おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第657号

雑吟     永徳天真選

一番槍 新学期 子い螺子(ね)じゅば巻(ま)っ 教育(きょいっ)ママ [満留ぐみ]
二番槍 担任ぬ 当(あ)たい外(はず)れち 値踏(ねぶ)むしっ [石塚律子]
三番槍 華奢じゃいが 筋金(すっがね)入(い)いが 農業(さ)く守(まも)っ [中村雲海]
四番槍 長(な)ご臥(ね)らじ 逝(い)っがなればち 婆(ば)の望(のぞ)ん [松元清流]
五番槍 不景気も 知(し)たじ今年も 咲(せ)た桜 [郷田悠々]
六番槍 勉強(べんきょ)好(ず)っ じゃったろ二度も留年(りゅねん)しっ [種子田 寛]
七番槍 蝸牛(つんぐらめ) 百足(むかで)ん足(あ)すば やれ妬(しょの)ん [樋之口墨矢]

渋柿集

栫 路人 寒(さん)か言(ちゅ)っ 容姿(よし)も構(かん)まじ 着脹(きぶく)れっ
仲良(なかえ)夫婦(みと) 思(と)もっ聞(き)ちょれば 金(ぜん)工面
図書券な 全部(ずるっ)漫画い ひっ使(つ)こっ
方(ほ)が無(ね)でち メモい書(け)たとが 見(み)しからじ
け躓(つま)じっ 赤恥(あかは)ずばけた 納屋(なや)ん馬場(ばば)
有川南北 芋育(そだ)っ 田舎(いなか)訛(なま)いが 抜(ぬ)けきらじ
冷(ひ)やかせっ 貶(けな)せっ楽(たの)し へぼゴルフ
子供会 玄関(ふんご)ま靴(くっ)が 踊(おど)ゆしっ
小(ちん)け児(こ)も 仕事(しご)つ分担(わ)けちゃい 子分限者(こぶげんしゃ)
温和(な)ち亭主(おやっ) 車(くいま)い乗れば 牙(きば)を剥(み)っ
弓場正己 世は不況 負(ま)けじ花見(はなん)で 憂さ晴らし
桜どま 咲(せ)たか散ったか 職(しょく)探(みし)け
呉(く)るっ言(ちゅ)で 貰(も)ろが使(つ)こわん 給付金
天下(あまくだ)い 渡(わた)い無縁の 落葉(おちば)亭主(てし)
タクシーも 金属(きんぞっ)探知 して乗(の)せっ
堂園三洋 結婚(といえ)当初(はな) 洗面器ずい ハート形(がた)
玄関(ふんごん)で 熟睡(じゅくす)ゆしちょい 午前様(ごぜんさあ)
上出来(じょうでき)ち 亭主(とのじょ)いさせた 料理(じゅ)ゆ褒(ほ)めっ
顔(つら)じゃ無(な)か 要(よう)は月給(げっきゅ)ち 婿(むこ)選(えら)っ
凄(わ)ぜ美人(シャン)ち 前い回(まわ)れば 十人並(じゅにんなん)
永徳天真 銭湯(ふろ)帰(もど)い 屋台(やて)で一杯(いっぺ)ん 独(ひと)い者(もん)
二日(ふっか)じゃが 新婚せえな 辛(つ)れ出張(しゅっちょ)
達者じゃい 口(くっ)で屁理屈(へりく)つ 押(お)し通(と)えっ
逆(ぎゃっ)効果 叱(が)っそん後(あと)ん 諄(く)で説教(せっきょ)
叫(おら)っとも 稽古(けこ)ん部活(ぶかっ)の 新入生(しんにゅせい)
植村聴診器 俺(おい)が吸(す)た 煙草で妻(かか)を 癌にしっ
山学校(やまがっこ) 勉強(べんきょ)も大概(てげ)が 小才(こだ)で社長(しゃちょ)
蠅(へ)一匹(いっぴっ) 叩(たた)っ損(そこ)ねて 煩(うぜら)しゅし
災害で 支援の風呂い 生(い)っ上(きゃ)がっ
一分が 遅(お)せち待(ま)っ長(な)げ デート青年(にせ)

山椒集 題「相槌(えは)」     有川南北選

気の無(ね)相槌(え)へ 怒(はら)けた妻(かか)が 吠(ほ)えでけっ [澤津一心]
酔(よく)れ亭主(て)し 相槌(えは)を打(う)っ打(う)っ 寝(ね)せつけっ [吉岡道場]
相槌(えは)打(う)っも 本当(まこ)て気を使(つ)こ 頑固(いっこっ)爺(じ) [楠八重渓流]
五客一席 相槌(えは)が合(お)っ 名刀(めいと)いなった 波之平(なんのひら) [中村雲海]
五客二席 じゃったとな 耳(みん)に胼胝(たこ)でん 相槌(えは)を打(う)っ [西 幸子]
五客三席 借(か)い相談(そだん) 相槌(えは)は打(う)っどん 貸(か)せはせじ [郷田悠々]
五客四席 相槌(えは)を打(う)っ 罪(つん)ぬ被(かぶ)った 立(た)っ話(ばなし) [新地十意]
五客五席 女房(かか)ん愚痴(ぐぜ) 飼猫(けねこ)がニャンち 相槌(えは)を打(う)っ [有馬純秋]
選者吟 相槌(えは)打(う)っの 付合(つっ)けも辛(の)さん 諄(く)で酔払(えくれ)

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

助けてち 世界がオバめ 縋(すが)い付(ち)っ [桑元行水]
北帰行(ほっきこ)も 今年(こと)しゃ気の重(お)び 万羽鶴(まんばづい) [石塚律子]
不況風(ふきょかぜ)い 懐(つくら)ん財布(ふぞ)も 口(く)つ閉(と)じっ [津留群志]
四天王一席 地獄(じごっ)かあ 乗客(じょうきゃ)く救(す)くた パイロット [上薗佳笑]
四天王二席 リストラを した衆(し)された衆(し) 長(なが)か冬(ふい) [有馬純秋]
四天王三席 篤姫(ひめ)ん次(つ)ぎゃ サッカち故郷(さと)が 燃(も)えどえっ [小瀬一峻]
四天王四席 朝青龍(あさしょうりゅ) 引退(やむ)っどこいか 賜杯(しは)ゆ抱(で)っ [米元年輪]
選者吟 大店舗(うどみせ)が 並(な)るだ県都(けんと)ん 激戦区

郷句相撲 題「空(から)」

横綱(東) 空(か)れなった 財布(ふぞ)が待(ま)っちょい 給付金 [有馬純秋]
横綱(西) 節約(かんじゃっ)の 財布(ふぞ)も空(か)れない 年金日 [福原福多]
大関(東) 空振(からぶ)いで 観客(みて)が喜(よろ)くだ 始球式(しきゅうしっ) [畑山真竹]
大関(西) 空振(からぶ)いも 覚悟(かっご)で好(す)っち 打(う)っ明(ちゃ)けっ [津留見一徹]
関脇(東) 頑張(きば)れよち 貰(も)ろた餞別(せんべ)ちゃ 中は空(から) [二見愚楽満]
関脇(西) 素駄(すだ)ん釣(つ)や 空(から)クーラーも 重(お)もけなっ [樋口一風]
小結(東) 空瓶ぬ はしと抱(で)た儘(ない) 酔漢(とら)が寝(ね)っ [山田竜生]
小結(西) こら厄介(やっけ) 貰(も)ろたが空(から)ん 熨斗袋 [鮫島牧峰]
筆頭(東) お手空(てぱら)ち 箸戦(なんこ)が弾(はず)ん 新築祝(けんぜゆえ) [盛満椒平]
筆頭(西) 里帰(さともど)い 空(から)ん袋を 準備(しこ)たてっ [中間紫麓]
二枚目(東) 花見座(はなんざ)い 空瓶枕(まく)れ 夜が明(あ)けっ [久永時盛]
二枚目(西) 口(く)ちゃ叶(か)のが 散歩で寝込(ねく)だ 空元気 [久永桂心]
三枚目(東) 空咳(からぜっ)が 勉強(べんきょ)せんかち 子をば叱(が)っ [植村聴診器]
三枚目(西) 空咳(からぜっ)も 効(き)くい態(ふ)じゃ無(な)か 長電話 [楠八重渓流]
四枚目(東) 孫ん騒動(そど) 爺(じ)ん空咳(からぜっ)で しちゃっ止(や)ん [郷田悠々]
四枚目(西) 飲(の)ん癖ん 悪(わ)り爺(じ)の横座(よこざ) 両隣(まんぼ)空(え)っ [前村幸治]
五枚目(東) 空咳(からぜ)くば 一(ひと)っしてかあ 戸を開(あ)けっ [西ノ園ひらり]
五枚目(西) 空(から)じゃっち 拾(ふ)るた財布(ふぞ)をば 元(も)て戻(も)でっ [萬福平次]
六枚目(東) セールスを 爺(じ)の空咳(からぜっ)が 追飛(うと)ばけっ [諸木小春]
六枚目(西) 隣席(とな)や下戸 飲兵衛(のんべ)が盃(ちょこ)あ 空(から)ん儘(ない) [小瀬一峻]
七枚目(東) 仮病(けびょ)休(やす)ん 空咳(からぜ)くしちょい 電話口(でんわぐっ) [佐伯山神]
七枚目(西) ラブレタは また空振(からぶ)いか 行(い)った限(ぎ)い [上山天洲]
八枚目(東) 今いま食(く)たて 胃あ空(から)ち言(ゆ)っ 箸(は)す握(にぎ)っ [石塚律子]
八枚目(西) 土産買(こ)で 財布(ふぞ)を空(か)れした 観光(かんこ)旅行(りょこ) [井手上政暎]
親方吟(東) 空(から)ん胃を 這回(へまわ)いカメれ 止(と)まい息(いっ) [入来創雲]
親方吟(西) 空(から)バスが 今日(きゅ)も走(はし)っちょい 過疎ん里 [吉岡道場]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「くろぢょか」より抜粋)

岩崎峰乗 埋立てん 波貝(なんげ)は土葬(どそ)で 海(うん)な哭(ね)っ
床上げが のさじベッドい 代えた夫婦(みと)
岩崎ユキ 仰(お)ねた時(と)きゃ 真正面(まふく)れ落(お)てた 熟柿(じゅくしがっ)
ないが痩(や)す 団子(だご)も食(く)ろたが 餅(もっ)も食(く)っ

その他の秀句 (順不同)

定年ぬ パートん女房(かか)が 使(つ)こたくっ [上山天洲]
似(に)た腹ん 隣(つっ)のメタボを 目で測(はか)っ [諸木小春]
生温(なまぬい)か 湯タンポんよな 歯痒(はが)い亭主(てし) [前田あやめ]
初(はつ)デート 手がまし手をば 抓(つま)んきっ [樋口一風]
上がれ言(ちゅ)で ほんなあ言(ちゅ)たや 慌(あわ)てちょっ [西ノ園ひらり]
メール見(み)で 人ん顔(つら)どま 見(み)いもせじ [太良木五徳]
本ぬ見(み)っ 嫁ん子育(こおや)しゃ 型(か)て嵌(は)めっ [吉岡道場]
飲め飲めち 焼酎(しょちゅ)なあ良(え)どん また薬(くすい) [原田菊男]
残(のこ)い者(もん) 同士(どし)で結婚(といよ)た 同級生(どうきゅせい) [諸木小春]
風見鶏(かざみどい) 右派(みっ)も左派(ひだい)も 相槌(えは)を打(う)っ [小瀬一峻]
よか説教(せっきょ) 相槌(えは)を打(う)っかた つん眠(ねぶ)っ [中間紫麓]
国会は やるやる詐欺(さぎ)じゃ 何(ない)もせじ [原田菊男]
俺(おい)君(わい)ち 言難(ゆに)き三浪(さんろ)ん 同級生(どうきゅせい) [小瀬一峻]
遅(お)せ春(はい)が 親を看取(みと)った 娘(こ)い訪(こと)っ [津留見一徹]
遅(お)せ運転(まく)い 紅葉(もみ)ず若葉(わかば)が 叱(く)るたくっ [花園ちづ]
見(み)ろ容姿(よし)も 無(な)かずんだれを 流行(はやい)言(ちゅ)っ [植村聴診器]
おい言(ちゅ)たや はいち答えた 遠(と)え昔 [工藤天然]
よいなこっ 介護で返(もど)す 親ん恩 [満留ぐみ]
自販機い 釣銭(つ)や無(ね)か手どん 入(い)れっみっ [有川南北]
動(いご)っ始(で)た 汽車が涙(なんだ)ん 栓ぬ抜(に)っ [津留見一徹]
三みっつ児(ご)ん 語(かた)い優(こえら)し ママん相槌(えは) [樋渡草団子]
遅咲(おそざ)っの 娘(こ)が婆(ばあ)ちゃんに して呉(く)れじ [下栗志乃]
手踊(ておど)いで 知事を迎えた 百歳(ひゃっ)の祝(ゆえ) [吉岡道場]
自分(わ)が容姿(よし)が 写った鏡(かが)み 溜息(うい)く付(ち)っ [上村牛歩]
また亭主(てし)が 漫画と連(ての)っ 長(な)げ便所(まなか) [上山天洲]
村ん医者 点数(てんす)いならん 愚痴(ぐぜ)も聞(き)っ [有馬純秋]
戸籍(こせっ)でな ごったまし名ん ニューハーフ [永徳天真]
愛の鞭(むっ) 力加減が 難(むっか)しゅし [栫 路人]