おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第601号

雑吟     塚田黒柱選

一番槍 心配(せわ)な事(こ)ちゃ 一(ひと)っも無(ね)よな 鼾(いび)くけっ [新地十意]
二番槍 抜(ぬ)け上(あ)がっ 向(む)こ鉢巻(はちまっ)も ずい落(お)てっ [入来創雲]
三番槍 只(ただ)ん如(ご)っ さいも買(こ)え言(ちゅ)う コマーシャル [津留見酎児]
四番槍 忙(いそが)しち 親ん年忌も ち忘(わす)れっ [大保消忘書]
五番槍 ふいやしで 直(いっ)き釣(つ)られっ グルメ旅(たっ) [上籠若菜]
六番槍 我(わ)が用事(ゆし)で 出(で)っ時(と)か女房(かか)ん 手早(ば)え化粧(けしょ) [上山天洲]
七番槍 似合(にお)言(ちゅ)たや そうかち直(いっ)き 買(こ)た背広 [森山厚香]

渋柿集

三條風雲児 アルバイト 汗ん値打(ねう)っが 分かった態(ふ)
誰(だい)が知事(ち)じ なろが変(か)わらん 貧乏(びんぶ)県
年金の 未納(みの)をばミスち 金バッジ
早期刈(か)ゆ へとへとなけた 素麺(そめん)腹
里帰(さともど)い 精進(しょじん)の料理(じゅい)も 出(だ)しゃならじ
有川南北 見事(みご)てミニ 足が長(な)げけや まだ良(よ)かろ
よかにせが 大阪弁で 帰(もど)っ来(き)っ
安(や)し会費 いっき食(く)わんな 無(ね)ごっなっ
着物(いしょ)見立て どいでん似合(にお)ち 亭主(て)しゃ欠伸(あくっ)
屁ひい虫 屁は放(ひ)らんでん 嫌(き)ろわれっ
塚田黒柱 先生も 他人(ひと)が言(ゆ)しこは 楽(だっ)じゃのし
出世をば 考(かん)げでけたか 議(ぎ)も言(ゆ)わじ
デザインぬ 言(ゆ)ごれば合(お)よな 服(ふっ)が無(の)し
久振(さしかぶ)い 行(い)たや迷(まぐ)れた 山形屋
短(みし)け足(あ)す ブランド物(もん)が 持(も)て余(あ)めっ
堂園三洋 逆箒(さかぼっ)の 意味(わけ)を知(し)たんか 尻(し)ゆ上(あ)げじ
稀(まれ)けんな 金(ぜん)の心配(せわ)無(な)し 飲(の)もごたっ
あと五勺(ごしゃっ) 欲(ほ)しどん女房(かか)ん 眼が光(ひか)っ
年金じゃ 替えた車(くいま)も 軽(けい)のボロ
少子化い 欠伸(あく)ぶばしちょい 小児科医
植村聴診器 骨粗鬆(こっそしょう) ハイヒールどが 凶器(きょう)きなっ
頼(たの)まんて 五月(ごが)ち台風(うかぜ)が 訪(こと)ろしっ
車椅子(くいまい)し 乗(の)っ奥様(こじゅさあ)は 品(ひん)つくい
肺炎の 予防注射で 延(ぬ)っ寿命
種痘(ほそ)ん跡(あと) 整形(せいけ)ゆばして ミスいなっ
岩崎美知代 物差しで 踊(おど)いが止(や)んだ 痒(か)い背中
未来(さっ)の世も 貴方(はん)と連(ての)もち 可愛(む)ぜ女房(おかた)
殿下いも 胸(む)ね詰(つ)まろそな 事(こっ)があっ
二番成(にばんな)い 西瓜(すか)あ穴蔵(あなぐ)れ 涼(すず)ませっ
河童(がらっぱ)も 友達(どし)がおらんじ 土手(ど)て昼寝(ひんね)

山椒集 題「中元(ちゅうげん)」     有川南北選

大(ふ)て割(わ)いな 軽(か)り中元ぬ 揺(ゆ)すっみっ [棈松睦酔]
中元ち 声ん配達(はいた)ち 家族中(けねじゅ)寄(よ)っ [永徳天真]
中元(ちゅげん)じゃち 辣韮(だっきゅ)五キロで け済(す)ませっ [久保山三蔵塚]
五客一席 実家(さ)て送(おく)い 中元な爺婆(じば)べ 似合(に)おたシャツ [津留見酎児]
五客二席 飲(の)んべ相手(えて) 中元(ちゅげん)吟味あ 楽(だ)き決(き)まっ [仮屋一発]
五客三席 中元ち 毎年(めとし)海浜(うん)から 荷が届(と)じっ [大久保胡坐]
五客四席 化粧紙(けしょがん)で 包(つつ)んこれちょい お中元 [田中栄泉]
五客五席 かねっ来(く)い 中元(ちゅげん)が来(こ)んにゃ 心配(せわ)を焼(え)っ [江平光坊]
選者吟 中元の 中(な)けな仕方(しよ)ん無(ね) 義理(ぎい)もあっ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

未納者あ 串でな足(た)らじ 数珠繋(じゅずつな)っ [大脇保子]
焼酎(しょちゅ)ブーム 針金(はいがね)唐芋(いも)を もへ値踏(ねぶ)ん [池上黒ぢょか]
警棒が 打出の小槌(こづ)ち ひん化(ば)けっ [有川八味]
四天王一席 流行語 大賞(たいしょ)あ間違(まっ)げなし 菅氏(かんし) [西ノ原一句]
四天王二席 税トップ 志望(しぼ)を眼科い 切(き)い替(か)えっ [諸木小春]
四天王三席 鸛(こうのとい) 天城(あまぎ)ん空い 舞(も)っ踊(おど)っ [福山吉連]
四天王四席 拉致家族(かぞ)き パンチを食(く)ろた 強気首相(しゅしょ) [泊 白水]
選者吟 渡(わた)い日は 何(ない)時代かよ 桜島(しま)ん架橋(はし)

郷句相撲 題「腰(こし)」

横綱(東) 拉致家族 首相(しゅそ)ん弱腰(よわご)す 責めたてっ [安藤孟宗竹]
横綱(西) ガードルじゃ ばったいならん 腰の線 [池上黒ぢょか]
大関(東) 欲(ほ)し一票(いっぴゅ) 腰どま二(ふた)ち 折(お)い曲(ま)げっ [坂元鶴山]
大関(西) 肉付(にくづ)っの 良(よ)か腰(こ)し疲(だ)るい マッサージ [小森寿星]
関脇(東) 腰(こ)す捻(ひね)っ アタッく決めた 女子バレー [野間口鈴女]
関脇(西) 面当てか 子の居(お)い前で 腰(こ)す叩(た)てっ [有村土栗]
小結(東) 安来節 腰の籠(てご)ずい 踊(おど)らせっ [久永時盛]
小結(西) 子が五人 居(お)っとな見(み)えん 柳腰(やなっごし) [栫 路人]
筆頭(東) 腰骨い 褌(へこ)ん紐どが 頼(たよ)いきっ [鈴木一泉]
筆頭(西) 郷中(ごじゅ)苦役(くやっ) 腰が定(き)まらん 畚(もっこ)持(も)っ [菖蒲谷天道]
二枚目(東) 車(くいま)娑婆(しゃ)べ 腰かあ下が 弱々(よと)しゅなっ [末村琢詩]
二枚目(西) 椅子(い)す出(だ)せっ じっ腰(こ)す据(す)えっ 長電話 [樋口一風]
三枚目(東) 逃げ腰の 蜂(はっ)の巣捕(と)いが 転倒(はんと)けっ [新地十意]
三枚目(西) フラダンス 腰(こ)しゅ振(ふ)い過(す)ぎっ 婆(ば)は寝込(ねく)っ [原田菊男]
四枚目(東) 腰の低(ひ)き 女房(おかた)で楽(だっ)な 町議選 [諸木小春]
四枚目(西) 長(な)げ語(かた)い ごろいと石段(きざ)い 腰(こ)す下(お)りっ [那加野黎子]
五枚目(東) 腰(こ)しゃ曲(ま)がっ ちょっどん議(ぎ)しゃ婆(ば) 目を見出(みで)っ [樋渡草団子]
五枚目(西) 頑固(いっこっ)爺(じ) いっき話の 腰(こ)すば折(お)っ [有馬慶成]
六枚目(東) 痛(い)て腰(こ)すば 鍬(か)の柄を杖い 畑帰(はたもど)い [泊 白水]
六枚目(西) 腰付(こしつ)っが 農家向(む)っじゃち 要(い)らん世話 [今釜三岳]
七枚目(東) 年金じゃ とても足(た)らんじ 腰弁当(こしべんと) [堂園三洋]
七枚目(西) こん暑(ぬっ)せ 汗疹(あせぼ)が叫(おら)っ 腰痛(こし)ベルト [西 幸子]
八枚目(東) 腰(こ)すのべっ 歩(さ)るけば少(ちっ)た 若(わ)こ見(み)えっ [細山田妙子]
八枚目(西) ぎっくいの 亭主(て)しゃ寝床かあ 下知(げ)つ吐(か)えっ [内野潤一]
親方吟(東) 柳腰(やなっごし) 見惚(みと)れちょったや 手荒(てあ)れ所作 [岩崎美知代]
親方吟(西) 腰(こ)し湿布 貼(は)れじ狼狽(ばたぐ)ろ 独居者(ひといもん) [植村聴診器]

第97回南日本薩摩郷句大会 兼題「機嫌(ごっ)」 津留見酎児選

特選 社長(しゃちょ)ん機嫌(ご)つ 秘書い聞(き)てかあ ノックしっ [深道好之]
秀一 機嫌(ごっ)の悪(わ)り 包丁(ほちょ)い俎板(まねた)あ ヒイヒ言(ゆ)っ [上籠若菜]
秀二 機嫌(ごっ)の悪(わ)り 火箸が燠(おき)ゆ 突(つ)っ崩くえっ [岩崎美知代]
秀三 遺産分け 機嫌(ごっ)の良(よ)か時(とっ) 切(き)い出(だ)せっ [金井一馬]
秀四 姑(しゅと)ん機嫌(ごっ) 孫をばやって 探(さぐ)らせっ [片野田小鈴]
秀五 湯舟かあ 機嫌(ごっ)の良(え)亭主(とと)ん 浪花節 [有川南北]
軸吟 極楽(ごくらっ)ち 機嫌(ごっ)も最高(さいこ)ん 介護風呂 [津留見酎児]

第97回南日本薩摩郷句大会 兼題「正直(しょじっ)」 栫 路人選

特選 悪(わ)りた悪(わ)り 正直(しょじ)き言(ゆ)たなあ 嫌(き)ろわれっ [国生千鳥]
秀一 正直(しょじ)き塾(じゅ)き 行(い)たかメールで 確(たし)かめっ [小宮路〆鯖]
秀二 思(お)め切(き)って 内部告発(こくは)つ した正直(しょじっ) [中村雲海]
秀三 政見ぬ 誰(だい)も正直(しょじ)きな 聞(き)ちゃおらじ [三條風雲児]
秀四 ばか正直(しょじ)き 顔(つら)どん出(で)たや 役(や)く担(か)るっ [畑山真竹]
秀五 思(お)もた様(ご)っ そんまま正直(しょじ)き 言(ゆ)で揉(も)めっ [樋口一風]
軸吟 母(かあ)ちゃんな 昼寝(ひんね)しちょいち 子は正直(しょじっ) [栫 路人]

第97回南日本薩摩郷句大会 兼題「合併(がっぺい)」 塚田黒柱選

特選 合併で 舌を噛(か)もそな 社名(しゃめ)いなっ [蔵ノ下夢石]
秀一 合併が 寝(ね)ちょった議席(ぎせ)く 揺(ゆ)い起(お)けっ [津留見一徹]
秀二 合併で 熊が出(で)ろそな 市が誕生(で)けっ [郷田悠々]
秀三 合併で 痛(いた)ま庶民が 受(う)けかぶっ [山内成泰]
秀四 合併で 都合(つご)ん良(よ)か奴(と)が やれ励(はま)っ [小瀬一峻]
秀五 合併で 平(ひ)れひんなった 可哀相(ぐら)し課長(かちょ) [西 幸子]
軸吟 合併ち 言(ゆ)う名んつまや 地方(ちほ)苛(いじ)め [塚田黒柱]

第97回南日本薩摩郷句大会 兼題「義理張(ぎいは)い」 有川南北選

特選 義理張(ぎいは)いで つるん足(た)らんの 世帯(しょて)ば繰(く)っ [棈松睦酔]
秀一 方(ほ)の無(ね)亭主(て)し 堅(か)て義理張(ぎいは)いで 補修(ふせ)をしっ [小森寿星]
秀二 裕福(ゆつら)しが 義理張(ぎいは)ゆ知(し)たん けちな奥様(こじゅ) [西迫順風]
秀三 兄弟(きょで)同士(どし)の 義理張(ぎいは)ゆ嫁が がん崩(くえ)っ [新地十意]
秀四 義理張(ぎいは)いの 過(す)ぎい隣(つっ)とな 肩が凝(こ)っ [諸木小春]
秀五 社宅(しゃたっ)住(ず)め 平(ひら)は義理張(ぎいは)い 擾(こな)されっ [新地十意]
軸吟 唐芋(かいも)どん 食(く)て義理張(ぎいは)いの 高価(た)けメロン [有川南北]

第97回南日本薩摩郷句大会 兼題「がんたれ」 三條風雲児選

特選 茶柱(ちゃばした)が 沢山(ずばっ)沈(し)ずじょい がんたれ茶 [有川南北]
秀一 借(か)い便所(まなか) がんたれ鍵(かっ)じゃ 気細(きぼ)すなっ [池上黒ぢょか]
秀二 黒豚ち がんたれ肉を きし食(か)せっ [金井一馬]
秀三 白蟻(どっずい)も 馬鹿(ば)けして食(か)まん がんたれ家(え) [小森寿星]
秀四 がんたれ家(え) 盗人(ぬいど)も入(い)らん 兎小屋(うさっごや) [桜井吹雪]
秀五 手打(てう)っそば がんたれ粉(こな)で 団子(だご)いなっ [村田子羊]
軸吟 がんたれん 目覚(めざ)ましゃ夜中(よな)け 鳴(おら)っでっ [三條風雲児]

その他の秀句 (順不同)

あとで叱(が)ろ 思(と)もた小言(ぐぜ)をば け忘(わす)れっ [樋口一風]
旨(うん)も無(ね)で 犬(いん)に頼んだ 後始末(あとしまっ) [金井一馬]
鼻毛をば わんわん出(だ)せた 凄(わざ)い奴(わろ) [永徳天真]
職場(しょっば)でな いけな態(ふ)じゃいか 横(よん)ご亭主(てし) [上籠若菜]
褒(ほ)めちゃ欲(ほ)し 褒(ほ)めみちゃ知(し)たん 小(こ)め器量(うつわ) [坂口橘風]
見合(みえ)ん席(せっ) 最初(はな)で年収(ねんしゅ)を 聞(き)っ大胆(ぼっけ) [諸木小春]
泣虫(なけべし)ち 子をば叱(が)いうち 自分(わが)も泣(ね)っ [西ノ原一句]
洗濯物(あれもん)ぬ 夕立(さだ)ちゃ竿とめ 走(はし)らせっ [仮屋一発]
孫(ま)げ婆(ばば)を とられっ三毛(みけ)は 家出しっ [中間紫麓]
年(と)し不足(ふそ)か 無(な)かて叙勲の 使者(つけ)は来(こ)じ [上薗佳笑]
中元に 歳暮(せぼ)ん残物(のこ)いか 来た毛布(ケット) [野間口鈴女]
子が加減 すいごっなった 腕相撲 [種子田 寛]
御機嫌(ごっげん)も 木戸ずいじゃった 千鳥足(ちどいあし) [倉元天鶴]
がんたれが 居(お)らんな切(せっ)ね 晩も有(あ)っ [上薗佳笑]
一円ぬ 正直(しょじ)き届けた 一年坊(いっねんぼ) [永徳天真]
合併ち 名前は良(え)どん 倒産(かや)い前 [片平桜子]
初デート 血が噴(ふ)っ出(で)いめ 歯を磨(み)げっ [津留見一徹]
血統(けっと)付(つ)き がんたれ犬(いん)が 孕(はら)ませっ [金井一馬]