おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第672号

雑吟     永徳天真選

一番槍 豆腐(おかべ)好(す)っ 一丁(いっちょ)食(く)てかあ 買(こ)っ帰(もど)っ [入来創雲]
二番槍 桜島(しま)ん灰(へ)を 避(よ)けっおじゃんせ 御精霊様(おしょろさあ) [久永桂心]
三番槍 穏(な)ち嫁も 姑(ば)の当て擦(こす)い 向(む)こでけっ [松元清流]
四番槍 誰(だ)ゆ想(お)もか 女房(かか)が彦星(ひこぼ)す 長(さ)す仰(お)ねっ [工藤天然]
五番槍 掴(つか)ん取(ど)い グローブん様(よ)な 手を連(つ)れっ [前村泰山]
六番槍 選挙言(ちゅ)て 叫(おら)っけも来(こ)ん 過疎地(かそ)ちなっ [佐伯山神]
七番槍 萎(な)ゆいなら そん口(くっ)からち 爺(じ)が吐(か)えっ [中囿和風]

渋柿集

栫 路人 猪口(ちょ)く干せば 直(いっ)き注(ち)ごすい 下戸が酌(しゃっ)
知恵袋 底を突(つ)っじょい 俺(おい)が脳
沖縄(おきな)いも まだ行(い)ちゃみらん 旅(たっ)音痴
威張(いば)らせっ おけば何(ない)でん すい殿方(とのじょ)
相談(そだん)すも 見抜(みぬ)かれちょいか 乗(の)っちゃ来(こ)じ
有川南北 稼(かせ)っ時(ど)き 厄介(やっけ)な牛(べぶ)ん 病(びょ)が流行(はや)っ
折角(せっかっ)の 連休(やす)み日向(ひゅう)げな 尻(し)ゆ向(む)けっ
五月晴(さつっば)れ 灰(へ)の降(ふ)らん日の 揚(あ)げ雲雀(ひばい)
家族(けね)行楽(でばい) 高速(こうそっ)ずいが 遠(と)え鹿屋
左利(ぎっちょ)どん 流し素麺(そめん)の 逆(さか)こさっ
弓場正己 免状(めんじょ)をば 沢山(ずばっ)取(と)ったが 役(や)き立(た)たじ
二度勤め 印鑑(はん)な小振(こぶ)ゆば 隅(すん)に押(え)っ
児童(こ)い人気 無(な)か先生が 出世しっ
植毛じゃ 育毛じゃ言(ちゅ)て 金(ぜん)が要(い)っ
退職(やめ)たなあ 三食(さんしょ)き女房(かか)ん 小言(ぐぜ)が付(ち)っ
堂園三洋 バイキング 碌(ど)き息(いっ)もせじ 腹(は)れ詰(つ)めっ
痩せ奴(ご)れな 反応が鈍(に)び 自動ドア
オアシスち 此処んこっじゃろ 赤提灯(あかぢょちん)
足湯でん 美人(シャン)と混浴(こんよ)か 嬉(うれ)しゅなっ
空腹(すっばら)で スーパい行けば 余計(じんじ)買(こ)っ
永徳天真 敷(し)かれ亭主(てし )飲(の)んけ行(い)っとも 許可が要(い)っ
女将(ママ)ん酌(しゃ)き 家(うっ)でな見せん 良(よ)か笑顔
晩酌(だいやめ)ん 相手(えて)じゃ上(あ)がれち 夕方(よのいもて)
ち酔(よ)くろっ あいたけねたけ 今日(きゅ)も自慢(おぎら)
間中(あいなか)ん 値で収(おさ)まった 土地(じだ)売買(ういけ)

山椒集 題「袖(そで)」     有川南北選

呆(ぼ)え手品 袖かあハトが 顔(つら)を出(で)っ [石塚律子]
発表会(はっぴょかい) 袖かあ師匠(ししょ)ん 眼が光(ひか)っ [吉岡道場]
人気知事 新党(しんと)い袖を 素引(そび)かれっ [桑元行水]
五客一席 長袖を 捲(まく)っ構えた 茶炒(い)い婆(ばば) [樋之口墨矢]
五客二席 形見分(かたんわ)け 袖を通(とお)さん 着物(いしょ)い泣(ね)っ [山田竜生]
五客三席 片袖を 入れかた走(はし)い 朝寝坊(あさねごろ) [吉丸セツ子]
五客四席 箸戦(なんこ)上手(じょし) 半分(なから)袖口(そでぐ)ち 入込(へこ)ませっ [北村虎王]
五客五席 鼻汁(はなみっ)で 袖口(そでぐ)ちゃ光(ひか)い 腕白坊(きかんたろ) [入来創雲]
選者吟 袖下が 効(き)たか昨日(きぬ)とな 嘘んごっ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

宇宙(そら)かいな 紛争(いさけ)も見(み)えじ 見事(みご)て言(ちゅ)っ [吉岡道場]
温和(な)ち島も 反旗で抵抗(む)こた 基地移設(いせっ) [畑山真竹]
小(こ)め党が 筍(たけんこ)んごっ 競(せ)ろっ出(で)っ [入来創雲]
四天王一席 逃げ得(ど)くば 時効廃止で 食(く)い止(と)めっ [中村雲海]
四天王二席 幼児(こ)が可哀相(ぐら)し 多(う)け虐待の 歯痒(はが)い娑婆 [花園ちづ]
四天王三席 議場(ぎじょ)なんだ 蹴って市長殿(しちょどん) マイペース [上山天洲]
四天王四席 竹細工(たけぜっ)の 一本道(いっぽんみっ)で 貰(も)ろ褒章(ほうしょ) [楠八重渓流]
選者吟 平川ん 龍馬も見てち カバが待(ま)っ

郷句相撲 題「揶揄(ちょく)っ」

横綱(東) 釣(つ)れはせじ 俺(お)ゆ揶揄(ちょく)らけっ 跳(は)ぬいボラ [郷田悠々]
横綱(西) 草むらん デートを間(ま)なし 蚊が揶揄(ちょく)っ [萬福平次]
大関(東) 揶揄(ちょく)いなあ 揶揄(ちょく)れハイハイ 俺(お)や鬘(かつら) [石塚律子]
大関(西) 夫婦(みと)喧嘩 行司(ぎょ)しゃ要(い)らんかち 子が揶揄(ちょく)っ [入来義徳]
関脇(東) 天気予報(よほ) 気紛(きまぐ)れ梅雨(なが)し 揶揄(ちょく)られっ [新地十意]
関脇(西) 揶揄(ちょく)ったや 青筋(あおす)ず立(た)てっ 向(む)こっ来(き)っ [弓場正巳]
小結(東) 若(わ)け娘(こ)をば 揶揄(ちょく)っ花見(はなん)の 肴(しお)けしっ [松元清流]
小結(西) 強(つ)え風が 守備をば揶揄(ちょく)い 高(た)けフライ [米元年輪]
筆頭(東) アデランス 強風(きょうふ)注意ち 揶揄(ちょく)られっ [山元自在鉤]
筆頭(西) 好(す)っな娘(て)な 故意(わざ)き悪口(あっご)を 言(ゆ)て揶揄(ちょく)っ [吉岡道場]
二枚目(東) 老夫婦(おんじょみと) 猫どん揶揄(ちょく)っ 日を経(た)てっ [山田竜生]
二枚目(西) 新婚当初(といえはな) 欠伸(あく)びょしたなあ 揶揄(ちょく)られっ [萬福平次]
三枚目(東) 勧誘を 鹿児島弁(かごっまべん)で 爺(じ)は揶揄(ちょく)っ [佐伯山神]
三枚目(西) 早熟(ませ)た子い 女(おなご)先生(せんせ)や 揶揄(ちょく)られっ [井手上政暎]
四枚目(東) 可愛(む)ぜ案山子(おどし) 雀が寄集(たか)っ 揶揄(ちょく)られっ [盛満椒平]
四枚目(西) 短躯(じっくい)ち 揶揄(ちょく)い黒帯(くろお)ぶ 背負い投げ [中間紫麓]
五枚目(東) 梅干(うめ)を干(へ)た 婆(ば)を揶揄(ちょく)っちょい 俄雨(にわかあめ) [樋渡草団子]
五枚目(西) 揶揄(ちょく)ったや セクハラじゃっち 凄(わ)ざい騒動(そど) [楠八重渓流]
六枚目(東) 美人(びじん)女医(じょ)い 脈(みゃっ)が速(はや)かち 揶揄(ちょく)られっ [有馬純秋]
六枚目(西) 仕出(しで)た妻(かか) 衣装(いしょ)あ見事(みごて)ち 揶揄(ちょく)られっ [折田さくら]
七枚目(東) 可愛(む)ぜ娘(こ)をば 揶揄(ちょく)れば女房(かか)が ヒスを出(で)っ [澤津乙名]
七枚目(西) 惚れたくせ 義理(ぎい)で貰(も)ろたち 揶揄(ちょく)い亭主(とと) [田中末木]
八枚目(東) 揶揄(ちょく)ったや セクハラじゃっち 課長(かちょ)い言(ゆ)っ [伊地知 孝]
八枚目(西) 汝(わい)が女房(かか) 後(バック)美人(シャン)じゃち 揶揄(ちょく)られっ [前村泰山]
親方吟(東) 力作(りきさっ)の 案山子(おど)すば揶揄(ちょく)っ 遊(あす)っ鳥(とい) [諸木小春]
親方吟(西) 沖縄を 真顔で揶揄(ちょく)い くずれ首相(しゅしょ) [津留見一徹]

第109回南日本薩摩狂句大会 兼題「玄関(ふんごん)」 吉岡道場選

特選 玄関(ふんごん)の 三(み)つ指(ゆ)ば亭主(とと)を 殿いしっ [上籠若菜]
秀一 玄関(ふんごん)に 着(ち)たや鬘(かつら)を スパッ取(と)っ [中村雲海]
秀二 息(い)く止(と)めっ 玄関(ふんご)む開(あ)くい 午前様(ごぜんさあ) [神薗善多]
秀三 二三歩で 宅(やど)ん玄関(ふんご)ま 裏(う)れ抜(ぬ)けっ [有川南北]
秀四 玄関(ふんごん)に 早(は)よ鍵(か)ぐ掛(か)くい 結婚(といえ)当初(はな) [大西学老]
秀五 玄関(ふんごん)で また来(け)ち孫い 握(にぎ)らせっ [上別府印句]
軸吟 玄関(ふんごん)が 見事(みご)つ化(ば)けちょい 家庭訪問日(ほうもんび)

第109回南日本薩摩狂句大会 兼題「眼鏡(めがね)」 新地十意選

特選 白無垢い 父(とと)は眼鏡を 拭(ふ)っ通(ど)えっ [栫 路人]
秀一 色眼鏡 掛けた捜査が 冤罪(つ)む作(つく)っ [津留見一徹]
秀二 眼鏡越(ご)し 質屋ん主人(ある)じゃ 客(きゃ)く窺(さぐ)っ [江口紫朗]
秀三 厳(いみ)し顔(つ)れ 厳(いみ)し眼鏡が 輪をかけっ [小瀬一峻]
秀四 本人な 似合(にお)ち思(おも)ちょい 伊達眼鏡 [市来流星]
秀五 裕次郎(ゆうじろ)にゃ 程遠(ほどと)え亭主(とと)ん サングラス [上籠若菜]
軸吟 似顔絵ん 眼鏡で犯人(ほし)が 浮(う)っ上(きゃ)がっ

第109回南日本薩摩狂句大会 兼題「気力(あや)」 楠八重渓流選

特選 夫婦(みと)喧嘩 気力(あや)が有(あ)い過(す)ぎ 障子(しょ)ず壊(く)えっ [大西学老]
秀一 褒め上(あ)げっ 気力(あや)ん無(ね)亭主(とと)い 効(き)けたキス [稲田切株]
秀二 歯痒(はが)いど ん妻(かか)せえ刃向(はむ)こ 気力(あや)あ無(の)し [樋口一風]
秀三 気力(あや)ん無(な)か 女房(か)け飲(の)ませたや 大酔漢(と)れなっ [福冨野人]
秀四 貧乏(びんぶ)世帯(しょて 夫婦(みと)喧嘩すい 気力(あや)も無(の)し [小平田一清]
秀五 幹事長(かんじちょ)い 盾突(たてつ)っ気力(あや)あ 無(な)か総理 [上籠若菜]
軸吟 八十坂(はっじゅざか) まだ爺(じ)の気力(あや)あ 切(き)れちょらじ

第109回南日本薩摩狂句大会 兼題「直(たっち)き」 永徳天真選

特選 基地(き)ちゃ要(い)らん 島が直(たっち)き 立(た)っ上(ちゃ)がっ [上籠若菜]
秀一 産声い 直(たっち)き手足(てあ)す 確(たし)かめっ [吉岡道場]
秀二 飛来(き)た燕(つば)め 直(たっち)き納屋ん 戸を開(あ)けっ [中村雲海]
秀三 眠(ね)せもせじ 直(たっち)き済(す)んだ 安(や)し理髪(りはっ) [工藤天然]
秀四 早鐘が 直(たっち)き集(よ)れち 村ん火事(くゎし) [稲田切株]
秀五 俄客(にわかきゃ)き 直(たっち)き残(のこ)ゆ 盛(も)い直(な)えっ [仮屋一発]
軸吟 議(ぎ)を言(ゆ)たや 直(たっち)き落(お)てた 大雷(うがんなれ)

その他の秀句 (順不同)

東京ち 言(ゆ)てんキャンパしゃ 山奥(やまおっく) [有馬純秋]
一合(いっご)どま 焼酎(そちゅ)も良(よ)かなち 医者(い)しぇ頼(たの)ん [樋口一風]
絵日記い つづくち書(け)ちゃい 夫婦喧嘩(みとげんか) [津留見一徹]
虎刈(きしねこ)い 三日(みっか)我慢(きば)れち 女房床屋(かかどこや) [諸木小春]
休肝日 運(ふ)の良(よ)かこちな 友達(どし)が訪(き)っ [福山吉連]
ひと急須(ちょか)あ 直(いっ)き空(か)れない 語(かた)い好(ず)っ [吉岡道場]
見知(みし)たんぬ してん可愛(む)ぜがち 孫を抱(で)っ [畑山真竹]
少子化で 家来がおらん 餓鬼大将(がきだいしょ) [中間紫麓]
一年生(いっねんぼ) 慣れた思(と)もえば 夏休(なっやす)ん [石原ミエ子]
似合(にお)わんち 言(ゆ)かて袖どん 通(と)えっみっ [田中末木]
手探(てさぐ)いで 妻(かか)ち思(おも)たや 子が叫(おら)っ [楠八重渓流]
手探(てさぐ)いで そろいとけ寝(ね)い 午前様(ごぜんさあ) [伊地知 孝]
桜島(しま)ん灰(へ)が 洗濯日和(せんたっびよ)ゆ がん崩(く)えっ [吉岡道場]
子ん家(え)でな 大食(うぐ)れも二杯(にへ)で け済(す)ませっ [上山天洲]
柔(や)え手じゃち じっもね客(きゃっ)の 長(な)げ握手 [紅花]
昨夜(ゆべ)ん酔漢(とら) 今朝は青黄(あおき)ゆ 蟹(が)ね木槌(どんじ) [中囿和風]
同等(どっこい)の 頭(びんた)じゃったて 友達(ど)しゃ社長 [諸木小春]
遠慮(しんしゃっ)で 玄関(ふんご)み入(い)らじ 借金(かい)相談(そだん) [有馬湧声]
嫁(い)っかたも 早(は)えが直(たっち)き 離婚(もど)っ来(き)っ [下栗志乃]
飲めば酔漢(とら) 飲(の)まにゃ気力(あや)ん無(ね) 亭主(て)し返(もど)っ [原田菊男]