おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第679号

雑吟     永徳天真選

一番槍 大臣にゃ 余計(よけ)な物事(ものご)つ 言(ゆ)なち叱(が)っ [入来義徳]
二番槍 服(ふ)か白ち 蓮舫(れんほ)気取(きど)いの 煤(すし)け女房(かか) [石塚律子]
三番槍 厄払(やっば)れは 一度(いっど)で良(よ)かか心配(せわ)な娑婆 [中間紫麓]
四番槍 赤(あ)け糸が 長(な)ご経(た)っうちな 鎖(くさ)いなっ [満留ぐみ]
五番槍 馬場商売(あっね) 爺婆(じばば)が寄(よ)って 賑(にっぎゃ)こし [吉丸セツ子]
六番槍 郷句(く)のネタを 探(みし)けけ晩な 縄暖簾 [澤津乙名]
七番槍 辛(つ)れ思(お)もゆ したでち嫁(よ)めな 優(やさ)し姑(しゅと) [西迫順風]

渋柿集

中村雲海 猫バスが 走(はし)っ来(く)いよな 寂(とぜ)ね過疎
ジャンケンの 弱(よ)え奴(と)が終(しめ)にゃ 妙(す)だ踊(おど)い
付け薬(ぐす)や 何年経(た)とが きし効(き)かじ
左利(ぎっちょ)をば 直(なお)せち諭す 厳(い)ね爺様(じさま)
休戦の 三十八度 疼(うず)っでっ
有川南北 高隈山(たかくま)を 見てかい決(き)むい 洗濯日(せんたっび)
烏(から)しゃ利口(じく) 熟柿(じゅく)しなっずや 寄(よ)い付(つ)かじ
独(ひと)い笑(わ)れ すい女房(か)け包丁(ほちょ)ん 不安(せわ)をえっ
実(な)い過(す)ぎっ 貰(も)ろ手もおらん はやと瓜(うい)
淋(げん)ね 晩 亡父(おやっ)と並(な)るだ 年齢(と)す想(おも)っ
弓場正己 駅弁で 稼(かせ)ごち出水(いず)ま も早(へ)大騒動(うそど)
仕分け人 そん口振((くっぶ)いが 女房(かか)い似(に)っ
子供(こどん)ずい 店長(てんちょ)いなって 亭主(とと)は平(ひら)
考(かん)げなし 悪口(あっご)を言(ゆ)たや 後(うし)て居(お)っ
立読(たちよ)んぬ すれば叩(はたっ)が 傍い来(き)っ
堂園三洋 大世間(うぜけん)が 灰色(へいろ)い見(み)ゆい 休刊日
俺家(おいげ)どま 見(み)いもきっせん 宅急便(たっきゅびん)
舐(な)むいごっ 美人(シャン)ぬば見(み)ちょい くずれ亭主(とと)
家族(けね)全部(ずるっ) 色艶(いろひっ)の悪(わ)り 貧乏(びんぶ)世帯(じょて)
貧乏(びんぶ)をば 顔(つら)いな出さん 出来(でけ)た女房(かか)
永徳天真 孫が泣(ね)っ 婆(ばば)い叱(が)られた 百面相(ひゃくめんそ)
鉄砲(てっぷ)耳(みん) 用事(ゆ)じゃメモ紙(がん)に 書(け)て渡(わ)てっ
稽古(けこ)が入(い)っ 若鶯(でっち)も日増(ひま)し 上手(じょ)し歌(う)とっ
飲(の)ん方(かた)が あいか素早(てばし)け 仕事(しご)つしっ
少(ちっ)と暗(く)れ 場所で手相見(てそみ)あ 客(きゃ)くば待(ま)っ
樋口一風 鏡(かが)む見(み)っ もてん筈(はっ)じゃち 諦(あきら)めっ
餅腹(もっばら)が 秤(ちきい)の妻(かか)を 叫(おら)ばせっ
コップをば 持(も)っ待(ま)っちょって 長(な)げ挨拶(えさっ)
一(ひと)団地 起(お)けた夜中ん 救急車
八十(はっじゅ)婆(ば)も 進化絵文字で 友達(ど)しメール

山椒集 題「肩(かた)」     有川南北選

息子(こ)の家も 肩が凝(こ)っ言(ちゅ)てもへ帰(もど)っ [吉岡道場]
肩ん雪(ゆ)く 払(は)るっ暖簾で コップ焼酎(じょちゅ) [伊地知 孝]
留守番(ずしばん)が ママを見たなあ 肩で泣(ね)っ [上薗佳笑]
五客一席 肩車(かたぐいま) 爺(じ)の耳朶(みんじゃば)で 舵(か)じゅばとっ [市来流星]
五客二席 肩ん荷を 下(お)れた頃いにゃ 余生(さっ)が無(の)し [有馬純秋]
五客三席 肩車(かたぐいま) した子も今じゃ 良(よ)か父親(おやっ) [吉丸セツ子]
五客四席 肩揉(も)んけ 孫がやっ来(く)い 年金日 [米元年輪]
五客五席 嫁ん肩 持てば女房(かか)奴(わろ) 俺(お)よ睨(ねぎ)っ [西 幸子]
選者吟 人を肩(か)て 乗(の)せっ弥五郎(やごろ)ん 浜下(くだ)い [有川南北]

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

内輪揉め そん間(こ)め隣国(つっ)じゃ 大(ふ)て火種 [吉岡道場]
アーウーち 言(ゆ)ちょれば良(よ)かて 議(ぎ)が多(う)こし [伊地知 孝]
辻(つ)じ立(た)っが 犬(いん)も聞(き)ちょらん 民主党 [石塚律子]
四天王一席 隠(か)きちょった ビデオが世界(せか)ゆ 駆け巡(めぐ)っ [澤津乙名]
四天王二席 白鵬(はくほう)で 双葉山(ふたば)ん値打(ねう)ちゃ また上昇(あが)っ [山元自在鉤]
四天王三席 励(はま)や良(え)が 仕分けじゃ出(で)らん 埋蔵金(まいぞきん) [新地十意]
四天王四席 エコ期限 電気屋回(まわ)い 疲(だ)れとけっ [尾崎若狭]
選者吟 はやぶさが 大(ふ)とか土産と 里帰(さともど)い [堂園三洋]

郷句相撲 題「効(き)っ」

横綱(東) 五体(ご)て効(き)っち 爺(じ)は言(ゆ)が迷惑(めわっ) 大蒜(ひい)ん臭(かざ) [日隈英坊]
横綱(西) 美人(シャン)が居(お)っ 混浴(こんよ)か身体(から)で 効(き)っごちゃっ [工藤天然]
大関(東) 龍馬いも 効(き)た言(ちゅ)霧島(きりい)め 湯治(と)じ行(い)たっ [有馬純秋]
大関(西) 機嫌(ごっ)の悪(わ)り 妻(か)けな諭吉(ゆきっ)の 顔(つら)が効(き)っ [中間紫麓]
関脇(東) 何(な)い効(き)っも 判(わか)らじ飲(ぬ)じょい 婆(ば)のサプリ [満留ぐみ]
関脇(西) 効(き)っち買(こ)た 健康器具は 小屋(こ)へ眠(ねむ)っ [井手上政暎]
小結(東) 根回しが 効(き)たかたっちき 議決(ぎけ)つしっ [西 幸子]
小結(西) 野菜(やせ)い播(め)た 肥料(こえ)は全部(すっぱい) 草い効(き)っ [弓場正巳]
筆頭(東) 何(ど)ん薬(くす)い 効(き)たか分(わ)からじ 病(びょ)は治癒(なお)っ [盛満椒平]
筆頭(西) 効(き)っ言(ちゅ)えば 得知(えし)れん草も 煎(せ)じっ飲(の)ん [吉岡道場]
二枚目(東) 婆(ばあ)ちゃんの おやっが効(き)たか 肩叩(かたたた)っ [樋之口墨矢]
二枚目(西) 効(き)っ言(ちゅ)えば 店んバナナが 空(か)れけなっ [桑元行水]
三枚目(東) 増毛薬(ぞうもやっ) 塗(ぬ)って叩(た)てたや 効(き)たごたっ [石塚律子]
三枚目(西) 垂(た)れん効(き)た 焼鳥(やきと)い買手(こて)ん 衆(し)が並(な)るっ [入来義徳]
四枚目(東) 痩せ薬(ぐす)ゆ 効(き)っ言(ちゅ)た医者も 凄(わ)ぜ肥満(だんべ) [山田竜生]
四枚目(西) 正座(きんすわ)っ 母(はほ)ん涙(なんだ)が 子いな効(き)っ [樋口一風]
五枚目(東) 胡麻擂(す)いが 効(き)っ窓際い さようなら [堂園三洋]
五枚目(西) 俺(おい)が膝(ひ)ぜ 効(き)っ効(き)っ効(き)っち コマーシャル [中囿和風]
六枚目(東) 兄弟(きょで)喧嘩 爺(じ)の咳払(せっば)れが 止(や)めさせっ [石原ミエ子]
六枚目(西) 効(き)っよかも 火傷が心配(せわ)な 大(うど)か灸(えつ) [萬福平次]
七枚目(東) 効(き)っ言(ちゅ)えば 温泉宿を 爺(じ)は梯子 [北村虎王]
七枚目(西) 良(ゆ)効(き)っ言(ちゅ)っ 薩摩郷句で 惚(ぼ)け防止 [西迫順風]
八枚目(東) 効(き)っ言(ちゅ)えば 山ん出水(でみっ)も 買(こ)け走(はし)っ [畑山真竹]
八枚目(西) 値上(ねあ)がいが 効(き)たか煙草を 止(や)めた亭主(てし) [江口紫朗]
親方吟(東) 名医言(ちゅ)で 注射も効(き)けた 流行(はやい)風邪 [諸木小春]
親方吟(西) 効(き)っち注(ち)だ どどくれ蝮(まむ)し 怖(びび)い猪口(ちょっ) [津留見一徹]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「くろぢょか」より抜粋)

野間小爺 担売(かたげう)い 風袋(ふて)ごみ噂 撒(め)っ歩(さ)れっ
塗箸(ぬいてもと) 畳(たた)み蒟蒻(こんにゃ)く 追(う)てまわっ
栄転で 店ん掛(かけ)どま け忘(わす)れっ
野間口鈴女 開けた方(ほ)が ひったまがった 外便所(そとまなか)
肥満(だんべ)女房(かか) シートベルトが ヒーヒ言(ゆ)っ
料理(じゅ)や知(し)たじ 圧力鍋あ 唐芋(かいも)煮(に)い
枦山一球 四十女房(かか) 鏡(かがん)も見(み)らじ 化粧(けしょ)をしっ
転勤(で)っ言(つ)たや 単身(ひとい)で行(い)けち 煤(すす)け女房(かか)
天気予報(よほ) 梅雨(なが)しなったや 当(あ)たいでっ
畠中速男 虫くれ歯 金(ぜん)の無(な)か時(と)き 疼(うず)っでっ
俎板(きいばん)の 音でわが家(え)ん 朝が来(き)っ
毎晩(めばん)飲(ぬ)っ 締(し)まれ締(し)まれち 女房(か)けな言(ゆ)っ
馬場トミ 歳暮(せぼ)吟味 後(あと)じゃごろいと 夫婦(みと)喧嘩
管巻(じじら)親父(とと) 機嫌ぬとれば 余計(じんじ)掘(ほ)っ
高望(たかのぞ)ん 勉強(べんきょ)勉強(べんきょ)ち 子を苛(こ)ねっ
浜田絡繰 結婚(といえ)当初(は)ね 酔(よ)くろた真似で 泊(とま)い野暮
胃が悪(わ)りて 乳房(ちち)を揉(も)んじょい 助平(すけべ)医者
軽(か)い病(びょ)じゃち 嘘も切(せっ)なか 癌の見舞(みめ)
浜田孝ちゃん 春(はい)日和(びよ)い 縁側ん爺(じ)は 舟を漕(け)っ
日中(にっちゅ)かい 太鼓(てこ)三味線(しゃん)が鳴(な)い 湯治(とっ)の宿
尻(し)ゆば見(み)っ 嫁女(よめじょ)は決(き)めち 婆(ばば)が下知(げっ)
林 学釣 七(なな)とこい 雑炊(ずし)を貰(も)ろよも なか団地
犬(いん)よいか 嫉妬(じんき)女房(かか)わろ 鼻が利(き)っ
せからしで 石油缶(せったんかん)ち 名を貰(も)ろっ
林 豚ん子 日曜(にちよ)大工(でっ) 造作(ぞさっ)も器用(じく)い 家(え)を建(た)てっ
長(な)げ出張(しゅっちょ) 味噌汁(しゅい)一杯(いっぺ) 恋しゅなっ
士族(しぞっ)婆(ばば) 煤(すす)け床(とこ)ん間(め) 香(こ)をば焚(て)っ

第4回三條風雲児忌句会 兼題「血筋(ちすっ)」 石塚律子選

島(し)め疎開(そか)ゆ させっ血筋(ちす)ずば 繋(つ)ねだ牛(べぶ) [西ノ園ひらり]
なんちゅこっ 俺(お)い家(げ)ん血筋(すっ)も 国際化 [樋口一風]
血筋(ちすっ)の良(え) 犬(いん)な着物(いしょ)ずい 買(こ)っ貰(も)ろっ [今井夢紫]
爺(じ)が葬式(おんぼ) 血筋(ちす)じゃ遠(と)えどん 布令(ふれ)をしっ [上別府印句]
縁談(もればな)し陰じゃ血筋(ちすっ)の 探(さぐ)ゆしっ [北村虎王]
選者吟 血統書 付(つ)ちょった割(わ)いな 能(ぬ)の無(ね)犬(いん) [石塚律子]

第4回三條風雲児忌句会 兼題「手荒(てあ)れ」 吉岡道場選

美人(シャン)の次(つ)ぎゃ 診(み)かたが手荒(てあ)れ 助平(すけべ)医者 [谷口雲城]
手荒(てあ)れ女房(かか) 朝寝ん亭主(て)すば 蹴(け)い起(お)けっ [弓場正巳]
手荒(てあ)れ事(こ)つ すいが整体 言(ちゅ)で我慢(きば)っ [上籠若菜]
腕は良(え)が 軍医出身(あがい)の 手荒(てあ)れオペ [稲田切株]
揺(ゆ)いたくっ 孫を泣かせた 手荒(てあ)れ子守(もい) [樋口一風]
選者吟 貴重(たし)ね髪(か)む 手荒(てあ)れ床屋が 揉(も)んたくっ [吉岡道場]

第4回三條風雲児忌句会 兼題「原因(もと)」 堂園三洋選

花ちゃんち 寝言(ねごっ)が原因(もと)で 夫婦(みと)喧嘩 [佐土原 隆]
社長(しゃちょ)ん吝(けち) 原因(もと)を探(さぐ)れば 貧(ひん)育(そだ)っ [前田あやめ]
あればくさ 揉(も)むい原因(もと)ちゅて 貯(た)めん主義 [内村仏心]
兄弟(きょで)喧嘩 原因(もと)も聞(き)かんじ 兄(あにょ)を叱(が)っ [吉岡道場]
火事(くゎし)ち騒動(そど) 煙(けむい)の原因(もと)あ 殺虫剤(さっちゅざい) [米元年輪]
選者吟 火遊(ひあす)っが 原因(もと)で女房(かか)かい 追出(うだ)されっ [堂園三洋]

その他の秀句

娘(おご)がヒス 父親(とと)んパンツと 洗(あ)るた言(ちゅ)っ [上薗佳笑]
あん顔(つら)ん どけ惚れたとか 倦怠期 [吉岡道場]
胃カメラい 遺言(ゆお)く書(か)こそな 臆病者(ひっかぶい) [諸木小春]
十五日(じゅうごんち) 値引(ねび)っのチョコを 女房(か)け貰(も)ろっ [工藤天然]
金(ぜん)の事(こ)ちゃ 考(かん)げん亭主(とと)ん 旨(うま)か料理(じゅい) [前田あやめ]
大霜晩(うじもばん) 亭主(とと)ん股張(またば)い 足(あ)す入(い)れっ [花園ちづ]
選(え)い残(のこ)ゆ 連(つ)れ添(そ)っ笑(わ)るた 五十年 [松下青雲]
母(かあ)ちゃんが 恐(おと)ろしとなち 子が笑(わ)るっ [西迫順風]
方(ほ)の知(し)れん 亭主(て)しつがらんね 歳暮(せぼ)が要(い)っ [三條風雲児]
狡(え)じ言(つ)たや 所帯魂(しょてだまし)じゃち きし吐(か)えっ [楠八重渓流]
こん寒(さん)け 見(み)い方(ほ)も堪(のさ)ん ミニん娘(おご) [江口紫朗]
疎(う)て奴(わろ)が 冗談(わや)くいちいち 聞(き)っ直(な)えっ [永徳天真]
末吉(すえきっ)の 後(あと)い留吉(とめきっ) ちゅう弟(おとっ) [有川南北]
ピカソん絵 よっかい女房(かか)が 可愛(む)ぜごたっ [上薗佳笑]
長(な)げ化粧(けしょ)い 待(ま)っちょいきらん クラクション [新地十意]
血筋(ちすっ)じゃろ 何処(どっ)か懐(なつ)かし 猿(よも)ん顔(つら) [大重爆笑]
値(ね)が付(つ)かじ 売買(ういけ)が出来(でけ)ん 過疎ん土地(じだ) [佐伯山神]
狡(え)じ奴(わろ)が 払(は)るとか直(いっ)き 便所(まな)け入(い)っ [伊地知 孝]
三回忌 終(お)えっ涙(なんだ)ん 数(かし)も減(へ)っ [おんじょどい]
寒(さ)み晩な 湯タンポよっか 肥満(だんべ)女房(かか) [前田あやめ]
孫ん方(ほ)がプロよか高(たか)か肩叩(かたたた)っ [おんじょどい]
薄(う)し胸(む)ねな がっつい手荒(てあ)れ 聴診器 [石塚律子]
離婚(わかれ)騒動(そど) 原因(もと)は鰻(うなっ)も 効(き)けん亭主(とと) [石野蟹篭]