おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第666号

雑吟     永徳天真選

一番槍 飲(の)ん相手(えて)も 居(お)らじ淋(とぜん)ね 寄(よ)い正月(しょがっ) [中間紫麓]
二番槍 五人の子 一人(ひとい)の親を 持(も)て余(あ)めっ [前田あやめ]
三番槍 好(す)っじゃっち 下手な嘘でん 嬉(うれ)しゅなっ [西迫順風]
四番槍 鍋ん蟹(がね) 蓋を担(かた)げて 逃げ出(だ)せっ [谷村まさゑ]
五番槍 桜島(しま)大根(でこん) 女房(かか)も負(ま)くそな 大(ふと)か尻(しい) [木佐貫白猫]
六番槍 ほとびって 皺が伸びたか 風呂上(あ)がい [佐伯山神]
七番槍 絵手紙(えてがん)に 描(け)て欲(ほ)し物(もん)の 催促(せず)っ来(き)っ [福原福多]

渋柿集

栫 路人 飲(の)めんどん 正月(しょがっ)の御神酒(おみき) だけは飲(の)ん
子ん御蔭(おかげ) ハトバスい乗(の)っ 御所も観(み)っ
羽田(はね)で着(ち)っ 中憩(なかよく)をせな 出口(でぐ)ちゃ来(こ)じ
一晩(ひとよさ)で 半月(はんつっ)食(く)しこ 取(と)いホテル
実(み)が生(な)らん 隣(とない)の柿(かっ)の 心配(せわ)をえっ
有川南北 煩(うぜら)しで 此の頃(ご)ら女房(かか)と 諍(いさ)こわじ
口答(くっごた)え そゆば真似すい 九官鳥(きゅうかんちょ)
女房(かか)許(ゆる)せ 共に白髪(したが)が 俺(お)や禿(はげ)っ
人も訪(こ)ん 老人(おんじょ)世帯(しょて)いも 来た正月(しょがっ)
不精(ふゆ)なこっ まだアナログん 古(ふ)りテレビ
弓場正己 村芝居 剣劇(けんげ)か舞台(ぶて)を 踏(ふ)ん穴(ほ)げっ
裏金も 表金(おもて)も全部(ずるっ) 俺(おい)が税
渋滞の 先頭(はな)はもみじん 爺(じ)が車(くいま)
習(な)れ事(ごっ)も 上手(じょし)と下手でな 気が合(お)わじ
情(じょ)を殺(こ)れっ 工事中止ん 八ツ場(やんば)ダム
堂園三洋 息(せ)が切(き)れっ ハーフタイムん 夫婦(みと)喧嘩
週(しゅ)い二度は 休刊日をち 医者ん無理(むい)
俺宅(おいげえ)ん ファーストレディあ やんかぶっ
エプロンで 涙(なんだ)をば拭(ぬ)ぐ 敷(し)かれ亭主(てし)
若(わ)け頃ん 二倍(にば)やあろそな 女房(かか)ん幅
永徳天真 惜(あった)らか 新車をボコッ 凹(へこ)ませっ
笑(わ)るもせん 立腹(はらか)っもせん 倦怠期
プレセント 呉(く)れたて御礼(ごれ)ん キスも無(の)し
ええああち 何度言(ゆ)たろか 挨拶(えさっ)下手
教(ゆっか)せた 宿題(しゅくだ)や間違(まっ)げ 恥(げん)ね父(ちゃん)
植村聴診器 腹回(はらまわ)ゆ そろいと計(はか)い 正月(しょがっ)明け
賽銭に 就職(しゅうしょ)く願(ね)ごた 初詣
老夫婦(おんじょみと) ちんとお屠蘇で 無事(ぶ)ず祝(ゆお)っ
除夜ん鐘 夜勤介護ん 最中(さな)け聞(き)っ
息(い)く殺(こ)れっ 耳(みん)で様子(よ)す見(み)い 子供(こどん)部屋

山椒集 題「呼(よ)っ」     有川南北選

妙(す)だ事(こっ)じゃ 呼(よ)っもせん奴(と)が 上座(かん)ぜ居(お)っ [満留ぐみ]
呼(よ)っ付(つ)けっ 叱(が)ろち思(おも)たて 提(さ)げっ来(き)っ [松元清流]
大(ふ)て声で 呼(よ)だや恥(げん)なか 人(ひと)間違(まっ)げ [田中末木]
五客一席 飯(めし)最中(さな)け 飲(の)んの呼出(よっだ)し 飛(つ)で行(い)たっ [諸木小春]
五客二席 呼(よ)っもせん 知(し)っちょいどんが 波(な)む立(た)てっ [小瀬一峻]
五客三席 また君(わい)か 職員室(しょくいんしっ)が 呼(よ)っ付(つ)けっ [樋口一風]
五客四席 胃カメラが 女房(かか)も一緒(いっど)き 呼(よ)っ出(だ)せっ [北村虎王]
五客五席 助けをば 呼(よ)って届(と)じかん 怖(おじ)か夢 [樋渡草団子]
選者吟 遅(お)そか筈(はっ) 呼(よ)び行(い)た奴(わろ)が ミイれなっ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

核(かっ)核(かっ)ち 叫(お)れっ歩(さ)りたで 平和賞 [石塚律子]
マニフェスて 民主あ手足(てあ)す 縛(きび)られっ [江口紫朗]
小泉(こいずん)も 今じゃ槍玉(やいだ)め 挙(あ)げられっ [大西学老]
四天王一席 アメリカが ちんちん釘(く)ぐば 刺(さ)せっ来(き)っ [津留見一徹]
四天王二席 首相(しゅしょ)外相(がいしょ) 嬉(うれ)しゅたまらじ 飛(つ)っ歩(さ)れっ [有馬純秋]
四天王三席 ワクチンぬ 打(う)っずい保(も)っか 老人(おんじょ)五体(ごて) [入来創雲]
四天王四席 ゴルフ球(だ)め 薩摩隼人ん 意地を見(み)っ [吉岡道場]
選者吟 銅像で 郷里(さ)て帰(もど)っ来(く)い 天璋院(てんしょいん)

郷句相撲 題「餅(もっ)」

横綱(東) 久振(さしかぶ)い 餅(も)つ搗(つ)っ音い 立(た)っ止(ど)まっ [松元清流]
横綱(西) 杵(きね)ん調子(ちょ)す ど鈍(ぬ)り手混(てま)ぜが 狂(くる)わせっ [樋口一風]
大関(東) メタボ腹 餅(もっ)で一段(いっだん) ち膨(ふく)れっ [満留ぐみ]
大関(西) 搗(つ)っ上(きゃ)げた 餅(も)つ婆(ば)あ素手で 笊(しょ)け投(な)げっ [久永桂心]
関脇(東) 餅(も)つ搗(つ)っけ 帰(もど)っけ言(ちゅ)たや 要(い)らん言(ちゅ)っ [二見愚楽満]
関脇(西) 雑煮餅(もっ) 大(ふ)て八(や)っ頭(がし)れ 背負(かい)われっ [花園ちづ]
小結(東) ダイエッて 誠(まこ)ち厄介(やっけ)な 焙(あぶ)い餅(もっ) [諸木小春]
小結(西) 冗談(はらぐれ)で 故意(わざ)っマドンね 重ね餅(もっ) [上薗佳笑]
筆頭(東) 金(ぜん)が良(え)ち 餅(も)ちゃ拾(ふ)る人(て)も無(ね) 上棟祝(じょうとゆえ) [石塚律子]
筆頭(西) 繭(め)の餅(もっ)も 踊(おど)い加(かた)った 寄(よ)い正月(しょがっ) [津留見一徹]
二枚目(東) 家族中(けねじゅ)揉(も)ん 大(ふ)つ小(こ)む並(な)るだ 笊(しょけ)ん餅(もっ) [北村虎王]
二枚目(西) 餅(も)つ食えば 長(な)げ鼻髭(はなひげ)が 絡(から)ん付(ち)っ [中村雲海]
三枚目(東) 甘藷(かいも)餅(も)ち 杵(きね)を取(と)られっ 座(すわ)い込(く)ん [盛満椒平]
三枚目(西) 総入歯(がんぶ)ゆば 餅(もっ)の吸物(すもん)が 揶揄(ちょく)らけっ [入来義徳]
四枚目(東) 安(や)し方(ほ)をば スーパーで買(こ)た 鏡餅(かがんもっ) [植村聴診器]
四枚目(西) 枕元(まくらも)て 餅(も)つば飾った 長入院(ながねおい) [弓場正巳]
五枚目(東) 機械餅(も)ちょ どぞこぞ言(ゆ)てん 楽(だ)きけ済(す)ん [西 幸子]
五枚目(西) 一凹(ひとくぼ)ん 繭(め)の餅(もっ)で婆(ば)あ 豊作(さ)く祈(いの)っ [田中末木]
六枚目(東) 杵(きね)と臼(う)し 飾餅(ゆえも)つ供(あ)げっ 幸運(ふ)を願(ね)ごっ [畑山真竹]
六枚目(西) 餅搗(もっつ)くば 子供(こど)み見(み)すっち 田舎(さ)て帰(もど)っ [江口紫朗]
七枚目(東) 送(おく)い餅(も)つ 早々搗(ち)ちょい 老夫婦(おんじょみと) [山田竜生]
七枚目(西) 餅(も)つ背負(かる)た 孫い家族中(けねじゅ)が 付(ち)て声援(おら)っ [桑元行水]
八枚目(東) 機械餅(も)ちゃ 落(お)て着(ち)っの悪(わ)り 味(あっ)がしっ [新地十意]
八枚目(西) 五穀豊穣(ごこっほじょ) 願(ね)ごた繭(め)の餅(も)つ 花ん如(ご)っ [楠八重渓流]
親方吟(東) 運(ふ)を願(ね)ごた 鬼火焚(おねっこ)ん餅(も)ちゃ 燠(おき)いなっ [吉岡道場]
親方吟(西) 上棟式(むねあげ)い 紅白(こうはっ)の餅(も)つ 四方(しほ)い撒(め)っ [入来創雲]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「くろぢょか」より抜粋)

上田 格 十人(じゅにん)家族(げね) 一(ひと)騒動(そど)なかや 飯(め)しゃ済(す)まじ
絵日記い 書けち西瓜(すか)どん 買(こ)て戻(もど)っ
雪(ゆ)く見(み)てん 座(すわ)っ吠(ほ)えちょい 老犬(おんじょいん)

第108回南日本薩摩狂句大会 兼題「丁寧(てね)」 石塚律子選

特選 丁寧(てね)い書(け)た 愛の手紙(てがん)に 返事(へし)が来(こ)じ [堂園三洋]
秀一 上手(じょし)じゃ無(ね)が 丁寧(て)ね書(け)た賀状(がじょ)い 情(じょ)が通(かよ)っ [前田あやめ]
秀二 品(ひん)のあい 鹿児島弁(かごっまべん)で 丁寧(て)ね挨拶(えさっ) [諸木小春]
秀三 見合(みえ)ん座ん 丁寧(てね)な物腰(ものご)し 騙(だま)されっ [稲田切株]
秀四 横断(わた)い終(と)っ 最敬礼の ランドセル [中村雲海]
秀五 韮(にら)ん葉い 凄(わざ)い土産ん 丁寧(てね)な事(こっ) [原田菊男]
軸吟 食(く)て寝(ね)ちょい 犬(いん)が俺家(おいげ)じゃ 丁寧(てね)されっ [石塚律子]

第108回南日本薩摩狂句大会 兼題「始終(はいと)」 楠八重渓流選

特選 始終(はいと)逢(お)て キッスも出来(でけ)ん 初心(うぶ)な青年(にせ) [弓場正巳]
秀一 煩(うぜら)しか 始終(はいと)メールん 好(す)かん青年(にせ) [今釜三岳]
秀二 可哀相(むい)ねこっ 逝(い)た婆(ば)を始終(はいと) 爺(じ)あ探(さ)げっ [下栗志乃]
秀三 拉致ん事(こ)ちゃ 始終(はいと)催促(せず)かにゃ 埒(だ)ちゃあかじ [石塚律子]
秀四 退職(やめ)っかあ 始終(はいと)居(お)い亭主(て)しゃ 煩(うぜら)しゅし [江口紫朗]
秀五 謝罪(ことわい)な 幹部が始終(はいと) 首(く)ぶ垂(た)れっ [上籠若菜]
軸吟 晩酌(だいやめ)あ 始終(はいと)欠(か)かさん 健(さか)し親爺(とと) [楠八重渓流]

第108回南日本薩摩狂句大会 兼題「夫婦(みと)」 樋口一風選

特選 言(ゆ)わんでん 顎(あご)で用事(ゆ)じゃ済(す)ん 老夫婦(おんじょみと) [花園ちづ]
秀一 金婚で やっと落(お)て着(ち)た 夫婦(み)て戻(もど)っ [吉岡道場]
秀二 夫婦(みと)喧嘩 ガッツポーズあ 年中(ねんじゅ)女房(かか) [入来院彦六]
秀三 鍋い蓋 がっつい合(お)ずや 暇が要(い)っ [石塚律子]
秀四 夫婦(みと)喧嘩 しながあ保(も)った 五十年 [有馬湧声]
秀五 良(よ)か所(とこ)ゆ 世間に見(み)すい 仮面夫婦(みと) [中村雲海]
軸吟 両親(おや)んよな 夫婦(みと)いなろやち 新婚(といえ)当初(はな) [樋口一風]

第108回南日本薩摩狂句大会 兼題「息(いっ)」 中村雲海選

特選 故郷(さ)て着(ち)たや 風も美味(うん)めち 大(ふ)とか息(いっ) [池畑鉄亀]
秀一 倦怠期 我(わ)が家(え)じゃ息(いっ)も すごちゃ無(の)し [池畑鉄亀]
秀二 開(あ)けっ見(み)っ 溜息(うい)くつかせた 通知表 [樋口一風]
秀三 息(い)く止(と)めっ 抱(だ)っ付(ち)た相手(えて)あ レントゲン [福冨野人]
秀四 息(いっ)の合(お)た 三十人走(さんじゅにんそう) 見事(みご)て脚(あし) [二見愚楽満]
秀五 息(いっ)もせじ 蛇口(じゃぐ)ち食(く)れ付(ち)た 昨夜(ゆべ)ん虎 [花園ちづ]
軸吟 大世間(うぜけん)が 一番(いっばん)嫌(き)ろた 大蒜(ひい)の息(いっ) [中村雲海]

その他の秀句 (順不同)

孫よっか 爺(じ)さんが嬉(うれ)し 独楽(こま)回し [花園ちづ]
頭(びんた)せえ 視線ぬ移(う)ちっ 歳(と)す探(さぐ)っ [樋口一風]
只(ただ)貰(も)れん 女房(かか)を五十年(ごじゅねん) 使(つ)こたくっ [諸木小春]
初夢あ 亭主(とと)ん鼾(いびっ)が 見(み)せもせじ [田中末木]
今年くさ 今年くさ言(ちゅ)て また正月(しょがっ) [樋渡草団子]
少(ち)す焼酎(しょちゅ)を 点滴(てんて)き入れち 爺(じ)は冗談(わやっ) [北村虎王]
潜(もぐ)い込(く)で 亭主(て)しょ叫(おら)ばすっ 冷え性(しょ)女房(かか) [萬福平次]
一年(いっねん)の 計(けい)が立(た)て難(に)き 九十(くんじゅ)坂 [中間紫麓]
仕様(しよ)が無(な)か 馬(うんま)ん骨が 孕(はら)ませっ[中村雲海]
呼(よ)ばこ亭主(てし) おいからちゅ名の 妻(かか)いなっ [植村聴診器]
ちゃん付(づ)けが 娶(も)ろたや直(いっ)き 呼(よ)っ捨(す)てっ [津留群志]
呼(よ)ばれてん 財布(ふぞ)が迷惑(めわっ)の 披露宴 [西 幸子]
指切(ゆびき)いで 長生(ながい)くしてち 可愛(む)ぜ約束(やっじょ) [永徳天真]
相撲(すも)あ駄目(ぼっ) 派手な塩撒(しおま)き 観客(みて)が沸(うぇ)っ [楠八重渓流]
入院(にゅいん)ぬば 逃げ道(み)ち準備(しこ)た 汚職(おしょっ)騒動(そど) [上村牛歩]
土下座ずい した約束(やっじょ)じゃが また浮気 [永徳天真]
割勘(わいかん)の 約束(やっじょ)を酔漢(とら)あ け忘(わす)れっ [野崎満夫]
オギャー言(ちゅ)っ スタートしたが もへ米寿 [上薗佳笑]
検問な 大蒜(ひい)臭(く)せ息(いっ)も やれ嗅(かず)ん [工藤天然]
息(い)く止(と)めっ 抱(だ)っ付(ち)た相手(えて)あ レントゲン [福冨野人]
色話(いろばな)す すればまだ笑(わ)る 百歳(ひゃっ)の祝(ゆえ) [津留見一徹]
カーナビが 知(し)たん小路(しゅっ)ずい 丁寧(て)ね誘導(さそ)っ [中村雲海]
夫婦(みと)いなっ 動悸(とため)た胸も 今溜息(ういっ) [入来院彦六]
息(いっ)の根も引張(そび)っ出(だ)さそな激はげしキス [稲田切株]
正月(しょがっ)腹 七日(なんか)雑炊(ず)す食(く)て 元(も)て戻(もど)っ [原田菊男]