薩摩郷句誌「渋柿」
第594号
雑吟 塚田黒柱選
一番槍 | 鸛(こうのとい) 一日(ひして)二度来た 様(ふ)で双子 [上籠若菜] |
二番槍 | 子作(こづく)いの 報告(ほうこっ)のよな 年賀状 [小森寿星] |
三番槍 | リサイクル すっち溜(た)めちょい 塵(ごん)の山 [種子田 寛] |
四番槍 | こげな美人(シャン) 娶(も)ろたち 写真入(い)いの賀状(がじょ) [佐土原 隆] |
五番槍 | 思(お)め残(のこ)しゃ 無(な)か言(ちゅ)が金(ぜん)な 欲(ほ)しよな態(ふ) [栫 路人] |
六番槍 | 亭主(てし)よっか 好(す)っな諭吉(ゆきっ)と 縁が無(の)し [平中小紅] |
七番槍 | 雑炊(ずし)貰(も)れも 着物(いしょ)をぞろ引(び)た 七軒目 [福冨野人] |
渋柿集
三條風雲児 | お節(せち)にも 飽(え)たち茶漬けで 夕飯(いめ)ししっ |
総入歯(がんぶ)ゆば 餅(もっ)の吸物(すもん)に ちょくられっ | |
年金な 端的(たっち)き消えた お年玉 | |
不景気で 箸戦(なんこ)どま無(な)か 寄合(よい)正月(しょがっ) | |
勘(かん)くろた 態(ふ)で老鶏(おんじょど)や 寄(よ)いつかじ | |
有川南北 | 賀状出し 毎年(めとし)の事(こっ)で また晦日 |
スタンプを 押(え)たばっかいの 年賀状 | |
初飛行(はっひこう) びん盥(だれ)凪(なっ)の 海(う)む渡(わた)っ | |
お年玉 見知(みし)たん顔(つら)も 貰(も)ろけ来(き)っ | |
兄(あん)ちゃんが 多(う)けちごねでた お年玉 | |
塚田黒柱 | 達筆(たっぴっ)の 賀状(がじょ)い返事が 書(か)っ難(に)くし |
日記帳(にっきちょ)を 見(み)てん今頃(こんご)ら 買(こ)もせんじ | |
河童(がらっぱ)ん皿も凍った 寒(さん)か朝 | |
消費税 三年経てば 上(あ)ぐい肚(はら) | |
生徒かあ 元気を貰(も)ろっ 今日(きゅ)も頑張(きば)っ | |
堂園三洋 | リストラで 好(す)かん課長と 会(お)わじ済(す)ん |
保険屋は 真(ま)ん丸(ま)り女房(かか)い 美人(シャン)ち言(ゆ)っ | |
倦怠期 語(かた)い掛(か)くれば 背を向(む)けっ | |
休肝日 泣(な)こそな顔(つら)で ウーロン茶 | |
外出(で)らんでん 化粧(けしょ)どませえち 亭主(とと)が叱(が)っ | |
植村聴診器 | 米不作(ふさ)き 案山子(おど)しゃ気力(あや)ん無(ね) しょぼくれっ |
捨(す)てきらん 日記いホーホ 恋(こ)やたぎっ | |
ダイエット 旬の秋刀魚が 腰(こ)すば折(お)っ | |
独身者(ひといもん) 何(ない)もせんでん 正月(しょが)ちゃ来(き)っ | |
米不足(ふそ)き バツ一(いっ)ち帰(き)て 増えた家族(けね) | |
岩崎美知代 | 包(つつ)まんじ 来(け)ち言(ゆ)で行けば 鯛(て)ずい載(の)っ |
可愛(む)ぜ所作ん 高見盛(たかみざかり)い 館(かん)が沸(うぇ)っ | |
先祖額(が)か 金(ぜん)にゃ縁の無(ね) 顔(つら)をしっ | |
大(ふ)て女房(かか)ん 声(こ)へ勝負(しょっ)有(あ)いの 夫婦(みと)喧嘩 | |
婆(ば)を笑(わ)るっ 芽吹(めだ)っ面憎(つらに)き 松葉草(まっばぐさ) |
山椒集 題「猿(よも・さい)」 有川南北選
天 | ボス猿(ざる)ん 顔(つら)は横(よん)ごん 親父(おや)じ似(に)っ [埀野剣付鶏] |
地 | 良(ゆ)う見(み)たや どっか亭主(と)て似た 猿(よも)ん顔(つら) [田中末木] |
人 | 不景気で 祝儀(はな)も弾(はず)まん 猿(さい)回(まわ)し [北村虎王] |
五客一席 | 猿(よも)んよな 赤子(こ)を褒(ほ)めたくい 産の見舞(みめ) [川村三生] |
五客二席 | 褒(ほ)めちゃ叱(が)っ 愛情(ぼんの)で仕込(しこ)ん 猿(よも)ん芸 [西 幸子] |
五客三席 | 麻酔銃(ますいじゅ)で やっと捕(つか)めた 暴れ猿(ざい) [米元年輪] |
五客四席 | 利巧(じく)な猿(さい) 唐芋(かいも)あ海(うん)で 洗(ある)っ食(く)っ [坂口橘風] |
五客五席 | 昼飯(ちゅはん)ぬば 猿(よも)い盗(と)られた 木挽(こびっ)小屋 [仮屋一発] |
選者吟 | 逃げた猿(さい) 消防(しょうぼ)ん衆(し)ずい 狩(か)い出(だ)せっ |
龍虎集 「時事吟」 堂園三洋選
天 | つばめ号(ご)い 肩車(びびんこ)ん児(こ)が 夢を追(う)っ [岩崎美知代] |
地 | 親切な 自分(わが)で刈(か)っ行(い)た 米(こめ)盗人(ぬしと) [久永時盛] |
人 | 選挙戦 日本語で言(ゆ)え マニフェスト [佐伯山神] |
四天王一席 | 焼酎(しょちゅ)漬(づ)けじゃ 貰(も)ろ人(て)あなかろ 亭主(てし)の五臓(ごぞ) [上籠若菜] |
四天王二席 | 幹事長(かんじちょ)ち 重(お)び役職(や)く貰(も)ろた 御曹子 [松元清流] |
四天王三席 | 闘将も 虎ん勇姿い 身を削(けず)っ [福冨野人] |
四天王四席 | こん不況(ふきょ)い 焼酎(しょちゅ)ばっかいが 独(ひと)い舞台(ぶて) [中村雲海] |
選者吟 | 地産地消(ちさんちしょ) カンパつ肴(しお)け 唐芋(かいも)焼酎(じょちゅ) |
郷句相撲 題「喜寿(きじゅ)」
横綱(東) | 喜寿ん娘(こ)を 白寿ん母(かか)が 愛娘(ちび)ち呼(よ)っ [渡 純光] |
横綱(西) | 戦場(いっさば)で 拾(ふ)るた命(いのっ)が 喜寿いなっ [楠八重渓流] |
大関(東) | 金(ぜん)な強(つ)え 喜寿ん爺様(じさま)い 嫁が来(き)っ [新地十意] |
大関(西) | 靖国を 誓(ち)こたがすまん 喜寿いなっ [津曲とっこ] |
関脇(東) | 子どが集(よ)っ まだ若(わ)け心算(つも)ゆ 喜寿ん祝(ゆえ) [安藤孟宗竹] |
関脇(西) | 喜寿ん祝(ゆえ) 本家ん座敷(ざし)く 零(こぼ)れ出(で)っ [津留見酎児] |
小結(東) | 万歳で 米寿い向(む)こっ 喜寿ん祝(ゆえ) [野間口鈴女] |
小結(西) | 喜寿も済(す)ん 後(あと)あおまけん 八十(はっじゅ)坂 [菖蒲谷天道] |
筆頭(東) | こん皺は 苦労(くろ)ん勲章(くんしょ)ち 喜寿ん婆(ばば) [松元清流] |
筆頭(西) | 喜寿言(ちゅ)たや 誰(だい)よち亭主(とと)も 呆けがきっ [有馬凡骨] |
二枚目(東) | 喜寿ん父(と)て 後妻(あと)を娶(も)ろえち 息子(こ)どが言(ゆ)っ [東 竜王] |
二枚目(西) | 少(すっ)のなっ 喜寿で終(し)めした クラス会 [小森寿星] |
三枚目(東) | 喜寿ん祝(ゆえ) 孫ん衆(し)の名が 直(じ)き出(で)らじ [稲留明天] |
三枚目(西) | 喜寿ん祝(ゆえ) まだ先(さ)か長(な)げち 挨拶(えさ)ち沸(うぇ)っ [坂口橘風] |
四枚目(東) | 演歌よか 軍歌が馴染(なじ)ん 喜寿ん耳(みん) [坂元鶴山] |
四枚目(西) | 百歳を 世話すい娘(むいめ) 喜寿いなっ [大脇保子] |
五枚目(東) | ゲート仲間(どし) 喜寿じゃ若(わ)け衆(し)ち 使(つ)け走(ば)しい [津留群志] |
五枚目(西) | 喜寿いなっ 老後が心配(せわ)ち 貯(た)めでけっ [深道好之] |
六枚目(東) | 喜寿も済(す)ん 気儘(きこん)にやろち 思(お)めなえっ [川村三生] |
六枚目(西) | 喜寿言(ちゅ)えば まだ若(わ)けがなち 子が吐(か)えっ [西 幸子] |
七枚目(東) | 喜寿ん祝(ゆえ) 孫はメールで け済(す)ませっ [篠原文兎] |
七枚目(西) | 青年(にせ)んよな 気分で歩(さる)っ 喜寿ん父(とと) [上籠若菜] |
八枚目(東) | 今度ずい じゃろち言(ゆ)ながい 喜寿ん旅(たっ) [諸木小春] |
八枚目(西) | 喜寿迎(むか)め 自動車(くいま)免許い 暇ば出(で)っ [棈松睦酔] |
親方吟(東) | かまと様(さあ) 喜寿は頼(たよ)い無(ね) 子供(こどん)ちゅっ [植村聴診器] |
親方吟(西) | 兄貴(あにょ)兄貴(あにょ)ち 白寿い喜寿は 注(ち)っ回(まわ)っ [岩崎美知代] |
第96回南日本薩摩郷句大会 兼題「後塞(あとぜっ)」 上籠若菜選
特選 | 鉄砲(てっぽ)撃(う)ち 後塞(あとぜ)くさせた 薪(たくん)取(と)い [郷田悠々] |
秀一 | 乗(の)い外(は)じた ジェット機テロで 墜落(ひっちゃ)えっ [末村琢詩] |
秀二 | 踏切(ふんき)いで まだ後塞(あとぜっ)が すい故障(えんこ) [三條風雲児] |
秀三 | 崖崩れ 前ん車(くいま)が 土砂(ど)しぇ埋(いか)っ [塚田黒柱] |
秀四 | 知恵熱(ちえねっ)ち 知(し)たじ飲ませた 熱(ねっ)さまし [藤高春風] |
秀五 | 原発(げんぱ)ちも 後塞(あとぜ)くさせた 震度六(ろっ) [小瀬一峻] |
軸吟 | 吹上(ふっきゃげ)ん 拉致(ら)ち後塞(あとぜっ)が したキャンプ [上籠若菜] |
第96回南日本薩摩郷句大会 兼題「全部(すっぱい)」 永徳天真選
特選 | 気が変(か)わっ 遺言(ゆお)か全部(すっぱい) 書(か)っ直(な)えっ [岩崎美知代] |
秀一 | 余計(よけ)な加勢(かせ) 苗も全部(すっぱい) 引(ひ)っ抜(こ)えっ [国生千鳥] |
秀二 | 鍵(か)ぐ戻(も)でっ こいで全部(すっぱい) 恋(こ)や終(お)わっ [平中小紅] |
秀三 | 浮気事(ご)ちゃ 全部(すっぱい)露見(ば)れた 長(な)げ寝言(ねごっ) [福山吉連] |
秀四 | 遺産どま 全部(すっぱい)貰(も)ろっ 供養(くよ)はせじ [稲留明天] |
秀五 | 内心(ねしゅ)ん内(う)ちゃ 全部(すっぱい)語(かた)っ 気楽(ぐゎい)となっ [山田竜生] |
軸吟 | 税務署い 全部(すっぱい)露見(ば)れっ 追徴金(ついちょきん) [永徳天真] |
第96回南日本薩摩郷句大会 兼題「強(つ)え」 平中小紅選
特選 | 女(おなご)とな 思(おも)えん強(つよ)か 弓(ゆん)ぬ引(ひ)っ [三條風雲児] |
秀一 | 泣(な)っかたが 強(つ)えで出臍(でべそ)い 心配(せわ)をえっ [仮屋一発] |
秀二 | 夫婦(みと)喧嘩 強(つ)え同士(どし)じゃれば 勝負(しょ)びゃつかじ [榎元 力] |
秀三 | 強(つ)え妻君(おかた) 空手五段ぬ 尻(し)い敷(し)けっ [有川南北] |
秀四 | 強(つよ)か筈(はっ) 夫(とと)ん弱味(よわん)ぬ ジッ握(にぎ)っ [樋口一風] |
秀五 | いっずいも 靴下よっか 強(つ)え女房(おかた) [上薗佳笑] |
軸吟 | 気が強(つよ)し ごめん言(ちゅ)こっの 無(な)か女房(おかた) [平中小紅] |
第96回南日本薩摩郷句大会 兼題「えしれん」 津留見酎児選
特選 | えしれん名前(な) 戸籍(こせっ)係(がか)いが 噴(ふ)っ出(だ)せっ [中村雲海] |
秀一 | ほら見(み)れち えしれんこっも 役(や)きな立(た)っ [榎元 力] |
秀二 | 疣(いぼ)ん上 たった一本 えしれん毛 [有川南北] |
秀三 | 聴診器 えしれん処(とこ)ゆ 這(ほ)て回(まわ)っ [弓場正巳] |
秀四 | 何処じゃ誰(だい) えしれん奴(わろ)が 一人(ひと)や居(お)っ [楠八重渓流] |
秀五 | 恐(わざ)い娑婆 毎日(めにっ)えしれん 事件事故 [福原福多] |
軸吟 | 披露宴(ひろえん)で 同僚(どし)がえしれん 裏話 [津留見酎児] |
第96回南日本薩摩郷句大会 兼題「悪戯坊(われこっぼ)」 有馬凡骨選
特選 | 悪戯坊(われこっぼ) 眠(ね)れば天使ん 顔(つら)いなっ [田実久代] |
秀一 | 担任ぬ ノイローぜした 悪戯坊(われこっぼ) [三條風雲児] |
秀二 | 悪戯坊(われこっぼ) わがでな知(し)たん 罪(つん)も被(き)っ [上山天洲] |
秀三 | 縛(しば)ったや 足で抗(む)こでた 悪戯坊主(われこっぼ) [金井一馬] |
秀四 | 悪戯坊主(われこっぼ) ごろいと後(うし)て 手が回(まわ)っ [山田竜生] |
秀五 | 悪戯坊主(われこっぼ) 新米(しんめ)先生(せんせ)ゆ 手玉(てだ)め取(と)っ [那加野黎子] |
軸吟 | 悪戯坊主(われこっぼ) じゃっどこいじゃ無(ね) 面魂つらだまし [有馬凡骨] |
その他の秀句 (順不同)
苦虫(にがむ)すば 何匹(なんびっ)噛(か)めば あげな顔(つら) [上籠若菜] |
ジーパンが ひっぱしろそな 健康美 [諸木小春] |
福袋(ふっぶくろ) 開(あ)けたやいっき 塵(ごん)になっ [小森寿星] |
お年玉 貰(も)ろたやずうず きし帰(もど)っ [江平光坊] |
休肝日 只焼酎(ただじょちゅ)じゃれば 女房(かか)が許可 [佐伯山神] |
薀蓄(うんちっ)も 過ぎればただん 自慢(おぎ)れなっ [楠八重渓流] |
天気予報(よほ) 間違(まっ)げもしたの 挨拶(えさ)ちゃ無(の)し [小瀬一峻] |
脛(すね)もじゃが 大腿骨(だいたいこっ)も 齧(かじ)られっ [中間紫麓] |
賀状(がじょ)でな あん口下手(くっべた)も 見事(みご)て文(ぶん) [松田一雄] |
猿(よもざい)と 挿(す)げ替(か)ゆごちゃい 呆(ぼ)え頭(びんた) [上籠若菜] |
松葉(まっば)ん情(じょ) 枯(か)れっ落(ちゃ)えてん 二人(ふたい)連(づ)れ [樋口一風] |
松林(まっばや)す 憎(に)き虫奴(むしわろ)が 茶髪(ちゃぱ)ちしっ [書川水平] |
じゃろじゃろち 父親(ちゃん)の名が出(で)い 悪戯坊(われこっぼ) [岩崎美知代] |
小(こ)め体(から)で 小才(こだ)を詰(つ)め込(く)だ 悪戯坊主(われこっぼ) [有村土栗] |