おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第711号

雑吟     永徳天真選

一番槍 女房(かか)んナビ 一円安(や)しち 走(はし)らせっ [入来院彦六]
二番槍 運(ふ)の良(え)こち 何(ない)でん旨(うん)め 味音痴 [棚網 鮎]
三番槍 風鈴が やっと涼(すず)しか 音色(ねい)れなっ [植村昭子]
四番槍 敬老(けいろ)ん日 たった一日(ひして)は 丁寧(てね)なこっ [花園ちづ]
五番槍 睡魔どみ 負(ま)くいもんかち 三次会 [工藤天然]
六番槍 避(さ)けちょって 風呂で寄(よ)っくい 喋(しゃべ)くい婆(ば) [白澤黒猫]
七番槍 検診日 異状(いじょ)無(な)しゅ願(ね)ごっ 鉦(じん)ぬ打(う)っ [北村虎王]

渋柿集

中村雲海 生(い)かされっ 居(お)っち知(し)たんじ 多(う)け悪口(あっご)
夫婦(みと)暮らし 何(ない)かが足(た)らん 方(ほ)が気楽(きだっ)
好(す)っ勝手(がっ)て 振舞(ふいめ)っ敵(てっ)が 多(う)こけなっ
熱中症(ねっちゅうしょ) そい託(かこ)つけた 仕事(しごっ)嫌(ぎ)れ
金持(ぜんも)っの 醜青年(ぶにせ)女性(おなご)い 苦労(くろ)をしっ
有川南北 女模合(おなごもえ) 遊(あす)っ来(き)やいち 追出(うだ)されっ
空腹(すっばら)が 父親(ちゃん)の雷(かんな)い 輪(わ)をかけっ
欲(よっ)ごろ婆(ば) 使(つ)こもせんとに 呉(く)れきらじ
若(わ)け時(とっ)の 笑凹(えくぼ)今でな クレーター
待て言(ちゅ)てん 制止(き)かじ取(と)い食(く)ろ くずれ犬(いん)
弓場正己 立ちションも 周囲(ぐる)ゆ気いせん 山登(のぼ)い
先(さ)き嫁が 上(あ)がっ亭主(とのじょ)が 靴(くっ)揃(そろ)え
若(わ)け医者は 古参看護師(かんご)し 下知(げ)つされっ
嫁ん味(あっ) 褒(ほ)むれば姑(しゅと)ん 顔(つら)が攣(つ)っ
大根足(でこんあし) 女房(かか)が我家ん 屋台骨
堂園三洋 キャッチャ言(ちゅ)う 商売(しょうば)や度々(はいと) 痛(い)て目遭(お)っ
腹ん虫(む)しゃ グーグ叫(おら)って 鈍(ぬ)り出前
一度(いっど)二度 買(こ)えば上客(じょうきゃ)き 成(な)い上(あ)がっ
宿題(しゅくだ)ゆば 頭(びん)て冠(かん)めっ 浮(う)かん顔(つら)
今でしょが 流行(はや)い世の中(な)け 鈍(ぬ)り役所(やっしょ)
永徳天真 悪口(あっご)をば 我(わが)も言(ゆ)うくせ 他人(ひ)てな叱(が)っ
昨晩(ゆべ)ん事(こ)ちゃ 覚えちゃおらん 酔漢(よくろんぼ)
女房(かか)は旅行(りょこ) 代(で)が有(あ)いカレゆ 準備(しこ)っ出(で)っ
迷(まよ)たどん 土産あ大(ふと)か 箱(は)け決(き)めっ
ど迷(まぐ)れっ 助手席(じょしゅせっ)の女房(か)け 八つ当(あ)たい
樋口一風 反対ち 言(ゆ)きらじ心(ね)すい 棘(び)が刺(さ)さっ
褒(ほ)めかぎい 褒(ほ)めっぼえ子を 調子(ちょ)し乗(の)せっ
陣取った テレビん前で 舟を漕(け)っ
じゃんけんで チャンネル権な 婆(ば)が握(にぎ)っ
菜園の たった三坪(みつぼ)い 擾(こな)されっ

山椒集 題「手抜(てぬ)っ」     有川南北選

部分塗装(とそ) 言(ちゅ)おそな婆(ばば)ん 手抜(てぬ)っ化粧(けしょ) [諸木小春]
信用が 一番(いっ)じゃち手抜(てぬ)か せん老舗 [上薗佳笑]
大雨(うあめ)なっ 手抜(てぬ)っが露見(ばれ)た 裏ん土堤(ずべ) [入来創雲]
五客一席 点検の 手抜(てぬ)く咎(とが)むい 大惨事 [おんじょどい]
五客二席 手抜(てぬ)くしっ 育(お)えたやんちゃが 親を看(み)っ [入来院彦六]
五客三席 値切(こぎ)ったや 大工(でっ)も手抜(てぬ)っの 家(え)で返報(へんぽ) [江口紫朗]
五客四席 あん時(とっ)の 手抜(てぬ)っが倍の 手間を食(く)っ [佐伯山神]
五客五席 手抜(てぬ)きょしっ 育(お)えた子ん方(ほ)が 為いなっ [中囿和風]
選者吟 日記どま 手抜(てぬ)き遊(あす)じょい 夏休(なっやす)ん

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

貯金ぬば 全部(ずるっ)吐(は)っ出(で)た 民主党 [上薗佳笑]
大勝(うが)つしっ 良(よ)か通知表(つうちひょ)を 手い総理 [石塚律子]
ワンマンな 支持が落(お)つっち 知(し)たん知事 [二見愚楽満]
四天王一席 愚痴(ぐぜ)は言(ゆ)が 投票(とうひょ)い行(い)かん 五十%(ごじゅっパー) [佐伯山神]
四天王二席 学会(がっか)ゆば 桜島(しま)ん噴火が 座持(ざも)つしっ [満吉満秀]
四天王三席 平幕(ひ)れ負(ま)けっ 和製横綱 白紙(はく)しなっ [前村泰山]
四天王四席 大世間(うぜけん)ぬ アッち言(ゆ)わせた 市長選 [樋口一風]
選者吟 乾杯も 焼酎(しょちゅ)でちいちっ 串木野市

郷句相撲 題「血(ち)」

横綱(東) 血が甘(あ)めか 私(あたい)ばっかい 蚊が集(たか)っ [樋渡草団子]
横綱(西) 血ん雨が 降(ふ)ろそな勢(いっ)の 犬(いん)と猫 [上山天洲]
大関(東) 速(は)え血統(ちすっ) わくわくしちょい 運動会(うんどかい) [西ノ園ひらり]
大関(西) 飲(の)ん奴(ごろ)ん 献血(けんけ)ちゃ焼酎(しょちゅ)ん 臭(かざ)がしっ [弓場正巳]
関脇(東) インターン 手術(き)った血を見(み)っ 卒倒(うっと)けっ [入来創雲]
関脇(西) 通知表(つうちひょ)い 教育(きょういっ)ママあ 血が上(のぼ)っ [吉岡道場]
小結(東) 頭(ず)の良(え)爺(じ)ん 良(よ)か血は俺(お)ゆば 飛(と)っ越(こ)えっ [諸木小春]
小結(西) 品(ひん)な無(ね)て 血筋(ちすっ)が良(え)言(ちゅ)て 鼻(は)ね掛(か)けっ [折田さくら]
筆頭(東) 献血車(けんけっ)しぇ 手招(てまね)くされた メタボ娘(おご) [西 幸子]
筆頭(西) 役立(やった)たず 女房(かか)ん一言(ひとこ)ち 血が逆上(のぼ)っ [福冨野人]
二枚目(東) 一票に 血の通(か)よ政治 願(ね)ご選挙 [植村昭子]
二枚目(西) どしこ血を 流せば訪(く)いか 平和な世 [上薗佳笑]
三枚目(東) 若(わ)け時(とっ)の 友人(どし)の血潮あ 戦争(ゆっ)せ散(ち)っ [畑山真竹]
三枚目(西) 甲子園 母校(ぼこ)ん試合で 血が滾(たぎ)っ [前村泰山]
四枚目(東) 祖父(じ)が遺品(かたん) 血染めん日章旗(はた)い 風(か)ぜ通(と)えっ [有馬純秋]
四枚目(西) 指先(ゆっさっ)の 出血(しゅっけ)ち大男(うど)が とんくりっ [桑元行水]
五枚目(東) 新焼酎(しんじょちゅ)ち 聞けば飲(の)ん平(べ)ん 血が騒(さわ)っ [おんじょどい]
五枚目(西) 濃(こい)か血じゃ 親父(おやっ)そんまま 息子(こ)は禿(は)げっ [萬福平次]
六枚目(東) 血を分けた 親戚(しんじ)集(あつ)むい 出馬前 [日隈英坊]
六枚目(西) 血ん型が 合(お)わじ不倫の 児(こ)ち発覚(ばれ)っ [石野蟹篭]
七枚目(東) 採血(さいけっ)の 新(に)か看護師を 婆(ば)は嫌(き)ろっ [佐伯山神]
七枚目(西) 女房(かか)を見(み)っ 直(いっ)き診断(みた)てた 血の病(やんめ) [入来院彦六]
八枚目(東) 上戸(じょご)爺(じ)さん 血は争(あらそ)えん 孫も盃(ちょっ) [樋之口墨矢]
八枚目(西) 血を分けた 兄弟(きょで)が欲(よ)くでた 遺産分け [満吉満秀]
親方吟(東) 血が騒(さわ)っ 汗と涙(なんだ)ん 甲子園 [伊地知 孝]
親方吟(西) 大(ふ)て手術(しゅじゅ)ち 新米(しんめ)看護師(ナース)は うっ倒(と)けっ [満留ぐみ]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「ほとくい」より抜粋)

森山敦子 気力(きこん)疲(だ)れ 砂糖(さと)んごろたで 活(か)つ入(い)れっ
修繕(こそくい)も 喧(せから)し音ん トタン屋根
囲炉裏(ゆるい)縁(ぶ)ち ふくれっ転(こ)ろだ 焙(あぶ)い餅(もっ)
安庭四郎兵 議会どま 空転(からまわ)ゆしちゃ 税(ぜ)ゆ食(く)ろっ
店屋物(てんやもん) 別々(べっべ)ち食(たも)い 倦怠期
早(は)よ食(く)えち 湯気(ほけ)とめ配(くば)い 半夏生(はげ)ん団子(だご)
柳田素浪人 大肚(ふとはら)ち 持(も)っちゃげられっ 財布(ふぞ)は空(から)
迷(まぐ)れ猫 血統(けっと)んシャムを 孕(はら)ませっ
曽我どんの 傘あ美濃かい 加勢(かせ)が来(き)っ

その他の秀句 (順不同)

可愛(むぞ)かった 八重歯が嫁(き)たや 牙(き)べ変(か)わっ [上薗佳笑]
庭上(にわあ)がい コップが出(で)たや 冷(つん)て水(みっ) [中囿和風]
安倍どんに 毒矢(どっや)じゃ無(ね)かち 聞(き)こごたっ [入来院彦六]
偉(え)ろなれば 出費(だしめ)あ秘書が 始末(しま)つしっ [下本地郷二]
湯煙(ゆけむい)が 晴(は)れっ驚(たま)げた 周囲(ぐる)や婆(ばば) [津留見一徹]
服(ふ)か合(お)てん 値段が合(お)わん 試着室(しちゃっしつ) [樋口一風]
坊主(ぼし)じゃれば 友人(どし)の見舞(みめ)いも 行(い)っ難(にく)し [福冨野人]
もう一杯(いっぺ) 飲(の)まんな女房(か)けな 抗(む)こきらじ [吉岡道場]
可哀相(むい)ねこっ 逝(い)た婆(ば)を始終(はいと) 爺(じ)あ探(さ)げっ [下栗志乃]
玄関(ふんごん)に 着(ち)たや鬘(かつら)を スパッ取(と)っ [中村雲海]
勘食(かんく)ろた 亭主(て)す騙(だま)けかて 切(せっ)ね看病(かびょ) [吉岡道場]
開(あ)けたなあ 馬鹿ち書(け)ちょった 拾(ふ)るた財布(ふぞ) [米元年輪]