おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第612号

雑吟     塚田黒柱選

一番槍 貰(も)ろたどん 枯(か)らさんめちゅちゃ 堪(の)さん蘭 [小森寿星]
二番槍 負け犬(いん)が ドーベルマンぬ 引(ひ)っ歩(さ)れっ [桜井吹雪]
三番槍 当てた宝籤(く)じ 離別(わか)れた女房(かか)が 戻(もど)ろ言(ちゅ)っ [坂口橘風]
四番槍 役(や)く辞(や)めっ 感謝状(かんしゃじょ)一枚(いっめ) 後(あ)て残(のこ)っ [山田竜生]
五番槍 褒(ほ)めよん無(ね) 悪戯坊(てんご)を元気 じゃち褒(ほ)めっ [上山天洲]
六番槍 箸戦(なん)けなっ 下戸あそろいと ひん帰(もど)っ [川村三生]
七番槍 通帳(つうちょ)どま 名義んぶんで 女房(かか)専用せんよ [石塚律子]

渋柿集

三條風雲児 体(から)で効(き)っ しこは恵(のさ)らん 土用(どゆ)鰻(うなっ)
女房(かか)ずいも 腰脱(こしぬ)ぎなった 蒸暑(ほめ)っ晩
スマトラん 沖(お)きゃ大(ふ)て地震(なえ)ん 巣いしなっ
宿浴衣(やどゆかた) 五尺(ごしゃっ)男(おっこ)は 揚(あ)げが要(い)っ
妙齢(としごろ)も ぼんのん無(ね)よな 寝相(ねぞ)をしっ
有川南北 木の梢(そら)で 烏(からし)が見(み)ちょい 塵(ごん)出し日
野良猫(まぐれねこ) 烏(からし)が啼(な)けば 身構(みがま)えっ
箱ん蓋 入(い)きらん塵(ごん)が 持(も)っ上(ちゃ)げっ
術(ずっ)ね奴(わろ) 夜中(よな)けごっそい 塵(ご)む捨(す)てっ
持(も)っ行(い)かん 札(ふだ)背負(か)れ塵(ごん)が 雨い泣(ね)っ
塚田黒柱 沢山(ずんばい)の 良(よ)か友達(ど)し恵(のさ)っ 今があっ
むくろいき 抗(む)こ亭主(て)す素手で 軽(か)る捌(さ)べっ
持(も)てんくせ 美人(シャン)な好(す)かんち きし吐(か)えっ
上戸(じょご)と下戸 どこで気が合(お)か 長(な)げ交際(つっけ)
飲(の)んな吸(す)な 楽(たの)しま全部(ずるっ) 取(と)い上(あ)げっ
堂園三洋 おぼっかね 後継(あとつ)ぎいっこ 譲(ゆず)られじ
四年間 居眠(いねむ)ゆばして また当選(あが)っ
貴女(きみ)が炊(て)た 飯(め)す食(く)おごちゃち プロポーズ
暗闇(くらすん)で 鼠(ねずん)思(と)もたや 盗(ぬしと)焼酎(じょちゅ)
撫(な)で肩い ショルダバッグは 落(お)て通(ど)えっ
植村聴診器 寝小便(ねしょんべん) 大地震(うなえ)津波(つなん)の 夢ん中
梅雨(ながし)の間(め) 遠慮もせんじ 伸(の)びい草
学歴(がくれっ)が 鼻(は)ねぶら下(さ)がっ 落(お)てた品(ひん)
キャデは父(ちゃん) 家族(けね)で優勝 さくらちゃん
整形で 美事(みご)てボインに 怪(あや)し影
岩崎美知代 大(ふ)て声ん 健(さか)し見舞客(みめきゃ)き 熱(ね)ちゃ上(あ)がっ
嬉(うれ)し見舞(みめ) 庭ん一枝(ひとえ)で 情(じょ)がこもっ
びっが付(ち)っ 沖(おっ)の大(ふ)て波(な)み 走(はし)い出(で)っ
湯気(ほけ)出(だ)しの デモ日本(にっぽん)ぬ 的(まと)いしっ
三十(さんじゅ)娘(おご) 値下げん見合(みえ)を 鼻で蹴(け)っ

山椒集 題「金魚(きんぎょ)」     有川南北選

山古志(やまこし)の 金魚あヘリで 息(い)く繋(つ)ねっ [久永 強]
小遣(こつけ)どま 三分(さんぷん)じゃった 金魚掬(す)く [石塚律子]
孫よっか 爺(じ)さんが励(はま)い 金魚掬(す)く [有村土栗]
五客一席 ミニん膝(ひ)ぜ 金魚掬(す)くどま 身みが入(い)らじ [吉岡道場]
五客二席 振(ふ)い袖で ゆらゆら踊(おど)い 可愛(む)ぜ金魚 [中村雲海]
五客三席 馬鹿猫が 大事(でし)な金魚で 玉をとっ [金井一馬]
五客四席 麩(ふ)の味噌汁(おっけ) 金魚じゃ無(ね)どち 婆(ばば)を叱(が)っ [深道好之]
五客五席 金魚売(う)い 汗を掻(け)ちょいが 涼(すず)し声 [川村三生]
選者吟 上手(う)め手品 胃かん金魚を 泳(およ)がせっ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

愛国(あいこっ)の デモち言(ゆ)ながあ テロと同等(がい) [渡 純光]
ガソリンの 値上げで我慢(きば)い 高歩(たかざる)っ [上籠若菜]
落下傘 背負(か)るっ乗(の)ろごちゃ 日航機 [佐伯山神]
四天王一席 高(たっ)か税(ぜ)ゆ 取って喫煙場所(すばしょ)も 取(と)い上(あ)げっ [池上黒ぢょか]
四天王二席 防空壕(ぼうくご)い 命(いの)つ取られた 好奇心 [樋口一風]
四天王三席 今度(こん)だ何処(ど)け 騒(さわ)ぎょ起(お)こすか ライブドア [大迫三ツ葉]
四天王四席 楽(たの)しゅんな 来年(でねん)に残(の)けた 準優勝(じゅんゆうしょ) [小瀬一峻]
選者吟 アミュランが 酷(ひ)どか落書(らっが)き 泣(な)かされっ

郷句相撲 題「苦瓜(ごい)」

横綱(東) 好(す)かん苦瓜(ご)ゆ 婆(ば)が庭一杯(いっぺ) ぶら下(さ)げっ [畑山真竹]
横綱(西) 生(な)いすぎた 苦瓜(ごい)で近所ん 義理(ぎい)が済(す)ん [津留見酎児]
大関(東) 昔から 苦瓜(ごい)と豆腐(おかべ)は 一(いっ)の友達(どし) [松山寸八]
大関(西) 畑(はい)仕事(しごっ) 茶請(ちゃう)けん苦瓜(ごい)ば 手皿(てざ)れ盛(も)っ [福原福多]
関脇(東) 漬物(つけもん)も 茶菓子も苦瓜(ごい)で ダイエット [樋渡草団子]
関脇(西) 苦瓜(ごい)嫌(ぎ)れを 好(す)っち言(ゆ)わせた みのもんた [有馬凡骨]
小結(東) 苦瓜(ごい)ちゅえば ゴーヤですかち 嫁が言(ゆ)っ [新地十意]
小結(西) 毎日(めにっ)苦瓜(ごい) 亭主(とと)ん禿いな 色艶(ひっ)が出(で)っ [今釜三岳]
筆頭(東) なんちゅてん 苦瓜(ごい)の料理(じゅ)や婆(ば)ん 味噌炒め [郷田悠々]
筆頭(西) チャンプルー 聞こえは良(よ)かが 苦瓜(ごい)炒め [那加野黎子]
二枚目(東) 馬鹿(ば)けされた 苦瓜(ごい)が今どま 野菜(やせ)ん華(はな) [有馬純秋]
二枚目(西) 苦瓜(ごい)の料理(じゅい) 皿ん片隅(かたす)み 子は除(の)けっ [弓場正巳]
三枚目(東) 年中(ねんじゅ)飲(ぬ)だ 苦瓜茶(ごいちゃ)も効(き)かじ 肥(こ)えむくっ [山田竜生]
三枚目(西) 晩酌(だいやめ)にゃ こいがご似合(にえ)ち 炙(あぶ)い苦瓜(ごい) [山下明良]
四枚目(東) 身体(から)で良(え)ち 苦瓜茶(ごいちゃ)を毎朝(めあさ) 飲(の)めち女房(かか) [西ノ園ひらり]
四枚目(西) 娘(こ)が好(す)っな 苦瓜(ごい)も詰め込(く)だ ゆうパック [江平光坊]
五枚目(東) 夫婦(みと)暮らし 苦瓜(ごい)も食(く)とらじ 赤(あ)こ熟(う)れっ [久永時盛]
五枚目(西) 苦瓜(にがごい)が 垣根(かべ)越(ご)し行(い)たい 来(き)たいしっ [西迫順風]
六枚目(東) 旬の苦瓜(ご)ゆ 肴(しおけ)で飲めば 疲(だ)れも飛(つ)っ [稲留明天]
六枚目(西) 飲(の)ん平(べ)ん子 三歳(みっつ)で苦瓜(ごい)の 味(あ)ずば知(し)っ [池上黒ぢょか]
七枚目(東) 歳(と)すとれば 苦瓜(ごい)の苦味(にがん)が 美味(うん)もなっ [福山吉連]
七枚目(西) なんちゅえば 苦瓜(ごい)の炒めで 持(も)てなせっ [平中小紅]
八枚目(東) 東京(とうきょ)かい 苦瓜(ご)ゆば送れち 子のメール [堂園三洋]
八枚目(西) 里戻(さともど)い 苦瓜(ごい)の土産い 子ああけっ [菖蒲谷天道]
親方吟(東) 昔(むか)しゃ苦瓜(ごい) 現代(いま)はゴーヤちゅ 人気もん [植村聴診器]
親方吟(西) 苦瓜(ごい)棚ん 下(し)て行水(あれ)娘(おご)ん 匂(かざ)が舞(も)っ [岩崎美知代]

第99回南日本薩摩郷句大会 兼題「人気(にんき)」 金井一馬選

特選 人気取(と)い 足湯を準備(しこ)た 道(みっ)の駅(えっ) [下本地郷二]
秀一 万馬券 人気馬(うんま)が 転倒(はんと)けっ [永徳天真]
秀二 ブランドん 偽物(まげもん)も出た 焼酎(しょちゅ)人気 [三條風雲児]
秀三 焼酎(しょちゅ)人気 金山(きんざん)蔵(ぐら)い 運(ふ)を賭(か)けっ [坂口橘風]
秀四 人気をば 金(ぜん)が押えた 町議選 [植村聴診器]
秀五 宿題を 出(だ)さん先生(せんせ)あ 子い人気 [石野蟹篭]
軸吟 アイドルも 人気が落(お)てっ 裸(はだ)けなっ [金井一馬]

第99回南日本薩摩郷句大会 兼題「安(や)し」 平中小紅選

特選 油虫(あまめ)ずい 挨拶(えさ)ち出(で)っ来た 安(や)し飲屋(のんや) [有川八味]
秀一 女房(かか)ん酌(しゃっ) 色気は無(ね)どん 安上(やすあ)がい [郷田悠々]
秀二 安(や)しツアー 宿(やど)あ雑魚寝で 蚊も訪(こと)っ [福冨野人]
秀三 着付け上手(じょし) 安(やす)か着物(いしょ)でん 品(ひん)があっ [三條風雲児]
秀四 貧(ひん)育(そだ)っ 安(や)し品物(と)を直(いっ)き 奪合(ばこ)っ取(と)っ [細山田妙子]
秀五 安(や)し家賃 じゃいが借(か)い手ん なかぼろ家(や) [那加野黎子]
軸吟 亭主(てし)がなお 貧弱(ひんじゃ)き見(み)ゆい 安(や)し背広 [平中小紅]

第99回南日本薩摩郷句大会 兼題「大人(おせ)」 中村雲海選

特選 抱(で)た夢も 大人(お)せない付(ち)けっ 小(こ)むけなっ [坂元鶴山]
秀一 大人(おせ)が先(さ)き 変われち痛(いた)か 子ん意見 [下栗志乃]
秀二 子を叱(が)れば 大人(おせ)ん真似じゃち きし吐(か)えっ [樋口一風]
秀三 大人(おせ)語(がた)ゆ すいがち見れば 小短躯(こじっくい) [田之上 毬]
秀四 飯事(ままごっ)の 語(かた)いが大人(おせ)を 笑(わ)るわせっ [上山天洲]
秀五 大人(おせ)いなっ 薹(とう)が立(た)っどん 縁談(はな)しゃ無(の)し [桜井吹雪]
軸吟 万引(まんびっ)の 校長(こうちょ)風上(かざか)み 置(お)けん大人(おせ) [中村雲海]

第99回南日本薩摩郷句大会 兼題「嘘(うそ)」 植村聴診器選

特選 神前で 真面目(まじめ)い嘘を 誓(ち)こ二人(ふたい) [塚田黒柱]
秀一 独身(ひとい)じゃち 両方(まんぼ)ん嘘が 浮気(うわ)くしっ [有川八味]
秀二 神主(ほい)さあも 衣(ころも)を脱げば 嘘も吐(ひ)っ [下本地郷二]
秀三 今日(きゅ)は如何(いけ)な 嘘なち女房(かか)あ 先(さ)く回(ま)えっ [長井春江]
秀四 産院に 青年(にせ)が駆(か)け込(く)だ 四月(しがっ)馬鹿 [坂元鶴山]
秀五 時偶(まねけん)な 嘘で女房(おかた)ん 愛(あ)ゆ探(さぐ)っ [津留見酎児]
軸吟 半端じゃ無(ね) おれおれ詐欺ん 嘘芝居 [植村聴診器]

第99回南日本薩摩郷句大会 兼題「悩(なや)ん」 有馬凡骨選

特選 竹島(たけしま)を 両方(まんぼ)ん袖で 悩(なや)ませっ [長井春江]
秀一 東宮様(とうぐさあ) 悩(なや)ま男ん 子が出来(でけ)じ [三條風雲児]
秀二 ランドセル もへ悩(なや)んぬば 連(ての)っ来(き)っ [上薗佳笑]
秀三 五連休 三日(みっか)で財布(ふぞ)は 悩(なや)んでっ [西迫順風]
秀四 草鞋銭(わらっせん) 貰(も)ろたや悩(なや)ん 土産物(みやげもん) [田代彦熊]
秀五 夜泣(よな)くすい 児(こ)がママを 悩(なや)ませっ [三條風雲児]
軸吟 肥(こ)ゆっとが 悩(なや)ん言(ちゅ)かたで 口(く)ちゃ動(いご)っ [有馬凡骨]

その他の秀句 (順不同)

拍手(てたたっ)の 加勢(かせ)い来たよな 披露宴 [川村三生]
下駄面(げたづら)ち 貰(も)ろた名刺い メモをしっ [小森寿星]
夢を買(こ)か おかずを買(こ)おか 迷(まよ)た財布(ふぞ) [弓場正巳]
幸せち 顔(つら)をして出た クラス会 [弓場正巳]
ただ女(おなご) じゃったで娶(も)ろた こん女房(おかた) [平中小紅]
忘れ傘 雨いならんな思 (お)め出(だ)さじ [金井一馬]
叱(が)ったなあ 産んだが悪(わ)りち 吠(ほ)えでけっ [上籠若菜]
食逃(くに)げじゃち 追掛(うか)けた客(きゃっ)も 戻(もど)っ来(こ)じ [泊 白水]
痺れ足(あ)し 故人の偲(しの)っ 余裕(ゆと)や無(の)し [東 竜王]
退職(やめ)てかい 女房(うっかた)好(ごの)み 仕込(しこ)まれっ [吉岡道場]
マイホーム 夢は叶(か)のたが 凄(わ)ぜ借金(おっか) [堂園三洋]
借金(おっか)取(と)い 納戸ん隅(すん)で 息(い)く殺(こ)れっ [松下青雲]