おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第607号

雑吟     塚田黒柱選

一番槍 負(ま)けっ勝て 言(ちゅ)どんやっぱい 負けは負け [弓場正巳]
二番槍 美味(うん)めはっ 金(ぜん)な構(か)めなし 亭主(とと)あ料理(じゅ)っ [平中小紅]
三番槍 金(ぜん)が無(ね)や 面白(おもし)てテレび 笑(わ)るもせじ [金井一馬]
四番槍 ずんだれを 叱(が)れば流行(はやい)ち きし吐(か)えっ [池上黒ぢょか]
五番槍 お年玉 孫ん親ずい 欲(ほ)しち言(ゆ)っ [江口紫朗]
六番槍 好評ち 書(け)ちゃい宅地(たっち)が 売れ残(のこ)っ [小森寿星]
七番槍 臨月腹(とつっばら) 手柄面(てがらづら)して 街(ま)つ歩(さ)りっ [中原袖無]

渋柿集

三條風雲児 宮(みや)ん馬場(ば)べ 春(はい)がやっきた 馬踊(うまおど)い
豆撒(まめま)っも 執念(しね)をこめちょい 倦怠期
お供えん 分(ぶん)な餅(も)つ搗(ち)た 旧(きゅ)の正月(しょがっ)
猫が先(さ)き 勘(かん)くろた態(ふ)の 節替(せっがわ)い
軽(か)り刑で 勘弁(こらえ)っもろた ジェンキンス
有川南北 友の会 選挙絡(がら)んの 安(や)しツアー
安(や)しツアー バスもそい似(に)た がんたれ車(しゃ)
観光(かんこ)バス どんぶい坂で 息(せ)が切(き)れっ
安(や)しツアー わがで歌(う)とたい 踊(おど)ったい
座布団ぬ 背負(か)るた忠治ん 赤城山
塚田黒柱 カロリーが どのこの言(ちゅ)えば 料理(じゅ)や出来(でけ)じ
女(おなご)嫌(ぎ)れ 言(ちゅ)どん女(おなご)が 寄(よ)い付(ち)かじ
ブランドが 似合(に)おち思(お)もちょい 良(よ)か度胸
飲(の)んも吸(す)も せんが人並(ひとな)み 金(ぜん)な要(い)っ
万年暦(まんにょん)な 一口(ひとく)ちゃ言(ゆ)わにゃ 落(お)て着(つ)かじ
堂園三洋 上役(うわや)きな 叱(が)られっ部下(ぶ)けな 嘗(な)められっ
俺(おい)がよな 奴(や)ち嫁(き)た女房(かか)が 可哀相(ぐら)すなっ
わかばかい 貰(も)ろた元気で 鍬(か)を握(にぎ)っ
食盛(くざか)いが おいえこっけん 夕方(よのいもて)
何(なん)言(ちゅ)てん 若さん秘訣(ひけ)ちゃ 焼酎(しょちゅ)と恋
植村聴診器 給料日(はれび)前 スーパー歩(さる)き 怖(びび)い財布(ふぞ)
茶飲(ちゃの)ん客(ぎゃ)き 湯ざめを我慢(きば)っ 相槌(えは)をうっ
大男(うおとこ)も 怖(びび)っ地面(じ)で這(すぼ) 震度7
パチンコ店(や) 財布(ふぞ)も一緒(いっど)き 風邪をひっ
花丸を 久(さ)し振(ぶ)いもろた 通所(つうしょ)ケア
岩崎美知代 証拠言(つ)が 最初(はな)かあ信用(しんよ) でけん拉致
売(う)っ歩(さ)ろっ 訳(わけ)いもいかじ 娘(こ)は三十歳(さんじゅ)
あと五分 寝床が恋(こい)し 大霜朝(うじもあさ)
後前(うしとま)へ 猫を抱(で)っ寝(ね)い 倦怠期
金(ぜん)相談(そだん) 呉(く)るい覚悟(かっご)で 出(だ)せっやっ

山椒集 題「亭主(てし・とと)」     有川南北選

ボーナス日 亭主(とと)を亭主(とと)らす 奉(たてまつ)っ [小瀬一峻]
肥(こ)えむくっ 金持(ぜんも)っどんに 見(み)ゆい亭主(てし) [津留見一徹]
ヨン様(さあ)と 亭主(とと)を比(くら)べちゃ 大息(うい)くちっ [池上黒ぢょか]
五客一席 にせ振(ぶ)いの 良(よ)か亭主(て)し一生(いっしょ) 泣(な)かされっ [岩崎美知代]
五客二席 私(あたい)ねや 誰(だい)が続(つ)じこか やどん亭主(てし) [埀野剣付鶏]
五客三席 温泉(ふろ)よっか 焼酎(しょちゅ)い浸(つか)った 亭主(てし)ん湯治(とっ) [棈松睦酔]
五客四席 大(ふ)て所帯(しょて)を 一代(いっで)で潰(つ)びた 飲(の)ん平(べ)亭主(てし) [新地十意]
五客五席 手い職(しょっ)が あれば亭主(てし)どま 要(い)らん娑婆 [上籠若菜]
選者吟 亭主(て)しゃ牡牛(こって) いっも鼻輪(はなぐ)ゆ 握(にぎ)られっ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

またブッシュ 世界平和が 遠(と)おけなっ [枦山一球]
地震(なえ)被害(ひが)い 慶事発表(はっぴょ)も 気を遣(つ)こっ [福山吉連]
史上初(しじょうはっ) 千円じゃった レタス様(さあ) [中村雲海]
四天王一席 憲法と 教育(きょうい)く弄(いじ)っ 時(と)きゃ用心(ゆじん) [渡 純光]
四天王二席 不審船 今度(こん)だ潜(もぐ)って 探(さぐ)い来(き)っ [弓場正巳]
四天王三席 豚汁(ぶたじゅい)と 心を運(はこ)だ ボランティア [細山田妙子]
四天王四席 憂さ晴(ば)らし 天文館(てんもんかん)に 色を塗(ぬ)っ [北村虎王]
選者吟 ピーマンが 東串良ん 名を上(あ)げっ

郷句相撲 題「出費(だしめ)」

横綱(東) 拉致されっ 食物(くもん)ずい贈(や)っ 妙(す)だ出費(だしめ) [渡 純光]
横綱(西) 将来(さ)か見(み)えん イラき出費(だしめ)ん 多(う)け支援 [上籠若菜]
大関(東) 痩(や)せ薬(ぐすい) 出費(だしめ)は多(う)けが 効(しょ)はうたじ [堂園三洋]
大関(西) 極楽(ごくらっ)の 出費(だしめ)あ惜(お)しゅね 寺ん寄付 [西迫順風]
関脇(東) 交付税 国(くん)も出費(だしめ)を 切(き)い詰(つ)めっ [松山寸八]
関脇(西) 当選(あが)ったや 出費(だしめ)も多(う)けち 女房(かか)ん愚痴(ぐぜ) [小瀬一峻]
小結(東) 安(や)し給料(はれ)ち 出費(だしめ)ん小言(こご)ちゃ 亭主(て)し向(む)けっ [稲留明天]
小結(西) 出費(だしめ)をば 引けば残(のこ)らん 米作(こめつく)い [那加野黎子]
筆頭(東) 多(う)け出費(だしめ) また始まった 夫婦(みと)喧嘩 [黒木菜々]
筆頭(西) 大(ふ)て出費(だしめ) 亭主(とと)が浮気ん 尻拭(しいぬぐ)い [今釜三岳]
二枚目(東) 出費(だしめ)どま ひとっも惜(お)しね 合格祝(ごかっゆえ) [西ノ園ひらり]
二枚目(西) 多(う)け出費(だしめ) 足(た)らじ直(いっ)きな 実家(さ)て走(はし)っ [有村土栗]
三枚目(東) 一人子(ひといご)ん 出費(だし)めもへかい ひーひ言(ゆ)っ [諸木小春]
三枚目(西) 大酔漢(うと)れなっ 出費(だしめ)あまっで 頭(びん)て無(の)し [有馬凡骨]
四枚目(東) 祝事(ゆえごっ)が 多(う)けで出費(だしめ)は とぼけちょっ [藤後一碧]
四枚目(西) 多(う)か出費(だしめ) 言(つ)た奴(わろ)人ん 倍(ばい)食(く)ろっ [中間紫麓]
五枚目(東) 退院日 医療出費(だしめ)は 惜(お)しは無(の)し [森山厚香]
五枚目(西) 子が合格(うか)っ 喜(よろこ)びゃ半分(なから) 多(う)か出費(だしめ) [大迫三ツ葉]
六枚目(東) 義理(ぎ)や欠(け)てん 税の出費(だしめ)は ちゃん払(はる)っ [泊 白水]
六枚目(西) 合格(うか)ったや 爺婆(じばば)も出費(だしめ)を 加勢(かせ)をしっ [仮屋一発]
七枚目(東) 出費(だしめ)どま 惜(お)しゅんが吐(は)っ目 焼酎(しょちゅ)は飲(ぬ)っ [樋渡草団子]
七枚目(西) 飲(の)ん方(かた)ん 出費(だしめ)は女房(かか)ん 許可が要(い)っ [弓場正巳]
八枚目(東) 出費(だしめ)をば 夫婦(みと)ん通帳(つうちょ)で 振(ふ)い分(わ)けっ [太良木 学]
八枚目(西) 会費制 出費(だしめ)を決めた 披露(ひろ)ん宴(ゆえ) [菖蒲谷天道]
親方吟(東) 兄弟(きょで)私大(しだい) 出費(だし)め田畑(でんばた) うっ食(く)ろっ [岩崎美知代]
親方吟(西) 誤診(みたてちげ) した医者様(いしゃさあ)は 大(ふ)て出費(だしめ) [植村聴診器]

第98回南日本薩摩郷句大会 兼題「詳(くわ)し」 堂園三洋選

特選 離婚(わかれ)騒動(そど) 六法(ろっぽ)い詳(くわ)し 女房(か)け負(ま)けっ [今釜三岳]
秀一 発車ベル 詳(くわ)しか話(はな)しゃ 積(つ)ん残(の)けっ [樋口一風]
秀二 詳(くわ)し事(こ)ちゃ 見(み)えん字で書(け)た 契約書(けいやっしょ) [小瀬一峻]
秀三 女房(かか)ん目が 詳(くわ)し言訳(ゆわけ)を 黙(だま)らせっ [弓場正巳]
秀四 両方(まんぼ)かい 詳(くわ)しゅ調(しら)ぶい 嫁御(よめじょ)娶(も)れ [西迫順風]
秀五 詳(くわ)し筈(はっ) 話(はなっ)のネタあ 週刊誌 [有川八味]
軸吟 当(あ)たやせん 天気予報(よほ)どん 詳(くわ)す言(ゆ)っ [堂園三洋]

第98回南日本薩摩郷句大会 兼題「薄(う)し」 塚田黒柱選

特選 鼻ん穴(す)ん 大(ふ)て人(と)がおれば 薄(う)し空気 [上籠若菜]
秀一 薄(う)し毛布(ケット) 一枚(いっめ)が嬉(うれ)し 地震後(あと) [片平桜子]
秀二 薄(う)し財布(ふぞ)い フランス料理(じゅい)が 心配(せわ)を焼(え)っ [小瀬一峻]
秀三 仮病(つくいびょ)が 薄目を開けた 焼酎(しょちゅ)ん匂(かざ) [三條風雲児]
秀四 薄(う)すなった 渦巻(ぎぎい)の辺(あた)い 墨(す)む塗(なす)っ [末村琢詩]
秀五 折角(せっかっ)の 薄味(うすあ)じごいと 醤油(しょ)ゆかけっ [工藤天然]
軸吟 厳(い)ねかった 姑(しゅ)て薄化粧(うすげしょ)を しっ葬送(おく)っ [塚田黒柱]

第98回南日本薩摩郷句大会 兼題「飢(ひだ)り」 有川南北選

特選 飢(ひだ)りさい 命(いの)つば賭けた 脱北者(だっぽくしゃ) [中村雲海]
秀一 飢(ひだ)り時(と)き 限(かぎ)っ飯(め)しゃ無(な)か 電気釜 [永徳天真]
秀二 負け戦争(いっさ) 飢(ひだ)っせ糠ん 団子(だご)も食(く)っ [三條風雲児]
秀三 飢(ひだ)りとか 賞味期限も 言(ゆ)わじ食(く)っ [菖蒲谷天道]
秀四 カレー匂(かざ) 部活(ぶかっ)の飢(ひだ)り 腹が鳴(な)っ [弓場正巳]
秀五 児(こ)も飢(ひだ)り 頃(ころ)じゃろ母親(はほ)ん 乳房(ちち)が張(は)っ [岩崎美知代]
軸吟 燕ん子 巣の縁(ふ)ち飢(ひだ)り 口(く)つ競合(せろ)っ [有川南北]

第98回南日本薩摩郷句大会 兼題「弱虫(やっせんぼ)」 三條風雲児選

特選 ブッシュいな ノーち言(ゆ)きらん 弱虫(やっせんぼ) [堂園三洋]
秀一 弱虫(やっせんぼ) 歩(ある)っかたずい 下を見(み)っ [西 三日月]
秀二 弱虫(やっせんぼ) 床下(ゆかした)猫で 隅(す)み曲(ま)がっ [久松田井介]
秀三 弱虫(やっせんぼ) わが家(え)じゃ横座(よこ)ぜ 反(そ)い返(かえ)っ [山下明良]
秀四 肩書(かたが)くば 外(は)じたやぶんと 弱虫(やっせんぼ) [樋口一風]
秀五 母親(かあ)ちゃんに かかれば父親(ちゃん)も 弱虫(やっせんぼ) [福冨野人]
軸吟 モマん声(こ)へ 便所も行(い)けん 弱虫(やっせんぼ) [三條風雲児]

その他の秀句 (順不同)

本命は パパにあげるち 可愛(む)ぞかチョコ [上籠若菜]
子を叱(が)れば 虐待言(つ)そな 声で泣(ね)っ [樋口一風]
お年玉 貰(も)ろずや爺様(じさ)め 抱(だ)かれちょっ [郷田悠々]
昨日(きぬ)ん友達(ど)しゃ 金(ぜん)ぬ貸(か)せたや 敵(かた)きなっ [福山吉連]
迎(むか)め来た 女房(かか)が箸戦(なんこ)い 座(すわ)い込(く)っ [那加野黎子]
肌寒(はださ)み日 仕事(しご)ち頑張(きば)い人(し) 遊(あす)じょい人(し) [新留豪也]
保険屋が 丸儲(まっど)いのよな 丈夫(じょっ)な亭主(てし) [小森寿星]
金(ぜん)借(か)いに 頭(びんた)も下(さ)げん カード娑婆 [植村聴診器]
飢(ひだ)りてん バリュウムだけは 美味(うん)も無(の)し [堂園三洋]
たまがった 態(ふ)で聞(き)っ流(な)げた 自慢話(ぎらばなし) [塚田黒柱]