薩摩郷句誌「渋柿」
第589号
雑吟 塚田黒柱選
一番槍 | 息子(こ)の家(うっ)で 義理(ぎい)の朝寝も 堪(の)さんこっ [野村三味] |
二番槍 | もへ離婚 祝儀(ゆえ)を戻(もど)せち 言(ゆ)おごたっ [佐土原 隆] |
三番槍 | 言(ゆ)でたなあ 聞(き)かん横(よん)ごい 負(ま)けん女房(かか) [上山天洲] |
四番槍 | 何処(ど)け行(い)てん 締(し)め出(だ)す食(く)ろた 煙草好(す)っ [田原大黒] |
五番槍 | 素麺(そめん)腹 ふくれた割(わ)いな 気力(あや)がのし [郷田悠々] |
六番槍 | 働(はた)れてん 金(ぜん)になならん 日曜(にちよ)大工(でっ) [森山厚香] |
七番槍 | 新聞の 配達(はいだ)ち恥(げん)ね 朝帰(あさもど)い [入来創雲] |
渋柿集
三條風雲児 | 墓参(はかめ)いも きっせじゴルフ しけ走(はし)っ |
喫煙者(たばこの)む 目の敵(かた)きすい 健康法(けんこうほ) | |
水鉄砲(みっしゃく)ゆ 爺(じ)の禿(は)げ向(む)けた 悪戯坊主(けすいばっ) | |
梅干(うんめぼ)しゅ 夕立(さだ)ち遭(お)わせた 長(な)げ昼寝(ひんね) | |
種西瓜(たねずか)を 烏の奴(わろ)が 先(さ)き食(く)ろっ | |
有川南北 | 薔薇祭(まつ)い 鹿屋(かの)へ車(くいま)ん 数珠連(せんつな)っ |
白熊も ぐたっ檻(お)い這(ほ)た 夏(なっ)さなか | |
ビール腹 パンツひとっで 端居(は)し涼(すず)っ | |
風鈴が ことっ動(うご)かじ 蒸暑(ほめ)っ夜ばん | |
蒸暑(ほめ)っ晩 側(そ)べきた女房(かか)を 払(は)れのけっ | |
塚田黒柱 | 働けち また始(はい)まった 月曜日 |
買(こ)ちゃみいが 読(よ)まん本ぬば 積(つ)ん上(や)げっ | |
体(から)で良(え)ち テレビが言(ゆ)えば 鵜呑(ぐの)みしっ | |
他人(ひ)てな言(ゆ)が 自分(わが)でも書(け)ちょい 誤字当て字 | |
原発(げんぱっ)の 側(そ)べやっ来たで 増えた心配(せわ) | |
堂園三洋 | 旅(たっ)が好(す)っ じゃいが先立(さきだ)っ 物(もん)が無(の)し |
のど自慢 長(な)ご唄(う)とわせっ 一(ひと)っ鐘 | |
安売(やすう)いの 品は底(そ)けやい 買物籠(けもんかご) | |
入れ替(か)わい 美人(シャン)が出(で)っ行(い)た 露天風呂 | |
団地住(ず)め 小(こ)まんか声で 夫婦(みと)喧嘩 | |
植村聴診器 | 両方(まんぼ)から 思(お)め出(だ)さん名字(みょ)じ 挨拶(えさ)つ言(ゆ)っ |
あしこそこ 紫蘇が染(しゅ)んじょい 女房(かか)ん梅干(うめ) | |
マスクなし 息(い)くしがならん 恐(お)じ病気(やんめ) | |
褌(へこ)一(ひと)ち なっみろごたい 凄(わ)ぜ蒸暑(ほめ)っ | |
気は若(わ)けて 敬老(けいろ)ん見舞(みめ)い 恥(げん)のなっ | |
岩崎美知代 | 放蕩(ばか)息子 縁切(うっ)すちすれば 頼(たよ)っ来(き)っ |
土用(どゆ)暑(ぬっ)せ 西瓜(すか)も畑で 煮(に)え滾(たぎ)っ | |
血の検査 朝かあ耳(みん)な 擾(こな)されっ | |
内気(いめ)な亭主(とと) 嘘を言(ゆ)たとか 動(いご)っ眉毛(めげ) | |
小(こ)め悩(なや)ん 桜島(しま)どんみたや け忘(わす)れっ |
山椒集 題「日傘(ひがさ)」 有川南北選
天 | 燃(も)ゆいよな 日傘(ひが)せビキニん 眩(めは)り娘(おご) [菖蒲谷天道] |
地 | 擦(す)れ違(ち)ごた 美人(シャン)な日傘で 身(み)を隠(か)きっ [棈松睦酔] |
人 | 海開(うんびら)っ 浜(は)めな日傘ん 花が咲(せ)っ [井手上政暎] |
五客一席 | 絽(ろ)の着物(いしょ)い 日傘姿(すがた)ん 麓(ふもと)奥様(こじゅ) [郷田悠々] |
五客二席 | 妬(しょの)んじゃろ デートん日傘(ひが)せ 蝶(ちょ)が舞付(めち)っ [久永時盛] |
五客三席 | ビキニ娘(おご) 日傘ん下で 露出(うっだ)せっ [川村 明] |
五客四席 | 油照(あぶらで)い 日傘代(が)わいの 唐芋柄(といもがら) [有馬慶成] |
五客五席 | 小(こ)め日傘(ひが)せ 背負(かる)た幼児(ちび)どま 日干(ひぼ)し遭(お)っ [仮屋一発] |
選者吟 | マドンナん 日傘(ひが)せ若者(にせ)どが 目を見出(みで)っ |
龍虎集 「時事吟」 堂園三洋選
天 | 鎖国(さこっ)でん せんな恐(おと)ろし サーズ騒動(そど) [西 幸子] |
地 | 宇宙(うちゅ)ん石(い)す 三億(さんおっ)の向(む)け 採集(と)いけ飛(つ)っ [稲留明天] |
人 | また軍靴(ぐんか) 響(ひび)っ来(く)いよな 有事法 [鈴木一泉] |
四天王一席 | 空気をば 吸(す)なち言(ゆ)おそな SARS(サーズ)予防(よぼ) [上籠若菜] |
四天王二席 | マナん悪(わ)り 釣(つ)ゆタマちゃんに 暴(あば)かれっ [岩崎美知代] |
四天王三席 | 少子化が 名門校(めいもんこ)をば 揺(ゆ)れさせっ [樋口一風] |
四天王四席 | こら堪(の)さん りそねそがらし 税で加勢(かせ) [山内成泰] |
選者吟 | 三浦氏い 続(つづ)こち裏ん 山(や)め登(のぼ)っ |
郷句相撲 題「涼(すずる)し」
横綱(東) | 俺(お)や知(し)たん 涼(すずる)し顔(つら)で 黙秘権 [永野寛二] |
横綱(西) | 涼(すずる)しち 図書館な良(よ)か 昼寝(ひんね)場所 [小森寿星] |
大関(東) | 古(ふんな)か家(え) 涼(すずる)し風が 吹(ふ)っ抜(ぬ)けっ [有馬純秋] |
大関(西) | 涼(すず)すなっ ビールを焼酎(しょちゅ)い 切(き)い替(か)えっ [永徳天真] |
関脇(東) | 可哀相(ぐら)しごっ 涼(すずる)しゅなった 爺(じ)ん頭髪(びんた) [畑山真竹] |
関脇(西) | 涼(すず)し態(ふ)で 出来(でけ)ん公約(こうや)く きし吐(か)えっ [仮屋一発] |
小結(東) | 氷(こおい)皿(ざ)れ 涼(すずる)し刺身(さし)み 喉が鳴(な)っ [樋渡草団子] |
小結(西) | 冷(ひ)や素麺(そめん) 舌で涼(すずる)し 音を出(で)っ [川村 明] |
筆頭(東) | 涼(すずる)しち 網戸(あんど)でけ寝(ね)い 木強(ぼっけ)娘(おご) [安藤孟宗竹] |
筆頭(西) | 借(か)ったぎい 寄(よ)い付(つ)っもせん 涼(すず)し奴(わろ) [蔵ノ下夢石] |
二枚目(東) | 一(ひと)夕立(さだっ) 来れば涼(すずる)し 庭ん花 [西 幸子] |
二枚目(西) | 透けた服(ふ)か 涼(すずる)しじゃろが 気が揉(も)めっ [小原庄太郎] |
三枚目(東) | 出たバンコ 胸をはたげっ 涼(すずる)しゅし [隈元都城男] |
三枚目(西) | 凄(わざ)え女房(かか) 涼(すずる)し顔(つら)で 離婚(わか)る言(つ)っ [花牟礼雲雀] |
四枚目(東) | 飛(つ)っ蛍(ほたい) 夕立(さだっ)上(あが)いの 涼(すず)し風 [山内成泰] |
四枚目(西) | 夕立(さだっ)後(あ)て 涼(すずる)し風が 家内(やう)ち舞(も)っ [有村土栗] |
五枚目(東) | 女房(かか)奴(わろ)が 涼(すずる)し風ん 道(み)つ塞(ふて)っ [野間口鈴女] |
五枚目(西) | 旅(たっ)帰(もど)い ブラジャも外(は)じっ 涼(すず)らしゅし [那加野黎子] |
六枚目(東) | 収賄(もろ)た奴(と)が 涼(すずる)し顔(つら)で またも出馬(で)っ [松元清流] |
六枚目(西) | 涼(すず)し奴(わろ) 友人(どし)のボトルを 飲(の)ん回(され)っ [津曲とっこ] |
七枚目(東) | 絽の着物(いしょ)を 涼(すずる)し風が 吹(ふ)っ抜(ぬ)けっ [横手五月] |
七枚目(西) | 肥えた婆(ば)が 涼(すずる)し風を せっ止(と)めっ [崎山典子] |
八枚目(東) | パチンコ屋 涼(すずる)し過(す)ぎっ 財布(ふぞ)は空(から) [久永時盛] |
八枚目(西) | 万引犯(まんびっ)が 涼(すずる)し顔(つら)で 店を出(で)っ [深道好之] |
親方吟(東) | 涼(すずる)しか 肌持(はだも)ちなって 縁談(はな)しゃ無(の)し [植村聴診器] |
親方吟(西) | 風呂上(あが)い 浴衣(ゆか)て団扇(うっば)ん 涼(すず)し風 [岩崎美知代] |
第95回南日本薩摩郷句大会 兼題「蟹(がね)」 栫 路人選
特選 | 俺(おい)が食(く)た 蟹(がね)足(あ)す女房(かか)は まだくじっ [有川南北] |
秀一 | 蟹(がね)ん足(あ)しゃ 歯の強(つ)え女房(かか)が こしたえっ [埀野剣付鶏] |
秀二 | 浜競馬(はまけいば) 巣の中(な)け蟹(がね)あ 息(い)く殺(こ)れっ [瀬戸口和八久] |
秀三 | 来年(でねん)来(け)ち 網(あん)の子蟹(こがね)は 海(う)み戻(も)でっ [弓場正巳] |
秀四 | ズワイ蟹(がね) かったロシアん 味(あっ)がしっ [三條風雲児] |
秀五 | グラタンが 蟹(がね)ん甲羅(つ)ん中(な)け 宿を借(か)っ [前田セツ] |
軸吟 | 突(つ)くじろが 威嚇(おど)そが蟹(がね)あ 横(よ)け逃(に)げっ [栫 路人] |
第95回南日本薩摩郷句大会 兼題「メール」 堂園三洋選
特選 | 午前様(ごぜんさ)へ 帰(もど)らんで良(え)ち 来たメール [永徳天真] |
秀一 | 登校(とうこ)拒否 友達(どし)のメールい 立(た)っ上(ちゃ)がっ [岩崎美知代] |
秀二 | 内気(いめ)な青年(にせ) メールじゃはしと 好(す)っち書(け)っ [満留ぐみ] |
秀三 | お休みち メールが来(こ)んな 寝付(ねつ)かれじ [津留見酎児] |
秀四 | 気乗(きの)やせん 醜男(ぶにせ)が度々(はいと) 送(や)いメール [津留見酎児] |
秀五 | 長病気(ながやんめ) 孫んメールが 薬(くす)いなっ [井手上政暎] |
軸吟 | 歯痒(はが)いこっ 諭吉(ゆき)つ送れち 子のメール [堂園三洋] |
第95回南日本薩摩郷句大会 兼題「半端(はんぱ)」 塚田黒柱選
特選 | 頑丈(じょっ)な腹 半端腐(ねま)った 団子(だご)も食(く)っ [福冨野人] |
秀一 | 早(は)よ飲(の)もち 視察(しさ)ちゃ半端で 切(き)い上(や)げっ [小森寿星] |
秀二 | ゴルフ稽古(けこ) 半端で今度(こん)だ 碁を習(な)るっ [有馬慶成] |
秀三 | 裁判に 遺族(いぞ)か半端な 判決(さば)く叱(が)っ [津曲とっこ] |
秀四 | 山暮らし 半端床屋ん 女房(かか)が刈(つ)ん [三條風雲児] |
秀五 | 手荒(てあ)れ医者 麻酔(ます)や半端で 手術(き)いでけっ [有村土栗] |
軸吟 | 焼酎(しょちゅ)ん匂(か)ぜ 仕事(しご)ちゃ半端で 切(き)い上(あ)げっ [塚田黒柱] |
第95回南日本薩摩郷句大会 兼題「能(ぬ)」 有川南北選
特選 | 匠(たくん)技(わざ) みげた歳月(としつ)き 能(ぬ)が光(ひか)っ [福原福多] |
秀一 | 議(ぎ)の割(わ)いな 能(ぬ)の無(な)か課長(かちょ)い こなされっ [榎元 力] |
秀二 | 才能(さいの)どま 無(な)かてピアノは 捨(うっ)せ金(ぜん) [三條風雲児] |
秀三 | 儲(も)け事(ご)ちな まっで能(ぬ)の無(な)か 亭主(て)す叱(く)るっ [倉元天鶴] |
秀四 | 歌(う)て回(まわ)し 能(ぬ)の無(ね)た鶏(とい)の 真似をしっ [仮屋一発] |
秀五 | 能(ぬ)の無(ね)亭主(て)す 養(やし)のちょいよな 遣手(やいて)女房(かか) [津留見酎児] |
軸吟 | 連呼しか ほけ能(ぬ)は無(ね)とか 選挙カー [有川南北] |
その他の秀句 (順不同)
泣(な)っかぶっ ブラジャで逃げた 野球拳 [津留見酎児] |
泡(ぶっ)の多(う)け ジョッキあ隣(つっ)と 取(と)い替(か)えっ [金井一馬] |
一生(いっしょう)が 勉強(べんきょ)じゃんさち 健(さか)し爺(じじ) [栫 路人] |
後妻(にどめか)け 年金次第(しで)じゃ 嫁(い)こち言(ゆ)っ [安藤孟宗竹] |
試食(ししょ)くした 後(あと)あ試飲の 茶を啜(すす)っ [米元年輪] |
馬鹿を言(ゆ)な 飲(の)ん為(た)め貸(か)すい 金(ぜん)な無(な)か [埀野剣付鶏] |
新米(しんめ)ママ 赤児(あかご)と一緒(ひと)ち 泣(な)っでけっ [西ノ園ひらり] |
作品(もの)よっか 描(け)た人ん名が 値を決(き)めっ [坂元鶴山] |
日傘どん 差(さ)せっ野良(はい)来た 街(まっ)の嫁 [金井一馬] |
厚化粧(あっげしょ)で 目尻(めじい)の皺を 埋め立(た)てっ [塚田黒柱] |
編(あ)んかけた セータ半端で 恋(こ)や終(おわ)っ [平中小紅] |
能(ぬ)が無(な)かで 肩でん揉(も)めち 吐(か)やす女房(かか) [金井一馬] |
良(ゆ)したもん 能(ぬ)の無(な)か亭主(て)しな 遣(や)い手(て)女房(かか) [田代彦熊] |