薩摩郷句誌「渋柿」
第565号
雑吟 三條風雲児選
一番槍 | 亭主(とと)ん位牌(い)へ 今日(きゅ)は休肝日 茶を供(あ)げっ [川村三生] |
二番槍 | やぞろしで 生(い)っ仏(ぼとけ)かあ 先(さ)き食(か)せっ [村田子羊] |
三番槍 | 子も懐(な)ちて 姑御(しゅとじょ)も良(ゆ)して 後妻(あと)は楽(だっ) [上籠若菜] |
四番槍 | 遣手(やいて)女房(かか) てげな事(こっ)ずや 亭主(て)し言(い)わじ [金井一馬] |
五番槍 | 女房(か)け済(す)まん 女難の相が 手相(てそ)い出(で)っ [津留見酎児] |
六番槍 | 爺(じ)の電話 総入歯(がんぶ)ゆ外(と)れば 聞(き)っ難(にく)し [川村 明] |
七番槍 | 女(おなご)模合(もえ) 郷中(ごじゅ)ん噂が ずるっ寄(よ)っ [松元清流] |
渋柿集
三條風雲児 | 鳳仙花(とっしゃご)ち 渾名(あだな)セクハラ どま平気 |
出世して 墓こしたえも 帰(もど)っこじ | |
祖母様(ばっさあ)が おじゃい間(あいだ)は 焚(た)っ門火 | |
お精霊様(しょろさ)へ 供(あ)ぐち甘藷(かいも)ん 探(さぐ)い掘(ほ)い | |
一(ひと)ランク 下げた中元(ちゅげん)で 繰(く)ゆつねっ | |
うっ溜(た)まい 仕事(しご)ち病室(びょしっ)で 気をば揉(も)ん | |
苦瓜(にがごい)も 三度三度は 食(く)ごちゃ無(の)し | |
上田 格 | 三晩目(みばんめ)な 布団に這込(へく)だ 野良猫(まぐれねこ) |
可愛(む)ぜ浴衣 花火線香(せんこ)を 持(も)っ走(はし)っ | |
見送(みおく)いの 木戸で挨拶(えさ)ちも 念が入(い)っ | |
気が向(む)かん こちゃ振(ふ)い向(む)かん 横(よん)ご杵ぎね | |
決まった態(ふ) 仲人殿(なかだっどん)な 手で締(し)めっ | |
熱帯夜 風鈴なんど 掛(か)けっみっ | |
おじゃすかち 裏い回れば 牛がおっ | |
有川南北 | 俺(おい)も老齢(とし) 昔(むか)しゃ昔(むか)しゃが 癖いなっ |
蛇嫌(へっぎ)れい 冗談(わや)くしたなあ マジ切(き)れっ | |
蝮(まむし)焼酎(じょちゅ) 女房(か)け飲ませたや 目が据(す)わっ | |
針(はい)の目が 通(とお)らん婆(ば)さめ 優(やさ)し嫁 | |
辛(の)さんこっ 金(ぜん)な無(な)かとけ また出費(だしめ) | |
塚田黒柱 | 俺(おい)が子が どう間違(まっ)ごたか 勉強(べんきょ)嫌(ぎ)れ |
本当(ほんのこ)て 不景気か思(と)も 旅行(りょこ)ブーム | |
宇宙旅行(りょこ)い 二十五億(にじゅうごおっ)の 捨(うっ)せ金(ぜん) | |
嬉(うれ)し時(と)か 名の無(な)か花(は)ねも 笑(わ)るかけっ | |
少(ち)す増えた 目盛(めも)い体重計(たいじゅうけ)ゆば蹴(け)っ | |
参考作品 | 娘(こ)が嫁(い)たっ ほっちした時(と)きゃ 産の加勢(かせ) [中原袖無] |
婆(ばば)言(ちゅ)たや 老爺(おんじょ)ち吐(か)やす 歯痒(はが)い女房(かか) [中間紫麓] | |
一度(いっど)恥(は)ず 曝(さ)れたやはいと 借(か)いけ来(き)っ [中村雲海] | |
捨金(うっせぜん) 英語ん塾(じゅっ)も 見栄でやっ [西 幸子] | |
効(き)かんはっ 下剤ち飲(ぬ)だて 風邪薬(かぜぐすい) [西 三日月] | |
後(うし)とせえ くりっいこそな ビール腹 [西迫順風] | |
寄付話(ばな)し すたっ黙った 喋(しゃべ)いごろ [宗義] |
山椒集 題「弁当(べんと)」 上田 格選
天 | 買(こ)た弁当(べんと) 山い着(ち)た時(と)か 糸(やね)を引(ひ)っ [埀野剣付鶏] |
地 | 初デート 弁当(べんと)も準備(しこ)た 優(やさ)し娘(おご) [棈松睦酔] |
人 | 田植えずい 昼(ひ)いな弁当(べんと)を 買(こ)け走(はし)っ [瀬戸口流川] |
五客一席 | 弁当箱(べんとば)け 昨夜(ゆべ)はごめんち メモが入(い)っ [樋口一風] |
五客二席 | 手弁当(てべんと)で 若(わ)け衆(し)がはまい 町興(まっおこ)し [上籠若菜] |
五客三席 | 海開(うんびら)っ 金槌(かなづ)ちゃ堤防(どて)で 弁当番(べんとばん) [安藤孟宗竹] |
五客四席 | 女房(かか)は旅行(たっ) 店屋弁当(べんと)を 三日食(く)っ [山下明良] |
五客五席 | 町議選 弁当(べんと)目当てん 加勢(かせ)もおっ [樋渡草団子] |
選者吟 | 運動会(うんどかい) 弁当(べんと)と茣蓙は 先(さ)き行(い)たっ |
龍虎集 「時事吟」 有川南北選
天 | 偽造(にせ)旅券(パス)ん よしれん客(きゃっ)が 波(な)む立(た)てっ [棈松睦酔] |
地 | マングース 島んギャングい ない下(さ)がっ [新地十意] |
人 | 教科書(ほん)の中(な)け 戦争(いっさ)ん傷(きし)が まだ残(のこ)っ [上瀬明星] |
四天王一席 | 誰(だ)が総理(そう)り なろが漫画で ちょくられっ [佐土原 隆] |
四天王二席 | 術(ずっ)ね娑婆 裁判官が 娘(おご)を買(こ)っ [楠八重渓流] |
四天王三席 | わざい娑婆 神(かん)も恐(おそ)れん 代理腹 [坂元鶴山] |
四天王四席 | 長(な)げ夢が 叶(かの)っ与論に 美味(うま)か水(みっ) [塚田黒柱] |
選者吟 | 靖国(やすくん)に 参(め)ろすい度(たん)び 揉(も)めどえっ |
郷句相撲 題「鼻」
横綱(東) | 先代(せんで)から 似た団子鼻(だごばな)が 額(が)き並(な)るっ [横手五月] |
横綱(西) | 空腹(すっばら)ん 鼻(は)ね訪(こと)っきた 料理(じゅい)の匂(かざ) [米元年輪] |
大関(東) | 要(い)らん議(ぎ)を 小泉殿(こいずみどん)な 鼻で蹴(け)っ [鈴木一泉] |
大関(西) | 噂どま 知(し)たじ我が子を 鼻(は)ねかけっ [江平光坊] |
関脇(東) | 何(なん)ちゅ娑婆 鼻ずいピアす ひっ下(さ)げっ [坂元鶴山] |
関脇(西) | 鼻ん先(さ)き 子供(こどん)が居(お)れば 気強(きづ)えこっ [那加野黎子] |
小結(東) | 儲(も)け話(ばな)し なれば犬(いん)並(な)み 鼻が利(き)っ [塚田黒柱] |
小結(西) | 整形の 鼻じゃろ顔(つら)と 釣合(ついよ)わじ [平中小紅] |
筆頭(東) | 指輪(いっがね)も 絽(ろ)も鼻声が 稼(かせ)っ出(で)っ [泊 白水] |
筆頭(西) | 新(に)け免許 車(くいま)ん鼻は 傷(きし)だらけ [中村雲海] |
二枚目(東) | 山狩(やまが)いの 見事(みご)て手柄は 犬(いん)の鼻 [北山如無] |
二枚目(西) | 鼻声ん 女将(ママ)い魂(たま)すば 素抜(すに)かれっ [金井一馬] |
三枚目(東) | 隣(つ)ぎゃカレー 自分(わが)も欲(ほ)すなっ 料理(じゅい)直(な)えっ [野間口鈴女] |
三枚目(西) | 鼻声い 弱(よ)えで男あ 馬鹿をみっ [上籠若菜] |
四枚目(東) | 鼻手術 顔(つら)と似合(によ)わじ おかしゅなっ [馬迫 蛙] |
四枚目(西) | はん倒(と)けっ 高(た)こもね鼻を 擦(す)い壊(く)えっ [楠八重渓流] |
五枚目(東) | 可愛(む)ぜ鼻ち 褒(ほ)めっ盃(ちょ)く貰(も)ろ 命名祝(なつけゆえ) [森山厚香] |
五枚目(西) | 焼酎(しょちゅ)好(す)っの 鼻ん頭(びんた)は 赤(あ)こ染(そ)まっ [津曲とっこ] |
六枚目(東) | 低(ひ)き鼻も 愛嬌(あいきょ)があっち 褒(ほ)められっ [大和 渚] |
六枚目(西) | 婆(ば)ん子守(こもい) 孫あ手鼻(てばな)ん 真似をしっ [菖蒲谷天道] |
七枚目(東) | 飲(の)んだせば 強(つ)え鼻息(はないっ)の 無口者(うんだまい) [畑山真竹] |
七枚目(西) | 鼻ん穴(す)い 十円どろが 楽(だ)き這入(へく)っ [埀野剣付鶏] |
八枚目(東) | 鼻ん差で 負けたち悔(く)やん 競馬好(す)っ [樋渡草団子] |
八枚目(西) | 鼻はねピアス お前(ま)や牛(べぶ)かち 爺(じ)が叱(く)ろっ [山下明良] |
親方吟(東) | 少(ち)す低(ひ)けが 鼻よか内心(ねしゅ)ち 娶(も)れかかっ [安藤孟宗竹] |
親方吟(西) | 気障な奥様(こじゅ) 歩(さ)れっかたずい 鼻いちっ [有馬凡骨] |
第91回南日本薩摩郷句大会 兼題「火の手」 塚田黒柱選
特選 | 飲(の)んごろが 火の手は遠(と)えち また座(すわ)っ[稲田切株] |
秀一 | 便所(まな)け行(い)た 間(こ)め打(う)っ上(ちゃ)げた 油鍋 [三條風雲児] |
秀二 | ホテルかあ 火の手が追出(うで)た 下着同士(どし) [津留見酎児] |
秀三 | 改革(かいかっ)の 火の手あ派閥(はば)つ 踏(ふ)ん潰(ち)びっ [西 幸子] |
秀四 | 火の手かあ 守(まも)っ言(ちゅ)た亭主(て)しゃ 先(さ)き逃(に)げっ [村田子羊] |
秀五 | 政党(せいと)嫌(ぎ)れ 火の手を上げた 勝手連 [山下明良] |
軸吟 | 煙草どん 吸(す)かたで見(み)ちょい 遠(と)え火の手 [塚田黒柱] |
第91回南日本薩摩郷句大会 兼題「早苗饗(さのぼい)」 有川南北選
特選 | 早苗饗(さのぼい)ち 人数(に)じょば泥手ん 指(い)びつもっ [有馬凡骨] |
秀一 | 早苗饗(さのぼい)の 料理(じゅ)ゆば田の神(か)み 先(さ)き供(あ)げっ [棈松睦酔] |
秀二 | 早苗饗(さのぼい)が あっで三時ん 茶も飲(の)まじ [永徳天真] |
秀三 | 早苗饗(さのぼい)も 疲(だ)れをほろめっ 隠居作(ざっ) [三條風雲児] |
秀四 | 加勢(かせ)あせん 婿が早苗饗(さのぼ)ゆ 盛(も)い上(あ)げっ [瀬戸口抱洋] |
秀五 | 早苗饗(さのぼ)ゆば 婆(ば)の手踊(ておど)いが 弾(はず)ませっ [福山吉連] |
軸吟 | 早苗饗(さのぼい)の 座で減反の 議(ぎ)が滾(たぎ)っ [有川南北] |
第91回南日本薩摩郷句大会 兼題「楽(だっ)」 上田 格選
特選 | 町議選 女房(おかた)が良(よ)かで 楽(だ)き当選(あが)っ [満石うらら] |
秀一 | ぐっ言(ちゅ)わじ 焼酎(しょちゅ)が守(も)いすい 楽(だっ)な亭主(とと) [諸木小春] |
秀二 | ノーブラは 楽(だっ)じゃが乳房(ちち)は ずん垂(だ)れっ [池上黒ぢょか] |
秀三 | 独身(ひとい)住(ず)め 楽(だっ)じゃんそがち 要(い)らん世話 [川辺睡蓮] |
秀四 | 遣(や)い手女房(か)け 家計(かけ)や任(まか)せっ 楽(だっ)な養子(よし) [福山吉連] |
秀五 | 右(みっ)言(ちゅ)えば 右(み)ぐ向(む)っまこて 楽(だっ)な亭主(てし) [三條風雲児] |
軸吟 | 楽(だっ)な娑婆 戦争なんだ け忘(わす)れっ [上田 格] |
第91回南日本薩摩郷句大会 兼題「片方(かたかた)」 三條風雲児選
特選 | 客(きゃっ)の靴(く)つ 片方(かたか)てなけた 術(ずっ)ね犬(いん) [瀬戸口抱洋] |
秀一 | 飲(の)ん平(べ)が家(え) 片方(かたかた)靴(くっ)が 沢山(ずばっ)有(あ)っ [中村雲海] |
秀二 | スリッパを 片方(かたか)て騒動(そど)な 宿屋(やど)ん小火 [上山天洲] |
秀三 | 知恵が付(ち)っ 片方(かたかた)ん靴(く)つ 踏(ふ)ん直(な)えっ [末村多櫛] |
秀四 | 倹(つま)し女房(かか) 手袋(てぬっ)片方(かたかた) 街(ま)つ歩(さ)れっ [稲田切株] |
秀五 | 口笛(はと)が鳴(な)っ 片方(かたかた)下駄で 木戸(き)で走(はし)っ [瀬戸口和八久] |
軸吟 | 倹(つま)しとか 惚(ぼ)けか片方(かたかた) 足袋(た)ぶば履(ふ)ん [三條風雲児] |
第31回若法師忌・第14回雪尾忌句会 兼題「門」 瀬戸口抱洋選
天 | 石鑿(いしのん)の 跡もいかめし 士族(しぞっ)門 [野間口鈴女] |
地 | 娘(こ)ん家出 門口(もんぐ)ち父(とと)は 夜通(よし)て立(た)っ [今釜三岳] |
人 | 城んよな 門ぬ構えた 成(な)い上(や)がい [細山田妙子] |
選者吟 | 押売(おしう)いが 二の足(あ)しゅ踏(ふ)んだ 門構え [瀬戸口抱洋] |
第31回若法師忌・第14回雪尾忌句会 兼題「豆」 塚田黒柱選
天 | 味噌大豆(みそで)ずば 枝豆んうち 食(たも)い終(と)っ [小森寿星] |
地 | 豆好(す)っが 口(く)ち入れたまま 手を伸(の)べっ [上別府印句] |
人 | 大豆(でっ)叩(たた)っ 汗が仕事着(こだな)し 塩を吹(ひ)っ [藤高春風] |
選者吟 | 煎(い)い豆を ごいと歯の悪(わ)り 客(きゃ)き出(だ)せっ [塚田黒柱] |
その他の秀句 (順不同)
旅(たっ)帰(もど)い 畳(たた)み投(な)げ出た 大根足(でこんあし) [倉元天鶴] |
池坊(いけのぼ)ん センスが出(で)ちょい 墓参花(はかめばな) [村田子羊] |
甲虫(かぶとむ)す 捕(と)った帰郷(もど)れち 爺(じ)ん電話 [福原福多] |
三晩目(みばんめ)な 布団に這込(へく)だ 野良猫(まぐれねこ) [上田 格] |
お賽銭 一円硬貨(どろ)じゃ 恥(げん)ね音 [瀬戸口抱洋] |
女房(かか)ん機嫌(ごっ) 俎板(まねた)ん音で 聞(き)っ分(わ)けっ [有馬湧声] |
旅(た)び出(で)れば 女房(かか)ん後(しい)から 従(ち)っされっ [伊地知みのり] |
夫婦(みと)喧嘩 勝負(しょっ)がちたたろ 音が止(や)ん [有川南北] |
股ばいの 厄介(やっけ)な所(とこ)い 一つ瘡(がさ) [久永時盛] |
知恵が付(ち)っ 涙(なんだ)も出(だ)さじ 抱(だ)けち泣(ね)っ [那加野黎子] |
楽(だっ)な亭主(とと) 粗末(おろ)え肴(しおけ)も 美味(うん)も食(く)っ [仮屋一発] |
荷(に)を括(きび)っ また門ずいの 離婚(わかれ)騒動(そど) [金井一馬] |