おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第583号

雑吟     三條風雲児選

一番槍 大食(うぐ)れ女房(かか) 時計(とけ)いにゃ食(か)せじ け死(し)ませっ [馬迫 蛙]
二番槍 肥(こ)え過(す)ぎっ もう抱(だ)っ上(きゃ)げは ならん女房(かか) [永徳天真]
三番槍 免許貰(も)れ 学科で落(お)てた とな言(い)えじ [小瀬一峻]
四番槍 倹(つま)しゅ言(ゆ)が 外でなぽうぽ 飲(の)ん歩(さ)れっ [川村 明]
五番槍 あんまいの 美男子(よかに)せ娘(こ)をば 呉(く)れん言(ちゅ)っ [中村雲海]
六番槍 黙(だま)っ飲(の)ん 黙(だま)っ食(く)て寝(ね)い 独(ひと)い住(ず)め [川村三生]
七番槍 風邪ん亭主(と)て 粥(かい)じゃい炊(た)かん 倦怠期 [大迫三ツ葉]

渋柿集

三條風雲児 客(きゃっ)も無(の)し 旧の正月(しょが)つば 家族(けね)でしっ
稽古(けこ)疲(だ)れか 鼾(いび)くばけちょい 踊(おど)い馬
臥竜梅(がりゅうば)よ 見(み)ろち爺様(じさま)は 着(き)ぶくれっ
目白(はなし)ずい 寒行(かんぎょ)か毎朝(めあさ) 水(み)ず浴(あ)びっ
医療費が 少(こ)し年金ぬ つんむしっ
上田 格 人中(ひとなか)じゃ 目と目で語(かた)い 恋人(なじゅん)同士(どし)
セールスが 帰(もど)れば犬(いん)が やれ吠(ほ)えっ
不精者(ふゆしごろ) 庭い這(ほ)わせた 臥竜梅(がりゅうばい)
落成式(じょしいえ)を ハンニャで締めた 爺(じ)が大声(うごえ)
七歳祝(ななっいえ) ご本尊どま 婆(ば)とけ寝(ね)っ
塚田黒柱 残念じゃ 茶髪(ちゃぱ)ちすいしこ 髪(かん)が無(の)し
幾通(いくとお)い 塗ったか知(し)れん 育毛剤(いくもざい)
亭主(とのじょ)ずい 女房(かか)ん多趣味が 振(ふ)い回(ま)えっ
老人(おんじょ)いな ティッシュ配(くば)いも 寄(よ)いつかじ
有川南北 六場所を 休場(やすん)比(ぐら)ごで 締(し)めくくっ
贔屓(ひい)くすい 後継者(あと)が早(は)よ欲(ほ)し 井筒(いづっ)部屋
年賀状 親友(どし)も中風(なえ)たか 字が震(ふる)っ
預(あっ)くそな 金(ぜん)どま無(ね)とに 訪(く)い銀行(ぎんこ)
堂園三洋 大騒動(うそど)をば 医者い叱(が)られた 見舞(みめ)ん友達(どし)
潮が良(え)ち 張(は)い切(き)っ行(い)たが 無駄(すだ)帰(もど)い
飲(の)ん平(べ)亭主(て)しゃ 格好(かっこ)ん悪(わ)りか 狸腹(たぬっばら)
窮屈(せっ)ね態(ふ)で 風呂(ふ)れ浸(つか)っちょい 肥満(だんべ)女房(かか)
村田子羊 口(く)ちチャック させっ申告(しんこ)き 女房(かか)をやっ
スタミナを つけっ気忙(きぜわ)し 帰(もど)い鶴
ヤミ金融(きんゆ) 大世間(うぜけん)いっぺ 餌(えど)を撒(め)っ
秘密(ひみ)つ知(し)っ こんごら秘書が 邪魔(じゃ)めけなっ
岩崎美知代 巡査どん 牛(べぶ)ん産にも 駆(か)けつけっ
百円じゃ 神(かん)も外見(そらん)の 合格(ごかっ)願(ね)げ
安(や)し鏡(かがん) 横(よん)ご顔(づら)どん 写(うつ)し出(で)っ
け死(し)んだや 身内(みのきれ)じゃっち 人数(にし)が集(よ)っ

山椒集 題「裸足(はだし)」     有川南北選

猿芝居 靴(く)つ履(ふ)ませてん 裸足(はだ)しなっ [田原大黒]
湯加減ぬ 裸足でみちょい 砂蒸し場 [小森寿星]
汝(うな)言(ちゅ)たや 裸足(はだ)し逃(に)げ去(じ)た 柿(かっ)盗人(ぬすと) [瀬戸口和八久]
五客一席 百度参(ひゃっどめ)い 裸足の地面(じだ)が 後(の)ちゃ滾(たぎ)っ [横手五月]
五客二席 油断した 座敷(ざなか)を裸足(はだ)し 歩(さる)っ鶏(とい) [樋之口墨矢]
五客三席 酔(よく)れ亭主(てし) 裸足(はだ)し靴(くっ)どま ぶら下(さ)げっ [金井一馬]
五客四席 海(う)み浸(つか)っ 裸足(はだ)しゃした貝(げ)を 探(さぐ)い出(で)っ [山崎 満]
五客五席 火をば焚(て)っ 燠(おき)ゆ裸足で 通(とお)い修行(しゅぎょ) [隈元都城男]
選者吟 悪戯坊(きかんたろ) 汚れ裸足で 棚探し

龍虎集 「時事吟」     堂園三洋選

不況風(ふきょうか)ぜ 今年も 万羽鶴(まんばづい)が舞(も)っ [上籠若菜]
知(し)たんこっ 魚雷の側(そば)で 寝起(ねお)くしっ [栫 路人]
職安に 満員御礼(ごれ)を 借(か)い上(あ)げっ [大久保胡坐]
四天王一席 行(い)っ先(さ)きな テロがあろそな 心配(せわ)な旅行(たっ) [花牟礼雲雀]
四天王二席 長(な)げ不況 役場(やっば)ん財布(ふぞ)も 火の車(くいま) [畑山真竹]
四天王三席 援助どん 貰(も)ろっ菌やら 核(か)く作(つく)っ [弓場正巳]
四天王四席 また休場(きゅうじょ) 横綱言(ちゅ)とは 名ばっかい [枦山一球]
選者吟 年金が 下(さ)がっち不安(せわ)な 老夫婦(おんじょみと)

郷句相撲 題「匂(かざ)」

横綱(東) 花嫁が 匂(かざ)をばらめた 男世帯(じょて) [川村三生]
横綱(西) 武家屋敷(やしっ) かった侍(さむれ)ん 匂(かざ)がしっ [江平光坊]
大関(東) 回(めぐ)い棒(ぼ)が 目刺(めざし)の匂(かざ)で 手が狂(くる)っ [新地十意]
大関(西) 色直し 一生(いっで)一度(いっど)ん 匂(かざ)を撒(め)っ [津留見酎児]
関脇(東) 風向(かざむ)っが 匂(かざ)を運(はこ)じょい パン工場 [西 幸子]
関脇(西) 菜の花ん マラソン街道(けど)い 匂(かざ)が舞(も)っ [井手上政暎]
小結(東) 糯米(もっごめ)ん 蒸篭(せろ)ん匂(かざ)いに 腕まくい [細山田妙子]
小結(西) 犬(いん)猫も 敵(てっ)か味方か 嗅(かず)んみっ [小瀬一峻]
筆頭(東) 良(よ)か匂(かざ)ん 美人と嬉(うれ)し バスん席(せっ) [堂園三洋]
筆頭(西) 松茸(まったけ)あ 匂(かざ)だけ店で 御馳走(ごっ)せなっ [金井一馬]
二枚目(東) 胸いっぺ 故郷(さと)ん匂(かざ)をば 吸(す)っ帰(もど)っ [塚田黒柱]
二枚目(西) 石鹸の 匂(かざ)どん連(ての)っ 来た浮気 [上山天洲]
三枚目(東) 良(よ)か匂(かざ)ん 美人(シャン)が通れば ちっ行(じ)たっ [福山吉連]
三枚目(西) 娘(おご)ん匂(か)ぜ 馬(うんま)ん骨が 付(ち)っ纏(まと)っ [津留見一徹]
四枚目(東) 里(さ)て帰(もど)っ 昔(むか)す思(お)めでた 団子(だご)ん匂(かざ) [松元清流]
四枚目(西) 一(ひと)飯杓子(めしげ) 余計(じんじ)注(つ)がせた 焼魚(いお)ん匂(かざ) [深道好之]
五枚目(東) 味(あっ)も良(え)が 匂(かざ)がまた良(よ)か 柚子(ゆべし)団子(だご) [森山厚香]
五枚目(西) また匂(かざ)を 変えた女房(おかた)い 感(かん)ぬしっ [平中小紅]
六枚目(東) 化粧(けしょ)ん匂(か)ぜ 愛情(ぼんの)を隠(か)きた 女講(おなんこう) [坂元鶴山]
六枚目(西) おか娘(おご)あ 写真ずい甘(あ)め 匂(かざ)がしっ [上籠若菜]
七枚目(東) 野良猫(まぐれねこ) 秋刀魚ん匂(かざ)い 隙(す)く狙(ね)ろっ [入来創雲]
七枚目(西) シャネルなあ 五番が欲(ほ)しち 煤(すす)け妻(かか) [樋口一風]
八枚目(東) 木犀の 良(よ)か匂(か)ぜ植えた 亡夫(て)しゅ思(おも)っ [新田フサ]
八枚目(西) 寒(かん)海苔(のい)の 味噌汁(おっけ)が美味(うん)め 磯ん匂(かざ) [中村雲海]
親方吟(東) 串焼(くしや)っの 匂(かざ)いせからし 腹ん虫 [村田子羊]
親方吟(西) 紅梅(こべ)ん匂(か)ぜ 幼鶯(でっち)ん歌も 弾(はず)んでっ [岩崎美知代]

その他の秀句 (順不同)

子育(こおや)しが 済めば介護で 襁褓(しめし)替(か)え [津留見酎児]
子を真似(まね)っ 親も茶髪(ちゃぱっ)で 大人(お)せならじ [植村聴診器]
家(うっ)じゃ殿(との) 役所(やっしょ)じゃ平(ひら)で 畏(かしこ)まっ [有馬慶成]
木戸口(きどぐっ)で 出会(でよ)た隣(とない)も 午前様(ごぜんさあ) [永徳天真]
寄(よ)れ言(ちゅ)たで さしつけ行(い)たや 挨拶(えさっ)急須(ぢょか) [倉元天鶴]
逆箒(さかぼ)くば 握(にぎ)っ歌(う)とでた 長尻(ながじ)客(ぎゃっ) [米元年輪]
借(か)いでたや 貰(も)ろた気(き)でおい 術(ずっ)ね奴(わろ) [前田セツ]
婆育(ばばおや)し 大人(お)せな挨拶(えさっ)が まこて上手(じょし) [西 幸子]
総入歯(がんぶい)が パン食(く)競争(きょうそ)ん 後(あ)て残(のこ)っ [篠原文兎]
夫婦(みと)喧嘩 妻(かか)あ裸足で 亭主(て)しゅば追(う)っ [江口紫朗]
食(か)せ損(ぞん)の 卵亭主(とと)どま 鼾(いび)くけっ [石野蟹篭]
父親(ちゃん)の膳 訳(わけ)があろそな 生卵 [江平光坊]
もと金(きん)の 卵い切(せっ)ね 肩叩(たた)っ [坂元鶴山]
女房(うっかた)ん 小言(こご)つ肴(しおけ)い 苦(に)げビール [堂園三洋]
可愛(む)ぜ猫と 半分取(と)いの 爺(じ)の肴(しおけ) [村田子羊]
人前じゃ 言(ゆ)きらん議(ぎ)をば 妻(か)け吼(ほ)えっ [樋口一風]
間違(まっ)げずい 真似た隣(とない)の カンニング [上籠若菜]
間違(まっ)ごてん 愛しちょっとな 言(い)わん亭主(とと) [長井春江]
一通(ひととお)い 道具(どっ)が揃(そ)ろたや 飽(あ)っが来(き)っ [塚田黒柱]