何時(いっ)迄(ずい)か 窓際族(まどぎわぞっ)の 首(くっ)の皮 [郷田悠々]
八枚目(西) 青首(あおくっ)が 見事(みご)つ並(な)るちょい 吊(つ)い大根(でこん) [折田さくら]
親方吟(東) 初孫(はっまご) を首(く)ぶ長(な)ご待った 七十坂(ななじゅざか) [諸木小春]
親方吟(西) 後手後手ん 政治が国(くん)の 首(く)ぶ締(し)めっ [津留見一徹]

その他の秀句

黙(だま)っ飲(の)ん 黙っ食(く)て寝(ね)い 倦怠期 [吉岡道場]
気付(きぢ)たとが 相当(じょじょ)ん遅(お)せどん トイレ掃除(そっ) [石塚律子]
関白(かんぱっ)ち 言(ゆ)とが我家(わが)へな 呼(よ)ぼたせじ [伊地知 孝]
またママあ 飲(の)ん方(かた)じゃっち 幼児(ちび)とパパ [西 幸子]
先々(さっざ)きな 子が難儀すっ 名を付(つ)けっ [有馬純秋]
惚(ほ)れられっ ばったいいかん 貧乏神(びんぶがん) [新地十意]
撫(な)で回(ま)えっ 春(はい)が待(ま)っ長(な)げ ランドセル [津留見一徹]
コップをば 見(み)せたやニコッ すい飲兵衛(のんべ) [西ノ園ひらり]
腕ずいも 振(ふ)い千切(ちぎ)ろそな ウォーキング [澤津乙名]
女房(おかた)つは そげん気楽(きだっ)け また肥(こ)えっ [上薗佳笑]
祝辞をば 済(す)ませっ気楽(きだ)き 披露宴 [有馬湧声]
八(や)っ当(あた)い 犬(いん)が叱(が)らるい 夫婦(みと)喧嘩(げんか) [中囿和風]
夫婦(みと)喧嘩(げんか) 目覚(おず)んだ幼児(ちび)が 幕(ま)く降(お)れっ [木佐貫白猫]
乗(の)い換(か)ゆい 訳いも行(い)かじ 亭主(て)し我慢(きば)っ [上山天洲]
無料(ただ)ん料理(じゅ)い 甘(あ)めの辛(か)れのち きし吐(か)えっ [伊地知 孝]
停年ぬ 待ったち不気味 妻(かか)ん笑(わ)れ [楠八重渓流]
伸(ぬ)っ盛(ざか)い 羽釜(はがま)ん底を こさっ切(き)っ [谷村まさゑ]
長(な)げ便所(まな)け 暇でロダンぬ 気取(きど)っみっ [おんじょどい]