おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第614号

雑吟     塚田黒柱選

一番槍 どのこのち 試食(ししょ)き小言(こまご)つ 言(ゆ)て買(こ)わじ [池上黒ぢょか]
二番槍 気いせんち 言(ゆ)どん噂を 聞(き)て回(まわ)っ [川村 明]
三番槍 金(ぜん)次第(しで)ち 最新機械(きか)ゆ 見(み)すい医者 [弓場正巳]
四番槍 ボーナス日 回転(まわ)らん寿司(す)すば 子い食(か)せっ [福山吉連]
五番槍 借金(おっか)どま け忘(わす)れた態(ふ)で 議(ぎ)を吐(か)えっ [佐伯山神]
六番槍 小鍋(こなべ)料理(じゅ)ゆ またも食残(くの)けた 老夫婦(おんじょみと) [樋渡草団子]
七番槍 腹を割(わ)っ 語(かた)い心算(つもい)が 喧嘩(けん)けなっ [田中末木]

渋柿集

三條風雲児 放生会(ほぜ)が無(ね)で 甘酒なんだ け忘(わす)れっ
枝豆は 下戸が一人(ひとい)で うっ食(く)ろっ
大(ふ)て保険 掛(か)けっ恥(げん)なか 兎(うさっ)小屋
轡虫(くだまっ)が 休(よ)くえば蟋蟀(ぎみ)ん 声がしっ
聞(き)っ耳(みん)ぬ 持(も)たん逆上(のぼせ)い 匙(さ)ず投(な)げっ
有川南北 基地移設(いせっ) 鹿屋ん名指(なざ)し 騒動(そど)なこっ
沖縄(おきな)へな 申訳(すま)んが欲(ほ)す無(ね) P3C(ピーサンシ)
愛の鞭(むっ) 相手(えて)が悪(わ)りてん 叩(たた)かれっ
べっこ飴 根占(ねし)め着(ち)っはざ 口(く)ち保(も)てっ
四十(しじゅ)もなっ いくら流行(はやい)ち 臍を出(で)っ
塚田黒柱 使(つ)けざっも 無(な)かしこ貯(た)めっ まだ貯(た)めっ
下戸言(ちゅ)どん そいも相手(えて)次第(しで) 大概(てげ)な飲(ぬ)っ
受け売(う)ゆば 語(かた)い我(わ)が身が 歯痒(はが)ゆなっ
気を遣(つ)こな 言(ちゅ)かた手を出(で)っ 目も笑(わ)るっ
大事件 今日(きゅ)も二三本 毛が抜(ぬ)けっ
堂園三洋 心臓と 相談(そだん)ぬしいし ウォーキング
好(す)っ言(ちゅ)たや 好かれちゃ嫌ち 情(つれ)ね返事(へし)
空振(からぶ)いの 予報(よほ)いぞっぷい きし濡ぬれっ
ニュース婆(ばば) 個人情報(じょうほ)を 触(ふ)れ回(まわ)っ
利右衛門(りえもん)に 感謝美味(うん)まか 甘藷(かいも)焼酎(じょちゅ)
植村聴診器 ビラを先(さ)き 見て安(や)すか方(ほ)い 決めた料理(じゅい)
腹八分 飢(ひだ)いさ知れば 延(ぬ)っ寿命
定年(てねん)後も 別(わか)れん言(ちゅ)妻(か)け 惚(ほ)れなえっ
親父(とと)ん看病(かびょ) むっかしゅなけた 癌告知
フルムンに 少(ち)す恥(げん)ねどん 紅(べん)ぬせっ
岩崎美知代 人前(ひとまえ)じゃ 立(た)ついが手荒(てあ)る 使(つ)こたくっ
夫婦(みと)喧嘩 今夜も夫(とと)が 詫(わ)ぶ入(い)れっ
粟ん飯(め)し 目刺(がらんつ)い爺(じ)も 代(か)えを出(で)っ
美田(びで)ま罪(つん) 先祖ん汗を 睨(ねぎ)い合(よ)っ
コマーシャル 大人(おせ)あ猿(よも)かあ 仕切(しき)られっ

山椒集 題「酔漢(とら)」     有川南北選

棟上(むねあ)げい 見知(みし)たん酔漢(とら)が やれ踊(おど)っ [花園ちづ]
こら堪(の)さん また脱(ぬ)っでけた 女(おなご)酔漢(とら) [江平光坊]
通夜じゃろが 飲めば大酔漢(うとら)ん くずれ亭主(とと) [小瀬一峻]
五客一席 轟沈の 酔漢(とら)あ玄関(ふんご)み 転(ころ)ばけっ [上籠若菜]
五客二席 飲(の)まん時(と)か 仏様(ほとけさあ)言(ちゅ)が 飲めば酔漢(とら) [山田竜生]
五客三席 寝(ね)ろすれば いま出た酔漢(とら)が また訪(こと)っ [松元清流]
五客四席 狐火(きっねび)が 大酔漢(うどら)を河(かわ)い 引張(そび)っ込(く)ん [入来義徳]
五客五席 近(ち)こなった 酔漢(とら)ん大声(うごえ)い 灯(ひ)を消(け)せっ [吉岡道場]
選者吟 突(つ)っ当(あ)たっ 電柱(でんちゅ)い挨拶(えさ)つ しちょい酔漢(とら)

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

少子化い 鶏(と)や幾腹(いくはら)ち 抱(で)っ見(み)せっ [津留見一徹]
便利よか 心配(せわ)が先(さ)き立(た)っ カード時代(じで) [田原大黒]
こら不思議(ふしっ) ガードレールい 刃が生(お)えっ [山下明良]
四天王一席 民営化 天下(あまくだ)い先(さ)く また作(つく)っ [弓場正巳]
四天王二席 唐芋(いも)ん蔓(つら) 三宅島ずい 根をば張(は)っ [福冨野人]
四天王三席 モンゴルん 国歌が出(で)そな 千秋楽(せんしゅらっ) [鮫島牧峰]
四天王四席 縄文の 時代(じで)から初(はっ)の 悪者(わいこっぼ) [樋口一風]
選者吟 反対の 声が届(と)じたか P3C(ピーサンシ)

郷句相撲 題「露(ち)」

横綱(東) 失恋の 夜露(ち)い濡れ帰(もど)っ コップ焼酎(じょちゅ)
横綱(西) 里芋(いも)ん葉ん 露(ち)どま風(か)ぜ乗(の)っ 踊(おど)ゆしっ
大関(東) 朝市(あさいっ)の 露(ち)の付(ち)た野菜(やせ)は 奪合(ばこ)われっ
大関(西) 露(ち)で擦った 墨(すん)で書(け)たどん 下手あ下手
関脇(東) 露(ち)をうった ジョッキが嬉(うれ)し 風呂上(あ)がい
関脇(西) 入(い)れつけじ 夜露(よち)い打たせた 酔(よく)れ亭主(とと)
小結(東) 起(お)きおきい 朝露(あさち)いてのだ 万歩計
小結(西) 泥手(どろて)をば 露草(ちぐさ)で拭(ぬぐ)た 十時ん茶
筆頭(東) 共稼(ともかせ)っ 乾(へ)た洗濯物(あれむん)な 夜露(よち)が来(き)っ
筆頭(西) 爺(じ)ん担棒(おこ)を 弓形(ゆんな)い牛(べぶ)ん 露(ち)ん餌草(はんめ)
二枚目(東) 七夕ん 朝露(あさぢ)で書(け)た字 上手(じょ)じ見(み)えっ
二枚目(西) 朝取(あさど)いち 露(ち)も連(ての)ませた クール便
三枚目(東) 托鉢(たくはっ)の 裸足(はだ)し朝露(あさち)を 踏(ふ)ん締(し)めっ
三枚目(西) 脚気いな 朝露(あさち)を踏(ふ)めち 婆(ば)が言(ゆ)でっ
四枚目(東) 恋人(なじゅん)同士(どし) ベンチん夜露(よち)で 尻(し)や濡(ぬ)れっ
四枚目(西) 露(ち)をば踏(ふ)ん 田んぼ見廻(みまわ)い 爺(じ)は励(はま)っ
五枚目(東) 国(くん)のため 露(ち)のごっ散った 若(わっ)か友達(どし)
五枚目(西) 高価(た)け靴(くっ)も 露(ち)いずんだれた 朝帰(あさもど)い
六枚目(東) この世でな 朝露は知(し)たん 朝寝坊(あさねごろ)
六枚目(西) 婆(ば)べ食(か)すち 朝露(あさち)い濡れた 西瓜(すか)を抱(で)っ
七枚目(東) 朝露(あさち)夜露(よち) 踏(ふ)ん踏(ふ)ん農業(さっ)で 子を育(お)えっ
七枚目(西) 照(て)い続(つづ)き 茄子は朝露(あさち)で 生(い)っ返(かえ)っ
八枚目(東) 露(ち)の原を ぞっぷい濡(ぬ)れっ 犬(いん)散歩
八枚目(西) 梅干(うんめぼ)しゃ 夜露(よち)い打(う)たせち 厳(きび)し姑(しゅと)
親方吟(東) マージャンに 亭主(て)しゃ露(ち)も失(う)せた 昼(ひ)い帰(もど)っ [植村聴診器]
親方吟(西) 草刈(くさき)い婆(ば) 草鞋(わら)じゃ朝露(あさち)が 噛(か)ん破(やぶ)っ [岩崎美知代]

第35回若法師忌・第18回雪尾忌句会 兼題「遊(あす)っ」 金井一馬選

遊(あす)っじゃが 会の名が良(え)で 気安(きや)す出(で)っ [片平桜子]
公園で 遊(あす)ばせかたも 心配(せわ)な娑婆 [上籠若菜]
高(た)け給料(はれ)で 天下(あまくだ)い先(さ)き 遊(あす)ばせっ [蔵ノ下夢石]
選者吟 事故ん後(あ)て 遊(あす)っ叱(が)られた JR [金井一馬]

第35回若法師忌・第18回雪尾忌句会 兼題「戸籍(こせっ)」 塚田黒柱選

戸籍(こせっ)でな ごったまし名ん ニューハーフ [永徳天真]
赤紙(あかがん)が 戸籍(こせっ)ばっかい 夫婦(みと)いしっ [弓場正巳]
夫婦(みと)喧嘩 すい度(た)び戸籍(こせ)く 抜(ぬ)っど言(ちゅ)っ [有村土栗]
選者吟 また離婚 戸籍(こせっ)係(がかい)も 呆(あき)れ顔(づら) [塚田黒柱]

その他の秀句 (順不同)

デパ地下が 顔(つら)を覚えた 卑(いや)し奴(ごろ) [小森寿星]
お茶じゃっち 気の利(き)た嫁が 焼酎(しょちゅ)を出(で)っ [森山厚香]
大法螺(うぼら)亭主(て)し 驚(たまが)い上手(じょし)の 友達(どし)が訪(き)っ [東 竜王]
父(とう)ちゃんが 好(す)っち泣かせた 綴(つづ)い方(かた) [諸木小春]
胸ん内(う)つ 酔漢(とら)あ電柱(でんちゅ)い 打(う)っ明(あ)けっ [福冨野人]
暦(こよ)み書(け)た 丸は何(ない)じゃか 思(お)め出(だ)さじ [尾崎若狭]
パッとせん 亭主(て)す癒し系 言(ちゅ)う女房(おかた) [石塚律子]
腹ん子が 戸籍(こせ)く作(つく)れち 急(せ)っ立(た)てっ [上山天洲]
不精(ふゆ)が牛(べぶ) 汚れは夕立(さだ)ち 洗(あ)るわせっ [上村牛歩]