おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第610号

雑吟     塚田黒柱選

一番槍 ラサールあ 目の前じゃって 汽車通学(つがっ) [金井一馬]
二番槍 貸(か)せた金(ぜん) じゃいが返(もど)せち 頭(びんた)下(さ)げ [永徳天真]
三番槍 美味(うん)め言(ちゅ)が 世辞(めし)じゃったとか 食残(くの)けちょっ [川村三生]
四番槍 使(つ)こちょいが 意味は分(わ)からん 流行語 [黒木菜々]
五番槍 女房(か)け貰(も)ろた 自分(わ)が年金に 御礼(ごれ)を言(ゆ)っ [枦山一球]
六番槍 難民ぬ 食残(くか)けい集(たか)い 蠅(へ)で思(お)もっ [津留見酎児]
七番槍 運転ぬ せんで優良 運転者 [弓場正巳]

渋柿集

三條風雲児 濃(こ)い濃(ご)いと 入れた新茶で 生(い)っ上(きゃ)がっ
肘鉄(ひじて)つば 大蒜(ひい)臭(く)せキスい 食(くら)わせっ
子も孫も 当(あ)てなならんち 貯(た)めでけっ
三日しか 持(も)てん顧問で 恥(は)ず曝(さ)れっ
ほろめてん 様(ざま)な政治は 良(ゆ)はならじ
有川南北 禿鷹(はげたか)が 食(く)ごっ 鋤焼鍋(すっきゃっなべ)い集(よ)っ
緩(ゆ)り入れ歯 欠伸(あく)ぶすい度(た)び ひっ落(ちゃ)えっ
眩(めは)りこっ ミニん後(あと)かん 石段(きざ)登(のぼ)い
胃カメラん 待合(まちあ)やまっで 処刑囚
今朝何(ない)が あったかやたら 叱(く)る課長
塚田黒柱 金(ぜん)よっか 愛どん取った とが間違(まっ)げ
ウィークデい パチンけ行けば 気が引(ひ)けっ
評論家 他人(ひと)ん悪口(あっご)が 飯(めし)の種(たね)
賞品が 沢山(ずばっ)出(で)っ時(と)か 多(う)け応募
飲んだ時(と)か 焼酎(しょちゅ)よか君(わい)が 好(す)っち言(ゆ)っ
堂園三洋 何十年(なんじゅねん) 飲(ぬ)でん焼酎(しょちゅ)言(ちゅ)は 良(よ)か品(しな)じゃ
退職(やめ)たなら パチンコ漬(づ)けん くずれ亭主(とと)
好(す)っな字は 貯金の貯じゃち 成(な)い上(や)がい
痩(や)せちょれば 金持(ぜんも)ち見(み)えん 歯痒(はが)い亭主(とと)
女性(おなご)をば 卒業(そっぎょ)したよな 女房(かか)ん所作
植村聴診器 花見(はなん)焼酎(じょちゅ) 桜も酔(よ)たか 風い舞(も)っ
リストラい ならじ左遷の 祝(ゆえ)をしっ
宅(やど)ん嫁 掃除機で丸(ま)る 撫(な)ずい部屋
オレオレん 詐欺(さ)ぎ嵌(うた)いほっ 欲(ほ)しか金(ぜん)
仕事場(しごっば)じゃ パートん妻(かか)が 亭主(て)すば敷(し)っ
岩崎美知代 切(き)い札ん 浮気ん前科 持(も)っ出(だ)せっ
十八歳(じゅうはっ)の ルーキ煙草を 吸(す)っ平然(しれっ)
亭主(て)しなチン 母娘(おやこ)ソウルい グルメ旅(たっ)
谷底(たいそこ)を 見た分(ぶん)二人(ふた)や 深(ふ)け絆
娘(こ)が習(な)るた 料理とても 口(く)ち合(お)わじ

山椒集 題「見舞(みめ)」     有川南北選

見舞(みめ)ん度(か)し 切った腹をば 出(で)っ見(み)せっ [弓場正巳]
大(ふ)てギブス 見舞(みめ)が帰(もど)れば 取(と)い外(は)じっ [黒木菜々]
陣中(じんちゅ)見舞(みめ) 帰(もど)や一票(いっぴゅ)い 積(つ)もられっ [池上黒ぢょか]
五客一席 韮(にら)ん葉ち 婆(ばば)が包んだ 見舞(みめ)ん金(ぜん) [大脇保子]
五客二席 先生ち 可愛(む)ぞか見舞客(みめきゃ)か 束で訪(き)っ [有村土栗]
五客三席 可愛(む)ぜ孫ん 見舞(みめ)が薬(くすい)で 起(お)っ上(きゃ)がっ [松元清流]
五客四席 見舞(みめ)い来(き)っ つがんね話(はな)しゅ して帰(もど)っ [池端田の神]
五客五席 元気(げん)きなっ 飲(の)んけ行(い)っどち 友(どし)の見舞(みめ) [永徳天真]
選者吟 治癒(ゆな)いごっ クラスで見舞(み)もた 千羽鶴

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

追い込(こ)めば 一荒(ひとあ)れ来(く)そな 拉致交渉(こうしょ) [鮫島牧峰]
標的(ひょうて)くば メディアい変えた ライブドア [上薗佳笑]
綱取(つなと)いち なれば純情(じゅんじょ)が 顔(つら)を出(で)っ [小瀬一峻]
四天王一席 金(ぜん)が無(ね)で 伊藤カラーも 出し難(にく)し [福山吉連]
四天王二席 責任の 鉾先(ほこさ)き揉(も)むい 山崩れ [樋口一風]
四天王三席 ガスん島(し)め 我(わ)が家(え)が良(よ)かち 帰(もど)っ来(き)っ [川村三生]
四天王四席 飽食(ほうしょっ)の 時代(じ)で牛丼ぬ 競(せ)ろっ食(く)っ [石塚律子]
選者吟 少子化い 遊園地どま 閑古鳥(かんこどい)

郷句相撲 題「気兼(きが)ね」

横綱(東) 痩(や)せ亭主(とと)い かった気兼ねん ダイエット [諸木小春]
横綱(西) 退職(やめ)たなら 我(わ)が家(え)居(お)いかて 気兼ねしっ [田中末木]
大関(東) 気兼ねして 他人(ひと)ん車(くい)めにゃ 浅(あ)そ座(すわ)っ [野間口鈴女]
大関(西) 気兼ね無し やれち社長様(しゃちょさ)あ 座をはじっ [埀野剣付鶏]
関脇(東) 気兼ねしっ 個室(こし)つとらせた 高価(た)け鼾(いびっ) [樋渡草団子]
関脇(西) 気兼ね無し 胸を這回(へまわ)い 聴診器 [弓場正巳]
小結(東) 気兼ねせじ 食(く)ちゃ寝(ね)が嬉(うれ)し 実家(さと)帰(もど)い [森山厚香]
小結(西) 位牌(い)へずいも 気兼ねをしちょい 後妻(あとおかた) [上籠若菜]
筆頭(東) 亭主(と)て済(す)まん 思(と)もが加勢(かせ)貰(も)ろ 親ん看病(かびょ) [満留ぐみ]
筆頭(西) 昔(むか)しゃ姑(しゅと) 現代(いま)じゃ嫁御(よめじょ)い 気兼ねしっ [久保山三蔵塚]
二枚目(東) 人並(ひとなん)じゃ 気兼ねはいらん 出来(でけ)た婚(こん) [西ノ園ひらり]
二枚目(西) 気兼ねどん したや夜中い 腹が鳴(な)っ [栫 路人]
三枚目(東) 飲(の)んごろが 気兼ねすっとは 三杯(さんべ)ずい [田代勝泉]
三枚目(西) 先(せん)の子い 気兼ねが過(す)ぎっ 甘(あ)め躾 [津留見酎児]
四枚目(東) 後妻(あとかか)を 娶(も)ろたや息子(こ)いも 気兼ねしっ [山田竜生]
四枚目(西) 両方(まんぼ)共(と)め 気兼ねどません 嫁姑(よめしゅとじょ) [平中小紅]
五枚目(東) 隣(つ)が女子(おなご) 鯉幟(のぼ)ゆ揚(あ)げかて また気兼ね [鈴木一泉]
五枚目(西) 気兼ね無し 鼾(いびっ)亭主(て)しゃ今日(きゅ)も 早(は)よ起(お)きっ [内野潤一]
六枚目(東) 不調法(ぶちほ)じゃち 気兼ねじゃっつろ 後(の)ちゃ酔漢(うとら) [橋口笑二]
六枚目(西) 貧楽(ひんだっ)ち 気兼ねもせんじ 丸(ま)る暮(く)れっ [西 幸子]
七枚目(東) 祝(ゆえ)続(つづ)っ 親類(しんじ)い言(ゆ)とも 気兼ねしっ [渡 純光]
七枚目(西) 気兼ね無し 言(ゆ)え言(つ)で言(ゆ)たや 叱(く)るわれっ [樋口一風]
八枚目(東) 気兼ねどま 直(いっ)きひっ飛(つ)だ 再婚(にどめ)同士(どし) [松元清流]
八枚目(西) 気兼ねなし わさわさ語(かた)い 宅(やど)ん嫁 [有村土栗]
親方吟(東) ずっと平(ひら) 妻(か)けな気兼ねで 我(わが)あ楽(だっ) [植村聴診器]
親方吟(西) 下(しも)ん心配(せわ) 飯(まま)も気兼ねん 永病気(ながやんめ) [岩崎美知代]

第71回鹿屋大会 席題「罪(つん)」     永徳天真選

音痴いも 罪(つん)なマイクが 回(まわ)っ来(き)っ [堂園三洋]
夫(ちゃん)ぬ見(み)い 目が違(ち)ごでけた 罪(つん)なヨン [植村聴診器]
罪(つん)つくい 友達(どし)の彼氏い やったチョコ [石原ミエ子]
選者吟 スカートを 捲った春(はい)の 罪(つん)な風 [永徳天真]

第71回鹿屋大会 兼題「試験(しけん)」     塚田黒柱選

顔ぶれは いっも変(か)わらん 追試験 [永徳天真]
合格(とお)いせか すれば最下位(げっ)でん よか入試 [上籠若菜]
ロケットにゃ 試験試験で 金(ぜん)が飛(つ)っ [那加野黎子]
選者吟 妙(す)だ頭(びんた) 試験がすめば 冴(さ)えわたっ [塚田黒柱]

その他の秀句 (順不同)

今日(きゅ)も元気 夫婦(みと)喧嘩どん ちんとしっ [川村三生]
朝帰(あさもど)い 吃(ずも)い言訳(ゆわけ)を 引張(そび)っ込(く)っ [津留見酎児]
俺(おい)で無(ね)や お前(ま)ゆ貰(も)ろとが 居(お)いか言(ちゅ)っ [栫 路人]
昨日(きぬ)来れば あったち吐(か)やす 借金(かい)相談(そだん) [入来創雲]
振(ふ)い向(む)けば やったち内心(ねしゅ)じゃ 笑(わ)るた美人(シャン) [永徳天真]
地球儀で 相撲(すも)取(と)いどんの 故国(くん)探(みし)け [松元清流]
パート女房(かか) 稼(かせ)だた服(ふっ)と 化粧(けしょ)ん代(こい) [前田あやめ]
飲(の)ん平(べ)奴(わろ) 死水(しんみ)じゃ焼酎(しょちゅ)ち 遺言(ゆお)くしっ [泊 白水]
魚(いお)嫌(ぎ)れが 鱗(いこ)ん一(ひと)っで きし拗(すね)っ [中村雲海]