おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第603号

雑吟     塚田黒柱選

一番槍 新米(にかごめ)を 農業(さ)くせん衆(し)どが 先(さ)き食(たも)っ [田中末木]
二番槍 中途(つと)ずいで ホックが止(と)まい 試着室(しちゃっしっ) [川村三生]
三番槍 リストラで 愛社ん鬼(おん)も 追出(うだ)されっ [新地十意]
四番槍 腹一杯(はらふと)ち ならじ高(た)こ付(ち)た グルメ旅(たっ) [福冨野人]
五番槍 敬老(けいろ)パス 顔(つら)と比べた 運転手 [弓場正巳]
六番槍 トリカブト 押し花いしっ 亭主(て)し見(み)せっ [平中小紅]
七番槍 子んためち 言(ゆ)どん本音は 親ん見栄 [種子田 寛]

渋柿集

三條風雲児 解禁の 猟(じゅ)い猪(し)しゃ深山(みや)め ひん逃(に)げっ
ピクニック 稲刈(いねか)い恥(げん)ね 態(ふ)で通(とお)っ
新米(にかごめ)が 目当てじゃろそな 里帰(さともど)い
一杯(いっぺ)どま 飲(の)めち新焼酎(しんじょちゅ) 下戸い酌(ち)っ
血筋(すっ)が血筋(すっ) 卵も効(き)かん 徒競争(はしいぐら)
有川南北 見事(みご)て月(つっ) 虫の縁側(えん)かあ 盃(ちょ)く供(あ)げっ
怖(お)じ夢を 見(み)てかい電灯(あか)ゆ 点(と)べっ寝(ね)っ
左利(ぎっちょ)どん ソーメン流(なが)しゃ 逆(さか)こさっ
駄々児(やからご)い 嫁も泣(な)こごた お通夜疲(だ)れ
ややこしゅし 婆(ば)べなまめらん 塵(ごん)仕分け
塚田黒柱 農薬(のうやっ)が 罪(つん)の無(ね)虫の 息(い)く止(と)めっ
雑音か 騒音のよな 下手(へぼ)ピアノ
意思が強(つ)え 証拠ち止(や)むたせん 煙草
自民党(じみんと)を 変(か)ゆっち言(ゆ)たが 嘘も嘘
俺(おい)よっか 醜青年(ぶにせ)と連(ての)だ 元(もと)彼女
堂園三洋 日曜(にちよ)大工(でっ) また指(い)ぶ叩(ど)えっ 火の叫(おら)っ
ヨン様い 少(ちっ)た似(に)ちょっち 褒(ほ)められっ
ミス審査(しん)せ 出(で)らんじ勿体無(てこ)ね 凄(わ)ぜ美貌
名はあって 雑草(ざっそ)ち 十把一絡(じっぱひとから)げ
下手な奴(と)が 下手な奴(と)を叱(が)い 草野球
植村聴診器 運動会(うんどかい) 児童(こ)よっか親が 人数(に)じゃ多(う)こし
独居(ひと)や楽(だっ) そいどん晩な 寂(とぜん)のし
やっと矢が 前ん方向(ほ)に飛(つ)だ 弓道(ゆん)の稽古(けこ)
久(さ)す会(お)わじ 俺(おい)ち来た孫(ま)げ 詐欺思(と)もっ
犬(いん)の治療(よじょ) 獣医(はくらっ)どんが 罪(つ)みおてっ
岩崎美知代 新米(にかまま)を 秋刀魚で三杯(さんべ) 取(と)い食(く)ろっ
八十五歳(はっじゅうご) とても言(つ)ながら 欲(よっ)が出(で)っ
返済(もど)し時(と)か 借(か)っ時(とっ)の可愛(む)ぜ 顔(つら)じゃ無(の)し
唐芋餅(ねったぼ)も 不自由(ふじゆ)をさせた 焼酎(しょつ)ブーム
空(から)梅雨(ながし) 収穫期(でけあ)か叺(かまげ) 三俵(さんぴゅ)減(へ)っ

山椒集 題「信用(しんよ)」     有川南北選

信用(しんよ)しっ 貸(け)たて夜逃げん 旅費いしっ [入来創雲]
信用(しんよ)しっ 命(いの)つ預(あっ)けた 手術台 [森山厚香]
掛け売(う)いも 信用(しんよ)で保(も)つい 田舎店(いなかみせ) [稲留明天]
五客一席 信用(しんよ)しっ ひっ語(かた)ったや 筒(つ)ん抜(ぬ)けっ [津留群志]
五客二席 信用(しんよ)しっ 人(ひ)て笑(わ)るわれた 正直者(しょぢっもん) [西迫順風]
五客三席 借(か)い相談(そだん) 女房(か)けなら貸(か)そち 追出(うだ)されっ [松元清流]
五客四席 何(な)よ言(ゆ)てん 信用(しんよ)は出来(でけ)ん 事故隠し [樋口一風]
五客五席 学がか無(ね)てん 信用(しんよ)で当選(あが)い 町議選 [樋之口墨矢]
選者吟 信用(しんよ)せん ちゅ奴(と)が占師(ほし)せへ 診(み)てもろっ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

よかったね 曽我さん一家(いっ)け 沸(うぇ)た列島(れっと) [東 竜王]
新(に)け知事い 沈(しず)んか知(し)れん 人工島(じんこうと) [宮下珍竹]
高(た)け年俸(ねんぽ) 球団ずいも 噛(か)ん殺(こ)れっ [池上黒ぢょか]
四天王一席 結局(つま)や食(く)て 調査捕鯨ち 胸を張(は)っ [永徳天真]
四天王二席 あと一歩 大隅(おおす)み遠(とお)か 甲子園 [米元年輪]
四天王三席 年金が 二大政党(せいと)ん 道(み)つつくっ [新地十意]
四天王四席 ヨン様を 嗅(かず)んけ亭主(とと)と フルムーン [上薗佳笑]
選者吟 観光客(かんこきゃっ) まずは足湯で リフレッシュ

郷句相撲 題「無理(むい)」

横綱(東) 無理(む)ゆすんな 加勢(かせ)をすっでち 優(やさ)し嫁 [森山厚香]
横綱(西) 見栄張(は)いの 交際(つっけ)あ財布(ふぞ)い 無理(む)ゆさせっ [上山天洲]
大関(東) 学校(がっこ)出(だ)し 無理(む)ゆした程(しこ)ん 子い育(そだ)っ [畑山真竹]
大関(西) 無理(む)い娶(も)ろっ そいかあ敷(し)かれ 半世紀 [福原福多]
関脇(東) ダイエット 胃袋(いぶく)れ無理(む)いち 笑(わる)われっ [諸木小春]
関脇(西) 無理(むい)言(ちゅ)たて 試着(しちゃっ)の客(きゃっ)が ビリッやっ [平中小紅]
小結(東) 焼酎(しょつ)煙草 止(や)め言(ちゅ)が俺(お)いな 無理(むい)も無理(むい) [福山吉連]
小結(西) 葬儀屋(おんぼや)が 仕事(しごっ)が欲(ほ)しち 無理(むい)な願(ね)げ [小森寿星]
筆頭(東) 無理(む)ゆすっな 年齢(と)すば考(かん)げち 吐(か)やす婆(ばば) [堂園三洋]
筆頭(西) 大(ふ)て借金(おっか) 合併(がっぺ)や無理(むい)ち 外(はず)されっ [宮下珍竹]
二枚目(東) 俺(お)い金(ぜん)ぬ 貸せ言(ちゅ)がそんた とても無理(むい) [堂園三洋]
二枚目(西) 若(わ)け命(いの)つ 無理(むい)な追い越(こ)す して落(お)てっ [津曲とっこ]
三枚目(東) 無理(むい)すっな 言(ちゅ)どん仕様(しよ)ん無(ね) 一人(ひとい)住(ず)め [樋渡草団子]
三枚目(西) 偏差値が そんたあ無理(むい)ち 決(き)めちけっ [小瀬一峻]
四枚目(東) 無理(むい)言(ちゅ)たて 一寸(いっすん)聞(き)かじ 娶(も)ろお言(ちゅ)っ [川村三生]
四枚目(西) 胃カメラで 無理(むい)にゲップを 飲(の)ん殺(こ)れっ [池上黒ぢょか]
五枚目(東) 俺(おい)が血筋(すっ) 一流校(いちりゅうこ)どま 無理(むい)も無理(むい) [松元清流]
五枚目(西) 無理(むい)な願(ね)げ ちょこっ添(そ)ゆれば 気も変(か)わっ [津留見酎児]
六枚目(東) 若(わ)け時(とっ)の 無理(むい)が七十(ななじゅ)ん 腰(こ)し祟(たた)っ [東 竜王]
六枚目(西) 夜逃げ家族(けね) 無理(むい)なローンの マイホーム [蔵ノ下夢石]
七枚目(東) 結婚式(ごぜんけ)い 親は無理(む)ゆして 大(ふ)て借金(おっか) [山田竜生]
七枚目(西) バイキング 元を取(と)ろ言(ちゅ)ちゃ 無理(む)い食(たも)っ [内野潤一]
八枚目(東) 子供(こどん)ずい 無理(む)い背負(かる)わせた 実家(さと)土産 [入来創雲]
八枚目(西) あん美人(シャン)に 娶(も)れかかろ言(ちゅ)が そんた無理(むい) [田代彦熊]
親方吟(東) とても無理(むい) じゃったろ医者が 首(く)ぶ捻(ひね)っ [岩崎美知代]
親方吟(西) 無理(むい)じゃ無(ね)ど アテネでも金 柔(やわら)ちゃん [植村聴診器]

第26回都城大会 席題「狡(え)じ」 永徳天真選

遺産分け 前い名義(なめん)ぬ ひっ変(か)えっ [金井一馬]
狡(え)じ奴(わろ)が 農業(さっ)の結戻(いもど)し 子供(こど)むやっ [瀬戸口流川]
五人兄弟(きょで) 競(せ)ろ食(ぐ)い狡(え)じ子 鵜呑(ぐの)みしっ [新地十意]
選者吟 狡(え)じ旅館 入浴剤(にゅうよっざい)で 客(きゃ)く繋(つ)ねっ [永徳天真]

第26回都城大会 兼題「暑(ぬ)き」 堂園三洋選

暑(ぬ)き風を 女房(かか)越(ご)し送(おく)い 扇風機 [野間口鈴女]
酷(ひ)で暑(ぬっ)せ 無料(ただ)んサウナち 我慢(きば)い汗 [東 竜王]
暴走族(ぼうそぞ)き なお寝苦(ねぐる)しか 熱帯夜 [坂元鶴山]
選者吟 お日様(ひさあ)い 近(ち)けで暑(ぬっ)かち 長身奴(のっぽわろ) [堂園三洋]

その他の秀句 (順不同)

可愛(む)ぜかった 女房(おかた)も 賞味期限切れ [弓場正巳]
女房(かか)ん尻(し)ゆ 他人顔(たにんづら)しっ 行(い)っ買物(けもん) [栫 路人]
返(もど)す言(ちゅ)て がんたれ傘を選(え)っ 貸(か)せっ [金井一馬]
休暇願(ね)げ いっちょん差支(つか)や 無(ね)ち吐(か)えっ [小森寿星]
五十年忌(ごじゅねんき) 揃(そ)ろた親類(しんじ)も 後(あと)が無(の)し [永徳天真]
銀行に 有(あ)いがねち孫(ま)げ 強請(ねだ)られっ [上籠若菜]
貴男(あんた)かい 父(とお)ちゃんになっ いま爺(じ)さん [松元清流]
宅配の 声い家族中(けねじゅ)が 返事(へ)ずばしっ [野間口鈴女]
ゴシップい 待合室(まちあいしっ)で 詳(くわ)しゅなっ [諸木小春]
並(な)るっから 何(ない)が安(や)しなち 周(まわ)い尋(き)っ [馬込白鯨]
こん暑(ぬっ)せ 炬燵(こた)つ背負(かる)ちょい よな子守(こもい) [中村雲海]
打捨(うっす)いな 惜(お)しち背広で 畑仕事(はいしごっ) [栫 路人]
長生(ながいっ)も 金(ぜん)が頼(たよ)いの 無情(つれ)ね娑婆 [稲留明天]