おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第562号

雑吟     三條風雲児選

一番槍 娘(こ)が娘(こ)がち 言(ゆ)たが嫁女(よめじょ)が 尻(し)ゆば取(と)っ [弓場正巳]
二番槍 内股(うっまた)ん 根太(ねっと)を擦(こす)っ 蟹(がね)歩(あゆ)ん [永徳天真]
三番槍 皮膚呼吸(こきゅ)が でけんめ塗った 厚化粧(あつげしょう) [村田子羊]
四番槍 IT(アイチー)じゃ 米は収穫(とれ)んち 農業(さ)きはまっ [川村 明]
五番槍 亡夫(とと)が捺(ち)た 実印(はん)な妻(おかた)を 裸(はだ)けしっ [江平光坊]
六番槍 遺産どま 同(ひと)っしこ分(わ)けっ 墓は長男(すよ) [畑山真竹]
七番槍 大事(でし)な時(と)き 与党(よと)も呆(あき)れた ゴルフ沙汰 [坂元鶴山]

渋柿集

三條風雲児 泣虫(なけべ)すば 叱(が)いたくろそな 武者人形(むしゃにんぎょ)
昨日(きぬ)植えた 茄子(なす)ぶ歯痒(はが)いか 根切虫(ねきいむし)
野焼(のや)っずい させんで蕨(わらべ) どま取(と)れじ
親愛情(おやぼんの) かからん団子(だご)も 送(おく)っやっ
送(おく)っきた 粽(まっ)が誘発(ついで)た 五月病(ごがっびょう)
KSD(ケイエスデ) 金(ぜん)でドンぬば 丸(まる)め込(く)っ
副作用(ふくさよ)か 病(びょ)をばしてかい 肥(こ)えでけっ
上田 格 飲(の)ん同士(どし)が 猫を撫で撫で 上(あ)がい込(く)っ
田舎相撲(ずも) 飲(の)ん方(か)てなれば 派手を取(と)っ
爺(じ)が手紙(てがん) 字引(じび)き無(な)か字も ときなあっ
親い似(に)っ 子も変物(へんぶっ)ち 噂(うわ)せなっ
そいじゃ駄目(ぼっ) ケーキも食(く)ろっ 団子(だご)も食(く)っ
提(さ)げっ来た 鶏(と)や木戸口(きどぐっ)で 走(はし)い出(で)っ
カロリーち 理由(わけ)は分(わ)からじ 議(ぎ)を吐(か)えっ
有川南北 危機管理 ただん事故ちゅて 芝こさっ
棚ボタも おろえ生地(じ)がでっ 腐(ねま)いまえ
誰(だい)が山 じゃろと鶯(うぐい)し 境界(さけ)は無(の)し
倦怠期 夕飯(ゆめ)しゃ店屋(てんや)ん 冷(つん)て折詰(おい)
食終(くと)ったや お茶は飲(の)んかち きし吐(か)えっ
塚田黒柱 俺(おい)が子が 一人(ひとい)も禿(は)げじ 首(く)ぶ捻(ひね)っ
ヘルパーも 金(ぜん)の分(ぶん)しこ 仕事(しご)つしっ
酔(よく)ろてん 本音を言(い)わじ 嫌(き)ろわれっ
何(な)ゆ聞(き)てん ゴルフも首相(しゅしょ)も やむたせじ
税(ぜ)ゆ正直(しょじ)き 払(は)るっおい衆(し)が 馬鹿を見(み)っ
参考作品 形見(かたん)分け 母親(かか)ん匂(かざ)とめ 抱(で)て帰(もど)っ [田中末木]
一夏(ひとなっ)で 手抜(てぬ)っ工事が 口(く)つ開(あ)けっ [田中栄泉]
金(ぜん)の無(な)か 爺婆(じばば)にゃ孫は 寄(よ)いつかじ [田中爽風]
四十九日(しじゅくんち) 泣(ね)たい笑(わ)るたい 爺(じ)を語(かた)っ [谷口雲城]
亭主(とと)よっか 犬(いん)ぬ可愛(むぞ)がい 倦怠期 [種子田 寛]
パソコンも 錆(さっ)くれ頭(びん)て 擾(こな)されっ [田原大黒]
病気(やん)が原因(もと) くずれ宗教(しゅうきょ)ん 罠(わ)ねうたっ [埀野剣付鶏]

山椒集 題「慌(せし)こ」     上田 格選

晩の準備(し)め 慌(せし)こちょっとに 長(な)げ電話 [蔵ノ下夢石]
子を叱(が)れば 猫も慌(せし)こっ 飛(つ)で逃(に)げっ [仮屋一発]
慌(せし)こえば 手いなまみらん 鍵(かっ)の穴 [塚田黒柱]
五客一席 珍客(ちんきゃっ)に 慌(せし)こっ逃げた 老雄鶏(おんじょどい) [山下明良]
五客二席 拾(ふ)るた財布(ふぞ) 慌(せし)こっ周囲(まわ)ゆ 見回(みまわ)せっ [倉元天鶴]
五客三席 俄客(にわかぎゃ)き 慌(せし)こっ湯豆腐(ゆど)く たぎらけっ [北山如無]
五客四席 走(はし)い込(く)っ 慌(せし)こっ蹲(しゃ)ごだ 下痢腹(くだしばら) [菖蒲谷天道]
五客五席 本の下(し)て 慌(せし)こっ隠(か)きた ラブレター [種子田 寛]
選者吟 俄雨(さだっあめ) 慌(せし)こっ着物(いしょ)ん 尻(し)ゆつぶっ

龍虎集 「時事吟」     有川南北選

見送った 笑顔がハワイ沖(お)き消(き)えっ [大脇保子]
森おろし 今度(こん)だゴルフが 首(く)ぶ締(し)めっ [永野寛二]
向岸(むこぎし)の 火事(かし)ち思(おも)えん シーガイヤ [大和 渚]
四天王一席 新任の 挨拶(えさ)ちゃイラクい ぶっ放(ぱ)ねっ [津留見一徹]
四天王二席 反主流 狼煙(のろ)しゃ半端で 火あ消(き)えっ [田中五郎太]
四天王三席 不景気が 足踏(あしぶ)むしちょっ 展望(さ)かみえじ [野村三味]
四天王四席 金文字で 尚子ロードい 箔(は)くつけっ [樋口一風]
選者吟 満期(ほつ)れたが 雀ん涙(なんだ) ゼロ金利

郷句相撲 題「喧嘩」

横綱(東) 夫婦(みと)喧嘩 実家(さと)で迎(む)けめを 心中(ねしゅ)じゃ待(ま)っ [入来創雲]
横綱(西) 夫婦(みと)喧嘩 今回(こん)だ亭主(とのじょ)が 荷を結(きび)っ [平中小紅]
大関(東) 夫婦(みと)喧嘩(げん)け 負けた課長は 平(ひ)れ当(あ)たっ [大和 渚]
大関(西) 白星(しろぼ)すば 張手(はいて)で稼(かせ)だ 喧嘩相撲(ずも) [棈松睦酔]
関脇(東) 喧嘩好(す)っ またもイラクい 手を出(だ)せっ [楠八重渓流]
関脇(西) 子も猫も 喧嘩んぶんな 隣(とな)い勝(か)っ [上籠若菜]
小結(東) 腹癒(はらい)せい 田の水(み)ず落(お)てた 犬(いん)と猫 [藤高春風]
小結(西) 穏(な)ち語(かた)や でけじ何時(いっ)でん 喧嘩腰 [瀬戸口抱洋]
筆頭(東) 境界(さけ)ん事(こ)つ 喧嘩ん口調(くちょ)で 位牌(い)へ語(かた)っ [有馬栄見]
筆頭(西) 客(きゃ)く帰(も)でっ 仕切(しき)い直しの 夫婦(みと)喧嘩 [福冨野人]
二枚目(東) 呆(ぼ)やし長男(すよ) また妹(いもっ)から 泣(な)かされっ [塚田黒柱]
二枚目(西) 酔(え)が醒(さ)めっ 昨夜(ゆべ)ん喧嘩を やれ悔(く)やん [田中末木]
三枚目(東) 夫婦(みと)喧嘩 女房(おかた)が投(な)げっ 押(お)さえ込(く)っ [山内成泰]
三枚目(西) 仲人(なかだっ)が どっち付(つ)こよん なか喧嘩 [上山天洲]
四枚目(東) 夫婦(みと)喧嘩げんけ 今日(きゅ)どま父(とう)ちゃん 勝てち言(ゆ)っ [泊 白水]
四枚目(西) 中(な)け入(い)った 奴(わろ)が喧嘩い 火を付(ち)けっ [小瀬一峻]
五枚目(東) 夫婦(みと)喧嘩(げん)け 囃子(はや)すかけちょい 次男太郎(じなんたろ) [諸木小春]
五枚目(西) 喧嘩なあ 強(つ)えが勉強(べんきょ)は ぶんと駄目(ぼっ) [田代彦熊]
六枚目(東) 言(い)わにゃ損 言(ゆ)えば喧嘩ん 境(さけ)争いさけ [新地十意]
六枚目(西) 喧嘩すい 相手(えて)が居(お)いうちゃ 気力(あや)もあっ [那加野黎子]
七枚目(東) 合食(がっしょっ)の 話(はな)しゃ最初(はな)から 喧嘩腰 [郷田悠々]
七枚目(西) 喧嘩相手(えて) 今じゃ仲ん良(え) 飲(の)んべ友人(どし) [山下明良]
八枚目(東) 幼(こ)め弟(おと)ちゃ 叱(が)らじ兄貴(あにょ)をば 先(さ)き殴(ど)えっ [末村多櫛]
八枚目(西) うな言(ちゅ)ときゃ 股間(また)を蹴上(けあ)げた 喧嘩上手(じょし) [津曲とっこ]
親方吟(東) 喧嘩上手(じょし) 目潰(めつぶ)す食(か)せっ 飛(つ)で逃(に)げっ [安藤孟宗竹]
親方吟(西) 世話好(せわず)っが 郷中(ごじゅ)ん喧嘩も 買(こ)て帰(もど)っ [有馬凡骨]

第67回鹿屋大会 席題「春(はい)」     永徳天真選

リハビリい 春(は)いな退院(もど)ろち 頑張(きば)い姑(はほ) [那加野黎子]
家(え)も建(た)てっ 嫁も決まった 俺(おい)が春(はい) [入来創雲]
まだ寒(さ)みて 春(は)ゆ先取(さきど)いの ミニん娘(おご) [川村三生]
選者吟 待った春(は)い 欠伸(あく)ぶしたごっ 土筆(つく)しゃ出(で)っ [永徳天真]

第67回鹿屋大会 兼題「肝」     塚田黒柱選

わが物(もん)ぬ 買(こ)とか肝太(ふ)て 女房(かか)ん財布(ふぞ) [有川南北]
肝短(みし)け 亭主(とと)ん手伝(こど)いで 喧嘩(けん)けなっ [新地十意]
切れ目なし 飲(ぬ)っ擾(こな)さるい 上戸(じょご)ん肝 [三條風雲児]
選者吟 効(き)っ言(ちゅ)えば ハブん肝ずい 鵜呑(ぐの)みしっ [塚田黒柱]

第31回国分大会 席題「貯金」     中村雲海選

溜(た)まったや 旅行(りょこ)い遣(つ)ことが 惜(お)しゅけなっ [瀬戸口抱洋]
無人市(むじんい)ちゃ 目掛け貯金で 夢を練(ね)っ [津留見酎児]
腹ん立(た)っ 貯金の利息(りそ)き 税が付(ち)っ [江口紫朗]
選者吟 楽(たの)しゅんな たんす貯金ぬ 数(か)んぜかた [中村雲海]

第31回国分大会 兼題「日帰(ひげ)い」     有川南北選

実家(さと)帰(もど)や 兄嫁(あねさん)の顔(つ)れ 日帰(ひげ)いなっ [小森寿星]
夕方(ゆさいも)て 捨(うっ)せた猫が 日帰(ひげ)ゆしっ [北村虎王]
日帰(ひげ)いでな おてつっが悪(わ)り 里帰(さともど)い [下本地郷二]
選者吟 パパは吝嗇(けち) 家族(けね)じゃむくれた 日帰(ひげ)い旅(たっ) [有川南北]

その他の秀句 (順不同)

部下ん子が 俺(おい)家(げ)ん子をば 従(したが)えっ [上籠若菜]
お客様(きゃっさ)ん 前で恥(げん)なか 妻(かか)ん下知(げっ) [瀬戸口抱洋]
知恵がちて 爺(じ)の左(ひだい)舵(か)ず 逆手(さか)て取(と)っ [樋口一風]
泣けば済(す)ん 喧嘩を妻(かか)は 心得(こころえ)っ [栫 路人]
どっこいしょ 地金が出(で)った 若づくい [東 竜王]
看護婦が 手玉(てだ)め取(と)いごっ シーツ交換(かえ) [野間口鈴女]
顔(つら)は女房(かか) 頭(びんた)は俺(おい)ち 子を褒(ほ)めっ [前田セツ]
無(な)か品(しな)は 全部(ずるっ)じゃったち 商売(あっね)上手(じょし) [佐伯山神]
茶髪(ちゃは)つ叱(が)っ わがあ白髪(したが)を 黒(く)ろ染(そ)めっ [田中五郎太]
亭主(て)しゃ横(よん)ご 女房(かか)は転婆(いなば)で 仲は良(ゆ)し [山内成泰]
金星が マイクん前で 息(い)きゃ弾(はず)ん [瀬戸口流川]
勉強(べんきょ)好(す)っ じゃろか三度も 留年(りゅねん)しっ [川村三生]
金太郎(きんたろ)い クラブ持たせた 腕白坊(きかんたろ) [福原福多]
鳴(な)い電話でんうぇ 慌(せし)こた足が 相撲(すも)を取(と)っ [津留見一徹]
子の組(くん)が 言(い)えじ慌(せし)こた 参観日 [諸木小春]
叩(たた)っ独楽(ご)め 活(かつ)をば入れた 紐(よま)ん鞭(ぶっ) [井手上政暎]
犬(いん)嫌(ぎ)れが 紐(よま)ん長さを 読(よ)ん訪(こと)っ [上山天州]
落(お)ちぶれっ 金縁(きんぶ)ちゃ紐(よま)で 耳(みん)に吊(つ)っ [佐土原 隆]
世話好(ず)っの 女房(かか)あ後妻(あと)ずい 決(き)めっ逝(い)っ [園田御岳]
日帰(ひげ)いでな 語(かた)いとやせん 里帰(さともど)い [瀬戸口抱洋]