おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第659号

雑吟     永徳天真選

一番槍 恥(げん)ねこっ 代車ん方(ほう)が 良(よ)か車(くいま) [小瀬一峻]
二番槍 一点の 曇(くもい)も無(な)かて 疑(うた)ご女房(かか) [澤津乙名]
三番槍 女房(かか)言(ちゅ)とあ 煩(やじょろ)しもんち 諦(あきら)めっ [樋口一風]
四番槍 木の陰で 抱(だ)っ合(きょ)た二人(ふた)よ 毛虫(ほじょ)が刺(せ)っ [木佐貫白猫]
五番槍 爺(じ)の小言(ぐぜ)を 黙(だま)らっしゃいち 婆(ば)が止(と)めっ [石原ミエ子]
六番槍 同(ひと)っ事(こ)つ また言(ゆ)け来たか 長尻客(ながじきゃっ) [前田あやめ]
七番槍 梅雨(なが)し入(い)っ シートを被(かぶ)い ぐゎんたれ家(え) [米元年輪]

渋柿集

栫 路人 内定で 安心出来(でけ)じ 職(しょ)く探(さ)げっ
テレビ見(み)が 仕事(しごっ)言(ちゅ)うよな 暮(くら)すしっ
買(こ)替(か)え言(ちゅ)が 合点(がてん)がいかん 地上デジ
年(と)し不足(ふそ)か 無(ね)どんやっぱい 欲(ほ)し命(いのっ)
人生の 末路骨壷(こっつ)べ 閉(と)じ籠(こも)っ
有川南北 梅雨(ながし)どっ 猫ん泥足(どろあ)し 女房(かか)んヒス
激(はげ)し雨 昼寝(ひんね)日和(びよい)ち またごろっ
早(は)え離婚(わかれ) 十二単(じゅうにひとえ)が 昨日(きぬ)んごっ
酔(えく)れ坊(ぼ)ん 貸切(かしき)い言(つ)そな 終電車
終電車 車庫で大虎(うとら)が 管(くだ)を巻(め)っ
弓場正己 凱旋の 並(な)るだ侍(さむら)い 後光(ごこ)が射(せ)っ
原ジャパン 呆(ぼ)やし政治い 活(か)つ入(い)れっ
今ならば 競(せ)ろた奴(や)ちやい 家(やど)ん女房(かか)
アメリカい 野球(やきゅ)ん真髄(しんず)ゆ 教(いっか)せっ
バリウムを 牛乳思(と)もっ 飲んだ婆(ばば)
堂園三洋 近頃ん 娘(おご)は男い 負(ま)けじ飲(の)ん
大世間(うぜけん)に 女房(かか)よっか怖(お)じ 物(もん)な無(の)し
窓際で 亭主(てし)が迎えた 定年日
一度(いっど)どま 膨れた財布(ふぞ)で 飲(の)もごたっ
貧乏(びんぶ)でん 暢気(のんき)な女房(かか)は け笑(わ)るちょっ
永徳天真 冷蔵庫(れいぞう)け 腐(けっさ)れ野菜(やせ)も 大事(で)じ収納(なえ)っ
目をしっぱしっぱしっ 凄(わ)ぜ美人(シャン)ぬ見(み)っ
あしこそけ 欠伸(あくっ)が目立(めだ)っ 呆(ぼ)え講義
すいこっが 無(な)かで味噌樽(みそだ)や テレビ漬(づ)け
昼(ひ)い会(お)たや 別人(べっじん)のよな 店んママ
植村聴診器 首相(しゅそ)次第(しで)か 味(あっ)も素(そ)っ気(け)も なかテレビ
風呂最中(さなか) 電話(でん)うぇ走れば ひっ切(き)れっ
連休(れんきゅ)ちゅは 職(しょっ)があい衆(し)の 嬉(うれ)しか日
粗食(そしょ)きした 不況が薬(くすい) メタボ腹
真実(まこっ)どん うっ言(ちゅ)たら大変(でし) 秘書仕事(しごっ)

山椒集 題「事故(じこ)」     有川南北選

自動車(くいま)事故 家族(けね)ん夢ずい 鵜呑(ぐの)みしっ [久永時盛]
磯街道(けど)ん 事故で重富(しげと)ま 渋滞(うっだま)っ [樋口一風]
安(や)し買物(けもん) 思(と)もたやじゃった 事故車(ぐいま) [中間紫麓]
五客一席 俺(お)やせんち 言(ゆ)た奴(と)の車(くい)め 事故ん跡 [澤津乙名]
五客二席 あんまいじゃ 我(わ)が家(え)ダンプが 上(あ)がい込(く)っ [小瀬一峻]
五客三席 可愛(む)ぜ靴(くっ)が 片方(かたほ)落(お)てちょい 事故現場 [西 幸子]
五客四席 事故も無(ね)じ 傘寿で返納(もで)た 免許証 [井手上政暎]
五客五席 倦怠期 事故じゃったよな 我(わ)が結婚(といえ) [福山吉連]
選者吟 深(ふ)け穴い 人を呑(の)ん込(く)だ ゴルフ事故

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

篤姫(あつひめ)ん 余熱(よねっ)が嬉(うれ)し 観光地 [諸木小春]
敵失(てきし)つば 神風(かんかぜ)言(ちゅ)でた 呆(ぼ)え与党 [小瀬一峻]
派遣切(ぎ)い 何時(いっ)の世も 泣(な)っとは弱者 [郷田悠々]
四天王一席 給付言(ちゅ)う 名で戻(もど)っ来た 俺(おい)が税 [石原ミエ子]
四天王二席 あばてんね ボーナす叱(く)るた 大統領(だいとうりょ) [石塚律子]
四天王三席 勿体(たし)ねこっ 吉田御殿が 灰(へ)いけなっ [米元年輪]
四天王四席 阿久根市ん 訳(わけ)んわからん 市議選挙 [野村三味]
選者吟 大阪ん 日帰(ひげ)いも出来(でく)い 速(は)えさくら

郷句相撲 題「小(こ)め」

横綱(東) 小(こ)め時(とっ)の 写真も見(み)せっ 今日(きゅ)は結納(ゆいの) [津留群志]
横綱(西) 小(こ)め声を マイクが拾(ふ)るて 恥を掻(け)っ [江口紫朗]
大関(東) 小(こ)まか家 周囲(はた)いな恥(げん)なか 上棟祝(けんぜゆえ) [植村聴診器]
大関(西) 戻(もど)しゃせじ 小(こ)め事(こ)つ言(ゆ)なち きし吐(か)えっ [津留見一徹]
関脇(東) 小(こ)め事(こ)つば 根(ね)い持(も)っ会(お)てん 横を見(み)っ [松元清流]
関脇(西) 小(こ)め心臓(しんぞ) 役職(や)くば背負(かる)たや 動悸(とため)出(で)っ [中囿和風]
小結(東) 人間(ひと)間違(まっ)げ どうもち挨拶(えさ)ちゃ 小(こ)むしなっ [石塚律子]
小結(西) 給付金 小(こ)め子が親い 加勢(かせ)をしっ [中間紫麓]
筆頭(東) 不況(ふきょ)ん風 首切(くっき)い心配(せわ)で 小(こ)む暮(く)れっ [諸木小春]
筆頭(西) 煙草喫(の)ん 隅(す)み小(こ)む曲(ま)がっ 可哀相(ぐら)しこっ [前村幸治]
二枚目(東) 郷中(ごじゅ)ん寄合(よ)ゆ 小(こ)め揉め事(ごっ)で がん壊(く)えっ [満留ぐみ]
二枚目(西) 肝(きも)ん小(こ)め 亭主(とと)をサポート 女房(かか)ん口(くっ) [桑元行水]
三枚目(東) 借金(かい)け来(き)っ 小(こ)め事(こ)つ言(ゆ)なち 大概(てげ)な奴(わろ) [佐伯山神]
三枚目(西) 妻(かか)ん前(ま)へ 小(こ)もない放題(ほで)ん 昨夜(ゆべ)ん酔漢(とら) [楠八重渓流]
四枚目(東) 夫婦(みと)喧嘩 小(ちん)け女房(うっか)て また負(ま)けっ [堂園三洋]
四枚目(西) 分限者(ぶげんしゃ)が 小銭(こぜん)の釣銭(つい)も 凄(わ)ぜ催促(せず)っ [樋口一風]
五枚目(東) 小(こ)め体(ごて)が 徴兵検査で 生(い)っ残(のこ)っ [郷田悠々]
五枚目(西) 部長(ぶちょ)どんも 小(こ)め事(こ)つ言(ゆ)でた 頭割(びんたわ)い [小瀬一峻]
六枚目(東) 小(こ)め事(こ)つば ねちねち吐(か)やす 酔(よく)れ亭主(とと) [福山吉連]
六枚目(西) 小(こ)め話 倍に膨(ふく)れっ 戻(もど)っ来(き)っ [吉丸セツ子]
七枚目(東) 小(こ)め役者(やっ)しぇ 見得を切(き)っ度(かし) 札(さっ)が舞(も)っ [有馬純秋]
七枚目(西) 安価(や)しシャツを 洗(あ)るたや相当(じょじょ)ん 小(こ)むしなっ [久永桂心]
八枚目(東) 小(こ)め声ん 悪口(あっご)も届(と)じた 地獄(じごっ)耳(みん) [樋渡草団子]
八枚目(西) 針(はい)の様(よ)な 小(こ)め事(こ)つ婆(ばば)が 布令(ふ)れ回(まわ)っ [上薗佳笑]
親方吟(東) 仕入れ値が 上(あ)がっ小(こ)むした しんこ団子(だご) [入来創雲]
親方吟(西) 小(こ)め体(から)で 合(お)わん浴衣が 床(ゆか)を掃(は)っ [吉岡道場]

薩摩郷句作品集(薩摩狂句集「くろぢょか」より抜粋)

大重陣笠 議(ぎ)を言(ゆ)なち 爺(じい)の一言(ひとこ)ち 黙(だま)い込(く)ん
初霜が 甘藷(からいも)取(と)ゆば 急(せ)ったてっ
婆(ばば)ん小言(ぐぜ) 爺(じ)は上(うわ)ん空(そら) 木をいじっ
大園幸運児 挨拶(えさっ)しも 確(しか)とでけんて 役(や)く負(か)るっ
豊祭(ほぜ)箸戦(なんこ) 後(うしと)じゃ子供(こど)が 指(い)ぶ上(あ)げっ
縄束子(なわぞら)で 磨(みが)くば掛けた 床柱(とこばした)
大田きか猿 顔(つら)も良(ゆ)し 人も良(よ)かどん 金(ぜん)が無(の)し
器用(じく)な夫婦(みと) 亭主(とと)んズボンぬ 女房(かか)も着(き)っ
雪(ゆっ)の肌(は)で 灸(えつ)すえどんの 手が震(ふる)っ
大野彦星 親ぼんの 宅急便に 詰(つ)めかぎい
婆(ば)が子守(こも)や 洟(はな)も雑巾(ざふっ)で ひん拭(ぬぐ)っ
長(な)げ説教(せっきょ) 痺れが寺ん 座敷(ざし)く這(ほ)っ
大山元帥 参観日 おっかんここち 立(た)っ叫(お)れっ
器用(じく)な婆(ばば) 牛飼(べぶやし)ねでな 金メダル
術(ずっ)ね奴(わろ) いま寝たとこい 戸を叩(ど)えっ
大山みのる 山芋が 出(で)らんな済(す)まん 一升(いっしゅ)焼酎(じょちゅ)
おじゃすかち 土間かあ地鶏(じど)ゆ 提(さ)げっ来(き)っ
乱れ髪(がん) 寝巻(ねまっ)じゃねどん 気にかかっ
奥 あき 両方(まんぼ)から 寝(ね)らじ弄(も)じちょい 結婚(といえ)当初(はな)
何(ない)よっも 良(よ)か土産じゃち 孫を抱(で)っ
只(ただ)ん招待(しょゆ) 食傷(しょっしょ)すいしこ 取(と)い食(く)ろっ
小倉水甕 寝せつくっ 親ん団扇(うっば)が 先(さ)き止(と)まっ
飛魚(とっびお)ん 小味(こあっ)で焼酎(しょちゅ)も 二杯(にへ)三杯(さんべ)
可愛(む)ぜかった 妻(かか)も子育(こおや)し ずんだれっ

その他の秀句 (順不同)

好(す)っな如(ご)っ せんかち言(ゆ)たや 荷とめ出(で)っ [上薗佳笑]
小(こ)め食堂(しょっど) ビールち言(ゆ)たや 買(こ)け走(はし)っ [澤津乙名]
共稼(ともかせ)っ 眠(ね)び子を起(お)けっ 遅(お)せ夕飯(ゆめし) [山田竜生]
叱(が)らるめち 午前様(ごぜんさ)ん亭主(て)しゃ 客(きゃ)く連(つ)れっ [前田あやめ]
良(よ)か衣服(いしょ)を 着(き)っけちせがん 参観日 [田中末木]
千鳥足(ちどいあ)しゃ 玄関(ふんご)み入(い)れば 忍(しの)っ足 [日隈英坊]
亭主(てし)と目を 合(お)わせがならん 休肝日 [石原ミエ子]
受け取った 目が喜(よろ)くじょい 辞職(じしょっ)願(ね)げ [中囿和風]
半乾(はんがわ)っ 着れば乾(こら)っち 着(き)すい女房(かか) [萬福平次]
訳有(わけあ)りん 野菜(やせ)をあせくい 貧乏(ひん)暮(ぐ)らし [西 幸子]
女房(か)け食(く)ろた 青痣(つぐろじん)ぬば 事故ち言(ゆ)っ [津留見一徹]
新車をば 鉄屑(てつく)じなけた 凄(わざ)い事故 [郷田悠々]
早苗饗(さのぼい)も ファミレスどんで ちんとやっ [樋渡草団子]
先(さ)き食(く)たて 夕飯(いめ)さまだやち 厄介(やっけ)な婆(ば) [上瀬明星]
先(さっ)の世も お前と言(つ)たや うんにゃ言(ちゅ)っ [中村雲海]
初孫(はっまご)を ももじい爺婆(じば)べ 心配(せわ)な両親(おや) [樋渡草団子]
渾名(しこな)しか 知(し)たじ先生(せんせ)い 恥(げん)ねこっ [桑元行水]
実家(さと)帰(もど)い 惚気(のろけ)混(まじ)いの 悪口(あっご)言(ゆ)っ [おんじょどい]
駆落(かけおっ)も 覚悟(かっご)で禿を 連(つ)れっ来(き)っ [津留見一徹]
実(じ)ちゃ言(つ)たや 金(ぜん)なあ無(ね)どち 先(さ)く吐(か)えっ [有川南北]
半乾(はんがわ)っ 着れば乾(こら)っち 着(き)すい女房(かか) [萬福平次]
湯疲(ゆど)れ女房(か)け パンツかあ先(さ)き 着(き)れち叱(が)っ [上別府印句]
クラス会 渾名(しこな)を言(ゆ)たや 思(お)め出(だ)せっ [中間紫麓]
我(わ)が家(え)でな 生意気(くせら)しゅ吠(ほ)ゆい 小型犬 [上山天洲]
踊(おど)い好(す)っ 他人(ひと)ん花見座(はなん)ぜ 踊(おど)い込(く)っ [下栗志乃]
唇(すば)迄(ず)やち 覚悟(かっご)を決めっ 初デート[楠八重渓流]
おい言(ちゅ)たや はいち答えた 遠(と)え昔 [工藤天然]