おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第676号

雑吟     永徳天真選

一番槍 所帯(しょて)ん繰(く)や 任(まか)せちょいくせ 多(う)け文句 [満留ぐみ]
二番槍 禿げた衆(し)は 後(うし)て並(なら)べっ はいチーズ [有馬純秋]
三番槍 服(ふ)か合(お)てん 値段が合(お)わん 試着室(しちゃっしつ) [樋口一風]
四番槍 不精(ふゆ)な女房(か)け 成(な)けたた自分(わが)ち 諦(あきら)めっ [江口紫朗]
五番槍 孫ん守(もい) 頼(たの)で飯(めし)ずい 食(く)て帰(もど)っ [楠八重渓流]
六番槍 妻(かか)ん留守(ず)しゃ 人ん出入(でい)いが ぴたっ止(や)ん [福冨野人]
七番槍 義理張(ぎいは)いの 堅(か)て女房(か)け家族(けね)は 飯(めし)と汁(しゅい) [前田あやめ]

渋柿集

栫 路人 あん世でも 添(そ)うか言(ちゅ)たなあ 誰(だい)が言(ちゅ)っ
刃向(はむ)こたや 欠点(あら)ん有(あ)い限(た)け 返(もど)っきっ
かすがいの 子どま見向(みむ)っも せじ暮(く)れっ
用事(ゆ)しゃ無(ね)どん 孫ん声聞(き)きゃ 済(す)ん電話
罹(かか)っみっ 予想(よそ)よいきっか 日射病
有川南北 国民な 蚊帳ん外(そ)て放(や)っ 党首選
骸骨(さねこっ)が 年金ぬ貰(も)ろ 長寿国(ちょうじゅこっ)
逆(さか)らえん 女房(かか)ん専決(せんけ)ち ざまね俺(おい)
元気ちゅが 八十(はっじゅ)過ぎれば 休憩(よく)どえっ
盗(ぬすと)猫(ね)け 罪(つん)な無(な)かろに 飢(ひも)じ日々
弓場正己 白骨(はっこっ)が 年金ぬ貰(も)ろ 長寿国(ちょうじゅこっ)
来(き)っやった 貰(も)ろっやったで 五十年
女房(かか)奴(わろ)が 小遣(こづけ)を又も 仕分けしっ
就活(しゅうかっ)の 戻(もど)ややっぱい 赤提灯(あかちょちん)
金持(ぜんもっ)も 貧乏(びんぶ)も長命(じゅみょ)い 差どま無(の)し
堂園三洋 敷(し)かれ亭主(とと) 料理(じゅい)の番組(ばんぐ)み メモを取(と)っ
まあ良(よ)かろ プラスマイナス ゼロん女房(かか)
縦横(たてよこ)が 余計(うご)ちゃ変わらん 女房(か)けけなっ
シュレッダで 跡形も無(な)か 呆(ぼ)えテスト
ぼろテレビ 最高(さいこ)ん場面(とこ)で 砂嵐
永徳天真 夫婦(みと)ん顔(つ)れ なっ帰(もど)っきた ハネムーン
案山子いな 破れ背広も 一張羅(いっちゃびら)
指(い)ぶ舐(ねぶ)っ 婆(ば)あ釣銭(ついせん)ぬ 数(かん)ぜ方(かた)
後(うしと)かあ おいち抱(だ)っ付(ち)た 知(し)らん奴(わろ)
眠(ね)び所(とこ)い 何事(ないごっ)かよち 睨(ねぎ)い犬(いん)

山椒集 題「偶然(まぐれ)」     有川南北選

偶然(まぐれ)宝籤(く)ず 狙(ね)ろっ沢山(そがら)し 衆(し)が並(な)るっ [入来義徳]
偶然(まぐれ)でん 愛(あい)しちょっとな 言(い)わん亭主(とと) [西 幸子]
縄のれん 偶然(まぐれ)じゃ無(ね)よな 盃(ちょっ)が集(よ)っ [福冨野人]
五客一席 偶然(まぐれ)でん 狙(ね)ろっみろかい 特選句 [伊地知 孝]
五客二席 同姓(ひとっな)を 偶然(まぐれ)で呼ばれ ど迷(まぐ)れっ [上山天洲]
五客三席 下戸亭主(おやっ) 偶然(まぐれ)電話で 席(せ)く逃(に)げっ [北村虎王]
五客四席 偶然(まぐれ)でん 合格(とお)れば良(よ)かち 子を褒(ほ)めっ [山元自在鉤]
五客五席 偶然(まぐれ)かあ 今あテレビん 主役(しゅや)きなっ [中村雲海]
選者吟 寝過(ねすご)せた 偶然(まぐれ)が事故い 遭(お)わじ済(す)ん [有川南北]

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

輸入した 塩じゃ効果(きっめ)ん 無(な)か国技 [上薗佳笑]
戸籍(こせっ)でな 江戸生(うん)まれも 娑婆しゃべ生(い)きっ [江口紫朗]
妙(す)だ市政(しせ)い とうと市民が 立(た)っ上(ちゃ)がっ [楠八重渓流]
四天王一席 何度首(く)ぶ 替(か)えてん心配(せわ)な 日本丸 [福冨野人]
四天王二席 新(に)か理事長(りじちょ) 今度(こん)だち褌(へこ)を 締め直(な)えっ [日隈英坊]
四天王三席 修繕(こそく)ゆば し通(ど)えちょっよな マニフェスト [有馬純秋]
四天王四席 興南(こうなん)が 暑(ぬ)き沖縄い 嬉(うれ)し風 [萬福平次]
選者吟 鹿児島(かごっま)を 深紅ん旗は 飛(と)っ越(こ)えっ [堂園三洋]

郷句相撲 題「短(みし)け」

横綱(東) 嫁(き)て五年 姑(ばば)ん小言(こごっ)も 短(みし)けなっ [松元清流]
横綱(西) 五七五(ごうしちご) 短(みし)け言葉が 脳(の)を苛(こ)ねっ [米元年輪]
大関(東) 爺(じ)の自慢 短(みし)こ千切れた 手打(てうっ)蕎麦 [澤津乙名]
大関(西) 短(みし)け首(く)び ネクタや始終(ねんじゅ) 狼狽(ばたぐ)ろっ [上山天洲]
関脇(東) 短(みし)けお経(きょ) 包(つつ)ん過ぎたち 妻(かか)ん愚痴(ぐぜ) [山元自在鉤]
関脇(西) 溶接(ようせっ)で 長(な)ごないめかい 短(みし)け脚(あし) [原田菊男]
小結(東) 膳ぬ前(ま)へ 短(みし)け挨拶(えさ)つば 褒(ほ)められっ [佐伯山神]
小結(西) 日の短(みし)け 昼寝(ひんね)女房(おかた)あ きいきい舞(め) [花園ちづ]
筆頭(東) 短(みし)け夏(な)つ 精一杯(せっぺ)生(い)きちょい 蝉(せっ)の声 [新地十意]
筆頭(西) 特攻隊(とっこたい) 短(みし)け命(いのっ)で 娑婆を絶(た)っ [入来義徳]
二枚目(東) 元気やち 短(みし)け電話い ほろっなっ [西 幸子]
二枚目(西) 修繕(かがい)大工(でっ) 短(みし)け柱(はした)い履(ふ)ます下駄 [中間紫麓]
三枚目(東) 好(す)っち書(け)た 短(みし)けラブレて グラッきっ [石塚律子]
三枚目(西) 女房(かか)が逝(い)っ 短(みし)け看病(かんびょ)い 残(のこ)い悔い [萬福平次]
四枚目(東) びびっ来(き)っ 短(みし)け交際(つっげ)で 結婚(ひと)ちなっ [西ノ園ひらり]
四枚目(西) 浮気亭主(とと) 此(こ)いで二度目ん 坊主(ぼし)頭(びんた) [上薗佳笑]
五枚目(東) おいあいち 短(みし)け会話(かたい)で け済(す)ん夫婦(みと) [有馬純秋]
五枚目(西) 短(みし)け足(あ)す 二人三脚(ににんさんきゃ)か 抱(で)て走(はし)っ [吉岡道場]
六枚目(東) 我(わが)は棚(た)ね 足が短(みし)けち 娶(も)れ相談(そだん) [入来創雲]
六枚目(西) 金送れ たったそしこん 子んメール [樋口一風]
七枚目(東) 老い先(さっ)が 短(みし)け言(ちゅ)ながら また貯金 [満留ぐみ]
七枚目(西) 形見(かたん)分け 丈が短(みし)けち 文句(ゆご)ちょ言(ゆ)っ [今井夢紫]
八枚目(東) 話下手 短(みし)け挨拶(えさっ)で わぜもてっ [樋渡草団子]
八枚目(西) 縄跳(なわと)っの 紐がお揶揄(ちょく)い 短(みし)け足 [福冨野人]
親方吟(東) 短(みし)けどん 掘れば掘(ほ)いしこ 深(ふ)け郷句 [津留見一徹]
親方吟(西) 襟巻(えいまっ)が 窮屈(きくっ)ぬしちょい 短(みし)け首(くっ) [諸木小春]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「くろぢょか」より抜粋)

樋之口墨矢 多(う)け親類(しんじ) 結婚式(ごぜんけ)後(あと)にゃ またお通夜
庭上(にわあ)がい 加勢(かせ)せん子供(こど)が 一番(はっぽ)馳走(ぞゆ)
飲(の)ん屋でな 平(ひら)が課長様(かちょさ)へ 下知(げ)つばしっ
堂園三洋 美味(うん)め態(ふ)で 飲(の)ん亭主(て)し止(や)めち 言(ゆ)もならじ
色直(いろなお)す すい度(た)びかった おかすなっ
消しゴムん 潰れは隣(つっ)の 字も消(け)せっ
徳永みよ子 駅(え)き出迎(でむ)け 父(ちゃん)よか土産(みや)げ 走(はし)い寄(よ)っ
食倒(じっど)れっ 億劫(よだ)くなっきた 洗(あ)れやっめ
世話好(ず)っが 出(で)ばっ叱(が)られた 夫婦(みと)喧嘩
泊 光秀 デート前 そん気でブラジャ 緩(ゆ)る締(し)めっ
色話(いろばな)し 片頬(かたふ)で笑(わ)るた 無口者(うんだまい)
手土産ち 地鶏(じど)ゆ藁苞(わらづ)て 土間(ど)め投(な)げっ
富安 醴 快気祝(かいきゆえ) 兎(うさ)ぎ食(か)すそな 野菜(やせ)ん料理(じゅい)
護謨(ぎった)毬(ま)ゆ 握(に)ぎ握(に)ぎ養生(よじょ)ん 爺(じ)の真顔
目刺(めざ)す食(く)た 舌でグルメを きし吐(か)えっ
中島小黒瀬 何時(いっ)の間(め)か 嫁女(よめじょ)ん料理(じゅい)に 慣(な)らされっ
貰(も)ろた焼酎(しょちゅ) 煤(すす)けた熨斗が ひっ付(ち)ちょい
横(よん)ご爺(じ)も 機嫌ゆ歌(う)とっ 鎌踊(おど)い
長瀬慶子 巨峰(きょほ)んよな 乳首(ちく)ば赤子ん 口(く)ち入(い)らじ
目が肥えた 今ならこげな 亭主(て)しな嫁(こ)じ
ひと夏(なっ)の 恋が生理を 打(う)っ止(と)めっ
長瀬ポンパツ 入学式(にゅがっし)き 見栄んダイヤを 光(ひか)らせっ
土用(どゆ)鰻(うな)ぐ 夫婦(みと)共(と)め食(く)ろっ 晩が心配(せわ)
苦瓜(ご)ゆ貰(も)ろっ 義理(ぎい)堅(が)て女房(かか)は 西瓜(すか)をやっ
長瀬ヨシ子 風呂水(みっ)が 気が気じゃ無(ね)とい 長電話
女房(かか)が叱(く)る 声もうぜらし 夏休(なっやす)ん
不器用(ぶきっちょ)が 挿(す)げた鍬(か)の柄(え)は 抜けどえっ
永田望桜 御馳走(ごっそ)をば 前(ま)へ待(ま)っ疲(だ)れ 長(なが)挨拶(えさっ)
着物(いしょ)姿 まん丸(まい)か尻(し)い 惚れ直(な)えっ
火事(かし)騒動(そど)い 荷を担(かた)げ出(で)た 馬鹿力
那加野黎子 雪空(ゆっぞら)い 飲(の)ん日和(びよい)じゃち 提(さ)げっ来(き)っ
七五三 連(つ)れぶし女房(かか)も 着物(いしょ)作(つく)い
取粉(あれ)ん化粧(けしょ) 田の神(かん)さあも 若(わ)こ見(み)えっ
長野マサ子 にわか客(ぎゃ)き 恥(げん)のしのさん 昼寝(ひんね)顔(づら)
酔(よく)れぼん きし諄(く)で話(はな)し 欠伸(あく)ぶしっ
孫ん守(も)い 稲刈(いねか)いよっか 疲(だ)れかぶっ
中原喜美子 島津様(しまっさあ) 桜島(しま)を築山(つっきゃ)め 眺(み)て暮(く)れっ
退職(やめ)亭主(とと)が 下知(げ)つしがなった 女房(かか)一人(ひとい)
筋(す)じょ言(ゆ)てん 声高(こえだ)け女房(かか)ん 議(ぎ)い負(ま)けっ
中間紫麓 情強(じょづ)え奴(わろ) 鯣(すいめ)は燠(おき)ゆ 抱(で)て曲(ま)がっ
後家ん鎌 研(て)だや立腹(はら)けた 悋気(じんき)女房(かか)
始業式(しぎょうしっ) 良(ゆ)遊(あ)すだ順に 黒(くろ)か顔(つら)
中村雲海 短躯(じっくい)が 吊った注連縄(いぎれ)あ 首(く)び掛(か)かっ
達筆の 割(わ)いにゃ寸志ん 少(すっ)ねこっ
運(ふ)悪(わ)り束子(そら) さしつけ便所(まな)け 使(つこ)われっ
長山克士 初雛が 広(ひ)れ床ん間も 狭(せ)もなけっ
宅急便(たっきゅびん) 鮮魚(ぶえん)も一緒(ひと)ち掻(こさ)っ込(く)っ
よか娘(おご)が 青年(にせ)ん心臓(しんぞ)を 躍(おど)らせっ
永吉モンロー 雪(ゆっ)の肌(は)で 灸(えつ)も遠慮(えんじょ)を して燃(も)えっ
目も耳(みん)も 口(くっ)ずい適(か)のた 歯痒(はが)い姑(しゅと)
逃げ腰で 養子(よし)が吠(ほ)えちょい 夫婦(みと)喧嘩

その他の秀句 (順不同)

簡単で 要(よ)を得ませんち 長(な)げ挨拶(えさっ) [郷田悠々]
年金ぬ 貰(も)ろ始(で)た女房(かか)が 上い立(た)っ [吉岡道場]
亭主(てし)も息子(こ)も 頭(びんた)は大(ふ)てが 少(すっ)ね脳 [萬福平次]
無理矢理(むいやい)に 解った顔(つら)ん ピカソ展 [諸木小春]
損じゃっち 言(ゆ)かたで添(そ)ゆい 商売(あっね)上手(じょし) [大脇保子]
見てくれち 臍(へそ)も打(う)っ出(で)っ 女子ゴルフ [盛岡淑平]
味噌樽(みそだい)が ホテルん中で け迷(まぐ)れっ [樋口一風]
金(ぜん)金(ぜん)ち 息(いっ)の出(で)い度(かし) きし吐(か)えっ [桜井吹雪]
赤(あ)け糸が 偶然(まぐれ)で一緒(ひと)ち 雨宿(あまやど)い [諸木小春]
偶然(まぐれ)でん 当(あ)たやきっせん 宝籤(たからくし) [楠八重渓流]
帰(もど)い道(み)ち 手招(てまね)くしちょい 赤提灯(あかちょちん) [津留見一徹]
毎日(めにっ)待(ま)っ 偶然(まぐれ)で会(お)たち 顔(つら)をしっ [佐伯山神]
出張(しゅっちょ)かあ 帰(もど)れば最早(もへ)ち 顔(つら)ん女房(かか) [工藤天然]
送(おく)っじっ 帰(もど)いが恐(お)じち 送(おく)らせっ [鞆田紅花]
俺(おい)も俺 君(わい)も君じゃち 長(な)げ無沙汰 [大器]
忙(せわ)し盆 僧侶(ぼし)も説教(せっきょ)を 間引(まび)くしっ [伊地知 孝]
高(た)け鼻い 種が違(ち)ごがち きし吐(か)えっ [桑元行水]
釣った魚(いお) 見せちゃ冷凍庫(れいと)い また納(な)えっ [中間紫麓]