おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第677号

雑吟     永徳天真選

一番槍 脳トレち 孫い宿題(しゅくだ)ゆ させられっ [樋口一風]
二番槍 此(こ)いち無(ね)が 師走(しわし)の声で 忙(せわ)しゅなっ [東 松子]
三番槍 凄(わ)ぜ寒波 ミニん脛(すね)かあ 滑(す)べ上(あ)がっ [津留見一徹]
四番槍 出産(さん)の見舞(みめ) 似(に)ちょっとこいを やれ探(さ)げっ [おんじょどい]
五番槍 美人(シャン)ママが 付(ち)たや管巻(じじら)が しちゃっ止(や)ん [伊地知 孝]
六番槍 ニュース婆(ば)べ 横道(よこみ)ち逃げた 散歩途中(つと) [北村虎王]
七番槍 倦怠期 知(し)たじけ済(す)んだ 仲良(なかえ)夫婦(みと) [西迫順風]

渋柿集

栫 路人 点滴(てんてっ)の 落(お)ちが遅(お)そかち 言(ゆ)おごちゃっ
起(お)っ上(きゃ)がい 加勢(かせ)が要(い)い五体(ごて) 歯痒(はが)いこっ
飯(め)しゃ一日(ひして) 一度(いっど)も多(う)かち 言(ゆ)う病人(びょにん)
張った腹 少(ちっ)と動けば 息(い)か切(き)れっ
横向(よこむ)っで 無(な)かや寝(ね)られん 病(びょ)い出合(でお)っ
有川南北 口(くっ)が先(さ)き 生まれたとじゃろ 議(ぎ)が多(う)こし
西部劇(せいぶげ)く 阿久根でも見た 議会騒動(そど)
クラス会 招待(まね)た恩師ん 弱々(よと)し皺
夫婦(みと)喧嘩 亭主(て)しゃ粛々と 後整理(あとこばめ)
偶(たま)にしか 行(い)かん墓参(はかめ)い 蚊がくろっ
弓場正己 音信(そ)の無(ね)時(と)か 良(よ)か事(こっ)じゃっち 母(かか)は言(ゆ)っ
割り箸が どんどん溜(た)まい 一人者(ひといもん)
苦情係(くじょがか)や 派遣社員に 受けさせっ
権力(けんりょっ)の 女房(か)け議(ぎ)を言(ゆ)たや 日干(ひぼ)し遇(お)っ
五十年目(ごじゅねんめ) 鍋と蓋とが やっと合(お)っ
堂園三洋 乙女座ち 言(ゆ)おそな顔(つら)か 大男(うどっかん)
講師(かたいて)い 聞(き)こえあせんか 大(ふ)て鼾(いびっ)
剛腕ち 褒(ほ)めっ亭主(とのじょ)を 使(つ)こたくっ
混浴(こんよっ)の 美人(シャン)に恥(げん)なか 痩せ肋骨(あばら)
パチンコい 雨宿(あまやど)ゆして 財布(ふぞ)は空(から)
永徳天真 無愛想(ぶあいそ)ん 声い電話も 短(みし)こなっ
何度柄(え)も 替えたか 包丁(ほちょ)と 長(な)げ付合(つっ)け
宿題は 後で後でち 勉強(べんきょ)嫌(ぎ)れ
甘(あ)も見たか 相手(えて)ん先発(せんぱ)ちゃ 三番手
駅伝に テレビ桟敷(さじっ)も 叫(お)れ通(ど)えっ

山椒集 題「読(よ)ん」     有川南北選

朝読(あさよ)んの 声が嬉(うれ)しか 一(ひと)っ屋根 [諸木小春]
いま流行(はやい) 何(なん)ち読(よ)んとか 赤子(こ)ん名前 [伊地知 孝]
読(よ)ん聞かせ 途中(つと)で孫共(と)め 婆(ば)も眠(ねぶ)っ [大西学老]
五客一席 呆(ぼ)え外交(がいこ) チャイナん肚(はら)を 読(よ)ん違(ち)げっ [おんじょどい]
五客二席 答弁の 棒読(ぼうよ)み野次が 食(く)れ掛(か)かっ [津留見一徹]
五客三席 童話をば 間違(まっ)ごっ読めば 孫が叱(が)っ [佐伯山神]
五客四席 握手すい度(かし) 候補者は票(ひゅ)をば読(よ)ん [上薗佳笑]
五客五席 読(よ)んみたが 何(ない)も分からん 説明書 [中村雲海]
選者吟 偉(え)らか衆(し)は 来(こ)じ代読(だいどっ)の 多(う)け祝辞 [有川南北]

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

地(ち)い落(お)てた エース検事ん わぜ暴走(ぼうそ) [諸木小春]
家(え)い隠(か)きっ 成仏(じょうぶ)つさせん 妙な世間(しゃば) [澤津乙名]
呆(ぼ)え政府 少(ちっ)と威嚇(おど)せば 直(じ)き釈放(もで)っ [上薗佳笑]
四天王一席 暗(く)れ世相 イチロん頑張(きば)い 光明(ひか)ゆ見(み)っ [満留ぐみ]
四天王二席 表向(おもてむ)きゃ 挙党一致も 裏あ別(べっ) [楠八重渓流]
四天王三席 ペイオフち そげな心配(せわ)どん すごっあっ [石塚律子]
四天王四席 翁杉(おきなすっ) 老衰じゃろか うっ倒(と)けっ [米元年輪]
選者吟 四時間の 壁を破(やぶ)いか みずほ号 [堂園三洋]

郷句相撲 題「割(わ)っ」

横綱(東) シェルタでな 岩を割(わ)っ音(お)た 神(かん)の声 [有馬純秋]
横綱(西) 真っ二(ぷた)ち 賛否が割れた 町議会 [弓場正巳]
大関(東) 腹を割(わ)っ 語(かた)ろち飲(ぬ)だて 掘(ほ)いでけっ [伊地知 孝]
大関(西) 腹を割(わ)っ 中を見(み)ろそな 酷(ひ)で横杵(よんご) [花園ちづ]
関脇(東) 割勘(わいかん)に 下戸が立腹(はら)けた 三次会 [松元清流]
関脇(西) 諄(く)で小言(ぐぜ)い 爺(とと)あ茶碗ぬ 叩(た)たっ割(が)っ [楠八重渓流]
小結(東) 九一(きゅういっ)で 割った焼酎(しょちゅ)どん 飲(ぬ)で元気 [西ノ園ひらり]
小結(西) 大雪(うゆっ)じゃろ 竹ん割(わ)る音(お)て 目が醒(さ)めっ [中間紫麓]
筆頭(東) 焼酎(しょつ)瓶ぬ うっ割(が)っ床(ゆか)を 舐(な)め回(ま)えっ [澤津乙名]
筆頭(西) 割勘(わいかん)の 分母(ぶん)べなっちょい 堪(の)さん下戸 [吉岡道場]
二枚目(東) 割(わ)っ入(い)った 仲裁(ちゅうさ)や夫婦(みと)い 叩(たた)かれっ [新地十意]
二枚目(西) 割った壺 ボンドで付(つ)くい 悪戯坊主(われこっぼ) [江口紫朗]
三枚目(東) 草野球 ガラすば割った ホームラン [堂園三洋]
三枚目(西) 腹を割(わ)っ 語(かた)れあ良(よ)かて 犬(いん)と猫 [上山天洲]
四枚目(東) 割勘(わいかん)の 時(と)きな浴(あ)び程(ひこ) 飲(の)ん帰(もど)っ [満留ぐみ]
四枚目(西) 割れた壺 罪(つん)の被(かぶ)った 可哀相(ぐら)しタマ [中囿和風]
五枚目(東) 遺産分け 直(いっ)き取前(といめ)を 割(わ)い出(だ)せっ [畑山真竹]
五枚目(西) 割勘(わいかん)ち 飲(の)ん代(で)は下戸も ひっ負(かる)っ [井手上政暎]
六枚目(東) 割(わ)い切(き)れば 夫婦(みと)あ他人ち 吠(ほ)ゆい女房(かか) [西 幸子]
六枚目(西) ガラす割(わ)っ 雨戸を閉めた 夫婦(みと)喧嘩 [米元年輪]
七枚目(東) 肚(はら)を割(わ)っ 語(かた)ろち飲んだ 焼酎(しょちゅ)が仇(あだ) [郷田悠々]
七枚目(西) 酔(よ)くれ亭主(て)す 焼酎(しょちゅ)あ二八(にはっ)で 騙(だま)かせっ [樋口一風]
八枚目(東) 取(と)い落(お)てっ 割った花瓶に 泣(な)っでけっ [樋渡草団子]
八枚目(西) 腹を割(わ)っ 語(かた)いが言(ちゅ)たて 喧嘩(けん)けなっ [前村泰山]
親方吟(東) 肥溜(こえだめ)ん 蓋を踏(ふ)ん割(わ)っ 川(か)へ走(はし)っ [津留見一徹]
親方吟(西) 母(はほ)を手段(だ)し 口(く)つば割らせた 遣(や)い手刑事(でか) [諸木小春]

栫 路人 作品集

花生(はない)けい ヒステリ女房(かか)あ 坊主(ぼ)じなけっ
女房(かか)よっか 子供(こど)み叱(が)らるい 方(ほ)が多(う)こし
わが勝手(かっ)て 産んだたろがち 反抗期
考(かん)げごちゃ 無(ね)とか妻(かか)どま 肥(こ)えまくっ
上(あ)がらせん うだっち歳暮(せぼ)どま うっちゃめっ
背広いも 潮匂(しおかざ)がすい 浜男
横(よん)ご爺(じ)も 婆(ばば)が見(み)えんな 呼(よ)っどえっ
パンツずい 妻(かか)ん好(この)んぬ 穿(き)せられっ
父(とと)は其処(そ)け 居(お)って母(かか)さい 子は相談(そだん)
嫁が来(き)っ 家族中(けねじゅ)朝飯(あさめ)しゃ パンになっ
物忘れ すいが勅語(ちょっご)は 覚(おぼ)えちょっ
会議言(ちゅ)は 口実(だし)で当初(はな)から 焼酎(しょちゅ)が出(で)っ
猫ん名は 呼(よ)んが女房(おかた)ん 名は言(ゆ)わじ
羽釜(はがま)ずい こせだ空き巣い 唖然(あけっ)なっ
長(な)げ付合(つっ)け 女房(かか)ん正体(しょうた)ゆ まだ知(し)たじ
割勘(わいかん)で 飲(ぬ)だて酔払(よく)れん 守(も)ゆばしっ
愛の鞭(むっ) 力加減が 難(むっか)しゅし
酔(よ)い醒(ざ)めん 水(みっ)の美味(うま)さを 知(し)たん下戸
打捨(うっす)いな 惜(お)しち背広で 畑(はい)仕事(しごっ)
甘(あ)まやけっ 叱(が)らん親をば 叱(が)ろごたっ
列(れ)ち蒔(め)たて こぼれ種(だね)どが 成長(いっ)が良(ゆ)し
結婚式(ごぜんけ)で 父(とと)は泣(な)っ虫 じゃっち知(し)っ
ざっぺらっ 洗(あ)るえば姑(しゅと)が 洗(あ)る直(な)えっ
抱(だ)こしたや 雲ん切れ間ん 月(つっ)が出(で)っ

第110回南日本薩摩狂句大会 兼題「容姿(よし)」 諸木小春選

特選 持明院様(じめさあ)も 容姿(よし)じゃ負けたが 名を残(の)けっ [小瀬一峻]
秀一 家系(すっ)が良(え)で 容姿(よ)しゃ二の次(つっ)で 娶(も)ろた女房(かか) [有馬青嵐]
秀二 俺(おい)よっか 良(よ)か容姿(よ)すしちょい 案山子奴(わろ) [加塩十白]
秀三 逝(い)た亭主(とと)い 容姿(よ)しゃそっくいで 子が帰省(もど)っ [樋口一風]
秀四 容姿(よ)しゃ良(え)どん かった詐欺師ん 臭(かざ)がしっ [上山天洲]
秀五 プロ並(なん)の 容姿(よし)が恥(は)ずけた 呆(ぼ)えゴルフ [米元年輪]
軸吟 容姿(よ)しゃ女(おなご) じゃばっ切れたか 大(ふ)て地声 [堂園三洋]

第110回南日本薩摩狂句大会 兼題「兄弟(きょで)姉妹(きょで)」 楠八重渓流選

特選 生魂(いっだま)す 傘焼(かさや)き残(の)けた 曽我ん兄弟(きょで) [大重爆笑]
秀一 一人(ひとい)禿 真実(まこっ)兄弟(きょで)かち 役場(やっ)べ行(い)っ [入来院彦六]
秀二 もへ妹(いも)ち 抜(ぬ)かれっしもた 姉ん胸 [上薗佳笑]
秀三 兄弟(きょで)十人(じゅにん) 冗談(はらぐれ)んごっ 産(う)んくれっ [植村聴診器]
秀四 兄弟(きょで)ん中(な)け 何(なん)で俺(おい)だけ 小短躯(こじっくい) [堂園三洋]
秀五 赤提灯(あかちょちん) 直(いっ)き兄弟(きょ)でない 酔(よく)れ同士(どし) [永徳天真]
軸吟 兄弟(きょで)言(つ)たが ホテルい消えた 二人(ふたい)連れ [楠八重渓流]

第110回南日本薩摩狂句大会 兼題「偽物(まげ)」 樋口一風選

特選 指輪(いっがね)は 偽物(まげ)じゃが亭主(てし)の 気を貰(も)ろっ [上山天洲]
秀一 鑑定後 犬(いん)が使(つ)こちょい 偽物(まげ)ん皿 [大重爆笑]
秀二 髪(かん)の毛を 偽物(まげ)じゃ無(な)かどち 引張(そび)かせっ [入来院彦六]
秀三 成(な)い上(あ)がっ 偽物(まげもん)城で 殿気分 [諸木小春]
秀四 禿に効(き)っ 薬(くす)や産毛も 生(お)えん偽物(まげ) [澤津乙名]
秀五 黒豚ん 人気(にん)き水(み)ず差し 偽物(まげ)ん肉(にっ) [米元年輪]
軸吟 オレオレち 偽物(まげ)ん息子が 婆(ば)を狙(ね)ろっ [樋口一風]

第110回南日本薩摩狂句大会 兼題「用事(ゆし)」 永徳天真選

特選 何(ない)の用事(ゆし) じゃろかい一升(いっしゅ) 提(さ)げっ来(き)っ [有川南北]
秀一 年金日 朝一番(いっばん)に 銀行(ぎん)け用事(ゆし) [石塚律子]
秀二 用事(ゆし)が無(ね)や 来(き)ちゃいかん様(よ)な 冷(つん)て嫁 [下栗志乃]
秀三 大事(でし)な用事(ゆ)ず 一向(いっこ)言(ゆ)切(き)らん 里帰(さともど)い [大重爆笑]
秀四 用事(ゆ)じゃこいち 馬鹿息子(ご)が指(いっ)で 作(つく)い丸 [上籠若菜]
秀五 孫ん用事(ゆ)じゃ 二ヶ月(にかげ)ち一度(いっど) 年金日 [入来院彦六]
軸吟 爺(じ)と婆(ば)べな 用事(ゆ)じゃ無(ね)ち帰(もど)い 保険勧誘(とい) [永徳天真]

その他の秀句 (順不同)

下戸が家(え)な 歳暮(せぼ)ん魔王(まおう)が 床(と)け眠(ねぶ)っ [吉岡道場]
愛情ち スパイし加勢(かせ)を 貰(も)ろた料理(じゅい) [石塚律子]
嘘(うそ)嘘ち 相槌(えは)あ嘘しか 言(ゆ)わん娘(おご) [江口紫朗]
風邪ち言(ゆ)な 俺(おい)が決(き)むっち 医者が言(ゆ)っ [中囿和風]
饒舌(しゃべい )ごろ 読(よ)ん方(か)てなれば ずもいでっ [松下青雲]
順番(ばん)が来た 音痴あ歌ば 読(よ)んでけっ [折田さくら]
共白髪(ともしたが) 約束(やっじょ)を破(やぶ)っ はっ逝(じ)たっ [諸木小春]
負(ま)け惜(お)しん 破れた恋(こ)ゆば 振った言(つ)っ [楠八重渓流]
亭主(てし)の料理(じゅい) 失業(しっぎょ)すい度(かし) 上(あ)がい腕 [日隈英坊]
買(こ)っくれち 転倒(かや)った孫と 根競(こんくら)べ [西ノ園ひらり]
テープどん 掛(か)けっ偽物(まげ)坊主(ぼ)しゃ ひん帰(もど)っ [有馬青嵐]
パーティーに 行(い)こそな容姿(よし)で 参観日 [永徳天真]
良(よ)か容姿(よ)すば してんどもこも 短(みし)け脚(あし) [堂園三洋]
容姿(よ)しゃ千両(せんりょ) 噴(ふ)けば万両(まんりょ)ん 桜島 [新地十意]
私(あたい)よか 兄弟(きょで)が可愛(む)ぜ態(ふ)ん 歯痒(はが)い亭主(とと) [上籠若菜]
あの世いな 未だ用事(ゆ)じゃ無(な)かち 爺(じ)ん気迫(きはっ) [大重爆笑]
そん昔 偽物(まげ)とな知(し)らじ 惚(ほ)れた胸 [有川南北]
五十年(ごじゅねん)も 偽物(まげ)指輪(いっがね)で 使(つ)こたくっ [花園ちづ]
見合(みえ)ん席(せっ) 障子(しょし)の破れい 目が二(ふた)っ [湯前為一]
かしたん座(ざ) 座椅子を一(ひと)っ 用意(しこ)たてっ [鳥丸幸春]
良(よ)か容姿(よ)すば してんどもこも 短(みし)け脚(あし) [堂園三洋]