おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第608号

雑吟     塚田黒柱選

一番槍 偏差値が 受(う)くい学校(がっこ)は 無(ね)ち吐(か)えっ [今釜三岳]
二番槍 責任な 一番(いっばん)下が 取(と)らされっ [弓場正巳]
三番槍 治(ゆな)いはっ じゃた薬(くすい)が 命(いの)つ奪(と)っ [福原福多]
四番槍 嵌(はま)い方(ほ)も 振(ふ)い込(こ)んしこん 金(ぜん)が有(あ)っ [吉岡道場]
五番槍 栄転な 噂馬鹿をば みた嫉妬(しょのん) [上籠若菜]
六番槍 馬鹿丁寧(てね)い 間違(まっ)ごた道(み)つば 教(ゆっか)せっ [樋口一風]
七番槍 金ボタン 外(は)じっ待(ま)ったて 誰(だい)いも来(こ)じ [楠八重渓流]

渋柿集

三條風雲児 珍(めずら)しち 雲雀(ひばい)の声を ちゃんこねっ
献金の 罪(かわ)を被った 金庫番
喧嘩どま 為(し)みっも知(し)たん 一人息子(きんのくそ)
夜食(よなが)ゆば 食(く)た時(と)きゃ眠(ね)ちょい 勉強(べんきょ)嫌(ぎ)れ
合併が いっしれん名の 街(ま)ちなけっ
有川南北 フセインな 打倒(た)えたがイラき 春(は)や見(み)えじ
軍鶏(けんかどい) 鶏冠(とさ)け勲章(くんしょ)ん 傷(き)ず備(た)めっ
朝帰(あさもど)い 小遣(こっけ)制裁(せいさ)ゆ 女房(か)けくろっ
女(おなご)模合(もえ) 遊(あす)っきやいち 追出(うだ)されっ
披露宴 相合傘で 幕(ま)く開(あ)けっ
塚田黒柱 税(ぜ)ゆ上(あ)ぐい しか能(ぬ)が無(ね)よな 金バッジ
ブランドは 好(す)かん言(ちゅ)が実(じ)ちゃ 金(ぜん)が無(の)し
妻(かか)ん料理(じゅ)ゆ 美味(うん)も無(ね)言(ちゅ)えば 大変(でし)なこっ
筋(す)ず通(と)えっ 生きれば金(ぜん)に 縁が無(の)し
酷(ひ)で人事 共働(ともばたら)くば 二(ふた)ち裂(せ)っ
堂園三洋 アミュランが 大(ふっ)とか街(まっ)の アクセント
大儀ん無(ね) 夫婦(みと)喧嘩をば 度々(はいと)しっ
不眠症(ふみんしょ)が 難(むっ)かし本で 鼾(いび)きなっ
映画よか 隣席(とない)の美人(シャン)が 気い掛(か)かっ
大学(だいがっ)の 頃はち威張(いば)っ 語(かた)い奴(わろ)
植村聴診器 二浪(にろ)してん 間尺(ましゃ)けなうたじ 三浪目
台風(うかぜ)どが 何(な)よ考(かん)げたか 師走(しわ)し来(き)っ
昼い来た 人ん名字(みょ)ず晩 思(お)め出(だ)せっ
清子(さーや)さあ 気品と恋で 美(うつく)しゅし
気が移(うつ)っ デートをセクハラち 言出(ゆで)っ
岩崎美知代 大概(てげ)な事(こ)ちゃ 世ん中金(ぜん)で 片が付(ち)っ
今度(こん)だ何処 列島(れっと)を地震(なえ)が びびらせっ
夫婦(みと)で無(ね)や 子いも頼(たの)めん 看病(かびょ)があっ
治(ゆな)い日が 来(く)いか免許を 切(き)い替(か)えっ
馬鹿いしっ はいはいはいち 返事(へ)ず吐(か)えっ

山椒集 題「危(あっ)ね」     有川南北選

手が早(は)えで 課長(かちょ)は危(あっ)ねち 送(おく)らせじ [小森寿星]
リンゴ剥(む)き 危(あっ)ね手付(てつ)っの 左利(ひだいぎ)っ [金井一馬]
危(あっ)ねどち 叫(おら)っどえちょい 孫ん守(も)い [川村三生]
五客一席 両方(まんぼ)共(と)め 所帯(しょて)持(も)っ同士(どし)の 危(あっ)ね恋 [郷田悠々]
五客二席 危(あっ)ね言(つ)て 飛行機(ひこう)き乗(の)らん 臆病者(ひっかぶい) [中間紫麓]
五客三席 危(あっ)ねこて 女房(おか)て露見(ば)るした 盗(ぬすと)焼酎(じょつ) [平中小紅]
五客四席 バス停で 妻(かか)をば帰(も)でた ガスん栓 [樋口一風]
五客五席 危(あっ)ねどち 言(ゆ)た時(と)か転倒(ころ)だ 雪(ゆっ)の坂 [有村土栗]
選者吟 何処(ど)け飛(つ)っか 危(あっ)ねち逃(に)ぐい 下手(へぼ)ゴルフ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

拉致家族(かぞ)く 天と地い裂(せ)た 北ん内心(ねしゅ) [畑山真竹]
ヨン様い 日本(やまと)男子(おのこ)ん 値が落(お)てっ [津曲とっこ]
菜の花が 首脳会議い 和(わ)を添(そ)えっ [松下青雲]
四天王一席 恐(お)じ日本 警察官(けいさっかん)ぬ 大募集 [中村雲海]
四天王二席 被災地も 善意で気持(きも)ちゃ ポッカポカ [小瀬一峻]
四天王三席 学力(がくりょっ)が 下(さ)がっゆといが 危(あっ)のなっ [種子田 寛]
四天王四席 ボートピア 甘藷(かいも)ん代金(こ)ゆば 待(ま)っちゃげっ [小森寿星]
選者吟 九州(きゅうしゅ)かい 鷹(たか)をばファンが 逃(に)げさせじ

郷句相撲 題「語(かた)い」

横綱(東) 名義(なめん)替(が)え 語(かた)い分(わ)くれば 印鑑(はん)も出(で)っ [野間口鈴女]
横綱(西) 寝床(とこ)い入(い)っ じっくい語(かた)い 世帯(しょて)ん繰(く)い [津留見酎児]
大関(東) バス中で 語(かた)いとらんじ 電話しっ [入来創雲]
大関(西) 故郷(さと)は地震(なえ) 復興(ふっこ)い賭けた 強(つ)え語(かた)い [中村雲海]
関脇(東) 気安(きや)し医者(い)しぇ 世帯(しょて)ん繰(くい)ずい 婆(ば)あ語(かた)っ [横手五月]
関脇(西) 鹿児島(かごっま)ち いっき分かった 爺(じ)ん語(かた)い [菖蒲谷天道]
小結(東) 郷中(ごじゅ)ん寄合(よい) 語(かた)いちらけっ 焼酎(しょちゅ)いなっ [川村三生]
小結(西) 老人(おんじょ)同士(どし) 挨拶(えさ)ちゃ病気(やんめ)ん 語(かた)いなっ [今釜三岳]
筆頭(東) 地(じ)の喋(しゃべ)い 語(かた)いが弾(はず)ん 湯気(ゆげ)ん里 [大久保胡坐]
筆頭(西) 焼酎(しょちゅ)が入(い)っ 語(かた)やちんちん 大法螺(うぼ)れなっ [有馬慶成]
二枚目(東) 寝たきいの 語(かた)れん亭主(て)しも 情(じょ)は通(かよ)っ [末村琢詩]
二枚目(西) 良(よ)か語(かた)い 舟を漕(こ)っでた お寺詣(てらめ)い [福冨野人]
三枚目(東) 釣(つ)い落(お)てた 魚(いお)ん語(かた)いの 大(ふと)かこっ [山内成泰]
三枚目(西) 語(かた)い上手(じょし) 頑固(いっこっ)親父(とと)を 丸(まい)め込(く)っ [樋口一風]
四枚目(東) 鰥夫(やもめ)いな 誰(だい)じゃ来(き)やせん 語(かた)い相手(えて) [郷田悠々]
四枚目(西) 爺(じ)の年忌 泣(ね)たい笑(わ)るたい して語(かた)っ [金井一馬]
五枚目(東) メロドラマ うとっなろそな ナレーター [黒木菜々]
五枚目(西) 借金(かい)相談(そだん) 語(かた)いにゃ嘘も ひん混(ま)ぜっ [池上黒ぢょか]
六枚目(東) ママん方(ほ)が ペチャクチャ語(かた)い 可愛(む)ぜ飯事(ままげ) [森山厚香]
六枚目(西) 露見(ばれ)ちょって おてちき法螺(ぎら)を 語(かた)らせっ [田中栄泉]
七枚目(東) 後(うしと)から ねじゅ巻(ま)こごちゃい 鈍(ぬ)り語(かた)い [満留ぐみ]
七枚目(西) 語(かた)いだけ 聞けば金持(ぜんも)ち 見(み)ゆい同士(どし) [那加野黎子]
八枚目(東) 儲(も)け話(ばなし) 語(かた)いひん乗(の)っ 穴(ほ)き転倒(かや)っ [樋之口墨矢]
八枚目(西) 片言で 孫が語(かた)れば 笑(わ)れが舞(も)っ [有村土栗]
親方吟(東) 語(かた)いうち 昔(もと)ん顔(つ)れなっ クラス会 [植村聴診器]
親方吟(西) 恐(お)ぜ地獄(じご)く 行脚(され)っ来たごっ 語(かた)い僧侶(ぼし) [岩崎美知代]

その他の秀句 (順不同)

頼(たの)まれっ 嫁(き)たの貰(も)ろたの 夫婦(みと)喧嘩 [新地十意]
爺(じ)と婆(ば)が 孫ん支持率(しじり)つ やれ競(せ)ろっ [弓場正巳]
亭主(て)し欠(か)げた 三分を足(た)そち 気を遣(つ)こっ [津留見酎児]
病院(びょいん)バス 乗(の)いはっの人(と)が 乗(の)らじ心配(せわ) [横手五月]
食(く)も飲(の)んも 女房(かか)が下知(げ)つしっ 健(さか)し五体(ごて) [稲留明天]
結納が 済めばデートも 吝(けち)いなっ [津留見酎児]
素性(すじょ)が良(え)ち 威張(いば)いが昔(むか)しゃ ずるっ猿(よも) [塚田黒柱]