薩摩郷句誌「渋柿」
第613号
雑吟 塚田黒柱選
一番槍 | 億(おっ)の税(ぜ)ゆ 我が世ん春(はい)が 楽(だ)き払(は)るっ [坂元鶴山] |
二番槍 | お手言(ちゅ)えば 後足(うしとあ)す出す 横(よん)ご犬(いん) [上籠若菜] |
三番槍 | つがらんね 所(とこ)いはっ行(じ)た 妻(かか)んナビ [満留ぐみ] |
四番槍 | 撮(つま)ん食(ぐ)は 食(く)たうち入(い)れん ダイエット [前田あやめ] |
五番槍 | 医者どんに 最敬礼の 退院日 [中間紫麓] |
六番槍 | 職安も 診察(しんさっ)待(ま)っの 顔(つら)と似(に)っ [弓場正巳] |
七番槍 | 運転手 一人(ひとい)のバスが 今日(きゅ)も走(はし)っ [新留豪也] |
渋柿集
三條風雲児 | 人ん道(みっ) ずい脱線の JR |
新精霊様(にじょろさ)へ 供(あ)ぐち甘藷(かいも)ん 探(さぐ)い掘(ぼ)い | |
胡麻擂(す)いが 中元(ちゅげん)の相手(えて)を 乗(の)い換(か)えっ | |
蒸暑(ほめ)っ晩 寝(ね)ばたぐるたか 首(く)ぶ違(た)ごっ | |
盆木練(ぼんごね)い もへ来て鳴(おら)っ 法師蝉(ずくいっしょ) | |
有川南北 | 熊蝉(くまっしょ)が 遊(あす)べ遊(あす)べち 夏休(なっやす)ん |
こん酷暑(うな)ち 胃下垂(いかす)やぐたっ 這(すぼ)たない | |
祝(ゆえ)弔(とむ)れ 四季兼用の 一張羅(いっちゃびら) | |
ジャンボ籤(くし) 三百円に 軽(か)る当(あ)たっ | |
また余計(よけ)な 物(もん)ぬ買(こ)っ来た 特売日 | |
塚田黒柱 | 手が出(で)らじ ブランド物(もん)な 好(す)かん言(ちゅ)っ |
男いも 女(おなご)いも弱(よ)え くずれ亭主(てし) | |
富士山も 側(そ)べ寄(よ)っ見れば 塵(ごん)の山 | |
ストレスち 何(ない)かち言(ゆ)よな 呆(とぼ)け顔(づら) | |
わがままも 個性じゃっ言(ちゅ)て 甘(あま)やけっ | |
堂園三洋 | 宝籤(たからくし) 買(こ)わんにゃ損ぬ したごたっ |
年金の 右肩(みっかた)下(さ)がい 心細(きぼ)すなっ | |
夫婦(みと)喧嘩 女房(かか)んスタミね ひん負(ま)けっ | |
異議なしち 言(ゆ)たこっが無(な)か 臍曲(へそま)がい | |
文明の 利器をば使(つ)こえ ミスジャッジ | |
植村聴診器 | 長(な)げ梅雨(ながし) 山津波(やましお)恐(お)じせ 周囲(ぐる)ゆ監(み)っ |
拉致事件 大(ふ)て注射をば して欲(ほ)しゅし | |
今日(きゅ)の夕飯(ゆめ)しゃ ビラで安(や)し方(ほ)ん 料理(じゅ)い決(き)めっ | |
飢(ひだ)りさを 知(し)らじ大人(お)せなっ 短(みし)け寿命(じゅみょ) | |
腰(こ)しゃ抜(ぬ)けっ 稽古(けこ)どま役(や)きな 立(た)たん地震(なえ) | |
岩崎美知代 | 山ん宿 五寸(ごっすん)百足(むか)ぜ 飛(と)っ起(お)きっ |
わいもほら 立(た)っめち猫を 鳴(お)ろばせっ | |
魔が差(せ)たち 校長(こうちょ)ん言訳(ゆわ)け 冷(さ)むい子供(こど) | |
ほじくれば 果(は)て限(かぎ)いの無(ね) JR | |
塾(じゅっ)どこい 子供(こ)あ洞窟(が)め夢中(はま)っ 命(いの)つ絶(た)っ |
山椒集 題「涼(すず)ん」 有川南北選
天 | 鮎(あ)ゆ肴(さか)ね 球磨川下(くだ)い 飲(ぬ)で涼(すず)ん [久永 強] |
地 | 一(ひと)涼(すず)ん 懐(つく)れ取(と)い込(く)だ 峠(とげ)ん風 [有馬凡骨] |
人 | 亭主(て)しゃ仕事(しごっ) 妻(かか)あ冷房(れいぼ)で 高鼾(たかいびっ) [樋口一風] |
五客一席 | 金山(きんざん)の 跡(あ)てな焼酎様(しょつさ)あ 涼(すず)んじょっ [片平桜子] |
五客二席 | 木の下で 涼めば蝉(せっ)が 顔(つ)れ放尿(しゃく)っ [米元年輪] |
五客三席 | パチンコい 万札(まんさ)つ払(は)るた 涼(すず)ん賃(ちん) [蔵ノ下夢石] |
五客四席 | 磯ん浜(は)め ビキニ目当てが 涼(すず)み来(き)っ [平中小紅] |
五客五席 | 涼(すず)ん台 爺(じ)さあも娘(おご)ん 傍(そば)が良(ゆ)し [吉丸セツ子] |
選者吟 | 孫相手(えて)い 御伽噺(むかしばなし)の 涼(すず)ん台 |
龍虎集 「時事吟」 堂園三洋選
天 | 人民の 愚痴(ぐぜ)を反日(はんに)ち 向(む)けさせっ [深道好之] |
地 | 原油高 じわじわ世帯(しょて)い 跳(は)ね返(かえ)っ [新地十意] |
人 | 税トップ サラリーマンに 嬉(うれ)しゅなっ [諸木小春] |
四天王一席 | 首相(しゅしょ)ん肚(はら) 何(ない)が何(なん)でん 民営化 [川村 明] |
四天王二席 | 洞(がま)塞(ふさ)っ 空襲(くうしゅ)ん音を 思(お)め出(だ)せっ [弓場正巳] |
四天王三席 | 憎(に)き車(くいま) 惜(あった)れ十五歳(じゅご)ん 命(いの)つ奪(と)っ [福原福多] |
四天王四席 | 長(な)げ行列(ぎょれ)つ 見(み)いけ行(い)たよな 愛知博(あいちはっ) [江平光坊] |
選者吟 | 人災が 世界遺産の 杉(す)ぐ擾(こ)ねっ |
郷句相撲 題「驚(たまが)い」
横綱(東) | 驚(たまが)った サラリーマンが 長者一番(いっ) |
横綱(西) | 人気焼酎(しょちゅ) 原料(もと)は芋じゃが 驚(たまが)い値(ね) |
大関(東) | 大(ふ)て事故を 驚(たまが)いもせじ 御酒(ごしゅ)が出(で)っ |
大関(西) | 驚(たまが)った 方(ほ)が笑(わ)るわれた 出来(でけ)た婚 |
関脇(東) | 驚(たまが)れば 一段(いっだん)大仰(ごご)しゅ 語(かた)い自慢(ぎら) |
関脇(西) | ナンパしっ みたやうんだも ニューハーフ |
小結(東) | 亭主(て)しゃ叱(く)るが 蛇(へっ)にゃ驚(たまが)い 女房(かか)天下 |
小結(西) | 女房(かか)ん寝相(ねぞ) 夜中(よな)け驚(たまが)い 熱帯夜 |
筆頭(東) | 検査漬け 驚(たまが)いきらん 金(ぜん)が要(い)っ |
筆頭(西) | 驚(たまが)った 真似しも疲(だ)るい 孫ん守(も)い |
二枚目(東) | 冷凍で け死(し)んでかいも 子がでけっ |
二枚目(西) | 聞(き)っ上手(じょうず) 相槌(えは)も驚(たまが)っ 打(う)っ見(み)せっ |
三枚目(東) | 青大将(うぐのっ)も 驚(たまが)っ出(で)った へぼゴルフ |
三枚目(西) | 驚(たまが)らす 心算(つも)や無(な)かどん 顔(つら)が顔(つら) |
四枚目(東) | 孫がワッ 驚(たまが)い真似で 守(も)ゆばしっ |
四枚目(西) | 乱気流(らんきりゅ)い 驚(たまが)っ叫(お)ろた 空ん旅(たっ) |
五枚目(東) | 伸(ぬ)だ孫い 婆(ばば)も驚(たまが)っ ちゃんこねっ |
五枚目(西) | すっぴんの 女房(か)け驚(たまが)った 酔(え)くれ亭主(とと) |
六枚目(東) | 老眼鏡(ろうがんきょ) かけっ驚(たまが)い 部屋ん塵(ごん) |
六枚目(西) | 闇(やん)の道(み)ち 出合(でお)た両方(まんぼ)で け驚(たまが)っ |
七枚目(東) | 驚(たまが)った 顔(つら)が集(よ)っちょい 隣(つっ)の火事(かし) |
七枚目(西) | 縁(えん)思(と)もっ 嫁(き)て驚(たまが)った 十人(じゅにん)家族(げね) |
八枚目(東) | JR(ジェイアール) 驚(たまが)いきらん 呆(ぼ)え管理(みもい) |
八枚目(西) | 派手な嫁 郷中(ごじゅ)が驚(たまが)い 厚化粧 |
親方吟(東) | 嫁ん贔屓(かた) 孝行(こうこ)息子が 母親(か)け吠(ほ)えっ [岩崎美知代] |
親方吟(西) | 独居(ひと)いなっ 小(こ)め物音(ものお)ても け驚(たまが)っ [植村聴診器] |
第99回南日本薩摩郷句大会 兼題「家族(けね)」 弓場正巳選
特選 | 黒田家(くろだけ)ん 世帯(しょて)繰(く)いが待(ま)っ 紀宮(のりのみや) [三條風雲児] |
秀一 | 幸せん 家族(けね)をひっ裂(せ)た 列車事故 [横手五月] |
秀二 | 仮設でん 家族中(けねじゅ)が無事で 希望(きぼ)も沸(うぇ)っ [横手五月] |
秀三 | 家族(けね)ん事(こ)つ 思(お)もえば辞職(やむ)い 気も失(う)せっ [松山寸八] |
秀四 | 管巻(じじら)亭主(てし) 家族(けね)をすっぱい 敵(て)き回(ま)えっ [平中小紅] |
秀五 | 家族(けね)写真 年々女房(かか)が 幅を取(と)っ [岩崎美知代] |
軸吟 | 肉(にっ)の切れ 家族(けね)ん箸(てもと)が 先(さ)く奪合(ばこ)っ [弓場正巳] |
第99回南日本薩摩郷句大会 兼題「愚痴(ぐぜ)」 堂園三洋選
特選 | 言忘(ゆわす)れた 愚痴(ぐぜ)をメールで 亭主(て)し送(おく)っ [上籠若菜] |
秀一 | ボートピア 帰(もど)いのバスあ 愚痴(ぐぜ)が舞(も)っ [小森寿星] |
秀二 | 婆(ばば)ん愚痴(ぐぜ) 無(な)かや今どま 道(み)つ外(は)じっ [福原福多] |
秀三 | 念仏(ねんぶっ)ち 思えば楽(だっ)な 女房(かか)ん愚痴(ぐぜ) [片野田小鈴] |
秀四 | 嫁(い)て三日 ちんちん愚痴(ぐぜ)を 実家(さ)て送(おく)っ [上薗佳笑] |
秀五 | 元(もと)ん方(ほ)が 良(よ)かち整形(せいけ)い 愚痴(ぐぜ)を言(ゆ)っ [平中小紅] |
軸吟 | エアロビも 捨(うっ)せ金(ぜん)じゃち 秤(ちき)い愚痴(ぐぜ) [堂園三洋] |
第99回南日本薩摩郷句大会 兼題「学歴(がくれっ)」 塚田黒柱選
特選 | 学歴(がくれっ)も ばったいならん 赤子(こ)の駄々(やから) [福冨野人] |
秀一 | 三高(さんこ)から 学歴(がくれ)く外(は)じた 娘(おご)ん見合(みえ) [石塚律子] |
秀二 | 社長(しゃちょ)どんの 学歴(がくれ)く聞(き)たや 叱(く)るわれっ [倉元天鶴] |
秀三 | 何(ない)も無(ね)で 家族(けね)ん学歴(がくれ)く 書(か)っ足(た)せっ [上薗佳笑] |
秀四 | 書(か)っ限(かぎ)い 書(け)た学歴(がくれっ)で ひっ落選(ちゃ)れっ [石塚律子] |
秀五 | 学歴(がくれっ)が もへ青二才(こにせ)をば 課長(かちょ)いしっ [三條風雲児] |
軸吟 | ハーバード 出(で)てん呆(ぼや)しか 大統領(だいとうりょ) [塚田黒柱] |
第99回南日本薩摩郷句大会 兼題「地震(なえ)」 有川南北選
特選 | インド洋(よ)を 混(ま)ぜくい返(かえ)た 凄(わっ)ぜ地震(なえ) [坂元鶴山] |
秀一 | 地震(なえ)ん巣ん 上で暮(く)れちょい よな日本 [上籠若菜] |
秀二 | メカゴジラ 踏(ふ)ん潰(つ)びた様(よ)な 地震(なえ)ん跡 [上薗佳笑] |
秀三 | 揺れ出(で)けっ 裸(はだ)け飛(つ)っ出た 湯治(とっ)の宿 [江口紫朗] |
秀四 | 震度5が お寺ん梵鐘(かね)を 振(ふ)いちぎっ [入来創雲] |
秀五 | 大(ふ)て地震(なえ)い 亭主(て)す乗(の)い越(こ)えっ 逃げた女房(かか) [田之上 毬] |
軸吟 | 大(ふ)て地震(なえ)い 先祖墓(せんぞばか)どま 向(む)く変(か)えっ [有川南北] |
第99回南日本薩摩郷句大会 兼題「横(よん)ご」 三條風雲児選
特選 | 結婚式(ごぜんけ)も 喪服(もふっ)で来(く)そな わぜ横(よん)ご [上籠若菜] |
秀一 | 招(よ)べば来(こ)じ 招(よ)ばんな吠(ほ)ゆい わぜ横(よん)ご [弓場正巳] |
秀二 | 横(よん)ご杵(ぎね) 猫いもポチち 名を付(ち)けっ [小瀬一峻] |
秀三 | 横(よん)ご者(もん) 野辺ん送(おく)いも 横(よ)け寝(ね)せっ [上薗佳笑] |
秀四 | そん痛(いた)せ 顔(つら)も横(よん)ごた 虫歯(むしくれば) [堂園三洋] |
秀五 | 旋毛(ぎぎ)三(みっ)つ やっぱいあった あん横(よん)ご [郷田悠々] |
軸吟 | 抉(こじ)い気か 横(よん)ごが前ん 席(せ)き座(すわ)っ [三條風雲児] |
その他の秀句 (順不同)
五時(ご)じなれば 新米(しんめ)あつうつ ひん帰(もど)っ [上籠若菜] |
無料(ただ)よっか 安(や)しち亭主(てし)どん 使(つ)こたくっ [栫 路人] |
女房(かか)ん方(ほ)が 高(た)けでキッスん 様(ざま)あのし [平中小紅] |
側(そ)べ居(お)れば 息苦(いっぐる)しゅない 倦怠期 [永徳天真] |
暑気(しょき)払(ば)れん 鰻(うなっ)が厄介(やっけ)な 妻(かか)い効(き)っ [樋口一風] |
夏休(なっやす)ん 子供(こ)よか煩(うぜ)らし 母親(はほ)んヒス [有村土栗] |
乾杯も 前掛けないの 座元(ざもと)女房(かか) [金井一馬] |
皇族(こうぞっ)が 映(うつ)ればプツン 切(き)い横(よん)ご [諸木小春] |
下(した)を見(み)っ 暮らせち言(ゆ)どん 下(した)が無(の)し [原田菊男] |
仕入れ値は どしこじゃろかい 五割引(ごわいびっ) [森山厚香] |
何(ない)でん良(え) 言(ちゅ)えば料理(じゅ)い難(に)き 晩の食事(めし) [野間口鈴女] |
いっの間(こ)め 三歩先(さ)く行(い)っ 女房(か)けけなっ [石塚律子] |
村ん医者 点数(てんす)いならん 愚痴(ぐぜ)も聞(き)っ [有馬純秋] |
可哀相(ぐら)し家族(けね) 女房(うっかた)以外(いが)や ずるっ禿 [塚田黒柱] |
叩(たた)っ上(あ)げ 大卒(だいそっ)の議(ぎ)を 黙(だま)らせっ [津曲とっこ] |