おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第595号

雑吟     塚田黒柱選

一番槍 何処ずいが 嘘か本当(まこっ)か 語(かた)い上手(じょし) [川村三生]
二番槍 何(な)ゆ買(こ)たか 覗(み)っみい他人(ひと)ん 買物(けもん)籠 [永徳天真]
三番槍 我(わ)が家(え)でん 素泊(すどま)いじゃった 妻(かか)んスト [樋口一風]
四番槍 信号が 要(い)ろそな朝ん 大家族(うげね)世帯(じょて) [諸木小春]
五番槍 歩(あゆ)んよか 熱(ね)つ出(だ)せた方(ほ)が 早(は)よ痩(や)せっ [野間口鈴女]
六番槍 硬(かた)か飯(め)し 胃が悪(わ)るなっち 位牌(いへ)ん愚痴(ぐっ) [小森寿星]
七番槍 高価(た)け焼酎(しょちゅ)も 同(ひと)っ味(あっ)じゃち 下戸ん亭主(とと) [飯福小手毬]

渋柿集

三條風雲児 お堅(か)てこっ 旧の正月(しょが)ちも 餅(も)つば搗(ち)っ
交互(かたいご)ち 家族(けね)を寝(ね)せちょい 流行性感冒(はやいかぜ)
朝晩な 寒(さ)みが梅(うんめ)が 咲(さ)っでっけっ
老夫婦(おんじょみと) うそ震(ぶ)るかたで 麦(む)ぐば踏(ふ)ん
振られたか もへ帰(もど)っきた 老猫(おんじょねこ)
有川南北 堪(の)さん義理(ぎい) ほろめっかたで 包(つつ)ん金(ぜん)
忘(わす)れちょっ 飛(と)ばこっ止めた 風呂ん水(みっ)
笑(わ)るた奴(と)も 万景峰(まんぎょんぼん)ち 言(ゆ)はならじ
差支(ちか)や無(ね)ち 言(ゆ)どん鯉濃(こいこ)か 食(く)ごたのし
蠍座(さそいざ)ん 女房(かか)わろ俺(お)ゆば 刺(さ)しどえっ
塚田黒柱 間違(まっ)げなし 軍隊(ぐんた)いなった 自衛隊
撫(な)で付(つ)くい 髪(かん)ぬ鏡(かがん)が きし笑(わ)るっ
偏差値が 惜(あった)れ青春(は)ゆば 振(ふ)い回(ま)えっ
当(あ)て擦(こす)ゆ うつらん振(ふ)ゆば すい亭主(とのじょ)
痒(か)い背中 柱(はし)て掻(か)かすい 独身者(ひといもん)
堂園三洋 魔法(まほ)んごっ 良(よ)か酢をつくい あまん壺
千円ぬ 小銭(こぜん)ち吐(か)やす 成(な)い上(や)がい
万一(まんいっ)ち 何度も吐(か)やす 保険勧誘(とい)
女房(かか)は留守(ずし) とことん飲(の)もち 友達(どし)も招(よ)っ
鬘(かつら)をば うっ剥(ぺ)た所(とこ)い 客(きゃっ)の声
植村聴診器 教育(きょいっ)ママ わがが合格(うか)った 態(ふ)の語(かた)い
立(た)っ語(がた)い 後(の)ちゃしゃがん込(く)っ 長(な)げ悪口(あっご)
私(わたし)よち 娘(こ)の電話いも びくっしっ
棒(ぼっと)をば ゴジラんバッて すい名工(めいこ)
やい繰(く)いに お年玉をば 少(ち)すへずっ
岩崎美知代 勘違(かんち)げで 昼(ひ)い鳴(おら)っでた 老鶏(おんじょどい)
里ん猿(よも) 唐芋(かいも)を両方(まんぼ) 抱(で)っ走(はし)っ
国語力(こっごりょ)か ぶんとじゃろそな 子がメール
婆(ばば)ん背い 眠(ね)び小言(こまごっ)が ひちゃっ止(や)ん
おちょくれば 蟹(がね)も一鎌(ひとかま) 振(ふ)い下(お)れっ

山椒集 題「震(ふる)え」     有川南北選

取(と)い落(お)てた 茶碗の値札(ねふ)で がが震(ふる)っ [上籠若菜]
挨拶(えさっ)すい 順番(ばん)がきたなあ 震(ふ)るでけっ [井手上政暎]
手が震(ふる)っ やっと名前(な)を書(け)た 赤キップ [北村虎王]
五客一席 雪雨(ゆっさめ)い 震(ふる)えっ戻(もど)い 素駄(すだ)鉄砲(てっぽ) [久永時盛]
五客二席 猪口(ちょっ)一杯(いっぺ) 飲(ぬ)だや治(なお)った 手の震え [深道好之]
五客三席 初キッス 差し出(で)た唇(すば)が 小(こ)も震(ふる)っ [郷田悠々]
五客四席 武者震(ぶる)ゆ したどん土俵(どひゅ)じゃ はたかれっ [小森寿星]
五客五席 臆病者(ひっかぶい) 葛橋(かずらばし)ごし 震(ふ)るでけっ [有馬凡骨]
選者吟 底は水(みっ) 風呂かあ震(ふ)るた 声が叱(が)っ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

総選挙 護憲の声を 小(こ)むなけっ [田代勝泉]
両陛下(りょうへい)け 元気な奄美 見て貰(も)ろっ [永徳天真]
温泉(ゆ)の街(まっ)が 宿泊(しゅくはっ)拒否で 地(ち)い堕(お)てっ [福冨野人]
四天王一席 一億(いちおっ)の 保険で釣った イラク行(い)っ [小森寿星]
四天王二席 年金が いけんないかち 毎日(めにっ)心配(せわ) [仮屋三唱]
四天王三席 止(と)まい木を 変(か)えっ気を吐(は)っ 真紀子節 [津留見一徹]
四天王四席 指(い)ぶば折(お)っ つばめん出発(でた)つ 家族中(けねじゅ)待(ま)っ [北村虎王]
選者吟 吉松(よしまっ)の 空を飾った 熱気球(ねっききゅう)

郷句相撲 題「化粧(けしょ)」

横綱(東) 高(た)け化粧(けしょ)を おてっきしちょっ 荒(あ)るい肌 [隈元都城男]
横綱(西) 持明院様(じめさあ)も 負(ま)くそな女房(かか)ん 厚化粧(あっげしょう) [中村雲海]
大関(東) ネックレス 化粧(けしょ)と地肌ん 境(さけ)いなっ [有馬純秋]
大関(西) 化粧塩(けしょじお)で 舟皿(ふなざ)れ映えた 貫目鯛(かんめだい) [金井一馬]
関脇(東) ママが化粧(けしょ) 飲(の)ん代(だ)いごいと 背負(かる)わせっ [松元清流]
関脇(西) 婆(ばば)ん化粧(けしょ) 皺が相当(おてちき) 金(ぜん)ぬ食(く)っ [津留見酎児]
小結(東) 濃(こ)いか化粧(けしょ) 女子大学(だいがっ)の 脛齧(かじ)い [鈴木一泉]
小結(西) モンゴルん 化粧まわしが 高(た)こ踊(おど)っ [松田一雄]
筆頭(東) 化粧(けしょ)をしっ 盛装(し)でたや可愛(むぞ)か 七五三 [山内成泰]
筆頭(西) 念入(ねんい)いの 化粧(けしょ)で男を 悩殺(といこ)れっ [永徳天真]
二枚目(東) 顎と顔(つ)れ 段が付(ち)たよな女 房(かか)が化粧(けしょ) [野間口鈴女]
二枚目(西) 土俵(どひゅ)い這(ほ)た 苦労(くろ)が実(み)いなっ 化粧(けしょ)まわし [津曲とっこ]
三枚目(東) パートでな つるんたらんの 化粧(けしょ)ん代(こい) [太良木 学]
三枚目(西) 派手な化粧(けしょ) 美人(シャン)ち思(お)もたや 立小便(たっしべん) [有村土栗]
四枚目(東) 目を落(お)てた 母親(か)けそっち紅(べ)ぬ 引(ひ)っ別れ [細山田妙子]
四枚目(西) 誰(だ)い見(み)すい 化粧(けしょ)かち亭主(とと)が あらん心配(せわ) [今釜三岳]
五枚目(東) 身嗜(みだしな)み 化粧(けしょ)は欠(か)がさん 麓(ふもと)奥様(こじゅ) [森山厚香]
五枚目(西) 見(み)ろざまね 家(え)かあ出(で)っ来た 派手な化粧(けしょ) [江平光坊]
六枚目(東) 化粧面(けしょづら)が 華を咲かせた 参観日 [稲留明天]
六枚目(西) 雪化粧(ゆっげしょ)ん 桜島(しま)あカメラん 的(まと)いなっ [菖蒲谷天道]
七枚目(東) 夜(よん)の蝶々(ちゅちゅ) 化粧(けしょ)を落とせば 只(ただ)ん女(ひと) [川村三生]
七枚目(西) 長(な)げ化粧(けしょ)が 年中(ねんず)喧嘩ん 原因(も)てけなっ [有馬凡骨]
八枚目(東) 雪化粧(ゆっげしょ)で 正月(しょが)つ迎えた 桜島 [久永時盛]
八枚目(西) 我(わ)が顔(つら)も 知(し)たじ高価(た)け化粧(けしょ) ごいと買(こ)っ [上山天洲]
親方吟(東) 化粧(けしょ)っ気(け)も 無(な)かて若さで 光(ひか)い娘(おご) [植村聴診器]
親方吟(西) うど腫(ば)れた 顔(つ)れ口紅(べん)も遠(と)え 病(や)ん上(あ)がい [岩崎美知代]

第96回南日本薩摩郷句大会 兼題「覚悟(かっご)」 栫 路人選

特選 結婚式(ごぜんけ)い 安(や)した覚悟(かっご)ん 山を売(う)っ [今釜三岳]
秀一 言難(ゆに)き態(ふ)ん 医者ん様子(よ)すみっ 覚悟(かっご)せっ [片平桜子]
秀二 多(う)か子供(こど)み 覚悟(かっご)を決(き)めちゃ 荷を解(ほ)でっ [島田秀鼓]
秀三 覚悟(かっご)しっ 笑(わ)るて看病(かんびょ)ん 癌の亭主(てし) [山下明良]
秀四 親同居 覚悟(かっご)は良(え)かち 念ぬ押(え)っ [下栗志乃]
秀五 後妻(あとめ)貰(も)れ 家族(けね)ん反対(はんた)ゆ 覚悟(かっご)しっ [新地十意]
軸吟 覚悟(かっご)しっ 待(ま)っとい手じゃい 握(にぎ)らせじ [栫 路人]

第96回南日本薩摩郷句大会 兼題「苦労(くろ)」 堂園三洋選

特選 難民の 苦労(くろ)も知(し)たんじ グルメツア [塚田黒柱]
秀一 自叙伝ぬ 書(か)こそな婆(ばば)ん 苦労話(くろばなし) [諸木小春]
秀二 肩ん瘤(こ)び 棚田ん苦労(くろ)が こばい付(ち)っ [坂元鶴山]
秀三 終戦の 苦労(くろ)を語(かた)れば 食難(くに)くなっ [津留見酎児]
秀四 親ん苦労(くろ) 子いなさせんち 塾(じゅ)き追出(うで)っ [西 幸子]
秀五 持(も)てん亭主(て)し 浮気ん苦労(くろ)は 知(し)たじ済(す)ん [有馬慶成]
軸吟 口下手(くっべ)てな 自己紹介も 相当(じょじょ)な苦労(くろ) [堂園三洋]

第96回南日本薩摩郷句大会 兼題「引(ひ)け目(め)」 塚田黒柱選

特選 素うどんじゃ がっつい引け目 隣席(とな)やトロ [堂園三洋]
秀一 生還(もど)っ来た 引け目特攻(とっこ)ん 墓(は)け詫(わ)びっ [岩崎美知代]
秀二 借(か)っちょれば 呉(く)れ言(ちゅ)万年青(おもと)を 断(こと)われじ [三條風雲児]
秀三 リストラで 家族(けね)い引け目ん 亭主(て)す庇(かぼ)っ [森山厚香]
秀四 大(ふ)て女房(かか)い 一生(いっで)引け目ん 小短躯(こじっくい) [堂園三洋]
秀五 露天風呂 ボインが小(こ)めた 深(ふ)こ浸(つか)っ [有川南北]
軸吟 短躯(じっくい)の 引け目を金(ぜん)で カバーしっ [塚田黒柱]

第96回南日本薩摩郷句大会 兼題「ちわいちわい」 有川南北選

特選 友人(どし)が来(こ)じ ちわいちわいの 発車ベル [津曲とっこ]
秀一 女房(かか)んヒし ちわいちわいの 敷(し)かれ亭主(てし) [三條風雲児]
秀二 大(ふと)か揺(ゆ)れ ちわいちわいの 婆(ば)を引張(そび)っ [横手五月]
秀三 下(くだ)し腹(ば)れ ちわいちわいの 特急(とっきゅ)バス [小森寿星]
秀四 テスト前 小便(しべん)ぬしたい 水(み)ず飲(ぬ)だい [塚田黒柱]
秀五 手術(しゅじゅっ)前 ちわいちわいの 医者い心配(せわ) [永徳天真]
軸吟 迎(む)けが来(こ)ん 空港(くうこ)で ちわいちわい待(ま)っ [有川南北]

第96回南日本薩摩郷句大会 兼題「魅力(みりょっ)」 三條風雲児選

特選 和服(わふ)く着(き)っ 昨日(きぬ)とな違(ち)ごた 魅力(みりょ)く出(で)っ [平中小紅]
秀一 まだ若(わっ)か 魅力(みりょっ)が喪服(もふ)き 零(こぼ)れ出(で)っ [西迫順風]
秀二 美人(シャン)な得(とっ) 後(うしと)姿(すが)ても 魅力(みりょ)かあっ [吉丸セツ子]
秀三 ちとせ節(ぶ)しゃ 奄美ん魅力(みりょ)く 引(ひ)っ立(た)てっ [蔵ノ下夢石]
秀四 撫(な)で肩ん 女形(おやま)あ怪(あや)し 魅力(みりょ)く出(で)っ [永徳天真]
秀五 優(やさ)し女房(かか) 禿も魅力(みりょっ)ち 言(ゆ)て呉(く)れっ [池上黒ぢょか]
軸吟 垂(た)れさがっ もう魅力(みりょ)か無(な)か 妻(かか)ん乳房(ちち) [三條風雲児]

その他の秀句 (順不同)

おい言(ちゅ)たや 他人(ひと)ん奥様(おかた)も 振(ふ)い返かえっ [栫 路人]
重(お)ぶなかや 寝付(ねつ)っが悪(わい)か 羽毛(うも)蒲団 [弓場正巳]
少(こ)し湯でん 終(しめ)風呂向(む)っの 肥えた女房(かか) [津留見酎児]
習(な)るたごっ 娘(むしめ)も亭主(て)すば びりっやっ [上籠若菜]
もへ離婚 結婚式(しっ)のローンな まだ済(す)まじ [佐土原 隆]
遠(と)え耳(みん)に おれおれ詐欺が 匙(さ)ず投(な)げっ [佐土原 隆]
万が一(いっ) 言(ちゅ)て一(い)ち賭けた 女房(かか)ん宝籤(くし) [上山天洲]
あの世さへ 持(も)っ行(じ)っ金(ぜん)ぬ 詐欺い遭(お)っ [福山吉連]
ステテコを オートロックが 閉(し)め出(だ)せっ [小森寿星]
禿げた亭主(て)し 二間(にけん)下(さ)がって 付(ち)っ歩(さ)りっ [有馬慶成]
夫婦(みと)喧嘩(いさけ) 寝(ね)い頃(こ)れなれば 仲良(なか)ゆなっ [山下明良]
稽古(けこ)で泣(ね)っ 勝って笑(わ)るえち 活(か)つ入(い)れっ [深道好之]
老夫婦(おんじょみと) 別々(べっべ)ち余生(よせ)ん 夢を見(み)っ [江口紫朗]
泣(な)っ落とし 負(ま)くそな亭主(とと)い 用事(ゆ)じょ作(つく)っ [吉丸セツ子]
焼酎(しょちゅ)も欲(ほ)し 朝寝もすごちゃ 金(ぜん)も欲(ほ)し [仮屋三唱]
嫁んため 朝寝をしちょい 隠居部屋 [藤高春風]
あと五分 小便(しべん)も我慢(きば)い 今朝ん寒(かん) [東 竜王]
父親(ちゃん)が平(ひら) 子供(こ)ずい引け目ん 社宅(しゃたっ)住(ず)め [金井一馬]
ハネムーン ちわいちわちの 亭主(て)すリード [中村雲海]
短足(たんそっ)の 魅力(みりょ)く和服(わふっ)が 引(ひ)っ出(だ)せっ [小瀬一峻]