おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第602号

雑吟     塚田黒柱選

一番槍 半額(はんがっ)ち 聞けば似合(に)よわん 服(ふっ)も買(こ)っ [満留ぐみ]
二番槍 効(き)っ言(ちゅ)えば 雑草(くさ)も木の葉も 煎(せじ)っ飲(ぬ)っ [井手上政暎]
三番槍 叱(が)いかたが 分(わ)からじ親が 泣(な)っかぶっ [横手五月]
四番槍 ケーキ切(き)い 苺(いっご)が足(た)らじ 揉(も)むい家族(けね) [永徳天真]
五番槍 実家(さ)て帰(もど)っ 語(かた)い終(と)ったや 鼾(いび)くけっ [新地十意]
六番槍 周囲(はた)い気を 遣(つ)こみちゃ知(し)たん 奴(と)が増(ふ)えっ [江平光坊]
七番槍 選挙ビラ かねっも欲(ほ)しか そん笑顔 [盛満椒平]

渋柿集

三條風雲児 二十三夜(にじゅさんにゃ) 武運長久(ぶうんちょうきゅ)を 思(お)め出(だ)せっ
枝豆が 目障(めざわ)いち態(ふ)の 休肝日
月(つっ)の出を 待(ま)っつけん態(ふ)で 猪口(ちょ)く握(にぎ)っ
何(な)ゆ食(く)てん 舌が肥えたか 美味(うん)も無(の)し
良(ゆ)し悪(わる)し ホームページが 罪(つ)む作(つく)っ
有川南北 枕どま 足元(あしも)て転(こ)ろだ 幼児(ちび)ん寝相(ねぞ)
こん盛夏(うな)ち 犬(いん)も暑(ぬ)っかろ 本毛皮
毛皮ショー 汗ぞっぷいの 楽屋裏
泥鰌(どじょ)掬(す)くが 現(で)っきたぶんで 座が揺(ゆ)れっ
言(ゆ)わしとん よかひと口(くっ)で 揉(も)めでけっ
塚田黒柱 世が世なあ 手討(てう)ちなろそな 議(ぎ)を言(ゆ)女房(かか)
他人(ひ)て見(み)すい 化粧(けしょ)じゃ無(な)か言(つ)が 念が入(い)っ
政治言(つ)は つまや自分(わが)ため 金(ぜん)のため
振(ふ)られたや 痘痕(あばた)は痘痕(あば)て 見(み)えでけっ
諦(あきら)めん 悪(わ)り毛後頭部(ぼろっ)て しがん付(ち)っ
堂園三洋 至福(しふっ)言(ちゅ)は こいの事(こっ)じゃろ 赤提灯(あかぢょちん)
通訳(つうや)くば 挟(は)すだ抗議じゃ 気が抜(ぬ)けっ
大往生(だいおうじょ) 言(ちゅ)ごっ玄関(ふんご)み 寝た飲(の)ん平(べ)
喧嘩相手(えて) 居(お)らじ寂(とぜん)ね 女房(かか)ん留守(ずし)
保険屋が どしこ褒(ほ)めてん 金(ぜん)が無(の)し
植村聴診器 台風(うかぜ)奴(わろ) 二百十日(にひゃっとか)をば 待(ま)っつけじ
妙(す)だ夏(なっ)で 六月燈(ろっがっど)よか 先(さ)き台風(うかぜ)
昔(むか)しゃ苦瓜(ごい) 高級品で 今レイシ
農業(さ)か大(ふ)つし 借金(おっか)もあろち 継(つ)ごたせじ
計算(さんにょ)でな メダル取(と)い過ぎ アテネ行(い)っ
岩崎美知代 孫五人 頭(びんた)も秋(あっ)の 風が吹(ひ)っ
風呂上(あ)がい 夫婦(みと)で涼台(ばんこ)い 干(ほ)すビール
臭(く)せどのち 馬鹿(ば)けした焼酎(しょつ)で 盛(も)い上(あ)がっ
食(く)しこ有(あ)っ 健康(さか)す暮らせば 良(よ)か老後
がんたれを アンティーク言(つ)ちゃ 買(こ)て帰(もど)っ

山椒集 題「蠅(へ)」     有川南北選

重(お)び命(いの)つ 蠅(へ)のごっ叩(たた)っ 憎(に)き戦争(せんそ) [津留見一徹]
干鰯(がらんつ)ん 臭(かざ)い蠅(へ)が集(よ)い 野良(はい)昼飯(ちゅはん) [井手上政暎]
蠅(へ)が止(と)まっ かった食(く)おごちゃ なか刺身(さしん) [今釜三岳]
五客一席 爺(じ)の背中(せな)け 蠅(へ)をばめがけっ 婆(ば)あ叩(た)てっ [野村三味]
五客二席 煩(やぜろ)しか 昼寝(ひんね)をすれば 蠅(へ)がめちっ [山下明良]
五客三席 何(ない)にでん 蠅(へ)のごったかい 族議員(ぞっぎいん) [原田菊男]
五客四席 蠅(へ)叩(たた)っが 仕事(しごっ)じゃろそな 老夫婦(おんじょみと) [松元清流]
五客五席 馬鹿奴(ばかたれ)ち 叫(お)れっ金蠅(きんべ)を 打(う)っ殺(こ)れっ [岩崎美知代]
選者吟 折角(せっかっ)の 御馳走(ごっそ)を蠅(へ)奴(わろ) 先(さ)きむしっ

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

コンピュータ 時代(じだ)い国会(こっか)や まだ牛歩 [津留見一徹]
未納(みの)ん議員(し)で 新党(しんと)作れば 第一党(だいいっと) [深道好之]
三菱の 車(くいま)で心配(せわ)な バスツアー [樋口一風]
四天王一席 主権委譲(いじょ) 言(ちゅ)ながあ裏じゃ 牙を研(て)っ [渡 純光]
四天王二席 世直(よなお)すば 一人(ひとい)ですそな マニフェスト [田中栄泉]
四天王三席 田舎駅(え)き 隼人ん風が 客(きゃ)くば呼(よ)っ [枦山一球]
四天王四席 金メダル 総(ずる)っ獲得(と)ろそな 五輪前 [田原大黒]
選者吟 ヒトッバを 見慣(みな)れん虫が ガラッやっ

郷句相撲 題「金庫」

横綱(東) 合(お)わん筈(はっ) 我(わ)が家(え)い居(お)った 金庫泥棒(どろ) [入来創雲]
横綱(西) 有(あ)っ所(と)けな 有(あ)っち金庫が 溜息(うい)くちっ [小瀬一峻]
大関(東) 金庫いな 金(ぜん)が入(い)きらん 夢を見(み)っ [満留ぐみ]
大関(西) 婆(ば)ん金庫 臍繰(へそく)ゆ貯(た)むい 紙(かん)の箱 [山下明良]
関脇(東) 買(こ)た金庫 さしつけ入れた 通信簿 [諸木小春]
関脇(西) 宝籤(たからくし) 金庫い収納(なえ)っ 幸運(ふ)をば待(ま)っ [西 幸子]
小結(東) 大(ふ)て金庫 笑(わ)れが止(と)まらん 繁盛(はや)い店 [森山厚香]
小結(西) 偽物(まげもん)の 宝(たか)れ金庫が 笑(わ)れを噛(か)ん [津留見一徹]
筆頭(東) 眼鏡ずい 金庫い入れた 成(な)い上(あ)がい [細山田妙子]
筆頭(西) 金庫をば 開(あ)けっがっかい 遺産分け [樋口一風]
二枚目(東) 金(ぜん)な無(ね)で 宅(やど)ん金庫は 開(あ)けた侭(ない) [野間口鈴女]
二枚目(西) 金庫とみ 金庫ん鍵(かっ)も ひんなえっ [那加野黎子]
三枚目(東) 病臥(ねお)い婆(ば)は 手提げ金庫を じっ握(にぎ)っ [稲留明天]
三枚目(西) 籤(く)じ当(あ)たっ 金庫い納(な)えた 夢を見(み)っ [上瀬明星]
四枚目(東) 諭吉翁(ゆきっじ)が 窒息(ちっそ)くすそな 小(こ)め金庫 [堂園三洋]
四枚目(西) 出社した 社長(しゃちょ)は金庫を 先(さ)き拝(おが)ん [弓場正巳]
五枚目(東) 秘書給与 金庫ん番な 女房(か)けさせっ [安藤孟宗竹]
五枚目(西) 金々(ぜんぜん)ち 爺(じ)は金庫じゃ無(ね) 孫を叱(が)っ [盛満椒平]
六枚目(東) 大(ふ)て金庫 据(す)えちゃおっどん もへ倒産(かや)っ [川村三生]
六枚目(西) 焼け跡い 煤(すす)け金庫が 生(い)っ残(のこ)っ [福冨野人]
七枚目(東) 持(も)たんくせ 金庫が重(お)びち きし吐(か)えっ [篠原文兎]
七枚目(西) 金庫ずい 質屋い入(い)れっ 食(く)いつねっ [栫 路人]
八枚目(東) 不況風 金庫ん中は 請求書(つけ)だらけ [山内成泰]
八枚目(西) 散(ち)れた部屋(へ)へ 夜逃げが残(の)けた 空(から)金庫 [小森寿星]
親方吟(東) 手をすけっ 金庫ん遺言(ゆお)く 子供(こど)が待(ま)っ [岩崎美知代]
親方吟(西) 玩具屋(おもちゃや)ん 金庫で間(ま)にお 家(やど)ん金(ぜん) [植村聴診器]

第34回若法師忌・第17回雪尾忌句会 兼題「近(ち)け」 弓場正巳選

お迎えが 近(ち)けち言(ゆ)ながら まだ貯(た)めっ [小森寿星]
老夫婦(おんじょみと) 隣(つっ)の他人ぬ 頼(たよ)いしっ [三條風雲児]
程程(ほどほど)ん 近さでまこて よか嫁女(よめじょ) [平中小紅]
選者吟 田舎道(みっ) 聞けば近(ち)け言(ちゅ)た 一里半(いちりはん) [弓場正巳]

第34回若法師忌・第17回雪尾忌句会 兼題「元気(げんき)」 堂園三洋選

敬老(けいろ)パス 見(み)せっ降(お)じたが 走(はし)い出(で)っ [江口紫朗]
朝市(あさいっ)の 婆(ばば)あ元気も 添(そ)えっ売(う)っ [津留見酎児]
金(ぜん)の顔(つら) 見(み)いせかすれば 元気付(ぢ)っ [山路野菊]
選者吟 元気じゃち 褒(ほ)むれば見(み)すい 力瘤(ちからこっ) [堂園三洋]

その他の秀句 (順不同)

七十(ななじゅ)爺(じ)い たばこを止(や)めち 要(い)らん世話 [川村三生]
そけ居(お)って ビールも注(ち)がん 茶も入(い)れん [津留見一徹]
御令室様(ごれいしつさあ)へち 来たが煤(すす)け女房(かか) [種子田 寛]
酔(よ)くろたか 妻(かか)が紀香い 見(み)えっきっ [小瀬一峻]
打捨(うっ)せたて 落ちましたよち いらん世話 [佐伯山神]
宿六(やどろっ)ち 見下(みく)でっおいが 実(じ)ちゃホの字 [野間口鈴女]
我(わ)が臍と 久振(さしかぶ)い会(お)た ダイエット [福冨野人]
不足(ふそ)か無(な)か 不足(ふそ)か無(な)かどん 欲(ほ)しか金(ぜん) [楠八重渓流]
金メダル 総(ずる)っ獲得(と)ろそな 五輪前 [田原大黒]
手をば摺(す)い 蠅(へ)い似(に)た亭主(てし)の 金(ぜん)要求(せびい) [津留見酎児]
駅(え)き近(ち)けち 他人(ひと)ん庭先(にわさ)く 踏(ふ)ん潰(ち)びっ [仮屋一発]
元気なた 口(くっ)ばっかいち 婆(ば)は笑(わ)るっ [西 三日月]
可愛(む)ぜ声い 素通(すどお)や恥(げん)ね 募金箱 [西 幸子]