薩摩郷句誌「渋柿」
第575号
雑吟 三條風雲児選
一番槍 | 当選(あが)ったや 顔(つら)も見(み)せんが 沙汰も無(の)し [井手上政暎] |
二番槍 | 儲(も)け主義ん 商社(しょう)しぇJA(ジェイエ)や 成(な)い下(さ)がっ [那加野黎子] |
三番槍 | 父(とと)は其処(そ)け 居(お)って母(かか)さい 子は相談(そだん) [栫 路人] |
四番槍 | 古(ふ)り写真 女房(かか)も細(ほっ)そい 美女(よかおなご) [堂園三洋] |
五番槍 | 飲(ぬ)だ時(とっ)の 法螺(ぎら)はどけ行(い)た 出し渋(しぶ)っ [津留見酎児] |
六番槍 | 金(きん)と金(ぜん) 裏で繋(つ)ねちょい ミスジャッジ [小瀬一峻] |
七番槍 | 腹癒(はらい)せい 水口(みなく)つがらっ 踏(ふ)ん落(お)てっ [藤高春風] |
渋柿集
三條風雲児 | 紫陽花(じごっばな) 地面(じ)で這(すぼ)わせた 梅雨(ながしあめ) |
早苗饗(さのぼい)も 思い出なった 機械植え | |
火乾(ひぼか)せば 山太郎蟹(やまたろがね)は 串(く)しゅ挟(はす)っ | |
涎(ゆだい)繰(く)い 昔(むか)しゃ食(か)ませた 蝸牛(つんぐらめ) | |
粟ん飯(め)し こいじゃこいじゃち 生辣韮(なまだっきょ) | |
リストラん 靴(く)ちゃ玄関(ふんごん)で 黴(こし)が生(ね)っ | |
病院に 行けば病気(やんめ)を 暴(あば)っでっ | |
上田 格 | 持(も)てた奴(と)い 払(は)れが回った 三次会 |
暴れ独楽(ごま) 笊(しょけ)を飛(と)っ出(で)っ 呻(おら)っ出(で)っ | |
近道(ちかみっ)で 垣根(やねが)か始終(はいと) 踏(ふ)ん壊(くえ)っ | |
下(さ)がい蜘蛛(こっ) 縁起(げん)が良(よ)か言(ちゅ)て 叩(たた)かれじ | |
飲屋(のんや)ずい 野菜(やせ)と豆腐(おかべ)ん 和定食(わていしょっ) | |
日曜(にちよ)大工(でっ) 出来(でけ)た箱ずい 床(と)け飾(かざ)っ | |
戻(もど)い寒(かん) 霰(あられ)ん音い 目が覚(さ)めっ | |
有川南北 | 背は低(ひ)きが 座高(ざこ)でな負(ま)けん 家ん血筋(すっ) |
睨(ねぎ)ったや ニコッ秋波(いろめ)が 返(もど)っきっ | |
ただちょっち 触(かか)ったぶんで 喚(おら)ばれっ | |
やい手じゃが 油断なでけん 狡(ずっ)ね奴(わろ) | |
都合(つご)が悪(わ)る なったや笑(わ)れで ごまかせっ | |
塚田黒柱 | 禿げたなあ 同(ひと)っ墓いな 入(い)らん言(ちゅ)っ |
手遅れい なってん塗(なす)い 育毛剤(いくもざい) | |
次(つ)ぎゃ俺(おい)が 番かちびびい 金バッジ | |
同(ひと)っ料理(じゅ)ゆ 二三日(にさんち)食(か)すい 妻(か)けけなっ | |
不景気い 値下げ競争(ぐらご)も 効(しょ)はうたじ | |
村田子羊 | 生理じゃち パンツを穿(き)ちょい 座敷(ざしっ)犬(いん) |
蝸牛(つんぐらめ) 雨いるんるん ランデブー | |
無精(ふゆ)な奴(と)が 考(かん)げたとじゃろ 無洗米 | |
気は二十歳(はたっ) 老爺(おんじょ)ラガーん 血がたぎっ | |
顔(つら)ん傷(き)ず 女房(か)けやられたち 言(ゆ)もならじ | |
岩崎美知代 | 貯め込(く)だや 子供(こどん)が争(いさ)こ 原因(もと)いなっ |
竹ん子も 疣(いぼ)を噛(か)まんな おてつかじ | |
飯(めし)と味噌汁(しゅ)ゆ 食(たも)っ天寿を 全(まっ)としっ | |
痛(い)て痛(い)てち 叫(お)れっ恥(げん)なか 娘(こ)がお産 | |
手がまし子 間(ま)あ無(な)し鉦(じん)が 鳴(な)いどえっ |
山椒集 題「横座(よこざ)」 上田 格選
天 | 横座いな 叩(ど)えた火箸が まだ残(のこ)っ [岩崎美知代] |
地 | 空(から)じゃ無(ね)か 横座ん焼酎(しょちゅ)い 目を配(くば)っ [永徳天真] |
人 | 横座かい 厳(きび)し爺(じ)の目で 座が締(し)まっ [原田規矩夫] |
五客一席 | 田の神(かん)ぬ 横座(よこ)ぜ弾(はず)んだ 郷中(ごじゅ)花見(はなん) [小瀬一峻] |
五客二席 | 焼酎瓶(しょちゅびん)の 空(から)が横座を 取(と)い囲かこっ [米元年輪] |
五客三席 | 爺(じ)の仕事(しごっ) 横座(よこ)ぜ蝿叩(へたた)きょ 握(にぎ)らせっ [上籠若菜] |
五客四席 | ずんだれっ 気位(きぐれ)が横座(よこ)ぜ まだ座(すわ)っ [平中小紅] |
五客五席 | け萎(な)えてん 父親(とと)あ横座い 座(すわ)っちょっ [田代彦熊] |
選者吟 | 後家が家(え)ん 横座な犬(いん)が 座(すわ)っちょっ |
龍虎集 「時事吟」 有川南北選
天 | 鹿児島(かごっま)ん 農協(のうきょ)貴殿(わい)もか 鶏(とい)の偽装(ぎそ) [津曲とっこ] |
地 | 喚問ぬ 突(つ)っ込(こ)ん過(す)ぎっ 蛇(へっ)が出(で)っ [中村雲海] |
人 | リストラで 攻(せ)めっベアずい 押さえ込(く)っ [倉元天鶴] |
四天王一席 | 噴水で 今度も海(うん)ぬ 汚(よご)そしっ [塚田黒柱] |
四天王二席 | 恐(わざ)い娑婆 女房(かか)が亭主(とのじょ)を 焼(や)っ殺(こ)れっ [川村三生] |
四天王三席 | お宮参(みやめ)い 愛想(えそ)をふいめた 愛子さあ [永徳天真] |
四天王四席 | こん不況(ふきょ)い 争(いさ)こ国会(こっか)い 腹が立(た)っ [山内成泰] |
選者吟 | 長(な)げ裁判(さばっ) 決まった頃(こ)れな 黴(こし)が生(ね)っ |
郷句相撲 題「泥(どろ)」
横綱(東) | 泥を塗(ぬ)っ お化けなっちょい 妙(す)だエステ [枦山一球] |
横綱(西) | 腹一杯(いっぺ) 食(か)せたや 泥を吐(へ)た黙秘 [津留見一徹] |
大関(東) | 手遅れち 思(お)もどん泥を パックしっ [諸木小春] |
大関(西) | 裏返し ざまな横綱 背中(せな)け泥 [埀野剣付鶏] |
関脇(東) | 恋敵(こいがた)く 泥(ど)れつっ倒(と)けた せっぺとべ [横手五月] |
関脇(西) | 畦塗(ぬ)いの 鍬(か)べらん泥を 顔(つ)れ被(かぶ)っ [倉元天鶴] |
小結(東) | 一張羅(いっちゃび)れ 泥水(どろみ)ずかけた 憎(に)き車(くいま) [松元清流] |
小結(西) | 泥染めん 紬(つむ)ぐ祖母(ばば)から 三代(さんで)着(き)っ [花牟礼雲雀] |
筆頭(東) | 小短躯(こじっくい) ぬかい泥田(どろだ)で ばたぐろっ [堂園三洋] |
筆頭(西) | 田鋤(たすっ)亭主(とと) 泥亀んよな 容姿(よし)で帰(き)っ [有馬凡骨] |
二枚目(東) | 溝さらえ 泥くさみなっ 鯉(こ)ゆ掴(つか)ん [入来創雲] |
二枚目(西) | 恐(わざ)い勘 タイヤん泥で 犯人(ほ)す検挙(あげ)っ [津留見酎児] |
三枚目(東) | 泥足で 寝床い這込(へく)だ 午前様(ごぜんさあ) [川村三生] |
三枚目(西) | 泥も病(や)ん 過疎ん田んぼは 身(み)ごゆなっ [田中末木] |
四枚目(東) | 運転(まく)い方(か)て 泥が飛(つ)だ言(ちゅ)て 裁判(さば)き遭(お)っ [末村多櫛] |
四枚目(西) | 泥遊(どろぜっ)の 児(こ)あ妖怪(めん)になっ 帰(もど)っ来(き)っ [菖蒲谷天道] |
五枚目(東) | 農業(さっ)下手あ 泥が付(ち)た侭(な)い 鍬(か)を仕舞(なえ)っ [野間口鈴女] |
五枚目(西) | 泥パック ひょかっきた亭主(て)しゃ 気絶(きぜ)つしっ [平中小紅] |
六枚目(東) | 農協が ブランドん鶏(と)い 泥を塗(ぬ)っ [坂元鶴山] |
六枚目(西) | 泥よけあ まっで飾(かざ)いの ダンプ奴(わろ) [蔵ノ下夢石] |
七枚目(東) | 猫好(す)っが 泥足(どろあ)す拭(ぬぐ)っ 座敷(ざな)け飼(こ)っ[安藤孟宗竹] |
七枚目(西) | 野良(はい)戻(もど)い 泥手ん孫を 抱(だ)っ上(きゃ)げっ[川村 明] |
八枚目(東) | 肴(しおけ)をば 泥どん払(は)るた 手い貰(も)ろっ [塚田黒柱] |
八枚目(西) | 泥祭(どろまつ)い 美人(シャン)が一番(いっばん) 塗(なす)られっ [田原大黒] |
親方吟(東) | 蓮根(はすね)掘(ほ)ゆ 泥が股ずい 冗談(わや)くしっ [村田子羊] |
親方吟(西) | 代議士も おらじ泥道(どろみ)つ まだ走(はし)っ [岩崎美知代] |
第32回国分大会 席題「涙(なんだ)」 永徳天真選
天 | 背負(かる)た業(ご)ち 涙(なんだ)を隠(か)きっ 癌の見舞(みめ) [森山厚香] |
地 | 不束(ふつつか)ち 来たて涙(なんだ)あ 知(し)らん嫁 [福冨野人] |
人 | 笑(わ)るすぎっ 涙(なんだ)で外(と)れた つけ睫毛(まっげ) [有川南北] |
選者吟 | 見(み)ちょい方(ほ)が 恥(げん)ね宗男(むねお)ん 安(や)し涙(なんだ) [永徳天真] |
第32回国分大会 兼題「声」 有川南北選
天 | 発情(さかい)猫 女房(かか)が大声(うごえ)で 追散(うち)らけっ [金井一馬] |
地 | 逢(お)っみたや ばあさんじゃった 交換手 [樋口一風] |
人 | 小(こ)め声い 直(いっ)き姑御(しゅとじょ)が 勘ぬしっ [江口紫朗] |
選者吟 | 女房(かか)ん声 嫁(き)たとか天女 いま地鶏(じどい) [有川南北] |
その他の秀句 (順不同)
あったらし 返済(もど)そごたなか 借(か)った金(ぜん) [植村聴診器] |
頑張(きば)っ来(け)ち 出掛(でが)けにゃ女房(かか)ん 投げキッス [上籠若菜] |
朝帰(あさもど)い 早(は)よおじゃしたち 茶どん注(せ)っ [坂口橘風] |
熱(ほとぼ)いが 冷めたか女房(かか)が 語(かた)いでっ [野村三味] |
遠慮(しんしゃっ)も 過ぎれば後(のち)な 歯痒(はが)ゆなっ [江平光坊] |
猪(しし)ん料理(じゅ)や 美味(うん)めが自慢(ぎら)が 喉(の)で詰(つ)まっ [田原大黒] |
赴任先(さ)き 焼酎(しょちゅ)癖ん方(ほ)が 先(さ)き届(と)じっ [小森寿星] |
いけな奴(と)か 巡査あ焼酎(しょちゅ)で 試(ため)されっ [福冨野人] |
老夫婦(おんじょみと) あいたこらよで 日(ひ)を暮(く)れっ [大脇保子] |
逝(い)てからは 吸(す)やん吸やんち 墓(は)け煙草 [福元多喜子] |
四十九日(しじゅくんち) 過(す)ぎたや横座(よこ)ぜ 婆(ば)が座(すわ)っ [中村雲海] |
二日酔(ふっかえ)ん 後悔(くけ)は一日(ひして)で け忘(わす)れっ [書川水平] |
掴(つか)ん合(よ)っ 分かった女房(かか)ん 馬鹿力(ばかぢから) [川村三生] |
涙目(なんだめ)は 花粉症(かふんしょ)じゃって 亭主(とと)は騒動(そど) [枦山一球] |
出(で)っ行(くら)め 分(ぶ)の悪(わ)り亭主(てし)の 大(ふ)とか声 [津留見酎児] |