おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第590号

雑吟     塚田黒柱選

一番槍 遠(と)え血縁(すっ)が 訃報(ふほ)い走った 美容院 [坂元鶴山]
二番槍 酌(しゃ)くし人(て)も 居(お)らん晩酌(だいや)め なお疲(だ)れっ [津留見酎児]
三番槍 親がせん 挨拶(えさ)つ真似よあ 無(な)か子供(こどん) [上籠若菜]
四番槍 多(う)わか趣味 どいち抜(ぬ)っ出た 技(わざ)は無(の)し [久保山三蔵塚]
五番槍 俺(おい)が焼酎(しょちゅ) 寿命(じゅみょ)が縮(ちぢ)もと 要(い)らん世話 [今釜三岳]
六番槍 よかお味(あっ) じゃしたち皿が 戻(もど)っきっ [平中小紅]
七番槍 飲(の)ん金(ぜん)な 惜(お)しゅは無(な)かどん 惜(お)し募金 [樋口一風]

渋柿集

三條風雲児 歳費をば 牢屋(ずや)でまだ貰(も)ろ 金バッジ
横道(おど)な奴(わろ) ポリグラフどま 役(や)き立(た)たじ
衣被(くろいで)で 茶飲(ちゃの)んが弾(はず)ん 隠居同士(どし)
世帯(しょて)柱(ばし)て 扶養家族(かぞっ)が 下知(げ)つ吐(か)えっ
古狸(ふいだんざ) 食頃(くごろ)ん玉蜀黍(とき)ぶがらっやっ
有川南北 ライオンが 傍(そ)べ寝(ね)ちょいよな 鼾(いび)くけっ
白豚ち 詰(なじ)っ泣かせた 姉弟(きょで)喧嘩
預金(ぜん)下(お)ろし たった二万じゃ 気がひけっ
浜ん恋 娘(おご)ん瞳(め)の中(な)け 夕陽(ひ)が沈(しず)ん
荒(あ)れ墓い 詣(め)いてもおらん 祖父(じ)の命日(たっび)
塚田黒柱 敷(し)かれ亭主(てし) 敷(し)かれちょらんな 落(お)て着(ち)かじ
愛よっか 金(ぜん)じゃち思(お)もが 金(ぜん)も無(の)し
貢献ち 言(ゆ)どん戦争(いっさ)ん 加勢(かせ)もしっ
アメリカん 下請け言(ちゅ)よな 自衛隊
嘘涙(うそなんだ) 男心を 手玉(てだ)め取(と)っ
堂園三洋 ファッションで 天文館(てんもんかん)に 花が咲(せ)っ
飲(の)めんとが 一(ひと)っの欠点(あら)ち 吐(か)やす上戸(じょご)
三億い 当たれば仕事(しご)ちゃ 辞(や)むち言(ゆ)っ
独(ひと)いでな 愛する焼酎(しょちゅ)も 美味(うん)も無(の)し
越境で 家(う)ち産(う)んくれた 隣家(つっ)の鶏(とい)
植村聴診器 脳味噌が 萎(しなび)れたしこ 物忘れ
外面い 醜(みにく)さが出た 成(な)い上(あ)がい
買(こ)た惣菜(おかず) 米は無洗(むせん)で 飯(め)す準備(しこ)っ
DNA(ディーエヌエ) 親子リレーの 一等(い)つ競(せ)ろっ
風邪ひっで 休んだ奴(わろ)ん 日焼け顔(づら)
岩崎美知代 姑(ばあ)ちゃんぬ ママあ好(す)かんち 孫(こ)が吐(か)えっ
小才(こだ)ん利(き)た 烏(から)しゃ爺(じ)さんの 農業(さ)く笑(わ)るっ
スタッ切(や)っ 郷句で胸が グァイとなっ
男言(ちゅ)あ 一歳(ひとっ)でん 若(わ)け娘(こ)を願(ね)ごっ
一粒種(さんのくそ) 長男(すよ)殿殿(どんどん)に 育(お)やされっ

山椒集 題「笑(わ)れ」     有川南北選

笑(わ)るだせば 止(と)め繰(く)や取(と)れん 娘(おご)盛(ざか)い [棈松睦酔]
高笑(たかわ)れで 分(ぶ)の悪(わ)り話(はな)す 切(き)い換(か)えっ [有馬凡骨]
手で隠(か)けっ 笑(わ)るち思(おも)たや ひっ欠(か)け歯 [樋口一風]
五客一席 笑(わ)れ顔を 絶(た)やさじ診療(み)ちょい 小児科医 [小森寿星]
五客二席 笑(わ)るでたや 艾(もっさ)は腹で 踊(おど)ゆしっ [仮屋一発]
五客三席 煙(け)び奴(わろ)が 来たや座敷(ざなか)ん 笑(わ)れが止(や)ん [江平光坊]
五客四席 爺(じ)の説教(せっきょ) 開(え)た窓(ま)で笑(わ)れを 噛(か)んこれっ [中間紫麓]
五客五席 クラス会 叱(が)らえた話(はな)し 笑(わ)れが舞(も)っ [樋之口墨矢]
選者吟 笑(わ)る所(とこ)い 杯(ちょっ)が集(あつ)まい 焼酎(しょつ)飲(の)ん座

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

アメリカん 傘ん中かあ 議(ぎ)を言(ゆ)首相(しゅしょ) [上山天洲]
九条(きゅうじょ)どま 隅(す)み追飛(うと)ばけっ 有事法 [松元清流]
痛(いた)ん分け 爺婆(じばば)ん財布(ふぞ)い 目を付(つ)けっ [盛満椒平]
四天王一席 荒海(あらうん)に 喜寿ん五体(ごて)をば 試(ため)されっ [有馬慶成]
四天王二席 税(ぜ)ゆ上(あ)ぐち 少子高齢(こうれ)ゆ 口実(だ)し使(つ)こっ [稲留明天]
四天王三席 異郷(いきょ)ん町(ま)ち 五十年(ごじゅねん)かけた 恩返し [上籠若菜]
四天王四席 凄(わ)ぜ見張(みは)い 万景峰(まんぎょんぼん)な 航跡(あ)す止(と)めっ [畑山真竹]
選者吟 議員(せんせい)の 酷(ひ)で発言に 唖然(あけっ)なっ

郷句相撲 題「味(あっ)」

横綱(東) 飲(の)ん出(だ)せば どん銘柄も 味(あ)じゃ同(おな)し [馬迫 蛙]
横綱(西) 老夫婦(おんじょみと) 味噌漬(みそつけ)んよな 味(あっ)が出(で)っ [栫 路人]
大関(東) 味(あ)じゃ決(き)まっ 亭主(て)す待(ま)っ鍋ん 火を止(と)めっ [稲留明天]
大関(西) 焼酎(しょちゅ)味(あっ)で 身体(ごて)ん塩梅(あんべ)を 爺(じ)は推量(はか)っ [有馬凡骨]
関脇(東) 惚(ほ)れた罰(ばっ) 味(あっ)の無(ね)料理(ずい)も 我慢(きば)っ食(く)っ [鈴木一泉]
関脇(西) 婆(ば)の味(あっ)が 芯(しん)迄(ぎ)いこもい 彼岸団子(だご) [弓場正巳]
小結(東) 後(あと)が心配(せわ) 味(あ)じゃせんじゃった 河豚(ふぐ)刺身(さしん) [西 幸子]
小結(西) 辛(か)れ言(ちゅ)えば ポットを出(だ)すい 横着(おど)な女房(かか) [今釜三岳]
筆頭(東) 味(あ)じゅ利(み)かて 一食分(ひとかたっ)した 法要(とむれ)加勢(かせ) [安藤孟宗竹]
筆頭(西) 誉(ほ)めちゃ食(く)が ひと味(あっ)足(た)らん 嫁ん料理(じゅい) [田原大黒]
二枚目(東) 猫舌ん 女房(かか)は味見(あっみ)を 亭主(て)しさせっ [樋渡草団子]
二枚目(西) 煮染(にし)めでな 誰(だい)もかのわん 婆(ばば)が味(あっ) [仮屋一発]
三枚目(東) 孫ん子い 方言の味(あ)ず 言(ゆ)っ聞(か)せっ [坂元鶴山]
三枚目(西) 昼飯(ちゅはん)時(どっ) 違(ち)ごた一味(ひとあ)じ 列(れ)つ作(つく)っ [久保山三蔵塚]
四枚目(東) コンビニん 味(あ)じ近(ち)こなった 母親(はほ)ん料理(じゅい) [稲留明天]
四枚目(西) 老妻(ばば)ん味(あ)じ 孫も嵌(は)め込(く)だ 夏休(なっやす)ん [深道好之]
五枚目(東) 脇役(わきやっ)が 良(よ)か味(あ)ず出(だ)すい メロドラマ [森山厚香]
五枚目(西) 血圧(けつあっ)が 味噌汁(みそしゅい)の味(あ)ず 薄(う)すなけっ [蔵ノ下夢石]
六枚目(東) おふくろん 料理(じゅい)にゃ畠ん 味(あっ)があっ [山田竜生]
六枚目(西) 空(す)っ腹が 味(あ)じゅ褒(ほ)めかたで 代(か)えをでっ [飯福小手毬]
七枚目(東) 叱(が)いもせにゃ 味(あっ)もそっけも 無(な)か先生(せんせ) [入来創雲]
七枚目(西) 熱(い)て豆腐(おかべ) 味(あっ)も判(わか)らじ 鵜呑(ぐの)みしっ [江平光坊]
八枚目(東) 味(あっ)よっか 量(かさ)が多(う)こ要(い)い 伸(ぬ)っ盛(ざか)い [堂園三洋]
八枚目(西) キャンプ場 手荒(てあ)れ料理(じゅい)でん 味(あっ)が良(ゆ)し [福冨野人]
親方吟(東) 離乳食(りにゅうしょっ) 初(はいめ)っの味(あ)じ 吐(は)っ出(だ)せっ [植村聴診器]
親方吟(西) 唐芋(かいも)飯(めし) 戦争(いっさ)ん味(あっ)が 胸(む)ね閊(つま)っ [岩崎美知代]

第33回若法師忌・第16回雪尾忌句会 兼題「足(あし)」 平中小紅選

旅(たっ)の疲(だ)れ 足湯い並(な)るだ 大根足(でこんあし) [細山田妙子]
足が付(ち)っ おんもが嬉(うれ)し 愛子様(あいこさあ) [蔵ノ下夢石]
眩(めは)りごっ ラインダンスん 足(あ)しゃ踊(おど)っ [江平光坊]
選者吟 運(ふ)の良(え)下駄 娘(おご)ん素足(すあ)しゅば 抱(で)て歩(さ)りっ [平中小紅]

第33回若法師忌・第16回雪尾忌句会 兼題「駄目(ぼっ)」 堂園三洋選

窯出し日 駄目(ぼっ)ち大皿(うざら)を 叩(たた)っ割(が)っ [永徳天真]
またも駄目(ぼっ) 手肉刺(てまめ)が頑張(きば)い 逆上(しいあ)がい [今釜三岳]
奥様(おっさん)で 駄目(ぼっ)じゃち読(よ)めた 借金(ぜん)相談(そだん) [津留見酎児]
選者吟 全部(ずるっ)駄目(ぼっ) 豪邸(ごうて)や建(た)たん 宝くし [堂園三洋]

その他の秀句 (順不同)

考(かん)げなし 育(おや)しもならん 子をば産(う)ん [上籠若菜]
日帰(ひげ)いツア 安(や)すで爺婆(じばば)ん 守(も)ゆばしっ [安藤孟宗竹]
犯罪の 手口(てぐ)つドラマが 言(ゆ)っかせっ [栫 路人]
寄付貰(も)れん 箱い万札(まんさ)つ 少(ち)す見(み)せっ [川村 明]
無(な)か形見(かたん) 線香(せんこ)も供(あ)げじ ひん戻(もど)っ [弓場正巳]
老人(おんじょ)農業(ざっ) 日半(ひなか)頑張(きば)れば 医者(い)しぇ三日 [山田竜生]
目じゃ歯じゃち 医者どん行(い)っが 仕事(しご)ちなっ [西ノ園ひらり]
両方(まんぼ)共(と)め 手なづけた言(ちゅ)っ 五十年 [佐伯山神]
開店が 年中(ねんじゅ)あいよな パチンコ店(や) [瀬戸口流川]
悋気(じんき)すい 割(わ)いな亭主(とのじょ)を 大切(てせ)ちせじ [楠八重渓流]
笑(わ)れ声(ごえ)で 遊(あ)すじょい女房(かか)を 見(み)しけでっ [枦山一球]
日(ひ)の一日(ひして) 笑(わ)る事(こっ)も無(な)か 老夫婦(おんじょみと) [新留豪也]
左遷じゃが 挨拶(えさ)ちゃ惜(あった)れ 人(ひと)ち言(ゆ)っ [枦山一球]