おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第660号

雑吟     永徳天真選

一番槍 のど自慢 予選で落(お)てっ ホッとしっ [二見愚楽満]
二番槍 一人(ひとい)住(ず)め 油虫(あまめ)が挨拶(えさ)ち 顔(つら)を出(で)っ [大西学老]
三番槍 初月給(はっげっきゅ) 貰(も)ろっ飲(の)ん焼酎(しょちゅ) 美味(うん)め事(こっ) [津曲とっこ]
四番槍 梅雨明けん ニュースが夏(なっ)の 扉(と)を開(あ)けっ [津留見一徹]
五番槍 温和(な)ち声で 喧嘩(いさけ)も無(な)かろ 美智子さあ [西 幸子]
六番槍 へぼ碁打(う)ちょ 雨が盤かあ 離(はな)しゃせじ [加治佐谷山犬]
七番槍 皺ん多(う)え アップ写真ぬ ひっ破(きゃ)ぶっ [諸木小春]

渋柿集

栫 路人 気が付(ち)たや 警察(けいさっ)じゃった 言(ちゅ)う飲(の)ん平(べ)
茶ん作法 習(な)るて使(つ)け道(み)ちゃ 無(な)かわが家(や)
彼処(あしこ)其処(そこ) 痛(い)てどん此処(ここ)ち 言(ゆ)がならじ
鏡(かが)む見(み)い 都度(たんび)親父(おやじ)い 似(に)っ来(き)出(で)っ
肌(は)で良(よ)かち 蜂蜜(はちみ)つやんき 付(つ)けちゃ飲(の)ん
有川南北 突拍子(とっけん)ね 市長(しちょ)で阿久根(あっね)は また選挙
爺(じ)も元気 はたれっ大(ふ)とか 嚏(くしゃ)むしっ
フェーズ5(ご)が 行楽(でば)ゆば日帰(ひげ)い ひんなけっ
ハワい行(い)っ つもいが薔薇見(み) 安(や)す変(か)わっ
見事(みご)て薔薇 一日(ひして)遊(あす)でん 五百円
弓場正己 異議なしの 声と同時(いっど)き 焼酎(しょちゅ)が出(で)っ
梅雨晴(ながしば)れ 満艦飾(まんかんしょっ)の ビルん窓
口諍(くっいさ)け 学歴(がくれっ)なんだ 役(や)き立(た)たじ
給付金 行(い)っ先(さ)か全部(ずるっ) 赤提灯(あかちょちん)
夫婦(みと)燕 軒先(のっさ)き夏(な)つば 連(つ)れっ来(き)っ
堂園三洋 子が巣立(すだ)っ 寂(とぜん)ね所帯(しょて)い ポチを飼(こ)っ
タイプじゃち 声を掛(か)けたや 人ん妻
疲(だ)れかぶっ 働き蜂(ばっ)が 帰(もど)っ来(き)っ
セールスが どしこ褒(ほ)めてん 金(マル)が無(の)し)
バーんママ 悩(なや)む涙(なんだ)で 聞(き)てくれっ
永徳天真 福耳(ふっみん)な 飾(かざ)いじゃんそか 火の車(くいま)
終(おわ)っずい じっ我慢(きば)っ聞(き)た 講習会(こうしゅかい)
口喧嘩(くっげんか) 呆(ぼ)え仲裁が 拗(こじ)らけっ
賢(かし)け犬(いん) 怖(びび)いち見れば なお吠(ほ)えっ
短(みし)けどん 情(じょ)の深(ふ)け便(たよ)い 気も和(なご)ん
植村聴診器 只貰(ただも)れで 後(あと)が恐(おと)ろし 給付金
不景気で 首切(くっき)い亭主(てし)と 日が長(な)ごし
嫁(き)た時(と)きな 無(な)かった 角(つの)が 大(ふ)つ生(お)えっ
紫外線 日に焼(や)っな言(ちゅ)う 海開(うんびら)っ
婆(ばば)は爺(じ)を 爺(じ)は婆(ばば)を呆(ぼ)け 言(ちゅ)て暮(く)れっ

山椒集 題「酢(す)」     有川南北選

盗焼酎(ぬすとじょちゅ) ぐつっ飲(や)ったや 米酢(こめず)じゃっ [福山吉連]
青高菜(あおたか)ね程良(ほどゆ)酢の効(き)た 鼻はじっ [原田菊男]
福山(ふっきゃま)ん 畑い生(お)えた 酢壺(あまんつぼ) [井手上政暎]
五客一席 俺(おい)が家(え)は だっきょ酢味噌で 夏(なっ)が来(き)っ [谷村まさゑ]
五客二席 酢がごいと 効(き)た美味(うん)め寿司(す)しゃ 婆(ば)の十八番(おはこ) [満留ぐみ]
五客三席 お目出度(めでた)か 多(う)え酢の物(もん)の 嫁い勘(かん) [諸木小春]
五客四席 何(ない)が酢で 痩(や)すかい美人(シャン)の コマーシャル [津留見一徹]
五客五席 黒酢なあ効(き)こち 毎朝(めいあさ) 秤(ちき)い乗(の)っ [西 幸子]
選者吟 酢の臭(にえ)い 糠蠅(ぬかべ)あ直(いっ)き 側(そ)べ纏付(めち)っ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

不況(ふきょ)を切(き)い 刀(かっ)ねなっとか 給付金 [上山天洲]
インフルで 豚が世界(せか)ゆば 震(ふ)るわせっ [石原ミエ子]
素人(しろうと)い 何(ない)が出来(でく)かい 人裁(ひとさば)っ [おんじょどい]
四天王一席 二世(にせ)三世(さんせ) 親んバッジが 胸(む)ね威張(いば)っ [瀬戸山刀青]
四天王二席 最低も 覚えあ無(な)かち 青年(にせ)ん酔漢(とら) [西 幸子]
四天王三席 招致戦 あの手この手ん おもてなし [石塚律子]
四天王四席 一騎打(いっきう)っ 僅たっ)たの五票(ごひゅ)で 勝負(しょっ)が付(ち)っ [楠八重渓流]
選者吟 三越(みつこ)しな あんまい行(い)かじ 済(す)まんこっ

郷句相撲 題「咳(せっ)」

横綱(東) 女房(かか)ん声(こ)へ 逡(びび)っ咳込(せっく)だ 盗焼酎(ぬしとじょちゅ) [諸木小春]
横綱(西) 口下手(くっべた)ん 祝辞が咳(せっ)で 間(ま)を繋(つ)ねっ [津留見一徹]
大関(東) 父(ちゃん)の咳(せっ) ビデオをいっき 切(き)い替(か)えっ [植村聴診器]
大関(西) 婆(ばば)同士(どし)の 喋(しゃべ)くゆ止(と)めた 爺(じ)ん大咳(うぜっ) [福原福多]
関脇(東) 咳込(せっこ)めば 義理(ぎい)で背中を 擦(さす)っ女房(かか) [有馬純秋]
関脇(西) 咳払(せっば)れで 貫禄(かんろ)きょ付けっ 挨拶(えさ)ち出っ [萬福平次]
小結(東) 医者ん咳(せ)き 診(み)て貰(も)ろかたも 心配(せわ)を焼(え)っ [満留ぐみ]
小結(西) 女房(かか)は咳(せっ) 亭主(とと)は台所(おすえ)で きいきい舞(め) [田中末木]
筆頭(東) アベックが 空咳(からぜ)くしてん 平然(しれっ)しっ [福山吉連]
筆頭(西) 合図じゃろ 咳で席(せ)く立(た)っ 恋人(なずん)同士(どし) [井手上政暎]
二枚目(東) 長電話(ながでん)うぇ 亭主(とと)は空咳(からぜ)く し通(ど)えちょっ [津留群志]
二枚目(西) 咳(せっ)ひとっ 両方(まんぼ)が睨(にら)ん 電車席(でんしゃせっ) [花園ちづ]
三枚目(東) もういいよ やっと隠れた とこい咳(せっ) [西ノ園ひらり]
三枚目(西) 厳(いみ)し姑(しゅと) 朝寝ん嫁い 咳(せ)く入(い)れっ [津曲とっこ]
四枚目(東) 診療(しんりょ)待(ま)っ 隣(つっ)の咳払(せっば)れ 息(い)く止(と)めっ [日隈英坊]
四枚目(西) 隣(つっ)の爺(じ)ん 咳(せっ)が煩(うぜら)し 長屋住(ず)め [米元年輪]
五枚目(東) 大(ふ)とか咳(せ)き 緩(ゆる)か総入歯(がんぶ)や ひっ飛出(つで)っ [樋之口墨矢]
五枚目(西) 山ん神(か)み 咳払(せっば)れしいし 茸(きのこ)取(と)い [中村雲海]
六枚目(東) 口下手(くっべた)が 挨拶(えさ)ちけ詰(つ)まっ 咳(せ)くしでっ [伊地知 孝]
六枚目(西) 郷中(ごじゅ)ん集会(よい )横(よん)ごん管巻(じじ)れ 飛(つ)だ大咳(うぜっ) [久永桂心]
七枚目(東) 空咳(からぜっ)で 体調(たいちょ)が悪(わ)りち 嘘電話 [北村虎王]
七枚目(西) 先生の 空咳(からぜ)き静(さず)ん 授業前 [西迫順風]
八枚目(東) 可愛(む)ぜ娘(こ)をば 咳払(せっば)れ親が 見張(みは)ゆしっ [久永時盛]
八枚目(西) 暗闇(くらすん)の デートを咳(せっ)が 冷(ひ)やかせっ [樋口一風]
親方吟(東) 咳(せ)くすれば 煙草が原因(もと)ち 決(き)めつけっ [吉岡道場]
親方吟(西) 飲酒(の)ん相談(そだん) 妻(かか)ん空咳(からぜ)き 用事(ゆ)ず作(つく)っ [入来創雲]

第107回南日本薩摩狂句大会 兼題「頑張(きば)っ」 楠八重渓流選

特選 ヒヒフーち 亭主(とのじょ)も一緒(ひと)ち 頑張(きば)っ産 [諸木小春]
秀一 五人どま 頑張(きば)いもんそち 嫁が来(き)っ [植村聴診器]
秀二 まだ百歳(ひゃっ)じゃ ギネす狙(ね)ろどち 農作(さ)き頑張(きば)っ [佐土原 隆]
秀三 頑張(きば)っどち 口(くっ)ばっかいの 草野球 [福留良栞]
秀四 恋の為(た)め 今度(こん)だ頑張(きば)った ダイエット [永徳天真]
秀五 我(わ)が店を 持(も)と言(ちゅ)て屋台(やて)を 引(ひ)て頑張(きば)っ [津曲とっこ]
軸吟 何(なん)言(つ)てん 妻(かか)が頑張(きば)った 我家(やど)ん所帯(しょて) [楠八重渓流]

第107回南日本薩摩狂句大会 兼題「太鼓(てこ)」 郷田悠々選

特選 片肌ん 晒(さらし)が眩(まぶ)し 娘(おごじょ)太鼓(でこ) [諸木小春]
秀一 娘(おごじょ)太鼓(でこ) 楽(たの)しみ来(き)たや 全員(ずるっ)婆(ばば) [津留見一徹]
秀二 大(ふ)て太鼓(てこ)を 反(そ)ね張(ば)っ叩(た)たっ 鼓笛隊 [堂園三洋]
秀三 死(し)ん限(かぎ)い 大太鼓(うでこ)を叩(ど)えた 甲子園 [堂園三洋]
秀四 練習(なれ)始(はっ)め 戸板も壁も 太鼓(てこ)いしっ [楠八重渓流]
秀五 ドラマーが け死(し)んめ叩(た)たっ 西洋(せいよ)太鼓(でこ) [上籠若菜]
軸吟 ハンヤ節(ぶ)す リズムい乗(の)せん ど鈍(ぬ)り太鼓(てこ) [郷田悠々]

第107回南日本薩摩狂句大会 兼題「服(ふっ)」 植村聴診器選

特選 燕尾服(えんびふ)き 亭主(て)しゃペンギンの ごっ歩(あゆ)ん [上籠若菜]
秀一 メタボ腹(ば)れ 今ピッタシん 妊婦服(ふっ) [諸木小春]
秀二 ベビー服(ふ)く 祝(ゆえ)ち贈った 出来(でけ)た婚(こん) [稲田切株]
秀三 似合(にお)思(と)もた 服(ふっ)も値札い 後退(あとすだ)い [江口紫朗]
秀四 礼服(モーニング) 似合(にお)もせん上(う)へ 挨拶(えさっ)ちゃ駄目(ぼっ) [瀬戸山刀青]
秀五 良(よ)か服(ふっ)で 奥様(こじゅ)と散歩(さる)ちょい お犬様(いぬさあ) [山元自在鉤]
軸吟 娘(おご)ん服(ふっ) 大根(でこん)バッチち 婆(ば)が叱(く)るっ [植村聴診器]

第107回南日本薩摩狂句大会 兼題「違(ち)ご」 永徳天真選

特選 傍(はた)ん目も 繰(く)いが良(ゆ)なれば 違(ち)ごっきっ [上籠若菜]
秀一 玉(たま)ん輿(こし) 育(そだ)っが違(ち)ごで 絶(た)えん苦労(くろ) [諸木小春]
秀二 一字(いちじ)違(ち)げ 億万長者(おくまんちょう)じぇ 成(な)い外(は)じっ [堂園三洋]
秀三 好(す)っな男子(こ)と 組(くん)が違(ち)ごたち 泣(ね)っ帰(もど)っ [二見愚楽満]
秀四 再就職(にどづとめ) 違(ち)ごた世界も また楽(たの)し [工藤天然]
秀五 違(ち)ごた目で 亭主(とのじょ)あ見(み)ちょい 新体操(しんたいそ) [福冨野人]
軸吟 何(な)よ言(ゆ)てん 北朝鮮な 違(ち)ごち言(ゆ)っ [永徳天真]

その他の秀句 (順不同)

終日(ひのひして) 雑草(くさ)をば毟(むし)い 朝帰(あさもど)い [上薗佳笑]
カーナビが 区画整理い 首(く)ぶ捻(ひね)っ [江口紫朗]
女房(かか)同伴(づれ)じゃ 羽目(はめ)も外(はず)せん 旅(たっ)の宿 [吉岡道場]
長生(ながい)っも 大儀(てせ)ちごろいと 言出(ゆで)た婆(ばば) [石塚律子]
相槌(えは)打(う)っが 仕事(しごっ)じゃろそな 課長補佐 [小瀬一峻]
他人(ひと)よっか 頑張(きば)っちょい態(ふ)の 汗掻(あせか)っ奴(ぼ) [鮫島牧蜂]
引出物(ひっでもん) 屁(へ)のよな品(しな)を 大(ふ)と包(つつ)ん [津曲とっこ]
皺が寄(よ)っ 所(とこ)ずや顔(つら)ち 孫(ま)げ語(かた)っ [郷田悠々]
また句なち 女房(かか)が怒(く)るどん 金(ぜ)にゃ要(い)らし [伊地知 孝]
畳(たたん)なら 表替えじゃろ 煤(すす)け女房(かか) [植村聴診器]
生(お)え出(で)たか 一緒(いっど)き風呂い 入(い)らん言(ちゅ)っ [江口紫朗]
通信簿(つうしんぼ) 酢を飲んだ様(よ)な ママん顔 [中囿和風]
過ぎた酒 大事(でし)な人生(じんせ)ゆ 狂(くる)わせっ [満留ぐみ]
臍繰(へそく)いが 畳(たたん)の下で 息(い)く殺(こ)れっ [桜井吹雪]
酔(よく)れ亭主(とと) 覚(さ)む間(はざ)畳(たた)み 転(ころ)ばけっ [鮫島牧峰]
痛(い)て言(ちゅ)えば 生(い)きちょっでよち 手荒(てあ)れ医者 [吉岡道場]
孫が来(き)っ 可愛(む)ぜた暫時(いっとっ) 後(あと)は叱(が)っ [俊郎]
寄付集(つな)ぐ 難(むっか)し顔(つら)で 吝嗇(けち)が待(ま)っ [上山天洲]
一(ひと)っどま 新品(にけと)が欲(ほ)しち 下が泣(ね)っ [今井夢紫]
肥満(だんべ)女房(かか) 服(ふ)く脱(ぬ)っかても 深呼吸 [福冨野人]
脳味噌い 黴(こし)が生(ね)ろそな 長(な)げ梅雨(ながし) [樋渡草団子]
呆(ぼ)やし奴(わろ) 値切(ねぎ)いはしたが 釣銭(つ)や取(と)らじ [二見愚楽満]
記念日い 女房(かか)を泣かせた 安(や)し指輪(いっわ) [津留見一徹]
太鼓(てこ)は無(の)し 石油缶(せったんかん)で 郷中(ごじゅ)行楽(でばい) [原田菊男]
祝(ゆえ)ん座い ナフタリン臭(く)せ 服(ふっ)が集(よ)っ [永徳天真]
遺言(ゆおっ)の字 亡父(とと)とな違(ち)ごち 揉(も)めでけっ [佐土原 隆]