おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第678号

雑吟     永徳天真選

一番槍 もう一杯(いっぺ) 飲(の)まんな女房(か)けな 抗(む)こきらじ [吉岡道場]
二番槍 愚痴(ぐ)つ言(ゆ)たや 笑(わ)るっおじゃした お釈迦様(しゃかさあ) [中囿和風]
三番槍 毎年(めとし)書(か)っ 禁酒ち筆字 上手(じょ)じけなっ [山元自在鉤]
四番槍 三箇日(さんがにっ) け忘(わす)れちょった 休刊日[今井夢紫]
五番槍 補聴器じゃ 気力(あや)もけ失(う)せた 夫婦(みと)喧嘩 [盛満椒平]
六番槍 うんだもう 男が眉毛(めげ)を描(け)て 洒落(しゃれ)っ [石原ミエ子]
七番槍 造花でな 匂(かざ)もせんがち 叱(が)い先祖 [澤津乙名]

渋柿集

中村雲海 スカートん 歴史が消(き)ゆい 妙(す)だ日本
日本(にっぽん)の 将来(やが)つ見(み)いよな 熊ん騒動(そど)
俺(お)やビール 女房(かか)あほろ酔い 発泡酒
竹結枝(いらさ)をば 逆(さか)せ素引(そび)ちょい 反対派
臨終(りんじゅ)前 氏族(しぞっ)じゃったち 遺言(ゆお)くしっ
有川南北 菅さんも 厄介(やっけ)な時代(じだ)い 首相(しゅそ)いなっ
尖閣(せんかっ)も 北ん四島(よんと)も 狙(ね)ろわれっ
年金が 出(で)らな動(うご)けん 歳暮(せぼ)買物(けもん)
小(ちん)け部屋(へ)へ 掛(かけ)ん地デジが 腰(こ)す据(す)えっ
空(そら)ん灰(へ)を 見て洗濯(せんた)くば 明日(あし)てしっ
弓場正己 ハイハイち 言(ゆ)どん心根(ねしゅ)でな こなす女房(かか)
娘(こ)は脱毛(だっも) 亭主(て)しゃ増毛で 騒動(そど)なこっ
病名(びょうめ)ゆば 本ぬ見て言(ゆ)た 医者い心配(せわ)
四人部屋 見舞人(みめにん)の数(か)ず 比べ合(お)っ
コンビニん おでんと焼酎(しょちゅ)ん 正月(しょがっ)青年(にせ)
堂園三洋 貧乏(びんぶ)でん 笑(わ)るっ暮(く)らそち 婆(ば)と語(かた)っ
焼酎(しょちゅ)だけは 誰(だい)にも負けん 態(ざま)な俺(おい)
人すべい 客(きゃ)き逆立(さかだっ)も して見(み)せっ
混浴(こんよっ)ち 言(ゆ)てん足湯じゃ 物足(ものた)らじ
枕いな こいが一番(いっばん) 美人(シャン)の膝
永徳天真 ラブレター じゃれば嬉(うれ)しが 督促状(とっそっじょ)
にっこにこ しちょいが内心(ねしゅ)あ 厳(いみ)し嫁
後前(うしとまえ) 亭主(とと)んパンツい 勘(かん)ぬしっ
嘘じゃ無(ね)ち 言訳(ゆわけ)が余計(じんじ) 怪(あや)すなっ
縁側が 暖(ぬっ)かろち客(きゃ)き 茶を準備(しこ)っ
樋口一風 子をば抱(で)っ 今年(こと)しゃ嬉(うれ)しか 初詣(はっもうで)
まだ仕舞(しめ)あ 済(す)まんて除夜ん 鐘が鳴(な)っ
初日(はっひ)の出 ビルん隙間(すっま)い 少(ち)す拝(おが)ん
不精(ふゆ)な妻(かか) 俺(お)い炬燵(こたっ)かあ 下知(げ)つ吐(か)えっ
団子(だご)一個(ひと)ち 孫と四つい 渡(わた)い合(お)っ

山椒集 題「売買(ういけ)」     有川南北選

列(れ)つ作(つく)っ 売買(ういけ)で 弾(はず)ん福袋 [花園ちづ]
座(すわ)っちょっ 億(お)くば動(いご)かす 株(かっ)売買(ういけ) [諸木小春]
桜島(しま)大根(でこん) 叩(た)てっ売買(ういけ)が 値を決(き)めっ [新地十意]
五客一席 先物(さっもん)の 小豆(あずっ)売買(ういけ)で 谷(ほ)き転倒(かや)っ [楠八重渓流]
五客二席 朝市(あさいっ)の 売(う)い手を買手(けて)が 冗談(ちょく)い合(お)っ [樋口一風]
五客三席 終息(しゅうそっ)で 牛(べぶ)ん売買(ういけ)が 賑(はず)ん競売(せい) [石塚律子]
五客四席 円高で 売買(ういけ)儲(も)けたい 損したい [満留ぐみ]
五客五席 地産地消(ちしょ) 売買(ういけ)で賑(はず)ん 道の駅(えっ) [吉岡道場]
選者吟 店仕舞(じめ)い 裏ん売買(ういけ)が 噂(うわ)せなっ [有川南北]

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

酷(ひ)で大雨(うあめ) 島ん平和も 鵜呑(ぐの)みしっ [吉岡道場]
落盤で 英雄(えいゆ)いなった 鉱夫(こうふ)ん衆(し) [市来流星]
イクメンの 先駆(さっが)けなろで 育休(いっきゅ)知事 [諸木小春]
四天王一席 優(やさ)し声 じゃった会長(かいちょ)が 懐(なっ)かしゅし [福山吉連]
四天王二席 やわらちゃん 二足(にそっ)の草鞋(わら)じゃ 無理(むい)ち知(し)っ [佐伯山神]
四天王三席 野菜(やせ)急騰(きゅうと) 握った葱(ねっ)も 棚(た)ね戻(も)でっ [今井夢紫]
四天王四席 高(た)けタバコ 一本くれち 言難(ゆに)くなっ [伊地知 孝]
選者吟 選抜(せんばっ)の 当確(とうかっ)が出た 強(つ)え鹿実(かじっ) [堂園三洋]

郷句相撲 題「後継(あとつっ)」

横綱(東) 後継(あとつっ)ち 祖父(じさ)め似(に)せでた 北ん父親(おや) [日隈英坊]
横綱(西) 茶の商売(あっね) 鼻が利(き)っ息子(こ)が 後(あと)を継(ち)っ [工藤天然]
大関(東) 後継(あとつっ)の 芽をつん折(ぼ)った 口蹄疫(こうてえっ) [入来創雲]
大関(西) 後継(あとつっ)の 襷(たすっ)が映(は)ゆい 村祭(むらまつ)い [萬福平次]
関脇(東) 後継(あとつっ)が 伝統(でんと)ん紬(つむ)ぎ 灯(ひ)を点(と)べっ [満留ぐみ]
関脇(西) 吝嗇(けち)な爺(じ)が 派手な後継(あとつ)ぎ 気をば揉(も)ん [市来流星]
小結(東) よいなこっ 後継(あとつ)ぎ恵(のさ)っ 名付祝(なつけゆえ) [北村虎王]
小結(西) 宝子(たからご)ち 養育(お)えた後継(あとつ)ぎゃ 養子(よ)し這入(へく)っ [田中末木]
筆頭(東) 後継(あとつっ)が 居(お)らんたろかい シャッタ街(がい) [郷田悠々]
筆頭(西) 後継(あとつっ)が 居(お)らじ貰(も)ろたや 女房(か)け孕(で)けっ [前村泰山]
二枚目(東) 団塊が 農業(さっ)の後継(あとつ)ぎ 戻(もど)っ来(き)っ [澤津乙名]
二枚目(西) 家(え)も金(ぜん)も 準備(しこ)っ後継(あとつ)ぎ 嫁が来(こ)じ [弓場正巳]
三枚目(東) 後継(あとつっ)が 居(お)らじ老爺(おんじょ)い 辛(つ)れ棚田 [堂園三洋]
三枚目(西) 後継(あとつっ)の 心配(せわ)どまいらん 子分限者(こぶげんしゃ) [米元年輪]
四枚目(東) もへ盃(ちょ)くば 爺(じ)の後継(あとつっ)ち 握(にぎ)い幼児(ちび) [石塚律子]
四枚目(西) 後継(あとつっ)が 居(お)らじ良(よ)か田が 宙に浮(う)っ [吉岡道場]
五枚目(東) 腕白坊(けすいばっ) 爺(じ)の後継(あとつっ)で 蛸踊(おど)い [樋渡草団子]
五枚目(西) まだか言(ちゅ)っ 後継(あとつ)ぐ催促(せず)っ やぜろし爺(じ) [原田菊男]
六枚目(東) 後継(あとつっ)ち 大切(てせ)ち育(お)えたて 養子(よ)し行(い)たっ [佐伯山神]
六枚目(西) 後継(あとつっ)が おらじ気力(あや)ん無(ね) 米作(つく)い [中囿和風]
七枚目(東) 農業(さ)かせんち 後継(あとつ)が全部(ずるっ) 都会(よそ)い出(で)っ [伊地知 孝]
七枚目(西) 末子(しったれ)が 親を看(み)っ気で 農業(さ)くば継(ち)っ [樋口一風]
八枚目(東) 後継(あとつっ)の 帰(もど)ゆ待(ま)っちょい 老夫婦(おんじょみと) [二見愚楽満]
八枚目(西) 後継(あとつっ)が 絶(た)えっ屋根ずい 這(ほ)た葛(かずら) [上薗佳笑]
親方吟(東) 後継(あとつ)ぐば 歯痒(はが)いか兄弟(きょで)で 譲(ゆず)い合(お)っ [諸木小春]
親方吟(西) 豆腐屋(おかべや)ん 後継(あとつっ)じゃって 朝寝坊(あさねごろ) [津留見一徹]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「くろぢょか」より抜粋)

新原幹竹 横道(おど)な猫 叱(が)ったしこずい きし逃(に)げっ
女房(かか)ん愚痴(ぐ)ち 犬(いん)がすいよな 欠伸(あく)ぶしっ
針供養(はいくよう) 豆腐(おかべ)ん供養(くよ)は ち忘(わす)れっ
新原すみれ 洗(あ)れやっめ 明日(あした)で良(え)がち 結婚(といえ)当初(はな)
残留(ざんりゅ)孤児 指(いっ)の火傷(やけじょ)が 決め手なっ
昔(むか)しゅ言(ゆ)っ 嫁御(よめじょ)いびいの 厳(いみ)し顔(つら)
西原末笑 多(う)か花嫁(よめじょ) 心太(ところ)突出し 式が済(す)ん
雪(ゆっ)日和(びよい) 白子鰻(しらす)捕(と)いじゃろ 火が揺(ゆ)れっ
膝詰めで 貰(も)ろた嫁御(よめじょ)い 苛(こ)なされっ
新田フサ 狡(え)じ血筋(ちす)じ まだ輪をかけた 嫁が来(き)っ
あすこそけ 絶交(みっぎ)ゆしちょい 議達者(ぎたっ)婆(ばば)
鉈細工(ぜっ)で 鶏(とい)小屋なんだ 器用(じ)く作(つく)っ
抜水凡々 商売(あっね)上手(じょす) 損ぬしたよな 顔(つら)で売(う)っ
多(う)け土地(じだ)を 子供(こど)が家裁で 切(き)いたくっ
丈夫(じょっ)な女房(かか )冗談(わや)く言(ゆ)かたで 子もけ産(う)ん
野口嫁菜 震度5い ぎっくい腰も 走(はし)い出(で)っ
離婚わかれ騒動(そど) 今度(こん)だ今度(こ)んだで 婆(ば)べけなっ
波(なん)の音(お)て 慣れたか届(と)じた 島便(だよ)い

第110回南日本薩摩狂句大会 兼題「疲(だ)れ」 堂園三洋選

特選 クラシック 俺(おい)な無理(むい)じゃ 脳(の)が疲(だ)れっ [諸木小春]
秀一 塩浸温泉(しおひた)し 龍馬気分で 疲(だ)れ癒し [郷田悠々]
秀二 美男子(よかにせ)ち 大世間(うぜけん)な言(ゆ)が 聞(き)っ疲(だ)れっ [石塚律子]
秀三 看病(かんびょ)疲(だ)れ ベッドよか先(さ)き 鼾(いび)くけっ [小瀬一峻]
秀四 飲(の)ん疲(だ)れた 鼾(いび)くば乗(の)せっ バスツアー [樋口一風]
秀五 財布(ふぞ)が先(さ)き すったい疲(だ)れた 孫んも守(も)い [上薗佳笑]
軸吟 胡麻擂(す)いも 疲(だ)れっ出世を 諦(あきら)めっ [堂園三洋]

第110回南日本薩摩狂句大会 兼題「毎晩(めばん)」 弓場正巳選

特選 叱(が)った子ん 寝顔い毎晩(めばん) 自分(わが)を叱(が)っ [石塚律子]
秀一 小遣銭(つけぜん)の 残(のこ)や毎晩(めえばん) 女房(か)け戻(も)でっ [石塚律子]
秀二 夫婦(みと)諍(いさ)け 毎晩(めばん)ごめんち 叫(おら)っ亭主(とと) [有川南北]
秀三 もしもしち 毎晩(めばん)七時い 親孝行(おやこうこ) [諸木小春]
秀四 毎晩(めばん)会(お)て 何(な)ゆば語(かた)いか 恋人(なじゅん)同士(どし) [江口紫朗]
秀五 単身な 淋(さび)しゅし毎晩(めばん) 女房(か)け電話 [澤津乙名]
軸吟 美味(う)め言(ちゅ)たや 毎晩(めばん)カレーで 黄(き)ゆけなっ [弓場正巳]

第110回南日本薩摩狂句大会 兼題「買物(けもん)」 有川南北選

特選 待(ま)っちょった 結納(ゆいの)い嬉(うれ)し 娘(こ)と買物(けもん) [諸木小春]
秀一 人(ひ)て秘密 周囲(ぐる)ゆ見てかあ 買(こ)た鬘(かつら) [工藤天然]
秀二 禿げた俺(お)い 兄(にい)さん言(ちゅ)売子(こ)い 余計(じんじ)買(こ)っ [前田あやめ]
秀三 婆(ば)ん買物(けもん) 日付は奥が 新(に)けち出(で)っ [原田菊男]
秀四 買い溜めち 煙草値上げい 列(れ)つ作(つく)っ [小瀬一峻]
秀五 退職(やめ)たなあ 買物籠(けもんかご)持ち 成(な)い下(さ)がっ [入来院彦六]
軸吟 歳暮(せぼ)買物(けもん) 飲(の)ん平(べ)にゃ焼酎(しょちゅ)ち 直(じ)き決(き)まっ [有川南北]

第110回南日本薩摩狂句大会 兼題「不精(ふゆ)」 中村雲海選

特選 間抜け顔(づら) 不精(ふゆ)が前歯は 欠けた儘(ない) [諸木小春]
秀一 無洗米 一層(いっだん)不精(ふゆ)な 女房(か)けけなっ [稲田切株]
秀二 塵(ごん)ぐれじゃ け死しませんがち 不精(ふゆ)な妻(かか) [樋口一風]
秀三 不精(ふゆ)な亭主(て)しゅ 叱(が)ればお前(まい)も 休(よ)くえ言(ちゅ)っ [上籠若菜]
秀四 こら見事(みご)て 稗(ひえ)を植えたか 不精(ふゆ)が農業(さっ) [楠八重渓流]
秀五 エコ暮(ぐ)らしゃ 俺(おい)がこっじゃち 不精者(ふゆっごろ) [加塩十白]
軸吟 美人(シャン)の女房(かか) 少(ちっ)た不精(ふゆ)でん 許(ゆ)りっやっ [中村雲海]

その他の秀句

媒酌人(なかだっ)の 挨拶(えさ)ちゃ二人(ふたい)の 容姿(よ)し触(ふ)れじ [工藤天然]
新年の 計(け)い妻(かか)奴(わろ)が きし笑(わ)るっ [楠八重渓流]
秘書選考(えら)っ 社長(しゃちょ)は顔(つら)言(つ)が 奥様(こじゅ)は頭(ずっ) [中囿和風]
大概(てげ)で良(え)ち 言(ゆ)たや立腹(はらけ)た 曲尺(ばんじょがね) [西迫順風]
踵(あとげん)で ぐっち押(お)し込(く)だ 大(ふ)てイボ痔 [桑元行水]
曲(ま)がい釘(く)ぐ 沢山(ずばっ)作った 素人(かがい)大工(でっ) [工藤天然]
関係は 何(ない)じゃろ連(つ)れん 禿と美人(シャン) [永徳天真]
値切(ねぎ)い過ぎ 売買(ういけ)ん最中(さな)け 掴(つか)ん合(よ)っ [津留見一徹]
狡(え)じも狡(え)じ 吐(は)っめ飲(ぬ)で食(く)て 俺(お)い請求(つけ)っ [楠八重渓流]
よいなこて 調子(おだめ)が合(お)たや 曲(きょ)か終(お)わっ [下栗志乃]
リサイクル お下(さ)がゆ案山子(おど)しゃ 黙(だま)っ着(き)っ [鈴木芳子]
半分な 明日(あし)て残(の)けちょこ 賃仕事(ちんしごっ) [西ノ園ひらり]
お洒落した 他所(よそ)行(じ)っ顔(づら)が 特売場(とくばいじょ) [山元自在鉤]
二階(にけ)ん娘(こ)を メールで呼(よ)じょい 不精(ふゆし)女房(かか) [有馬青嵐]
共稼ぎ 手抜(てぬ)っ弁当(べんと)も 目を瞑(つぶ)っ [吉岡道場]
赤提灯(あかちょちん) 愚痴(ぐぜ)と嫉妬(しょのん)ぬ 毎晩(めばん)聞(き)っ [小瀬一峻]
年金日 二ヶ月(にかげっ)分(ぶん)の 焼酎(そつ)を買(こ)っ [工藤天然]
生(い)きちょれば 不精(ふゆ)も人並(ひとな)み 腹も空(す)っ [入来院彦六]
人前じゃ おてちき亭主(とと)を 威張(いば)らせっ [諸木小春]
下戸い御礼(ごれ) 言(ゆ)ながら亭主(てし)を 引張(そび)っ込(く)ん [おんじょどい]
初婿い とろいとろいの 歯痒(はが)い女房(かか) [吉丸セツ子]
毎晩(めばん)言(ちゅ)う 女盛(おなござか)ゆば 持(も)て余あめっ [入来院彦六]