おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第611号

雑吟     塚田黒柱選

一番槍 長寿国(こっ) 言(ちゅ)どんベッドい 久(さ)す寝(ね)せっ [上薗佳笑]
二番槍 他人(ひと)ん事(こ)た プラス思考ち 容易(もや)す言(ゆ)っ [石塚律子]
三番槍 口下手(くっべた)が 議(ぎ)を直球で 言(ゆ)っ揉(も)めっ [永徳天真]
四番槍 何時(いっ)かあか 鏡(かがん)の中い 母親(かか)が居(お)っ [野間口鈴女]
五番槍 春(はい)なれば 着膨れじゃっち 言(ゆ)はならじ [郷田悠々]
六番槍 はいはいち 軽(か)り返事(へし)じゃっで 当てにゃせじ [小森寿星]
七番槍 顔(つら)じゃ無(ね)ち 言(ゆ)どん娶(も)ろ時(と)か 顔(つら)が先(さっ) [江平光坊]

渋柿集

三條風雲児 二升(にしゅ)播(ま)っの 田植(たう)へばたぐろ 隠居作(いんきょざっ)
縄張(なわば)いが 命(いのっ)取(と)いない 鮎(あい)の魚(いお)
梅雨(なが)しなっ 目が覚めたよな 蝸牛(つんぐらめ)
諄(く)でらしで 聞(き)かん保険の コマーシャル
乙女(おごじょ)ずい 蜘蛛(こっ)の喧嘩い キーキ言(ゆ)っ
有川南北 目を瞑(つぶ)っ 遠(と)え闇(や)む見れば 宇宙(うちゅ)があっ
田を鋤(し)たや 耕(う)った晩かあ 蛙(びっ)の声
梅ちぎい 隣(つっ)の横(よん)ごが 手をすけっ
小(こ)め地震(ゆれ)い 桜島かち 気も止(と)めじ
おかし娑婆 皿が多(う)けてん 殺(ころ)されっ
塚田黒柱 焼酎(しょちゅ)飲(の)んの 気持(きも)ちゃ下戸いな ぴんと来(こ)じ
右(みっ)言(ちゅ)えば 右(み)ぐ向(む)たないの 歯痒(はが)い亭主(とと)
卒業(そっぎょ)ずい 補欠(ほけ)ちも入(い)らじ 拾(ふ)るた球(たま)
臍繰(ふぞがね)が 露見(ば)れっ仕様(しよ)なし 作(つく)い笑(わ)れ
友達(ど)しゃ多(う)えが 金(ぜん)の有(あ)ろそな 奴(と)はおらじ
堂園三洋 間違(まっ)げ字も あっどん嬉(うれ)し ラブレター
深追(ふかお)ゆば し過(す)ぎっ彼女(かの)じぇ 嫌(き)ろわれっ
平生(かね)ちゃミニ 別人(べっじん)のよな 着物(いしょ)姿
言(ゆ)うこっが ちゃらんぽらんの 午前様(ごぜんさあ)
晩酌(だいやめ)を 一晩(ひとばん)止(や)めっ 寄付をしっ
植村聴診器 先生(せんせ)ゆば 逆(ぎゃ)き子どが襲(お)そ おかし娑婆
隣(つ)が紳士 飛行機座席(ざせ)き 気取(きど)っみっ
鋤焼(すっきゃっ)の 匂(かざ)をばまけば 隣(つ)が鰻(うなっ)
二階(にけ)と下(した) 父(とと)はメールで 子をば叱(が)っ
能(ぬ)が無(な)かで 学歴(がくれっ)の方(ほ)が 邪魔(じゃ)めしなっ
岩崎美知代 肥料(こえ)ん代(こ)ゆ 言(ゆ)えば赤字ん 一升(いっしゅ)播(ま)っ
子い従(した)ご 覚悟(かっご)ちんちん 肚(は)れ決(き)めっ
おてっちき 喋(しゃべ)くっ見舞(みめ)あ 腰(こ)す上(あ)げっ
卑(いや)し手が 水口(みなく)つ塞(ふた)っ 水(みっ)喧嘩
健(さか)しどち 旗が玄関(ふんご)み 今日(きゅ)も揺(ゆ)れっ

山椒集 題「雨(あめ)」     有川南北選

長雨い 鍋も総出ん がんたれ家(え) [原田菊男]
被災地い まこて情(じょ)の無(な)か 雨が降(ふ)っ [黒木菜々]
田原坂(たばいざ)け 西郷(せご)さあ雨で 擾(こな)されっ [入来義徳]
五客一席 鼻ん穴(す)が 大(ふ)て程(しこ)雨も 沢山(ずばっ)入(い)っ [池上黒ぢょか]
五客二席 雨上(あめあ)がい 満艦飾(まんかんしょっ)の 子分限者(こぶげんしゃ) [盛満椒平]
五客三席 花嫁ん 父親(ちゃん)の涙(なんだ)が 雨いなっ [上籠若菜]
五客四席 筍(たけんこ)が 同時(いっど)き目覚(おず)だ 雨あがい [上瀬明星]
五客五席 夕立雨(さだっあめ) 祭(まつ)いの客(きゃ)くば 追散(うち)らけっ [橋口笑二]
選者吟 通学路(つうがっろ) 雨ん立哨(りっしょ)い 児童(こ)が挨拶(えさっ)

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

選挙ん無(ね) 年(と)しな思(お)め切(き)っ 税(ぜ)ゆ上(あ)げっ [弓場正巳]
無(な)か筈(はっ)の 大地震(うなえ)玄界(げんか)ゆ 揺(ゆ)い崩(く)えっ [上薗佳笑]
トレードで 日本に欲(ほ)しか ライス様(さあ) [西ノ原一句]
四天王一席 縁の無(な)か 茶の間も話題(わだ)や 株(かっ)争(いさ)け [福冨野人]
四天王二席 竹島い 狼煙(のろ)すば上げた 島根県 [久永 強]
四天王三席 おれんじが つばめを睨(ねぎ)っ 歯噛(はが)むしっ [川村三生]
四天王四席 ペイオフも 貧乏(びんぶ)所帯(じょて)いな 支障(つけ)あ無(の)し [内野潤一]
選者吟 あばてんね 外貨を稼(かせ)っ 朝青龍(あさしょうりゅ)

郷句相撲 題「乳房(ちち)」

横綱(東) 癌な無(ね)か 毎晩(めばん)亭主(とと)かい 診(み)てもろっ [福山吉連]
横綱(西) 役(や)く終えた 乳房(ちち)を孫どが 玩具(おも)ちぇしっ [江口紫朗]
大関(東) 垂れ乳房(ちち)も 十人育(お)えた 婆(ば)ん勲章(くんしょ) [渡 純光]
大関(西) 整形の 乳房(ちち)い赤児(あかご)は 勘ぬしっ [津曲とっこ]
関脇(東) 父(ちゃん)の手を 乳房(ちち)から払(は)るた 乳呑児(ちちのんご) [横手五月]
関脇(西) 巨峰(きょほ)んよな 乳房(ちち)い赤子あ 狼狽(ばたぐ)ろっ [金井一馬]
小結(東) 女(おなご)太鼓(でこ) 法被ん乳房(ちち)が 波(なん)ぬ打(う)っ [入来創雲]
小結(西) 胸回(むねまわ)ゆ 測れば恥(げん)ね お年頃 [那加野黎子]
筆頭(東) 満タンの 搾乳(さくにゅ)い乳牛(べぶ)も 目を瞑(つ)びっ [東 竜王]
筆頭(西) 粉ミルク あてご大乳房(うぢち)を 姑(ば)が睨(ねぎ)っ [津留見一徹]
二枚目(東) 抱(だ)っちけば 窒息(ちっそ)くすそな わぜ巨乳房(きょにゅう) [諸木小春]
二枚目(西) 披露宴(ひろえん)で 乳房(ちち)が張(は)っくい 出来(でけ)た婚 [小森寿星]
三枚目(東) 末子(しったれ)は 萎縮(しなび)れ乳房(ちち)を 長(な)ご弄(も)じっ [畑山真竹]
三枚目(西) 美事(みご)て乳房(ちち) プリンプリンち 踊(おど)らせっ [平中小紅]
四枚目(東) ペチャパいも 女(おなご)ん印(しる)し すいブラジャ [堂園三洋]
四枚目(西) 女(おなご)風呂 横目で乳房(ちち)を 見比(みくら)べっ [永徳天真]
五枚目(東) 大乳房(うぢち)女房(かか) 添寝で乳児(こ)をば 押え込(く)っ [樋之口墨矢]
五枚目(西) 乳房(おっぱい)ち 哺乳瓶をば 握(にぎ)らせっ [盛満椒平]
六枚目(東) 子無(こなし)女房(かか) 乳房(ちち)あ娘御(おごじょ)ん 儘(ない)の色 [野間口鈴女]
六枚目(西) 子はミルク 乳房(ちち)はごろいと アクセサリ [田原大黒]
七枚目(東) 娘(おご)ん乳房(ちち) 恋の芽生えか 脹(ふく)れ出(で)っ [久永時盛]
七枚目(西) 大(ふ)て乳房(ち)つば マンモグラフィが 持(も)て余(あ)めっ [吉岡道場]
八枚目(東) 大(ふと)か乳房(ちち) 飾(かざ)いじゃろかい 子はミルク [森山厚香]
八枚目(西) 水着(みっぎ)かあ はっ出(で)らせんか 心配(せわ)な乳房(ちち) [蔵ノ下夢石]
親方吟(東) 冬瓜(つが)んよな 巨乳(ちち)も引力(いんりょ)き 音(ね)を上(あ)げっ [岩崎美知代]
親方吟(西) 美事(みご)て乳房(ちち) 癌じゃち医者も 神(か)む怨(うら)ん [植村聴診器]

第35回国分大会 席題「晴着(はれぎ)」     上籠若菜選

七五三 序(つい)で母(かか)ずい 高価(た)け晴着 [坂元鶴山]
一度(いっど)しか 着(き)らん晴着い 牛(べぶ)を売(う)っ [東 竜王]
借(か)い物(もん)か つんつるてんの 晴着(はれ)ぐ着(き)っ [堂園三洋]
選者吟 母(かあ)ちゃんの 晴着が映(は)ゆい 入学式(にゅがっしっ) [上籠若菜]

第35回国分大会 兼題「叱(く)る」     有川南北選

褒(ほ)めかたあ 知(し)たじ女房(おかた)を 叱(く)るどえっ [細山田妙子]
煙草喫(の)ま あっちこっちで 叱(く)るわれっ [堂園三洋]
窓口(まどぐっ)で 叱(く)るっ振(ふ)い込(く)だ 受信料 [北村虎王]
選者吟 [有川南北]

その他の秀句 (順不同)

通夜帰(もど)い 長(な)ご生(い)ぎんそち 語(かた)い合(よ)っ [弓場正巳]
バスん旅(たっ) 飲(の)ん平(べ)は後(うし)て 陣ぬ取(と)っ [入来創雲]
梅ケ渕(うめがふ)つ 雪花菜(きらし)頭(びんた)あ 逆恨(さかうら)ん [樋口一風]
婆(ば)ん介護 泣(ね)たい笑(わ)るたい 怒(はら)けたい [金井一馬]
親離れ せち言(ゆ)が親が 纏付(めち)っきっ [枦山一球]
田植え機あ 年(ねん)一日(ひして)しか 仕事(しご)ちゃせじ [池上黒ぢょか]
割勘(わいかん)に ほっちしたよな 課長(かちょ)ん顔(つら) [新地十意]
パパママち 聞(き)っとも恥(げん)ね 煤(すす)け両親(おや) [原田菊男]
高(た)け餌(えど)い 雑魚(ざこ)が恥(げん)なか 態(ふ)で掛(か)かっ [長山紫の君]