おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第686号

雑吟     永徳天真選

一番槍 バスツアー 妻(かか)が隣(つ)ぎ居(お)っ 伸(の)ばん羽 [楠八重渓流]
二番槍 終(お)わいの無(ね) 炊事(まか)ねメニューも 底を突(ち)っ [石塚律子]
三番槍 おいこらち 此(こ)ん頃(ご)ら婆(ばば)が 下知(げ)つ吐(か)えっ [伊地知 孝]
四番槍 金(ぜん)強要(せび)い メールじゃ済(す)まじ 手紙(てが)みしっ [植村昭子]
五番槍 近(ち)け米寿 神(かん)に感謝ん 御礼(ごれ)を言(ゆ)っ [井手上政暎]
六番槍 大声(うごえ)をば 上(あ)げにゃ動(うご)かん 苦情係(くじょがかい) [米元年輪]
七番槍 丸(まっ)で無駄(すだ) 栗(くい)どま他人(ひと)が 拾(ふ)るた後(あと) [入来義徳]

渋柿集

中村雲海 噴出(ふっで)汗 日本(にほん)手拭(てのげ)じゃ 拭(ぬ)ぐうせじ
人よっか 一歩前なきゃ 愚痴(ぐぜ)い奴(わろ)
反応が 早(は)え奴(と)い限(かぎ)っ 多(う)け失敗(ちょんぼ)
節電に 蚊帳をば吊った 事(こ)つ思(おも)っ
納得(なっと)くば 行(い)かす思(と)もえば 相当(じょじょ)ん要(い)っ
有川南北 口(くっ)の悪(わ)り 大臣どんの 短(みし)け首(くっ)
真っ赤(け)唇(すば) 明太子をば 挟(はす)だよな
字は見事(う)めが 中味(なか)が淋(とぜ)んね 熨斗袋
一張羅(いっちゃびら) 祝(ゆえ)も弔(とむれ)も 常時(じょじ)同(おな)し
総入歯(がんぶ)ゆば 外(と)れば気力(あや)ん無(ね) 老人顔(おんじょづら)
弓場正己 下手な字も ケータイよっか 情(じょ)が通(かよ)っ
押入れい 明治を残(の)けっ 婆(ば)は逝(い)たっ
家(やど)ん女房(かか) 賞味が切(き)れっ 尚(なお)元気
亭主(てし)の目は 女子フィギュアせえ 皿(さ)れけなっ
気も重(お)びが 箸(てもと)ずい重(お)び 更年期
堂園三洋 新(に)け包丁(ほちょ)で 女房(かか)が構えた 夫婦(みと)喧嘩(げんか)
初心者じゃ 無(な)か飲(の)ん振(ぶ)いの 二十歳(はたっ)青年(にせ)
総入歯(がんぶ)ゆば 何処(どっ)か忘(わす)れっ 凄(わ)ぜ不自由(せんぽ)
ラーメンの 三分待(ま)てじ 半端煮(に)え
稀(まれ)けんな 亭主(て)し負(ま)けっやい 夫婦(みと)喧嘩(げんか)
永徳天真 薄(う)し頭(びん)て 呉(く)れっやろそな 伸(の)びい髭
寄添(なんかか)っ 耳(みん)に囁(ささや)っ 甘え上手(じょし)
キスをせち 絡(から)ん厄介(やっけ)な 女虎(おなごとら)
実(みの)や無(な)か 見合(みえ)い良加減(えかげん) 疲(だ)れがきっ
女将(ママ)と飲(の)ん 貸し切(き)いじゃった 台風(うかぜ)前
樋口一風 眠(ね)び議員 書類で欠伸(あく)び 蓋をしっ
もへ止(や)んだ 雨い歯痒(はが)いか 相合傘(あいえがさ)
仕方なし 相槌(えは)あ打(う)っどん 内心(ねす)あ別(べっ)
プロ並(な)んち 煽(おだ)てっ亭主(とと)い 料理(じゅ)よさせっ
喜寿なんだ 敬老会の 使(つ)け走(ばし)い

山椒集 題「布団(ふとん)」     有川南北選

安(や)し布団 羽毛(うも)どま四隅(よす)み 団子(だ)げけなっ [有馬純秋]
座布団が 悲鳴(ひめ)ゆあぐそな 尻(し)ゆ据(す)えっ [上山天洲]
布団ぬば 離(は)ねて敷(し)っ出(で)た 倦怠期 [吉岡道場]
五客一席 座布団が 飛(つ)だ金星に 場所が沸(うぇ)っ [諸木小春]
五客二席 干(へ)て出(で)たや 俄雨(さだ)ち布団な 煎餅(せん)べなっ [弓場正巳]
五客三席 赤(あ)け布団(ふと)み 透(す)けネグリジェが 滑(すべ)い込(く)っ [楠八重渓流]
五客四席 布団どま 蹴(け)い剥(へ)っ孫あ 風邪を引(ひ)っ [入来義徳]
五客五席 法事座(ねんきざ)で 厚(あ)ち座布団に 坊主(ぼ)さ転(ころ)っ [平松鉄夫]
選者吟 夏布団(なっぶと)み 蟇(がま)が這(ほ)たよな 寝相(ねぞ)ん女房(かか) [有川南北]

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

涼(すず)しゅない 頃(こ)れお遍路ち 首相(しゅしょ)ん肚(はら) [弓場正巳]
頭越(びんたご)し 馬毛島(まげし)め立てた 白羽ん矢 [津留見一徹]
節電が 萌(も)やしの身体(ごて)を 凄(わ)ぜ捏(こ)ねっ [上薗佳笑]
四天王一席 滑走路(かっそう)れ 見(み)ゆい馬毛島(まげし)め 歯痒(はが)いこっ [埀野剣付鶏]
四天王二席 藪雀(やぼすずめ) 無視して頑張(きば)れ 菅総理 [盛満椒平]
四天王三席 野党(やと)いなっ 金欠(きんけ)ち心配(せわ)な 自民党 [満留ぐみ]
四天王四席 無料(ただ)が終(す)ん また遠(と)おなった 里帰(さともど)い [吉岡道場]
選者吟 早々(はやばや)っ 梅雨(ながし)が明(あ)けっ 長(な)げ真夏(うなっ) [堂園三洋]

郷句相撲 題「部屋(へや)」

横綱(東) 一人(ひとい)部屋 自動ロックい 飛(と)んびゃがっ [畑山真竹]
横綱(西) 南向(みなんむ)き 部屋を宛(あて)ごた 親孝行(おやこうこ) [福原福多]
大関(東) 安(や)しツアー 大部屋(うべや)で雑魚寝 大(ふ)て鼾(いびっ) [盛満椒平]
大関(西) 部屋いっぺ 広(ひろ)げっ騒動(そど)な 嫁支度(よめじたっ) [吉岡道場]
関脇(東) 俄客(にわかきゃ)き おもちゃ蹴(け)い蹴(け)い 部屋(へ)へ通(と)えっ [入来創雲]
関脇(西) 旅帰(たっもど)い 足(あ)すば投げ出(で)た 四畳半 [弓場正巳]
小結(東) 日当(ひあた)よば 言(ゆ)えば高価(た)けどち 部屋探し [西 幸子]
小結(西) 国技じゃが 現代(いま)は国際 相撲部屋 [花園ちづ]
筆頭(東) 雨続(あめつづ)き 部屋(へ)へな取(と)い取(ど)い 妙(す)だ茸きのこ [石塚律子]
筆頭(西) 子供(こどん)部屋 色気付(ぢ)たとか 鍵(か)ぐかけっ [中間紫麓]
二枚目(東) 女摸合(おなごもえ) 味噌漉(みそこし)部屋い 亭主(て)しゃ寝(ね)せっ [新地十意]
二枚目(西) 勉強(べんきょ)部屋(べ)へ 面会謝絶(しゃぜ)つ 貼(は)っちょい娘(こ) [米元年輪]
三枚目(東) 用事(ゆ)じゃ全部(ずるっ) 動(いご)かじ届(とど)っ 隠居部屋 [諸木小春]
三枚目(西) 子ん巣立(すだ)ちょ 待(ま)たな自分(わ)が部屋 持(も)たん父親(とと) [萬福平次]
四枚目(東) 子が巣立(すだ)っ 物置(ものお)きなった 子供(こどん)部屋 [佐伯山神]
四枚目(西) 御機嫌(ごっ)の悪(わ)り 長男(すよ)い部屋ずい 飯(め)しょ運(はこ)っ [今井夢紫]
五枚目(東) 避難所ん ダンボール部屋(べ)へ 家族(けね)で寝(ね)っ [植村昭子]
五枚目(西) 部屋間違(まっ)げ 隣室(つっ)の奥方(おかた)を 叫(おら)ばせっ [楠八重渓流]
六枚目(東) 部屋(へ)へ這込(へく)だ 蚊よっか婆(ばば)が やぞろしゅし [伊地知 孝]
六枚目(西) 隣(つっ)の部屋(へ)へ 気兼ねをしいし 夫婦(みと)喧嘩(げんか) [福冨野人]
七枚目(東) クラス会 部屋(へ)へ戻(もど)っかい わぜ弾(はず)ん [満留ぐみ]
七枚目(西) 部屋が無(ね)で すい気がせんち 勉強(べんきょ)嫌(ぎ)れ [中囿和風]
八枚目(東) 部屋いっぺ 着物(いしょ)を広げた 見合(みえ)ん朝 [北村虎王]
八枚目(西) 旅(たっ)の宿 鼾(いびっ)が心配(せわ)で 部屋選(えら)っ [上瀬明星]
親方吟(東) 迷(まぐ)るそな 部屋がどっさい 玉ん輿 [西ノ園ひらり]
親方吟(西) 結婚(といえ)当初(はな) ピンクん部屋で 甘(あ)め空気 [樋口一風]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「くろぢょか」より抜粋)

米倉東天紅 のんき亭主(とと) ストどま知(し)たじ バスを待(ま)っ
子分限者(こぶげんしゃ) 今じゃ運(ふ)の良(よ)か 老夫婦(おんじょみと)
盆踊(ぼんおど)い 孫も浴衣で 良(よ)か手振(てぶ)い
米澤 律 ざまな亭主(とと) わが事(こ)ちゃ棚い 子供(こど)む叱(が)っ
女房(うっかた)ん 姉さんかぶい 惚れ直(な)えっ
貰(も)ろ物(もん)な どしこ多(う)かろが 荷いならじ
渡辺ハルエ 鯉幟(こいのぼ)や 昼寝(ひんね)ん女房(かか)ん 寝相(ねぞ)も見(み)っ
子も居(お)って 嫁ん名を言(ゆ)っ 目を落(お)てっ
呆(とぼ)けがち 女房(かか)を叱(く)るどん 似合(によ)た蓋
迫 藤子 返事(へ)ず書(か)けち 切手も貼って 送(おく)っやっ
二次会にゃ け迷(まぐ)れた態(ふ)で 二人(ふたい)なっ
退職(やめ)たなあ 豆腐(おかべ)買(け)も行(い)っ 元校長(もとこうちょ)
三條風雲児 大(ふ)て乳房(ちち)あ 直(いっ)き弦(つる)から 弾(はじ)かれっ
児(こ)が幼(こ)めで 後妻(あと)を貰(も)ろどち 位牌(い)へ相談(そだん)
晩酌(だいやめ)も たっちき酔(よ)くろ 田植え疲(だ)れ
歳暮(せぼ)吟味 てげな交際(つっけ)は 叩(たた)っ切(き)っ

第32回都城大会 兼題「行儀(いずらめ)」 樋口一風選

親子しっ 似た行儀(いずらめ)で テレビ観(み)い [香寿子]
行儀(いずらめ)も 気いせじ気楽(きだ)き 湯治(とっ)の宿 [満留ぐみ]
行儀(いずらめ)が 玄関(ふんご)み踊(おど)い 運動靴(うんどぐっ) [諸木小春]
転婆(いなば)娘(おご) 見合(みえ)ん行儀(いずら)め 肩が凝(こ)っ [上山天洲]
行儀(いずらめ)を 仕付(しつ)けっ乗せた 玉の輿 [澤津乙名]
選者吟 向(む)け座(すわ)っ ミニん行儀(いずら)め 血が上(のぼ)っ [樋口一風]

第32回都城大会 兼題「遠(と)え」 石塚律子選

被災地にゃ 遠(と)えが心は 通(かよ)わせっ [吉岡道場]
遠(と)え話 どしこ塗(ぬ)ってん きし生(お)えじ [中村雲海]
歯痒(はが)いこっ 国民(たみ)とな遠(とわ)か 永田町 [上薗佳笑]
さくら号 遠(と)え大阪を 引(ひ)っ寄(よ)せっ [堂園三洋]
遠(と)え国(くん)に 嫁(い)こち言(ゆ)でけた 娘(こ)い狼狽(びび)っ [諸木小春]
選者吟 粘(ねば)い腰(ご)し 復興(ふっこ)ん道(みっ)が 遠(と)おしなっ [石塚律子]

その他の秀句 (順不同)

年金ぬ貰(も)ろ始(で)た女房(かか)が 下知(げ)つ仕出(しで)っ [吉岡道場]
痩せちょれば 泣(な)っかぶろそな 腹踊(はらおど)い [諸木小春]
各人(めんめん)が ケータゆ握(にぎ)っ 無(な)か会話 [福原福多]
ラフと池 砂が無(な)かやち 呆(ぼ)えゴルフ [中囿和風]
共稼(ともかせ)っ 手抜(てぬ)っの料理(じゅい)も 黙(だま)っ食(く)っ [山路野菊]
あぐっちぇた 口(く)ち質問ぬすい 歯医者 [津留見一徹]
倦怠期 自己面々に 床を敷(し)っ [樋口一風]
熱帯夜 干(ほ)せた布団ぬ 叱(が)い付(ち)けっ [津留見一徹]
布団干し 丸洗(まるあ)れいした 俄雨(さだっ)奴(わろ) [市来流星]
首相職(しょ)く 冷温停止 すとなせじ [有馬純秋]
形見(かたん)分け 気の弱(よ)え女房(かか)も 帯(お)ぶ引張(そび)っ [諸木小春]
家(え)も人も 津波(つなん)が全部(ずるっ) 海(うん)に引(ひ)っ [植村昭子]
若(わ)け美人(シャン)に 客引(きゃっひ)くさせっ 中は婆(ばば) [谷口雲城]
引算(ひっざん)が 苦手な孫い 指(ゆ)ぶ貸(か)せっ [鳥丸幸春]
痒(か)い背中 柱(はした)で掻(け)ちょい 独身者(ひといもん) [中間紫麓]
杖(つ)へなっち 口説(く)でた亭主(とのじょ)が 先(さ)き萎(な)えっ [楠八重渓流]
育児どま手荒(てあ)ろなっ来(く)い三人目 [工藤天然]
相合傘(あいえがさ) 雨が止(や)んだて まだ差(せ)ちょっ [木佐貫白猫]
孫見(み)いけ 七浦(ななうら)越(こ)えっ 老夫婦(おんじょみと) [樋口一風]