おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第580号

雑吟     三條風雲児選

一番槍 送(おく)い火を 早(は)よ焚(て)っ帰(も)でた 悋気(じんき)女房(かか) [福冨野人]
二番槍 五十年 連(つ)れ添(そ)た女房(か)けも 秘密(ひみ)ちゃあっ [川村三生]
三番槍 夜逃げ後(あと) 柱(はした)時計が 食切(えぎ)れ遭(お)っ [新地十意]
四番槍 こん暑(ぬっ)せ 犬(いん)な口(くっ)かあ 汗をけっ [桜井末雄]
五番槍 減反の上(うえ) 青田刈(あおたが)ゆ せち吐(か)えっ [楠八重渓流]
六番槍 減(へ)いだせば 歯止めは利(き)かん 少(すっ)ね金(ぜん) [埀野剣付鶏]
七番槍 ダイエット 雪花菜(きらし)の味噌汁(しゅい)で 目も凹(くぼ)ん [田中栄泉]

渋柿集

三條風雲児 追込(うく)だとに 地団駄(たたら)踏(ふ)んじょい 禁猟区
狂牛病(きょうぎゅうびょ) また牛(べぶ)ん値い 支(こ)た歯止め
油(あぶら)抜(ぬ)きゃ 命(いの)つ取られた 座礁船
落花生(だっきしょ)を 面皰(にくん)が出(で)いめ 食(く)ちょい下戸
藁塚(わらこず)む 棚田(たな)で絵の如(ご)っ 並(なる)ばせっ
医療費ん 値上げほろめっ 病人(びょにん)たろ
MRI(エムアールアイ)が 新(に)け病(びょ)を 見(み)しけでっ
上田 格 まだ三歳児(みっつ) 教育(きょういっ)ママん 目がすわっ
返事(へし)も無(ね)て ずうず這入(い)っきた 勝手耳(かってみん)
薮医者(やぼ)じゃ無(ね)か 人せか見れば 飲(の)んな言(ちゅ)っ
見舞客(みめぎゃっ)が かった途切れた 長病気(ながやんめ)
屋台(やて)飲屋(のんや) 課長補佐ちが 取(と)い仕切(しき)っ
娘(おご)が部屋 鍵(か)ぐかけた上(うえ) 隙間(ま)も塞(ふせ)っ
参観日 親も一時(いっど)き 手を挙(あ)げっ
有川南北 可愛(むぞ)か娘(こ)ん 声い奮発(きば)った 募金箱
募金箱 出口(でぐ)ちも野郎(やろ)が 構えちょっ
ボランティア 思(とも)っ女房(おかた)ん 尻(し)い敷(し)かっ
獲(と)った猪(し)す 焼酎(しょちゅ)ん肴(しおけ)い 座が弾(はず)ん
歌(う)と回(まわ)し つん寝た振(ふ)いの バスツアー
塚田黒柱 治(ゆ)なったや 元ん煩(うぜら)し 妻(か)け戻(もど)っ
山を売(う)っ 大学(だいが)き出たて フリーター
難民に 面目(めんぼっ)が無(な)か 肥満体
出世いな 人が良(え)過(す)ぎっ 縁が無(の)し
風呂嫌(ぎ)れん 汗臭(あせく)せ亭主(とと)は 別(べ)ち寝(ね)せっ
村田子羊 温泉に 二の足(あ)す踏んだ レジオネラ
新米(にかごめ)が 頬(ふたん)の肉を 盛(も)い上(や)げっ
外面が 良(え)すぎっのさん ODA(オーディーエ)
顔付(がんつっ)と 釣(つ)い合(お)わんよな 可愛(むぞ)か声
万歩計(まんぽけ)ゆ 初霜(はっじも)ぎいで うっ止(ちゃ)めっ
岩崎美知代 咳(せ)くすれば うつらせんかち 目が集(たか)っ
病気どん しでたお陰で 今日(きゅ)も日曜(にちよ)
むぜ孫あ 嫁女(よめじょ)ん実家(さと)ん 顔(つら)い似(に)っ
湯治(とっ)の宿 新米(しんま)い地鶏(じど)ゆ てのませっ
大事(でし)な息子(こ)あ 嫁ん大尻(うじい)で びりっなっ

山椒集 題「指輪(いっがね)」     上田 格選

半世紀 安(や)し指輪(いっがね)で 続(つじ)た縁 [畑山真竹]
指輪(いっがね)を 有(あ)いたけはめっ クラス会 [樋口一風]
指輪(いっがね)を 投(な)げっ家出ん 荷を結(きび)っ [川村 明]
五客一席 指(い)び全部(ずるっ) 指輪(いっがね)しちょい 気障な奴(わろ) [郷田悠々]
五客二席 指輪(いっがね)ん サイズも知(し)たん 可哀相(ぐら)し女房(かか) [松元清流]
五客三席 指輪(いっがね)を 外(は)じて飲(の)ん屋で 盛(も)い上(や)がっ [上籠若菜]
五客四席 指輪(いっがね)を 投げ付(つ)く思(と)もが 抜(ぬ)けんわろ [埀野剣付鶏]
五客五席 二度目妻(かか) 指輪(いっがね)どんじゃ 釣(つ)やならじ [新地十意]
選者吟 仲直(なかなお)い 投げた指輪(いっがね) 拾(ふる)っ来(き)っ

龍虎集 「時事吟」     有川南北選

三セクあ 乗(の)やせん俺(おい)が 税(ぜ)ゆ狙(ね)ろっ [楠八重渓流]
改革(かいかっ)で 年金ずいも 下(さ)ぐい腹 [安藤孟宗竹]
坊主頭(ぼ)じけなっ 一人(ひとい)芝居で 願(ね)ご平和 [平中小紅]
四天王一席 二号(にごち)名い かった恥(げん)なか じんべ鮫 [樋口一風]
四天王二席 五日制 孫が来(き)どえっ 煩(やぜ)ろしゅし [仮屋一発]
四天王三席 悪(わ)りた悪(わ)り アメリけ意見(もの)を 言(ゆ)た市長 [岩崎美知代]
四天王四席 今(い)めなれば ベッカムヘアも 生(お)え揃(そろ)っ [堂園三洋]
選者吟 あばてんね 鰤(ぶ)ゆ赤潮が 噛(か)ん殺(こ)れっ

郷句相撲 題「宅地(たっち)」

横綱(東) 狭(せ)め宅地(たっち) 家屋(いえ)あ空せえ 伸(ぬ)っ上(びゃ)げっ [長井春江]
横綱(西) 豪邸の 隣(とな)い我(わ)が家(え)ん 狭(せ)め宅地(たっち) [堂園三洋]
大関(東) こん宅地(たっち) 東京じゃればち 計算(つも)っみっ [有馬慶成]
大関(西) 家宅地(いえたっち) 求(もと)めっ今度(こん)だ 嫁女(よめじょ)貰(も)れ [森山厚香]
関脇(東) 湿田(むただ)じゃが 便利(かかい)が良(ゆ)して 宅地(たっち)なっ [上籠若菜]
関脇(西) 墓跡(はかあと)が 精霊(しょろ)も驚(たまが)い 一等地 [坂元鶴山]
小結(東) 良(よ)か宅地(たっ)ち なったや兄貴(あにょ)が 戻せ言(ちゅ)っ [蔵ノ下夢石]
小結(西) スーパーが 開店(でけ)っ宅地(たっち)ん 値が上(あ)がっ [安藤孟宗竹]
筆頭(東) 売(う)い出しの 宅地(たく)ちゃ白砂(しらし)で 化粧(けしょ)をしっ [永徳天真]
筆頭(西) 気が詰(つ)まい 都会(まっ)の宅地(たっち)は 空(てん)も無(の)し [鈴木一泉]
二枚目(東) 八六(はちろっ)で 浸(つか)った宅地(たっち) 値切(ねぎ)っ買(こ)っ [山下明良]
二枚目(西) よかもんじゃ 親ん宅地(たっち)い 大(ふ)て家建(えた)て [満石うらら]
三枚目(東) 坪ん値で 過疎ん宅地(たっち)は 釣銭(つい)が来(き)っ [津曲とっこ]
三枚目(西) 両親(おや)と墓(は)け 宅地(たっち)も付(ち)けっ 末子(しったれご) [畑山真竹]
四枚目(東) 貰(も)ろたどん 田舎ん宅地(たっち) 持(も)て余(あ)めっ [大脇保子]
四枚目(西) 広(ひ)れ宅地(たっち) 猪(しし)が出(で)ろそな 不精者(ふゆ)が家(うっ) [川村三生]
五枚目(東) 家(え)ずや無理(むい) 宅地(たっち)は買(こ)たが 薮(やぼ)いなっ [津留見酎児]
五枚目(西) 宅地(たっち)どま 狭(せ)めで上下(うえし)て 間取(まど)ゆしっ [畑山真竹]
六枚目(東) 可愛(む)ぜ娘(おご)を 宅地(たっち)も加(か)てっ ひん娶(も)ろっ [江平光坊]
六枚目(西) 開墾田(しあけだ)も 宅地(たっち)いなけっ 売(う)い飛(と)べっ [塚田黒柱]
七枚目(東) 宅地(たっち)じゃが 八方(はっぽ)塞(ふさ)がい 家(え)も建(た)たじ [有村土栗]
七枚目(西) 運(ふ)の良(え)者(わろ) 買(こ)た宅地(たっち)から 温泉(おゆ)が出(で)っ [山内成泰]
八枚目(東) 手が届(とど)っ 広(ひろ)か宅地(たっち)は 墓ん跡 [山崎 満]
八枚目(西) 狭(せ)め宅地(たっち) 車(くいま)が出れば 物干場 [篠原文兎]
親方吟(東) 洞窟(がま)ん上(う)へ 陥没(かんぼっ)すそな 安(や)し宅地(たっち) [村田子羊]
親方吟(西) 嫁ん実家(さ)て 貰(も)ろた宅地(たっち)い 拘束(きび)られっ [岩崎美知代]

その他の秀句 (順不同)

臨月腹(とつっばら) 挨拶(えさ)ち下腹(したば)れ 手を添(そ)えっ [津留見酎児]
大寝坊(うねごろ)ん 目覚(めざ)ましゃ隣家(つっ)も 目覚(おず)ませっ [小森寿星]
献血(けんけっ)の 晩な血液(ち)作(つく)い 沢山(ずばっ)飲(ぬ)ん [中村雲海]
七五三 妻(かか)もどさくせ 着物(いしょ)作(つく)い [中間紫麓]
嫁(よ)めな行(い)け 早(は)よぁ行(い)っなち 男親 [樋口一風]
バイバイち 間違(まっ)げ電話い 揶揄(ちょく)られっ [坂元鶴山]
郷中(ごじゅ)ん寄合(よい) 地五郎(じごろ)が上座(かん)ぜ 鶏冠(よぼ)す振(ふ)っ [金井一馬]
新米(にかこめ)い 諭吉(ゆき)ちょ抱(だ)かせた 里便(さとだよ)い [吉丸セツ子]
活(いっ)が良(え)ち 言(ゆ)がどん魚(いお)も け死(し)んじょっ [種子田 寛]
年金が あいばっかいの 粗大塵(そだいごん) [今釜三岳]
犬(いん)の引(ひ)っ 伊達で持(も)っちょい 移植(いしょっ)ごて [桜井末雄]
上(うえ)ん責(せ)め 下(した)ん突(つ)っ上(きゃ)げ 辛(の)さん課長(かちょ) [岩崎美知代]