おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第664号

雑吟     永徳天真選

一番槍 衣替え ないよか嬉(うれ)し 札(さ)ち出合(でお)っ [吉丸セツ子]
二番槍 残(のこ)い火を 消(け)そも甘藷(かいも)が 顔(つら)を出(で)っ [久永桂心]
三番槍 目刺(がらんつ)党(と) 取(と)れん鮪(まぐろ)い 心配(せわ)は無(な)し [中間紫麓]
四番槍 自分(わ)が五体(ごて)を 長(な)ご保(も)ついねち 撫(な)でっやっ [有馬純秋]
五番槍 今日(きゅ)は代行(だいこ) 思(と)もえば気楽(きだ)き 美味(うん)め焼酎(しょちゅ) [山田竜生]
六番槍 元(もと)が元(もと) 大概(てげ)なエステじゃ 効(しょ)はうたじ [石塚律子]
七番槍 鼾(いび)くけっ 嫁ん悪口(あっご)を 聞(き)ちょい姑御(しゅと) [前田あやめ]

渋柿集

栫 路人 一汗(ひとあせ)を かこち息切(せぎ)れが 先(さ)き訪(こと)っ
新聞な 裏かあ順に 読(よ)ん親父(おやじ)
先(さ)きけ寝(ね)い 女房(かか)い文句(じじら)が 言(い)えん亭主(てし)
実印な 出番が無(の)して 飾(かざ)られっ
日帰(ひげ)い言(ちゅ)が かった無心に 来た娘(むいめ)
有川南北 北風い ドカ灰(べ)あ鹿屋(かの)へ 向(む)く変(か)えっ
風邪ん女房(か)け 焼酎(しょちゅ)ん燗しか 出来(でけ)ん亭主(とと)
発熱(ねっ)の女房(かか) 台所(おすえ)ん亭主(とと)い 寝(ね)ちゃおれじ
麻薬若者(にせ) 煙草気分で 手を染(そ)めっ
法(のり)ピーを 可哀相(ぐら)し思(と)もたい 馬鹿言(ちゅ)たい
弓場正己 人望は 無(な)かが切(き)れ手で 役(やっ)が付(ち)っ
集団で 芥(ごん)ぬ置(え)て行(い)た バスツアー
好(す)かん姑(ばば) 来れば犬(いん)ずい 尻(し)ゆ向(む)けっ
バイキング 食(く)もせん品(しな)を 皿(さ)れ小積(こず)ん
口諍(くっいさ)け 黙(だま)い込(く)だ女房(か)け 亭主(て)しゃ負(ま)けっ
堂園三洋 美味(おい)しゅ無(ね)ち 薬(くす)ゆ吐(は)っ出(だ)す 厄介(やっけ)な子
宝籤(く)じ当(あ)たっ 天文館(てんもんかん)で 派手い飲(や)っ
除草剤(じょそうざ)ゆ 撒(め)たよな頭(びん)て 年中(ねんじゅ)帽子(ぼし)
凄(わ)ぜ蝉(せっ)が 叫(おら)っ思(と)もえば 耳(みん)の中
甘党(あまと)いな プリンに見(み)ゆい 桜島
永徳天真 狭(せ)べ土地(じだ)い ぎっちぎっちん 新築家(しんたっえ)
総入歯(がんぶい)にゃ しゃぶいでがあい ぬれ煎餅(せんべ)
ああ言(ゆ)えば こう言(ゆ)うまこて 術(じゅっ)ね女房(かか)
冗談(わやっ)かと 思えば本音 少(ち)す混(まじ)っ
烏合(うご)ん衆(し)い ならんか心配(せわ)な 民主党
植村聴診器 消灯ん 病室(びょうしっ)の向(む)け 赤提灯(あかちょちん)
病室(びょうし)ちも 女(おなご)部屋どま 笑(わ)れがあつ
心臓病(しんぞびょ)を 手術(き)い同意書い 震(ふる)っ印(はん)
心不全 イケメンドクて 悪化(わ)るしなっ
男(おとこ)部屋 美人(シャン)のナースで 揉(も)め出(だ)せっ

山椒集 題「舞台(ぶて)」     有川南北選

舞台裏(ぶてうら)で 鳩(はと)を繰(あやつ)い ドン小沢 [おんじょどい]
舞台(ぶて)一杯(いっぺ) 汗が迸(とばし)い 娘御(おごじょ)太鼓(でこ) [井手上政暎]
のど自慢 舞台(ぶて)かあ娘(おご)は 郷里(さ)てエール [北村虎王]
五客一席 発表会(はっぴょかい) 舞台(ぶて)ん袖かあ 心配(せわ)な母親(はほ) [楠八重渓流]
五客二席 舞台(ぶて)ん祝儀(はな) 中途(ちゅと)で拾(ひ)るちょい 可愛(む)ぜ踊(おど)い [入来創雲]
五客三席 煤(すす)け婆(ば)ん 奇妙(とっぴ)な振(ふ)いで 弾(はず)ん舞台(ぶて) [東 松子]
五客四席 選挙戦 舞台(ぶて)ん土下座が 板い付(ち)っ [石塚律子]
五客五席 狭(せ)め舞台(ぶて)い 槍を振(ふ)い難(に)き 黒田節 [米元年輪]
選者吟 人見知(ひとみし)ゆ したか舞台(ぶて)でな 何(ない)もせじ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

歌姫を 麻薬(まやっ)が地獄(じご)き 引張(そび)っ込(こ)ん [桑元行水]
バラ色ん 国(くん)が待(ま)っちょい マニフェスト [吉岡道場]
驚(たまが)った 駝鳥(だちょ)も顔負け 世界新 [石塚律子]
四天王一席 平成の 関が原じゃろ 衆議選 [山田竜生]
四天王二席 南北(なんぼっ)の 垣根(かっね)を越(こ)えっ わぜ葬式(おんぼ) [佐伯山神]
四天王三席 死(し)ん様(ざま)が 哀れでならん 女優(じょゆ)麗子(れいこ) [諸木小春]
四天王四席 鶴んしこ 進出企業(しんしゅっきぎょ)が 欲(ほ)し出水いずん [津留見一徹]
選者吟 五百万人(ごひゃくまん) 素麺(そめん)ぬば食(く)た 唐船峡(とうせんきょ)

郷句相撲 題「橋(はし)」

横綱(東) 橋(は)す渡(わた)っ 後塞(あとぜっ)がした 凄(わ)ぜ濁流(だくりゅ) [西ノ園ひらり]
横綱(西) 布令(ふれ)が後手 洪水(うみ)じゃ橋をば 鵜呑(ぐの)みしっ [永里つる女]
大関(東) 度胸(どきょ)試し 橋の上かい 飛(と)っ降(お)りっ [澤津乙名]
大関(西) 葛橋(かずらば)す 村ん総出で 編(あ)ん上(や)げっ中村雲海
関脇(東) 恋の橋(は)しゃ 渡(わた)さじ我(わが)が 物(もの)いしっ [佐伯山神]
関脇(西) 長(な)げ願(ね)げん 大橋(おおは)し祝(ゆえ)ん 渡(わた)い初(ぞ)め [井手上政暎]
小結(東) 虹ん橋(は)す 夕立(さだ)ちゃ浮(う)かせっ 忙(せわ)しゅ去(さ)っ [新地十意]
小結(西) 村ん橋(は)す 大水(うみっ)が集(たか)っ 鵜呑(ぐの)みしっ [上山天洲]
筆頭(東) 吊(つ)い橋の 途中(つと)で後悔(くけ)しっ しがん付(ち)っ [西 幸子]
筆頭(西) 文化財(ぶんかざ)い なって石橋(いしば)しゃ 生(い)っ残(のこ)っ [米元年輪]
二枚目(東) 丸木橋(まるきば)しゅ 飛(と)っ込(こ)ん台に 餓鬼ん夏(なっ) [諸木小春]
二枚目(西) 橋が無(の)し 目と鼻じゃって 凄(わ)ぜ大廻(まわ)い [萬福平次]
三枚目(東) 眠(ね)た児(こ)をば 起(お)こせっ見(み)すい 虹ん橋 [日隈英坊]
三枚目(西) 三五郎(さんごろ)が 通潤橋(つうじゅんきょう)い 虹(に)ず残(の)けっ [楠八重渓流]
四枚目(東) 小(こ)め溝ん 丸太ん橋(は)すば 踏(ふ)ん外(は)じっ [津留群志]
四枚目(西) あん陸橋(りっきょ) 渡(わた)いか五体(ごて)い 相談(そだん)しっ [福原福多]
五枚目(東) 危(あっ)ね橋(は)す 渡(わた)っ女優あ 牢屋(ずや)で後悔(くけ) [石塚律子]
五枚目(西) 渡(わた)い方(か)て 中途(つと)で腹這(すぼ)でた 丸木橋 [江口紫朗]
六枚目(東) 過疎ん郷(さ)て 一流(いちりゅ)言(ちゅ)おそな 橋(は)しゅ架(か)けっ [畑山真竹]
六枚目(西) 暴れ川 甲突川(こうつっがわ)ん 橋(は)す移設(なえ)っ [上瀬明星]
七枚目(東) 朴強者(ぼっけもん) 下駄で丸太ん 橋(は)す渡(わた)っ [山田竜生]
七枚目(西) 美人(よかおご)を 風がちょくった 葛橋(かずらばし) [津留見一徹]
八枚目(東) 畏(かしこ)みて 畏(かしこ)み渡(わた)い 二重橋 [山元自在鉤]
八枚目(西) 故郷(さと)ん橋 渡れば母親(はほ)が 迎(む)けめ来(き)っ [原田菊男]
親方吟(東) 吊橋(ついば)すば 揺(ゆ)すっ女房(かか)をば 叫(おら)ばせっ [吉岡道場]
親方吟(西) 丸木橋(まるきば)す 睨(ねぎ)っ走った 酔(よく)れ亭主(とと) [入来創雲]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「くろぢょか」より抜粋)

上畝 勇 多(う)け子供(こど)み つかんかぶって 世帯(しょて)暮らし
金(ぜん)な無(ね)て 買物(けもん)の多(う)さよ 年の暮れ
皮切(かわき)いの ハンヤ節(ぶし)から 座が弾(はず)ん
上鶴信義 放蕩(どら)息子 頑丈(がんじょ)なビルを 飲(の)んくえっ
生字引(いっじびっ) 役場(やっば)ん隅(すん)で 埃(ごん)くろっ
湯治(とっ)の宿 手拭(てのげ)を頭(びん)て 歌も出(で)っ
上鍋平句郎 米目当て 家族(けね)で収穫(とい)れん 加勢(か)せ帰(もど)っ
旅(たっ)土産 餞別(せんべ)ち合(お)よな 物(もん)が無(の)し
郷中(ごじゅ)ん集(よ)い 焼酎(しょちゅ)が出(で)っから 議(ぎ)がはずん
川崎てい女 利口(じく)な嫁 毎晩(めばん)按摩で 舵(か)じゅば取(と)っ
術(じゅっ)ね女房(かか) 酌(しゃ)くばしかたで 釣(つ)いまえっ
一番茶(いっばんちゃ) 知覧訛(なま)いが 味(あ)ず添(そ)えっ

その他の秀句 (順不同)

仏壇(ぶっだん)に 位牌(いへ)ずい貰(も)ろた 運(ふ)の良(え)猫 [諸木小春]
婆(ば)ん下着(した)ぐ 盗(と)った奴(わろ)をば 見(み)ろごちゃっ [前村幸治]
三次会 度々(はたれっ)財布(ふぞ)を 探(さぐ)っみっ [吉丸セツ子]
菓子(か)しゅ沢山(ずばっ) 準備(しこ)っメタボん テレビ番 [諸木小春]
落(お)ち目(め)なっ 覚醒剤の 馬力(ばり)く借(か)っ [中村雲海]
股座(またばい)の 膏薬(こや)く両方(まんぼ)で 票(ひゅ)い積(つ)もっ [樋口一風]
最後尾(げ)つ走い 子供(こど)み血統(す)ず言(ゆ)っ 夫婦(みと)諍(いさ)け [入来創雲]
子も育(おえ)っ 両親(おや)も看取(みと)って 余生(よせ)が来(き)っ [有馬純秋]
買(こ)うて後悔(くけ) 買(こ)わんで後悔(くけ)ん 抽選日 [大脇保子]
古米(ふいごめ)で 手ぶらん嫁い 返報(かた)ぐ取(と)っ [北村虎王]
犬(いん)と猫 小路(こしゅっ)でくりっ 後返(あとがえ)っ [山田竜生]
晴れ舞台(ぶて)は 一生一度(いっしょいっど)ん 披露宴 [新地十意]
家計簿を つくい程(しこ)も無(ね) 亭主(てし)の給料(はれ) [石塚律子]
栄転祝(おくいゆえ) 僻(ひが)んで割った 苦(にが)か焼酎(しょちゅ) [中囿和風]
スピーチい 僻(ひが)んも混(まじ)い 玉の輿 [楠八重渓流]
女(おなご)かあ 電話ち女房(かか)ん 大(ふと)か声 [上山天洲]
打捨(うっす)いな 惜(お)しち背広で 畑仕事(はいしごっ) [栫 路人]
言(ゆ)ちゃ悪(わ)いが 惚気(のろ)くい程(ほど)ん 顔(つら)じゃ無(の)し [工藤天然]
叩(たた)っ上(あ)げ 大卒(だいそっ)の議(ぎ)を 黙(だま)らせっ [津曲とっこ]
割り勘で 愚痴(ぐぜ)も小言(こごっ)も 聞(き)かされっ [弓場正巳]
焼酎(しょちゅ)好(ず)っが 泡(ぶっ)の出(で)っとは 飲(の)まん言(ちゅ)っ [仁有]
二時間後 軽(か)り壺を抱(で)っ また涙(なんだ) [中間紫麓]
絶交(みっぎい)の 手紙(てが)みゃ切手を 逆(さか)せ貼(は)っ [内村仏心]
大法螺(うぎら)亭主(て)し 驚(たまが)い上手(じょし)の 友達(どし)が訪(き)っ [東 竜王]
謝罪(ことわ)いけ 行(い)っ前まへ子供(こず)と 稽古(けこ)をしっ [中村雲海]