おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第584号

雑吟     三條風雲児選

一番槍 多(う)け塵(ごん)に 肥満(だんべ)烏(がらす)が わぜ増(ふ)えっ [横手五月]
二番槍 好(す)かん亭主(て)し 保険ぬ掛(か)くい 金(ぜん)が無(の)し [中村雲海]
三番槍 掃除機が 吸(す)ごっ月末(げつま)ちゃ 金(ぜん)が減(へ)っ [永徳天真]
四番槍 今日(きゅ)も検査 大概(てげ)な病気(やんめ)も 抉(くじ)い出(で)っ [松元清流]
五番槍 年金の 減額(げんが)く女房(かか)は 亭主(て)し当(あ)たっ [盛満椒平]
六番槍 兎(うさっ)小屋 寝床も追出(うで)た 雛飾(ひなかざ)い [長井春江]
七番槍 臍繰(へそく)いで 買(こ)た着物(いしょ)じゃれば 着(き)いにくし [新地十意]

渋柿集

三條風雲児 梅ヶ渕(うめがふ)ち 念押(ねんお)し走(はし)い 親愛情(おやぼんの)
よか娘(おご)い なろそな娘(こ)じゃち 雛祭(ひなじょゆえ)
がらんつを 焼(あぶ)っ飯(め)しすい 妻(かか)ん留守(ずし)
暖(ぬっ)か日ん 婆(ばば)ん日課は 薇(ぜんべ)採(と)い
五十年 やっと編集(へんしゅ)い 暇が出(で)っ
上田 格 考(かん)げなし 焼酎(そつ)虫(む)しゃグーち 鳴(おら)っ出(で)っ
外面は みんな褒(ほ)むいが 厳(いみ)し亭主(てし)
寒椿(かんつばっ) 雪(ゆ)く被(かぶ)ったや 見栄(はれ)がしっ
夕立雨(さだっあめ) 竿とめ土間い 走(はし)い込(く)っ
鯉幟(こいのぼい) 色も褪(あ)せちょい 三代目
塚田黒柱 犬(いん)と猿(さい) 仲良(なか)ゆ異動で 飛(と)ばされっ
建前を 言(ゆ)えば本音が 治(おさ)まらじ
痩(や)すごちゃっ 思(と)もばっかいじゃ 痩せはせじ
年(と)す取った 証拠茶髪(ちゃぱっ)が 気い入(い)らじ
有川南北 春(はい)もそこ 徒長(おだ)った野菜(やせ)を また貰(も)ろっ
遅帰(おそもど)い 猫撫で声で 戸を開(あ)けっ
遅刻(ちこっ)じゃち 二度寝(にどね)ん女房(かか)を 叱(く)るたくっ
わが腹が 空(へ)らな昼飯(ひんめ)す 食(か)せん女房(かか)
堂園三洋 リストラい 先(さ)か暗闇(くらすん)の 大家族(うげね)世帯(じょて)
無洗米 こいじゃこいじゃち 不精(ふゆ)が買(こ)っ
似(に)らんば良(え) とこや親(お)へ似(に)っ もへ鬘(かつら)
湯疲(ゆだ)れてん 美人(シャン)なやっ来(こ)ん 露天風呂
村田子羊 餌係(えどがか)い 惚(ほ)れっ厄介(やっけ)な めすゴリラ
五分(ごふん)でん 横(よ)けなろごちゃい 看病(かんびょ)疲(だ)れ
断食(だんじっ)の 真似どまでけん いやしごろ
節約(かんじゃっ)ち 月(つっ)の明(あ)かいで 飯(め)す食(か)せっ
岩崎美知代 同(ひと)っじょな 給料(はれ)も女房(かか)次第(しで) 蔵(くら)も建(た)っ
広(ひ)れ庭も 愚痴(ぐっ)の種(た)ねない 不精(ふゆし)女房(かか)
嫁(い)かん肚(はら) いかな青年(にせ)いも 横を向(み)っ
二十代(はたっで)あ 徒競争(はしぐら)んごっ 駆(か)け通(とお)っ

山椒集 題「塵(ごん)」     有川南北選

出(で)た塵(ごん)で 隣(つっ)の所帯(しょて)繰(ぐ)ゆ 探(さぐ)い婆(ばば) [松元清流]
ひょかっ来(き)っ 姑御(しゅとじょ)あ塵(ごん)ぬ 目で拾(ふる)っ [樋口一風]
人ん山(や)め 塵(ごん)の持(も)っ込(く)だ 横着(おど)な奴(わろ) [大迫三ツ葉]
五客一席 塵(ごん)の山(や)め 埋(い)かっちょいよな 不精(ふゆ)が家(いえ) [花牟礼雲雀]
五客二席 厳(い)ね姑(かか)ん 形見(かたん)なずるっ 塵(ご)み出(だ)せっ [今釜三岳]
五客三席 金(ぜん)じゃれば 拾(ふ)るが塵(ごん)どま 蹴(け)いたくっ [永徳天真]
五客四席 趣味は無(の)し 一日(ひして)ごろ寝(ね)ん 粗大塵(そだいごん) [新地十意]
五客五席 油虫(あまめ)どが 出(で)いはっ塵(ごん)の たんす裏 [中村雲海]
選者吟 お律儀(か)てこっ 台風(うかぜ)が吹(ひ)てん 塵出(ごんだ)し日

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

昭子さん 可愛(むぞ)かまんまで 里帰(さともど)い [山下明良]
憲法(けんぽ)どま 横目(よこ)め イージス艦な出航でっ [江平光坊]
弱(よ)え者(もん)が また増税の 犠牲(ぎせ)いなっ [福山吉連]
四天王一席 覚悟(かっご)しっ バッジも外(は)じっ 家族(けね)を待(ま)っ [稲留明天]
四天王二席 ヤンキース 松井ん腕を 巨額(たこ)で買(こ)っ [鮫島牧峰]
四天王三席 削(けず)らるっ 給料(はれ)い働(はたら)っ 意欲(よ)か湧(わ)かじ [楠八重渓流]
四天王四席 合併で 役場(やっば)勤務(づとめ)あ 将来(さっ)が心配(せわ) [小森寿星]
選者吟 残業も ただ働(ばたら)っじゃ なお疲(だ)れっ

郷句相撲 題「鉛筆(えんぴっ)」

横綱(東) 賞(しょ)いもろた 鉛筆(えんぴ)ちゃ大切(てせ)ち 使(つ)こきらじ [原田菊男]
横綱(西) 柄(え)を挿(す)げた 鉛筆(えんぴ)つ奪(ば)こた 戦時中 [鈴木一泉]
大関(東) 危(あっ)ね言(ちゅ)っ 鉛筆(えんぴ)ちゃ父親(ちゃん)に 削(けず)らせっ [福冨野人]
大関(西) 鉛筆(えんぴ)つば なめなめ母(はほ)ん 故郷(くに)便(だよ)い [坂元鶴山]
関脇(東) 惜(あった)れち 短(みし)け鉛筆(えんぴ)ち 柄(え)をすげっ [菖蒲谷天道]
関脇(西) 鉛筆(えんぴっ)が まこち持(で)のあい 勉強(べんきょ)嫌(ぎ)れ [堂園三洋]
小結(東) 鉛筆(えんぴ)つば 舐(な)めっ鋸目(のこめ)ん 線ぬ引(ひ)っ [弓場正巳]
小結(西) 爺(じ)の日誌 鉛筆(えんぴ)つ舐(な)めっ はしと書(け)っ [山田竜生]
筆頭(東) 鉛筆(えんぴっ)が 天敵(てんてっ)ち思(お)も ボールペン [小瀬一峻]
筆頭(西) 婆(ばば)ん長持(ひ)き 鉛筆(えんぴっ)跡ん ラブレター [安藤孟宗竹]
二枚目(東) 鉛筆(えんぴっ)が 肥後ひごの守(かん)ぬば 引張(そび)っ出(で)っ [久保山三蔵塚]
二枚目(西) 竹い継(ち)だ 鉛筆(えんぴ)ち苦学(くが)く 頑張(きば)い抜(に)っ [泊 白水]
三枚目(東) そん昔(むか)しゃ 鉛筆(えんぴっ)けずゆ 趣味いしっ [平中小紅]
三枚目(西) 鉛筆(えんぴっ)も 多(う)こしそこたい 投(な)げたくっ [新田フサ]
四枚目(東) 勉強(べんきょ)嫌(ぎ)れ 鉛筆(えんぴ)ちゃ全部(ずるっ) つん折(ぼ)れっ [津曲とっこ]
四枚目(西) 退社(ひく)い前 鉛筆(えんぴっ)メモん 走(はし)い書(が)っ [細山田妙子]
五枚目(東) 投票所 鉛筆(えんぴ)つ握(にぎ)っ 迷(まよ)でけっ [米元年輪]
五枚目(西) 鉛筆(えんぴ)つば 転(ころ)ばけっ書(け)た アンケート [塚田黒柱]
六枚目(東) 棟梁(とうりょ)ん目 鉛筆(えんぴっ)の筋(す)じ 逆(さか)ろわじ [中村雲海]
六枚目(西) 五時間目 鉛筆(えんぴ)つ握(にぎ)っ 鼻が鳴(な)っ [新地十意]
七枚目(東) 鉛筆(えんぴっ)の 赤で思(お)めだす 大(ふと)か零点(だご) [上籠若菜]
七枚目(西) 呆(ぼ)やしゅなっ 鉛筆(えんぴ)つ舐(な)めちゃ 首(く)ぶひねっ [稲留明天]
八枚目(東) 参加賞(さんかしょ)ん 鉛筆(えんぴ)ちゃ誰(だい)も 喜(よろこ)ばじ [楠八重渓流]
八枚目(西) 入試前 鉛筆(えんぴ)つ握(にぎ)っ 高鼾(たかいびっ) [藤高春風]
親方吟(東) 鉛筆(えんぴっ)が まこて気の重(お)び カンニング [村田子羊]
親方吟(西) 百点(ひゃってん)に 赤鉛筆(あかえんぴっ)も 大(ふ)と躍(おど)っ [岩崎美知代]

その他の秀句 (順不同)

抱(だ)っ癖を たった一日(ひして)で 祖母(ば)がつけっ [川村 明]
永久の 就職(しゅうしょっ)思(と)もたて もへ離婚(もど)っ [植村聴診器]
マザコンち 顔(つら)い書(け)ちゃれば チョコも来(こ)じ [上籠若菜]
長(な)げ同居 貧乏神(びんぶがん)にも 情(じょ)が移(うつ)っ [上籠若菜]
先生(せんせ)いな 最敬礼の 退院日 [川村三生]
好(す)かん亭主(とと) 穴ち穴から 音が出(で)っ [埀野剣付鶏]
割勘(わいかん)に 下戸は食(く)かたを 励(は)めつけっ [佐伯山神]
腕相撲(うでずも)い 勝ったや父親(ちゃん)が 可哀相(ぐら)すなっ [永徳天真]
わがじゃ敷(し)っ 敷(し)かるんなよち 長男(すよ)は叱(が)っ [種子田 寛]
寝顔どま 管巻(じじら)ん後(あと)ち 顔(つら)じゃ無(の)し [末村多櫛]
幼児(こ)の注射 親が痛(い)てよな 顔(つら)をしっ [江口紫朗]
留守電話(るすでん)に 本の読(よ)んよな 態(ふ)い語(かた)っ [岩崎美知代]
新品ぬ 売(う)ろち修理を 高額(た)こ語(かた)っ [米元年輪]
新品に 戻(もど)せち女房(かか)ん 離婚(わかれ)騒動(そど) [稲田切株]