おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第598号

雑吟     塚田黒柱選

一番槍 欲(よ)か無(ね)言(ちゅ)が 有(あ)ったで詐欺い 引(ひ)っかかっ [栫 路人]
二番槍 万歩計(まんぽけ)ゆ 準備(しこ)っかえっちゃ ひん疲(だ)れっ [稲留明天]
三番槍 叱(が)いもせん 褒(ほ)めもせん親(お)へ 子はぐれっ [江平光坊]
四番槍 親馬鹿が 友達(どし)が悪(わ)いかち 子を庇(かぼ)っ [今釜三岳]
五番槍 心中(ねしゅ)は別(べっ) 栄転の友人(ど)し 祝(ゆえ)を言(ゆ)っ [金井一馬]
六番槍 病院(びょいん)行(い)き 医者(い)しぇ恥(げん)ねでち 化粧(けしょ)もしっ [横手五月]
七番槍 乗れば金(ぜん) 新幹線ぬ 見(み)け行(い)たっ [弓場正巳]

渋柿集

三條風雲児 自衛隊(じえいた)ゆ ごろいと戦地(せん)ち 送(おく)い出(で)っ
幟(のぼい)ずい 緋鯉が上ん 女房(かか)天下
孫ん節句(せ)き かからん団子(だご)を 負(か)るたてっ
臭木(くさっな)ん 汁(しゅい)で朝飲(ちゃのこ)ん 老夫婦(おんじょみと)
飛魚(あご)掬(すく)で 島ん波止場は 終夜(よして)騒動(そど)
有川南北 花曇(はなぐも)い 女房(かか)ん血の病(びょ)を 引(ひ)っ出(だ)せっ
ひと言(こっ)も 語(かた)らじ飯(め)す食(く) 朝帰(あさもど)い
借金の 新宅(しんたっ)じゃって みな褒(ほ)めっ
縁の糸 好(す)かん言(ちゅ)おった 奴(と)に嫁(い)たっ
蟹(がね)盗(と)いけ 行(い)たっ凍(こ)いちた 間抜け泥棒(どろ)
塚田黒柱 煙草者(たばこの)ま 税(ぜ)ゆ払(は)るたうえ 嫌(き)ろわれっ
五月(さつっ)晴れ 緑(みどい)の風で 肺(は)ゆ洗(あ)るっ
好(す)っな如(ご)っ せえち結局(けっきょ)か 亭主(てし)の負け
連休の 計画(けいか)か妻(かか)と 子が決(き)めっ
食飽(じっど)るい しこ食(たも)らんな 満足(おて)ちかじ
堂園三洋 食(か)せんごっ くずれ老爺(おんじょ)は 痩(や)せぎっちょ
良(よ)か場面(とこ)で ザーザ言(ゆ)でけた ぼろテレビ
今日(きゅ)は障子(しょ)ずば 足でな開(あ)けん 見合(みえ)ん娘(おご)
娶(も)ろ時(と)きな 婆(ばば)じゃ無(ね)かった 俺(おい)が女房(かか)
禿ち言(ゆ)な 貫禄(かんろっ)言(ちゅ)えち クラス会
植村聴診器 裏口(うらぐっ)の 方(ほ)が凄(わ)ぜ大(ふ)とか 合格祝(ごかっゆえ)
イラッどめ 気安(きや)す派遣(や)んなち 叱(が)ろごたっ
入学金(にゅがっきん) やっと払(は)るたて 五月病(ごがっびょう)
戦争(いっさ)行(い)く 思(お)め出(だ)っマーチ 自衛艦
金(ぜん)が無(ね)で 家族(けね)でごろ寝(ね)ん 五連休
岩崎美知代 蛇(へっ)が出(で)っ 遠足(えんこ)ん列(れ)つば 二(ふた)ち割(わ)っ
鯉幟祝(のぼいゆえ) 仲人(なかだ)つ上座(かん)ぜ 奉(たてまつ)っ
濡れ手(で)粟 汗無(な)し儲(も)くい 話(はな)しゃ無(の)し
筍(たけんこ)ん 馳走(しおけ)い犬(いん)も 目を開(あ)けじ
よいなこて 就(ち)たて義理(ぎい)も無(ね) もへ辞(や)めっ

山椒集 題「甘(あま)え」     有川南北選

甘えてん 金(ぜん)な出(で)ちゃこん 亭主(とと)ん財布(ふぞ) [小瀬一峻]
靡(なび)こそな 甘え声どん 出(で)て稼(かせ)っ [江平光坊]
甘(あま)やけた 罰(ばっ)女房(か)け顎で 使(つ)こわれっ [楠八重渓流]
五客一席 俺(おい)が胸(む)ね 顔(つら)を埋(うず)めっ 抓(つま)ん女房(かか) [平中小紅]
五客二席 わが娘(こ)いも 甘(あま)えっ母(はほ)ん 二度童子(にどわらし) [樋口一風]
五客三席 祖母(ばあ)ちゃんぬ 打(う)っ出(で)ん小槌(こづ)ち 甘え孫 [東 竜王]
五客四席 猫んよな 甘えで姑(かか)い 当てつけっ [川村 明]
五客五席 甘(あ)も育(お)えっ 今じゃ後悔(くけ)すい 老夫婦(おんじょんぼ) [池端田の神]
選者吟 甘え泣(な)っ 誰(だい)も居(お)らんな 雨が止(や)ん

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

手探(てさぐ)いで サモアを守(まも)い 自衛隊 [上山天洲]
絡(から)ん合(よ)っ 糸口(いとぐ)ちゃ見(み)えん 拉致交渉(こうしょ) [盛満椒平]
こらのさん 巡査を見(み)たや 逃(に)げち言(ゆ)っ [津曲とっこ]
四天王一席 串木野(くしっの)を 元気付(づ)かせた 鮪船(まぐろぶね) [小森寿星]
四天王二席 改革(かいかっ)ち 言葉(こと)べ庶民な 泣(な)かされっ [郷田悠々]
四天王三席 騒動(そど)事(ごっ)が 鶏小屋(にわといご)へも 入込(へく)ん来(き)っ [福冨野人]
四天王四席 焼酎(しょちゅ)ブーム 唐芋(かいも)畑(ばっけ)が 生(い)っ上(きゃ)がっ [飯福小手毬]
選者吟 夢は大(ふ)と 日本一(にっぽんいっ)の バラん街(まっ)

郷句相撲 題「空(そら)」

横綱(東) ブランコで 大空(うぞ)れ飛(と)ぼそな 元気(さか)し女児(おご) [東 竜王]
横綱(西) 青空い アクロバットが 書(か)っ殴(たく)っ [津留見酎児]
大関(東) 飛蚊症 空を見(み)い度(た)び 虫がおっ [福山吉連]
大関(西) 青空い 雲雀(ひば)や夫婦(みと)連(づ)れ 天に舞(も)っ [田中末木]
関脇(東) 空ん向(む)け 夢を広(ひろ)ぐい 宇宙基地 [稲留明天]
関脇(西) 夕焼けが 明日(あした)ん仕事(しご)つ 組(く)ん立(た)てっ [小原庄太郎]
小結(東) 母危篤(きと)き キャンセル待(ま)っの 空ん便 [安藤孟宗竹]
小結(西) 五月(さつっ)晴れ 棟上げん矢あ 鯉(こ)ゆ狙(ね)ろっ [福原福多]
筆頭(東) しびれ足(あ)し 坊主(ぼし)の説教(せっきょ)も 上(うわ)ん空 [入来創雲]
筆頭(西) 空を見(み)っ 大息(うい)く吐(つ)かんな 決(き)めきらじ [津留見酎児]
二枚目(東) 空ん旅(たっ) 眠(ね)た振(ふ)いしいし 経(きょ)をば唱(よ)ん [渡 純光]
二枚目(西) 久振(さしかぶ)い 空を良(ゆ)う見た 土堤(ずべ)昼寝(ひんね) [永徳天真]
三枚目(東) 満天の 夜空(よぞ)れ悩(なや)んが 小(こ)むけなっ [諸木小春]
三枚目(西) 五月(さつっ)晴れ 空(そ)れ一点の 雲は無(の)し [川村 明]
四枚目(東) 爆音で ニュースも聞(き)けん 基地ん空 [松元清流]
四枚目(西) 過疎ん空 独(ひと)い占(じ)めして 星(ほ)しゅ浴(あ)びっ [上籠若菜]
五枚目(東) 熱気球(ねっききゅう) 大空(うぞら)を気侭(きま)め 散歩しっ [黒木菜々]
五枚目(西) 出征(いでたっ)の 亭主(て)すば涙(なんだ)で 空(そ)れ送(おく)っ [弓場正巳]
六枚目(東) あん空ん 何処い居(お)いかち 亡友(ど)す想(おも)っ [堂園三洋]
六枚目(西) 見事(みご)て空(そ)れ 飛行機雲ん 帯(お)ぶ引張(そび)っ [有村土栗]
七枚目(東) 澄んだ空(そ)れ 空気も美味(うん)め 良(よ)か田舎 [森山厚香]
七枚目(西) 早(は)よ起(お)きっ 空を遠足(えんこ)ん 手が拝(おが)ん [上山天洲]
八枚目(東) ごっと起(お)き 空が気いない 今日(きゅ)あ花見(はなん) [川村三生]
八枚目(西) 空なんだ 見(み)ろごっもなか ふられ青年(にせ) [平中小紅]
親方吟(東) 買物(けもん)でん 東京(とうきょ)い日帰(ひげ)い 空を飛(つ)っ [植村聴診器]
親方吟(西) 筍(たけんこ)が 一夜(ひとよ)せ空を 突(つ)っ破(きゃぶ)っ [岩崎美知代]

第70回鹿屋大会 席題「気安(きや)し」     中村雲海選

友達(どし)の如(ご)っ 語(かた)っで繁盛(はや)い 気安(きや)し医者 [野間口鈴女]
金(ぜ)ぬやらじ 気安(きや)す買(こ)っけち 老母(かか)ん使(つ)け [西ノ園ひらり]
無礼講(ぶれいこ)い 気安(きや)す議(ぎ)を言(ゆ)っ 飛(と)ばされっ [塚田黒柱]
選者吟 犬(いん)と猫 子供(こど)ま気安(きや)しか 恋の仲 [中村雲海]

第70回鹿屋大会 兼題「寒(さ)み」     塚田黒柱選

猪口(ちょっ)どんじゃ 温(ぬっ)もやならん 寒(さ)んか晩 [野瀬曲尺]
癌の亭主(て)す 介護寒(さ)み夜(よ)も 背を摩(さす)っ [山内成泰]
寒(さ)み言(ちゅ)かた 薄着ん娘(おご)あ ミニを穿(ふ)ん [川村三生]
選者吟 とどんよな 脂肪(あぶら)があって 寒(さ)みち言(ゆ)っ [塚田黒柱]

その他の秀句 (順不同)

気いすっな 言(つ)て噂をば 置(え)て帰(もど)っ [樋口一風]
高(た)け刺身(さし)む 買(こ)たや多(う)け方(ほ)ん レジで待(ま)っ [津留見酎児]
若(わ)け時(とっ)の 罪(つん)滅(ほろ)ぼしち 敷(し)かれちょっ [平中小紅]
上手(じょし)な奴(と)が 俺(おい)が十八番(おはこ)を 先(さ)き歌(う)とっ [小森寿星]
負けどえっ 走(はし)い馬(うんま)が 亭主(て)しダブっ [津留見一徹]
子ん躾 どこいか親が まだ子供(こどん) [塚田黒柱]
どいがどけ 効(き)っとも知(し)たじ 貰(も)ろ薬(くすい) [金井一馬]
貧乏(びんぶ)じゃが 孫分限者(ぶげんしゃ)い してくれっ [那加野黎子]
寄付集(つな)っ 自分(わが)で貰(も)ろよな 頭(びんた)下げ [森山厚香]
挨拶(えさっ)しも あったらしよな 横着(おど)な奴(わろ) [西 幸子]
赤子ん手 親ん夢をば じっ握(にぎ)っ [猪八重千草]
よか腕を 小指(こゆっ)と焼酎(しょちゅ)が がらっやっ [平中小紅]
下校(げこ)ん子い 気安(きや)す物言(ものゆ)も 出来(でけ)ん娑婆 [細山田妙子]