おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第702号

雑吟     永徳天真選

一番槍 田の舞台(ぶた)い 鶴は初日で 祝賀舞 [津留見一徹]
二番槍 手が震(ふ)るで 賀状(がじょ)は今年が 最後(しめ)ち書(け)っ [郷田悠々]
三番槍 飲兵衛(のん)べ酌(しゃ)き 一向(いっこ)食(く)ださん 隣(つっ)の下戸 [原田菊男]
四番槍 魔王(まお)ん空瓶(びん) 隣(つっ)から借(か)って 寄(よ)い正月(しょがっ) [中囿和風]
五番槍 雪化粧(ゆっげしょ)で 桜島(しま)あ初日を 待(ま)っちゃげっ [西 幸子]
六番槍 寄(よ)い正月(しょがっ) 遺産の話(はな)し 座が冷(さ)めっ [米元年輪]
七番槍 退職(やめ)てかあ 賀状(がじょ)ん数(かし)ずい 女房(か)け負(ま)けっ [工藤天然]

渋柿集

中村雲海 過ぎた人 言(ちゅ)ごった亭主(て)すば 尻(し)いけ敷(し)っ
人が減(へ)っ 鳥獣奴(わろ)が 増(いみ)っ騒動(そど)
選挙戦 第三極(だいさんきょっ)が 掻(か)っ混(ま)ぜっ
少(ちっ)と美人(シャン) 顔(つ)れ出(で)い性質(たっ)で まだ独身(ひとい)
特売場(とくばいじょ) 女房(かか)あ戦闘(せんと)ん 顔(つ)れ変(か)わっ
有川南北 目出度(めで)て新春(はい) 今年(こと)しゃ賀状も 来(こ)ん喪中
寒(さん)か朝 目覚時計(めざま)す止(と)めて また潜(もぐ)っ
通信簿 かった変(おか)しか アンケート
まだ十九(じゅうく) 嫁(や)ってな惜(てこ)ね 親煩悩(おやぼんの)
腹踊(はらおど)い 見手(みて)を全部(すっぱい) 絶倒(かや)らせっ
弓場正己 亭主(て)しゃカレー 血統(ちすっ)の犬(いん)な 輸入(ゆにゅ)ん餌(えさ)
目を瞑(つぶ)っ 公務員なら 嫁(い)けち言(ゆ)っ
イルカショー 餌(えさ)が大(ふ)てとか 高(た)こ跳(は)ねっ
趣味ん会 言(ちゅ)たが行(い)た先(さ)か 赤提灯(あかちょちん)
里帰(さともど)い 新幹線ち 子が決(き)めっ
堂園三洋 敬老席(けいろせ)き かった似合(にお)わん 達者な爺(じ)
好(す)っな娘(こ)が 嫁(よ)めはっ行(ち)たっ 娑婆は闇(やん)
少(ちっ)としか 貰(もろ)わんパーて 濃(こ)ゆ化粧(なす)っ
貧乏(びんぶ)じゃろ 綻(ほこ)れバッチを 着(き)ちょい娘(おご)
短(みし)けほど 良(え)とがお経と 娘(おご)んミニ
永徳天真 釘(く)ぐ刺(せ)たて 案(あん)の定(じゅ)じゃった 早(は)え噂
苦笑(にがわ)れで 聞(き)っとも疲(だ)るい あてこすい
風呂嫌(ぎ)れが あらつら洗(あ)るっ 最早(もへ)上(あ)がっ
デュエットを 俄(にわか)恋人(こいび)て なっ歌(う)とっ
学校(がっこ)せえ 子を送(おく)い出(で)っ 一休(ひとやす)ん
樋口一風 元旦な 髪(かん)どん褒(ほ)めっ 妻(か)けも酌(しゃっ)
生(い)きちょった 証拠ん友(どし)の 賀状(がじょ)が来(き)っ
似顔絵い サービし髪(かん)ぬ 書(か)っ足(た)せっ
女湯(おなごゆ)い 一段(いっだん)響(ひび)っ 妻(かか)ん声
サロンパス 剥(へ)っかあ夜(よん)の 蝶々(つつ)と会(お)っ

山椒集 題「踏(ふ)ん」     有川南北選

木強(ぼっけ)女房(かか) 裸足(はだ)し百足(むかで)を 踏(ふ)んちびっ [米元年輪]
早(は)よせえち 足踏(あしぶ)むしちょい 長(な)げ便所(まなか) [伊地知 孝]
厳(きび)し娑婆(しゃ)べ 一歩踏(ふ)ん出(で)た 子ん巣立(すだ)っ [萬福平次]
五客一席 免許取(と)い 角(かど)ん標識(ひょうし)く 踏(ふ)ん倒(た)えっ [新地十意]
五客二席 お百度を 踏(ふ)ん母親(か)け励(はま)い 入試少年(にせ) [上薗佳笑]
五客三席 二度三度 砂糖黍(き)ぶば台風(うかぜ)が 踏(ふ)ん倒(と)けっ [石塚律子]
五客四席 うどん踏(ふ)み わっぜ精出(はま)った 偏平足(べったあし) [中間紫麓]
五客五席 セクハラが 出世コースを 踏(ふ)ん外(は)じっ [澤津乙名]
選者吟 癪(しゃっ)なデモ 国旗を足で 踏(ふ)ん千切(ちぎ)っ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

いけんすも 鼠(ねずん)が噛んだ 復興費 [西 幸子]
暗(くら)か娑婆(しゃ)べ 見事(みご)つ咲かせた ノーベル賞(しょ) [折田さくら]
病院な 政治家ん良(よ)か 避難場所 [原田菊男]
四天王一席 もへ下野(げや)を したか思(と)もよな 呆(ぼ)え民主 [石塚律子]
四天王二席 辞任騒動(そ)で また歯ぎしいの 拉致家族(かぞっ) [吉岡道場]
四天王三席 小(こ)め島い 目くじら立(た)つい 国(くん)と国(くん) [有馬純秋]
四天王四席 遅(お)せ訪(こと)い 鶴(つい)も知(し)っちょい 温暖化 [江口紫朗]
選者吟 スポーツで 志布志(しぶ)しゃ度々(はたれっ) 沸(わ)っ返(かえ)っ

郷句相撲 題「太(ふ)て・大(ふ)て」

横綱(東) 爺(じ)の太(ふと)か 声をも一度(いっど) 聞(き)こごたっ [樋渡草団子]
横綱(西) 神経が 他人(ひと)ん倍(ばい)太(ふ)て 苦情係(くじょがかい) [米元年輪]
大関(東) 太(ふ)て肝(きも)じゃ 蛇(へ)ぶば捕(つか)むい 転婆(いなば)娘(おご) [山元自在鉤]
大関(西) 太(ふ)て肝(きも)ち 持(も)っ上(ちゃ)げられっ 奮発(はま)っ寄付 [中間紫麓]
関脇(東) 酔(え)が醒(さ)めっ 肝(きも)太(ふ)つ払(は)るた 後悔(くけ)をしっ [諸木小春]
関脇(西) 愚図(ぐず)い子を 太(ふ)て腕(う)で寝(ね)すい 子煩悩(こぼんのう) [津留見一徹]
小結(東) 太(ふ)て足が 足湯い浸(つか)っ 弾(はず)ん法螺(ぎら) [入来創雲]
小結(西) 太(ふ)て大根(でこん) 選(え)って買(こ)たなあ 中あ空洞(うと) [市来流星]
筆頭(東) 弥五郎(やごろ)どん 太(ふと)か眉毛(めげ)いも 濃(こ)い愛情(ぼんの) [西 幸子]
筆頭(西) 太(ふ)て綱で 川内(せんで)ん街道(けど)あ 沸(わ)っ返(かえ)っ [樋口一風]
二枚目(東) 古(ふ)り写真 誠(まこ)ち恥(げん)なか 太(ふと)か足 [西ノ園ひらり]
二枚目(西) フラダンス 派手を取(と)っちょい 太(ふと)か尻(しい) [今井夢紫]
三枚目(東) 太(ふ)て声ん 友達(どし)の寝言(ねごっ)で 寝(ね)やならじ [満留ぐみ]
三枚目(西) 野良(はい)昼飯(ちゅはん) 大(ふと)か握り飯(にぎめ)しゅ 重箱(じゅ)い詰(つ)めっ [原田菊男]
四枚目(東) 酔(よく)れ亭主(とと) 近所い恥(げん)ね 太(ふ)て地声 [日隈英坊]
四枚目(西) 太(ふ)て腕ん 割(わ)いな気力(あや)ん無(ね) 色男 [楠八重渓流]
五枚目(東) 小(こ)め炬燵(こた)ち 女房(かか)んなま太(ふ)て 足(ごて)が来(き)っ [畑山真竹]
五枚目(西) 収穫(といあ)げた 女房(かか)ん足(あ)し似た 太(ふ)て大根(でこん) [満吉満秀]
六枚目(東) 過疎ん里(さ)て 真(まこ)ち目出度(めでた)か 大(ふと)か腹 [伊地知 孝]
六枚目(西) 大(ふ)て乳房(ちち)い 赤児(あかご)あ息(いっ)が 出来(でけ)じ騒動(そど) [石野蟹篭]
七枚目(東) 土俵際(どひゅぎわ)で 太(ふ)て人(と)をぐりっ 投(な)げ飛(と)べっ [新地十意]
七枚目(西) 寝(ね)やならん 言(ちゅ)う割(わ)い女房(かか)ん 大(ふ)て鼾(いびっ) [福冨野人]
八枚目(東) 太(ふと)っちょが 好(す)っ言(ちゅ)で食放題(くほで)食(く)っ 糖尿病(とうにょ) [諸木小春]
八枚目(西) 大(ふ)て胸を せっぺ遊(あ)すじょい 聴診器 [上薗佳笑]
親方吟(東) 野太(のぶ)て声 コーラし邪魔ち 追出(うだ)されっ [石塚律子]
親方吟(西) 太(ふと)か首(く)び ひっぱしろそな ネックレス [吉岡道場]

第6回三條風雲児忌句会 兼題「狼狽(ばたぐ)ろ」 上薗佳笑選

嚏(くしゃ)むしっ ずれた鬘(かつら)い 狼狽(ばたぐ)ろっ [市来流星]
処女振(ぶ)って キスで狼狽(ばたぐ)ろ 真似をしっ [中村雲海]
パソコンの 乗(の)っ取(と)い手錠(てじょ)が 狼狽(ばたぐ)ろっ [上籠若菜]
突然(ひょかっ)来た ヤンキー孫い 狼狽(ばたぐ)ろっ [満吉満秀]
眞紀子節 また内閣が 狼狽(ばたぐ)ろっ [上別府印句]
代弁が 発覚(ばれ)っ呼(よ)っ出(だ)し 狼狽(ばたぐ)ろっ [今井夢紫]
軸吟 社長(しゃちょ)かあん 歳暮(せぼ)い狼狽(ばたぐ)ろ 平社員

第6回三條風雲児忌句会 兼題「告(ま)ぬい」 上山天洲選

馬鹿孫が臍繰(へそく)や此処ち女房(か)け告(ま)ねっ [工藤天然]
母親(おっかん)に告(ま)ぬっど言(ちゅ)たや諭吉(ゆき)つ出(で)っ [上薗佳笑]
告(ま)ぬっ奴(と)が多(う)けかでやいにき社宅しゃたっ住(ず)め [吉岡道場]
告(ま)ねごろが話(はな)しゅ倍ばいしっ触(ふ)れ回(まわ)っ [満留ぐみ]
妹(いもっ)奴(わろ)隠(か)きちょい雑誌ほんぬ母(か)け告(ま)ねっ [植村昭子]
ママママちひそひそ告(ま)ぬい可愛(むぞ)か知恵 [新地十意]
軸吟 内緒じゃち言(ゆ)えば喋(しゃべ)いがなお告(ま)ねっ

第6回三條風雲児忌句会 兼題「訳(わけ)」 中村雲海選

敷(し)かれちょい 訳あ沢山(そがら)し 持参金 [上籠若菜]
百点(ひゃってん)の訳は内緒ん カンニング [堂園三洋]
老爺(おんじょ)いな 訳あ分(わ)からん ネット社会(しゃば) [江口紫朗]
駄目(ぼっ)の見合(みえ) 訳は醜青年(ぶにせ)ち 言(ゆ)もならじ [新地十意]
十(じゅ)も二十(にじゅ)も 訳を並べた 離婚(わかれ)騒動(そど) [諸木小春]
親戚中(しんせっじゅ) 仏(ほとけ)い成(な)けた 休暇(やす)ん訳 [丸山満月]
軸吟 ひん孕(で)けっ 訳あどじゃろと 金(ぜん)工面

第114回南日本薩摩狂句大会 兼題「人目(ひとめ)」 堂園三洋選

特選 人目をば 引(ひ)こち谷間を 少(ち)す見(み)せっ [弓場正巳]
秀一 人目いな ヘルパち映(うつ)い 若(わ)け女房(おかた) [福冨野人]
秀二 校舎裏 人目を避(よ)けっ 初キッス [有川南北]
秀三 人目どま 痛(い)ても痒(か)ゆも無(ね) 熱(あ)ち二人(ふたい) [小瀬一峻]
秀四 多(う)け拍手 人目が集(たか)っ 最後尾(げっ)が来(き)っ [川畑光ちゃん]
秀五 オスプレイ 人目が多(う)かで 飛(と)っ難(に)き態(ふ) [上薗佳笑]
軸吟 混浴(こんよっ)の 人目い恥(げん)ね 骨と皮

第114回南日本薩摩狂句大会 兼題「心配(せわ)」 弓場正巳選

特選 放射能(ほうしゃの)ん 心配(せわ)じゃい仕事(しご)ち 命(いの)つ張(は)っ [米元年輪]
秀一 ウイルスの 心配(せわ)にや構(か)めなし 訪(こと)い鶴(つい) [上籠若菜]
秀二 政権の 目玉ち女史の 口(くっ)が心配(せわ) [石塚律子]
秀三 三億い 当たれば気絶(きぜ)つ すっち心配(せわ) [堂園三洋]
秀四 有(あ)い過(す)ぎっ 見張(みは)いかて心配(せわ) 箪笥金(たんすぜん) [石塚律子]
秀五 心配(せわ)を焼(え)っ 女房(かか)も付(ち)っ来た 再検査 [上別府印句]
軸吟 手術(きっ)ち決(き)め 承諾印(しょうだくばん)ぬ 押(え)たが心配(せわ)

第114回南日本薩摩狂句大会 兼題「包(つつ)ん」 有川南北選

特選 旗を持(も)っ 愛情(ぼんの)で包(つつ)ん 通学路(つうがっろ) [小瀬一峻]
秀一 朝帰(あさもど)い 懐(つく)れな嘘を 包(つつ)ん込(く)っ [上山天洲]
秀二 結婚(といえ)当初(はな) 弁当(べんと)包(つつ)みも 愛情(じょ)を籠(こ)めっ [満留ぐみ]
秀三 熨斗袋(のしぶく)れ 空気を包(つつ)だ 呆(ぼ)やし奴(わろ) [堂園三洋]
秀四 韮(にら)ん葉ち 気持(きも)つ包(つつ)くだ 少(ちん)け熨斗 [有馬湧声]
秀五 娘盛(おござか)ゆ 包(つつ)んブラジャい なろごちゃっ [中村雲海]
軸吟 貰(も)ろた丈(ひこ) 包めば良(え)言(つ)た 香典袋(ひでぶくろ)

第114回南日本薩摩狂句大会 兼題「歯痒(はが)い」 中村雲海選

特選 もう余生(さっ)が 無(な)かとに歯痒(はが)い 拉致家族(かぞっ) [有川南北]
秀一 抱(だ)っ癖が 付(つ)っち抱(だ)かせん 歯痒(はが)い嫁 [入来創雲]
秀二 塵置場(ごんおっば) 歯痒(はが)いか私宅(うっ)の 前(ま)へ出来(でけ)っ [米元年輪]
秀三 急(いそ)っ日い 限(かぎ)っ歯痒(はが)いか パて嵌(うた)っ [上薗佳笑]
秀四 十分(じゅっぷん)の 正座(せい)ぜ狼狽(ばたぐ)る 歯痒(はが)い足(ごて) [諸木小春]
秀五 歯痒(はが)いこっ 俺(おい)が誕生日(たんじょ)びゃ 祝(ゆえ)も無(の)し [工藤天然]
軸吟 よいなこっ 孕(で)けっ歯痒(はが)いか 酷(ひ)で悪阻(つわい)

その他の秀句 (順不同)

何(なん)言(ちゅ)てん 金(ぜん)が一番(いっばん) 言(ゆ)こつ聞(き)っ [吉岡道場]
挨拶(えさ)ちゃ 大概(てげ)爺家(じげ)へ来た用事(ゆ)じゃ ぽち袋 [今井夢紫]
もう逝(い)たろ 思(と)もでち出(だ)さん 年賀状 [前田あやめ]
晩酌(だいやめ)ん 膝を奪合(ばこ)ちょい 猫と孫 [石野蟹篭]
短躯(じっくい)が 吊った注連縄(いぎれ)あ 首(く)び掛(か)かっ [中村雲海]
手袋ん 糸を引(ひ)っ出(で)た 皸(あっがれ)手(で) [上田 格]
女客(おなごきゃ)き 女房(かか)はちょいちょい 顔(つら)を出(で)っ [大田麦秋]
三日目も まだ飯(め)す炊(た)かん 膨れ顔(づら) [山元自在鉤]
肥満(だんべ)女房(かか) 綱引(つなひ)っ向(む)っち 名が挙(あ)がっ [下栗志乃]
稽古(けこ)んごちゃ いっめ狼狽(ばたぐ)ろ 地震(なえ)津波(つなん) [植村昭子]
亭主(て)し告(ま)ぬい 妻(おかた)が社宅(しゃた)く 揺(ゆ)い壊(く)えっ [上籠若菜]
女房(か)け言訳(ゆわけ) 稽古(けこ)をしてかい 戸を開(あ)けっ [花園ちづ]
訳も無(ね)て 泣(な)こごたい日もあい 独居(ひとい) [石野蟹篭]
人前じゃ 虐待(ぎゃくた)ゆ隠(か)きた 子い涙(なんだ) [上籠若菜]