おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第609号

雑吟     塚田黒柱選

一番槍 詳(くわ)し事(こ)ちゃ 知(し)たん言(ちゅ)ながあ すい噂 [栫 路人]
二番槍 過疎んバス 待(ま)っ間(こ)めつばめ 博多(はか)て着(ち)っ [原田菊男]
三番槍 負け犬(いん)ち 陰口(かげぐ)ち化粧(けしょ)も 念が入(い)っ [盛満椒平]
四番槍 一枚(いっめ)しか 無(な)か万札(まんさ)つば 透(す)けっ見(み)っ [飯福小手毬]
五番槍 退院で 女房(かか)ん大声(うごえ)が 元(も)て戻(もど)っ [弓場正巳]
六番槍 俺(おい)が食(か)せちょっち 威張(いば)いが 貧(ひん)暮らし [上籠若菜]
七番槍 勉強(べんきょ)よか 給食(きゅうしょ)く語(かた)い 一年坊(いっねんぼ) [中間紫麓]

渋柿集

三條風雲児 頭(びんた)下げから 稽古(けこ)が要(い)い 新入社(しんにゅうしゃ)
貧食(ふいや)しで 一頻(ひとはな)じゃった ダイエット
美事(みご)て腕(う)で まこてあったれ 種痘(ほそ)ん痕(あと)
臍曲(へそま)がい 花見(はなん)の話(はな)しゃ 拗(こじ)らせじ
叱(く)るた亭主(て)し 山葵(わさ)ぶばごいと 握(にぎ)い込(く)っ
有川南北 議(ぎ)は言(ゆ)どん いざやらすれば 首尾(しゅ)びゃとれじ
退職(やめ)っかあ 女房(かか)ん賄(まか)ねも ざっぺらっ
迎(むけ)め来た 女房(おか)て大虎(うとら)が 猫いなっ
快気祝(かいきゆえ) 配って間(ま)もの また入院(にゅいん)
庭あ無(ね)が 冷(ひや)かし木市(きい)つ 見て歩(さ)れっ
塚田黒柱 すい事(こっ)も 多(う)けて忘(わす)れん 飯(めし)と焼酎(しょちゅ)
女(おなご)嫌(ぎ)れ 言(ちゅ)どん我(わ)が家(へ)な 子が五人
女房(うっかた)ん 好(す)かんとこいが 似(に)っきた娘(こ)
恥(はっ)ち字は 辞書から消(け)せた 金バッジ
俺(お)い似(に)らじ どこで化(げ)ったか 子は持(も)てじ
堂園三洋 古里(さと)ん晩 満天の星(ほ)し 深呼吸
大概(てげ)な病(びょ)は 逆療法で ひん治(なお)っ
胡麻擂(す)いが 課長(かちょ)ん呆(ぼ)え歌(う)て アンコール
来た当初(はな)は 管巻(じじ)れなろそな 顔(つら)じゃ無(の)し
大隅(おおすん)か 薩摩かで迷(ま)よ 姶良郡
植村聴診器 ひっ落(ちゃ)れっ そいぎいじゃった ママん自慢(ぎら)
税務署が 見立てたしこん 金(ぜん)な無(の)し
咲(せ)たサクラ 散ったサクラん 隣(とない)同士(どし)
木の芽時期(どっ) 妻(かか)も同時(いっど)き 角(つの)を出(で)っ
神(かん)頼(だの)ん 子は合格(うか)いごっ 親は金(ぜん)
岩崎美知代 外箱い 似合(に)おわん旨(うん)め 無(な)か饅頭(まんじゅ)
何十年(なんじゅねん) 経(た)とが浮気を 婆(ば)が責(せ)めっ
道(みっ)の駅(えっ) 何処(ど)けも出(で)っちょい ふくれ団子(だご)
石蕗(つわ)ん子ん 煮染(にし)めい縁側(えん)に 根が生(お)えっ
万歩計(まんぽけ)ゆ 一寸(ちす)休息(よ)くわせた 庭ん花

山椒集 題「油虫(あまめ)」     有川南北選

家宝(かほ)ん皿 開(ひ)れっ油虫(あまめ)ん 匂(かざ)がしっ [樋渡草団子]
油虫(あまめ)捕(と)い 畳(たたん)の埃(ごん)も 叩(たた)っ出(で)っ [入来創雲]
冷暖房(れいだんぼ) 油虫(あまめ)も楽(だっ)な 世を暮(く)れっ [池上黒ぢょか]
五客一席 文化世帯(じょて) 油虫(あまめ)一匹(いっぴ)き 騒動(そど)をしっ [井手上政暎]
五客二席 油虫(あまめ)捕(と)い 人相(にんそ)も変(か)わい 女房(かか)ん所作 [野村三味]
五客三席 悪戯坊(けすいぼ)が 油虫(あまめ)嫌(ぎ)れ婆(ば)を 叫(おら)ばせっ [鮫島牧峰]
五客四席 油虫(あまめ)ずい 挨拶(えさ)ち出(で)っ来た 田舎店 [江平光坊]
五客五席 蠅打棒(へうっぼ)が 届(とじ)かん隅(すん)で 笑(わ)る油虫(あまめ) [郷田悠々]
選者吟 飲(の)ん平(べ)じゃろ 焼酎(しょつ)箱ん底(そ)け 油虫(あまめ)わろ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

甘藷(いも)畑(ばっ)け 居(お)れば手を振(ふ)い 焼酎(しょちゅ)会社(がいしゃ) [畑山真竹]
万札(まんさっ)で 買物(けもん)ぬすれば 睨(ねぎ)られっ [福原福多]
モンゴルい 日本が混(まじ)い 大相撲 [細山田妙子]
四天王一席 楽園ぬ 鵜呑(ぐの)み持(も)っ行(じ)た 大津波(おおつなん) [弓場正巳]
四天王二席 振(ふ)い込(こ)めち あの手この手で 騙(だま)かせっ [種子田 寛]
四天王三席 総合の 基礎のち子供(こど)む 振(ふ)い回(ま)えっ [上籠若菜]
四天王四席 文句無(な)し 日本一(にっぽんいっ)の V(ヴイ)ゴール [上薗佳笑]
選者吟 マツクイの 食欲(しょくよ)き哀れ 桜島(しま)ん松(まっ)

郷句相撲 題「紫雲英(ふぞばな)」

横綱(東) 紫雲英(ふぞばな)が 宅地(たっち)ん隅(すん)に 生(い)っ残(のこ)っ [有馬純秋]
横綱(西) 蜜蜂(みつばっ)が 紫雲英(ふぞばな)畑(ばた)ん 恋(こ)ゆ追出(うで)っ [田中末木]
大関(東) 不精奴(ふゆしごろ) 牛(べぶ)は蓮華田(れんげ)で うっ放(ぱ)ねっ [山田竜生]
大関(西) 紫雲英(ふぞばな)ん 冠(かんむ)ゆ呉れた 河童相撲(ずも) [菖蒲谷天道]
関脇(東) 下校(もど)い道(み)ちゃ 紫雲英(ふぞばな)ん田で 一(ひと)暴れ [堂園三洋]
関脇(西) 蜜蜂(みつばっ)が 紫雲英(ふぞばな)探し 疲(だ)れ倒(と)けっ [津留見一徹]
小結(東) 紫雲英(ふぞばな)を 追(う)っ蜜蜂(みつばっ)と 北ん国(くん) [郷田悠々]
小結(西) 紫雲英(れんげ)摘(つ)ん 宿題なんだ 頭(びん)て無(の)し [楠八重渓流]
筆頭(東) 食(か)せ過ぎた 紫雲英(ふぞば)ね牛(べぶ)は ひっかぶっ [新田フサ]
筆頭(西) 田の神(かん)も 紫(むらさ)き映(は)ゆっ 紫雲英田(ふぞばなだ) [樋口一風]
二枚目(東) 紫雲英(ふぞばな)ん 中で約束(やっじょ)ん 相手(ぬ)しゃ戦死 [鈴木一泉]
二枚目(西) 駅(え)き近(ち)けち 紫雲英(ふぞばな)ん田を 踏(ふ)ん潰(ちび)っ [仮屋一発]
三枚目(東) 紫雲英(ふぞばな)ん 蜂蜜(はちみ)ちゃ効(き)っち 良(ゆ)う売(う)れっ [福山吉連]
三枚目(西) 紫雲英(ふぞばな)を 土俵(どひゅ)いおてちき 相撲(すも)を取(と)っ [米元年輪]
四枚目(東) 匂(かざ)ん良(よ)か 紫雲英(ふぞば)ね座(すわ)っ 野良(はい)昼飯(ちゅはん) [野間口鈴女]
四枚目(西) 紫雲英(ふぞばな)を 追(う)て行軍の 蜜蜂(はっ)の家族(けね) [西 幸子]
五枚目(東) 蓮華田(れんげだ)い 寝(ね)たい転(ころ)だい 腹這(はらぼ)たい [諸木小春]
五枚目(西) 紫雲英(ふぞばな)も マンション育(そだ)ちゃ 知(し)たじ済(す)ん [江平光坊]
六枚目(東) 紫雲英(ふぞばな)を 牛(べぶ)が真(ま)ん丸(ま)り 土俵(どひゅ)いしっ [入来創雲]
六枚目(西) 紫雲英(ふぞばな)ん 首飾(くびかざ)ゆした 嫁女(よめじょ)役(やっ) [片平桜子]
七枚目(東) 紫雲英(ふぞばな)が マラソン選手 頑張(きば)らせっ [森山厚香]
七枚目(西) 紫雲英(ふぞばな)を 尻(し)い敷(し)っ語(かた)い 二人(ふたい)連(づ)れ [井手上政暎]
八枚目(東) 紫雲英(ふぞばな)ん 田圃(たんぼ)で子供(こど)ま 山学校(やまがっこ) [樋渡草団子]
八枚目(西) 初恋の 紫雲英(ふぞばな)畑(ばたけ) 今(いま)団地 [中村雲海]
親方吟(東) 餌切(えぎ)れ牛(べぶ) 籠ん紫雲英(ふぞば)ね 舌を巻(め)っ [岩崎美知代]
親方吟(西) 庭ん草(く)せ 紫雲英(ふぞばな)が可愛(む)ぞ 春(は)いち咲(せ)っ [植村聴診器]

その他の秀句 (順不同)

今日(きゅ)も女将(ママ)あ 淋(さび)し男ん 愚痴(ぐぜ)を聞(き)っ [永徳天真]
風邪ぐれで 止(や)めがないかち 瓶ぬ出(で)っ [楠八重渓流]
砂糖(さと)焼酎(じょちゅ)で 話が落(お)てた 女(おなご)模合(もえ) [郷田悠々]
来て嬉(うれ)し 帰(もど)ったやなお 嬉(うれ)し孫 [那加野黎子]
艶(ひっ)なんだ 亭主(てし)の顔(つら)よか 良(よ)か油虫(あまめ) [津留見一徹]
有難(あいが)とを 幼児(ちび)い仕込んだ 正月(しょがっ)前 [江口紫朗]
痺れ足 有難(あいが)てお経(きょ)も 上(うわ)ん空(そら) [有馬凡骨]
信号(しんご)待(ま)っ 変(か)わらん筈(はっ)じゃ 手動式(しゅどうしっ) [中囿和風]