おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第577号

雑吟     三條風雲児選

一番槍 不精(ふゆ)が宅(え)ん 日捲(ひめく)いなんだ まだ正月(しょがっ) [堂園三洋]
二番槍 パソコンな 無(な)かてん け死(し)ませんち言(ゆ)っ [小原庄太郎]
三番槍 病臥(ねお)ってん 起(お)きらにゃならん 牛(べぶ)飼育(やしね) [大保消忘書]
四番槍 湯の街(まっ)の 思(お)め出し笑(わ)れあ 女房(か)け内緒 [津留見酎児]
五番槍 世界一(せかいい)ちゅ 町(ま)ちゃエイサーで 待(ま)っちゃげっ [那加野黎子]
六番槍 出張ち 言(ゆ)たや女房(かか)わろ 目が笑(わ)るっ [枦山一球]
七番槍 たしね言(ちゅ)う 感覚(かんかっ)が無(な)か ぐらし孫 [永徳天真]

渋柿集

三條風雲児 五月晴(さつっば)れ どま碌(ど)き無(ね)うち 梅雨(なが)し入(い)っ
内外(うっそど)で 恥曝(はっさら)すすい 外務省
瀋陽(しんよ)騒動(そど) 日本(にほん)外交(がいこ)は なめられっ
秘書が起訴 されてん辞(や)めん 金バッジ
平(ひら)じゃれば もう序の口(くっ)の 若乃花
あばてんね 患者が控え席(せ)き 並(な)るっ
九時(く)じ寝(ね)すい 病院の夜を 持(も)て余(あ)めっ
上田 格 見事(みご)て肌 背中(せな)けな灸(えつ)ん 痕(あと)があっ
隣(つっ)の猫 朝飯(あさめし)時(ど)きな 訪(こと)っ来(き)っ
踊(おど)いなっ 女房(かか)は慌(せし)こっ 膳ぬ引(ひ)っ
ボロ単車 坂でな倍の 音がしっ
まだ五十歳(ごんじゅ) 腰が肩のち 騒動(そど)なこっ
ヨーチンぬ 腰(こ)しも塗(なす)った 徒競争(はしいぐら)
電話口(でんわぐ)ち 居(お)らんち言(い)えち 声がしっ
有川南北 強情(じょづ)え草 雨樋(あまどい)の空(そ)れ 根を下(お)れっ
揚(あ)げ底ん 見掛け倒しの 旅(たっ)土産
包装紙(つつんが)む とれば中身は ほんの一丁(ちょっ)
千円な すいめち女房(かか)が 値踏(ねぶ)むしっ
不景気ち 言(ゆ)どん人ん衆(し)ゃ よか車(くいま)
塚田黒柱 教(いっか)せた 方(ほ)が肥(こ)えでけた ダイエット
自分(わ)が金(ぜん)じゃ 身体(ごて)が利(か)ぬ内(う)ち 使(つ)こお言(ちゅ)っ
次(つ)が何(ない)が 出(で)いかずんだれ 外務省
遊(あす)っかて 料理(じゅ)ゆすい暇も 無(な)か女房(おかた)
五日制 ぼっぼっ暇を 持(も)て余(あ)めっ
村田子羊 盆三日 卵も食(か)せん 堅(か)て姑御(しゅとじょ)
くずれ犬(いん) クーラん前い 陣ぬ取(と)っ
可愛(む)ぜ婆(ば)さま まだ恋人(ちかづっ)が 欲(ほ)しち言(ゆ)っ
ポケットん 多(う)け服(ふ)く好(この)ん 貰(も)れ魂(だまし)
ずん垂(だ)れた 土下座外交(がいこ)い 歯痒(はが)ゆなっ
岩崎美知代 犬(いん)な外(そ)て 焙(あぶ)っクーラん 中(な)けちかっ
打(う)っ払(ぱ)るち すれば取(と)い付(ち)っ くずれ病(びょう)
爺(じ)が片頬(かたふ) 撫(な)ぜっ夕立(さだっ)が 駆(か)け通(とお)っ
青竹い 灯篭(つろ)を一担(ひとい)ね 爺(じ)が新盆(にぼん)
婆(ば)が逝(い)たや 煤(すす)け大黒(でこっ)も 転(ころ)だない

山椒集 題「寝巻(ねまっ)」     上田 格選

安(や)し寝巻(ねまっ) 腰のゴムかあ ずんだれっ [楠八重渓流]
生欠伸(なまあく)ぶ しかた寝巻(ねまっ)で 亭主(て)す送(おく)っ [塚田黒柱]
麓(ふもと)奥様(こじゅ) 寝巻(ねまっ)の容姿(よし)も 品(ひん)があっ [有馬慶成]
五客一席 小火(ぼや)騒(さわ)っ 寝巻(ねまっ)の野次(やじ)が 下知(げ)つ吐(か)えっ [有馬凡骨]
五客二席 堪(の)さん言(ちゅ)っ 寝巻(ねま)くひん脱(ぬ)だ 熱帯夜 [山内成泰]
五客三席 風呂上(あ)がい 寝巻(ねま)き色気を 包(つつ)ん込(く)っ [藤高春風]
五客四席 寝た孫い そろいと寝巻(ねま)く 婆(ば)は着(き)せっ [原田規矩夫]
五客五席 塵出(ごんだ)しが 寝巻(ねまっ)姿で 立話(たっばなし) [堂園三洋]
選者吟 寝巻(ねまっ)どま 着(き)もせじ裸(はだ)け 茣蓙い寝(ね)っ

龍虎集 「時事吟」     有川南北選

腹ん立(た)っ 日本(にほん)外交(がいこ)ん ざまなこっ [山内成泰]
エイサーに 手踊(ておど)いもでた かまと様(さあ) [埀野剣付鶏]
酷(ひ)でもんじゃ 看護婦同士(どし)で 亭主(て)す殺(こ)れっ [田代彦熊]
四天王一席 W杯(ダブルは)や 狭(せ)べ日本中(にほんじゅ)を 祭(まつ)いしっ [坂口橘風]
四天王二席 申告(しんこ)きな 少(すっ)の書(け)っ出た ノーベル賞(しょ) [前田セツ]
四天王三席 マスコミは 議(ぎ)を吐(か)やすなち メディア法 [塚田黒柱]
四天王四席 合併の 最初(はな)から続(つ)じた 呆(ぼ)え手違(てち)げ [蔵ノ下夢石]
選者吟 興味ん無(ね) 爺婆(じば)べうぜらし W杯(ダブルはい)

郷句相撲 題「小遣(こつけ)」

横綱(東) 子供(こどん)かい 貰(も)ろた小遣(こつけ)は 孫い飛(つ)っ [松元清流]
横綱(西) 改革(かいかっ)ち 小遣(こつけ)も大(ふ)とか 鉈(なた)を振(ふ)っ [田中栄泉]
大関(東) 鯖(さば)読(よ)んで 小遣(こつけ)を稼(かせ)っ セーラ服(ふっ) [坂元鶴山]
大関(西) 小遣(こつけ)いな やかまし家(うっ)の 財務省 [永徳天真]
関脇(東) 小遣(こつけ)切れ 山ん神(かん)さん 機嫌取(と)い [篠原文兎]
関脇(西) 桁違(ち)げん 小遣銭(こつけせん)かあ きし素抜(すに)っ [江平光坊]
小結(東) 子供(こどん)よか 亭主(てし)の小遣(こつけ)を 先(さ)き削(けず)っ [塚田黒柱]
小結(西) 援助言(ちゅ)て 小遣(こつけ)を強要(せび)い 途上国(とじょうこっ) [米元年輪]
筆頭(東) 父(ちゃん)よっか 子供(こど)が方(ほ)が多(う)け 小遣(こつけ)金(ぜん) [川村三生]
筆頭(西) 百万ぬ 小遣(こつけ)いくれた 怪(あや)し亭主(てし) [平中小紅]
二枚目(東) 退職(やめ)たなら 小遣(こつけ)をガラッ 減(へ)らされっ [堂園三洋]
二枚目(西) 吸(す)も飲(の)んも せんとに二万円(にまん) 足(た)らん言(ちゅ)っ [崎山典子]
三枚目(東) 小遣銭(こつけぜん) 欲(ほ)してな言(ゆ)わじ 肩を揉(も)ん [末村多櫛]
三枚目(西) 月(つっ)の初(は)ね 飲(の)ん方(か)て消えた 呆(ぼ)え小遣(こつけ) [坂元鶴山]
四枚目(東) 肩叩(たた)っ 小遣(こつけ)くれたや うっ止(ちゃ)めっ [入来創雲]
四枚目(西) 夏祭(なっまつ)い 孫は小遣銭(こつけ)と 馬場(ば)べ走(はし)っ [上瀬明星]
五枚目(東) 小遣(こつけ)をば 稼(かせ)ごちちょこっ パーて出(で)っ [堂園三洋]
五枚目(西) リストラで 小遣(こつけ)は毎朝(めあさ) 手い貰(も)ろっ [川村 明]
六枚目(東) 税金ぬ 自分(わ)が小遣(こつけ)じゃち 思(お)め上(あ)がっ [塚田黒柱]
六枚目(西) 爺(じ)ん小遣(こつけ) 利口(じく)な孫かあ むしられっ [山崎 満]
七枚目(東) 小遣(こつけ)せか 貰(も)ろえば孫は 直(じ)き帰(もど)っ [満留ぐみ]
七枚目(西) チンジャラち 小遣(こつけ)をずるっ 取(と)い上(や)げっ [福冨野人]
八枚目(東) 遊(あ)すじょれば 毎年(めとし)小遣(こつけ)も 減(へ)らされっ [枦山一球]
八枚目(西) 韮(にら)ん葉ち 孫ん旅立(たびだ)ち やい小遣(こつけ) [井手上政暎]
親方吟(東) 小遣(こつけ)ずい 前借(まえが)ゆしちょい 可哀相(ぐら)し亭主(とと) [村田子羊]
親方吟(西) 寝太郎(ねたろ)いも 盆な小遣(こつけ)が 懐(つく)れ来(き)っ [岩崎美知代]

第93回南日本薩摩郷句大会 兼題「気侭(きこん)」 金井一馬選

特選 二日(ふっか)寝(ね)っ 二日(ふっか)気侭(きこん)の 世界一(せかいいっ) [中村雲海]
秀一 ホームレス 気侭(きこん)な暮らし 根が生(お)えっ [岩崎美知代]
秀二 亡夫(とと)ん位牌(いへ) 連立((ての)っ気侭(きこん)の 遍路旅(たっ) [井手上政暎]
秀三 子と同居 気侭(きこん)になかで せんち言(ゆ)っ [三條風雲児]
秀四 楽(だ)き見(み)ゆっ 気侭(きこん)の暮(く)らしゃ 火の車(くいま) [稲田切株]
秀五 甘(あ)め躾 気侭(きこん)に育(お)えた 息子(こ)はぐれっ [棈松睦酔]
軸吟 代議士あ 気侭(きこん)じゃろそな 奴(わろ)も居(お)っ [金井一馬]

第93回南日本薩摩郷句大会 兼題「新茶」 平中小紅選

特選 利休忌い 茶筅(ちゃせん)も弾(はず)ん 新(に)け抹茶 [三條風雲児]
秀一 匂(かざ)を撒(め)っ さつま新茶ん PR(ピーアール) [津曲とっこ]
秀二 無農薬(むのやっ)の 手揉(ても)ん新茶あ 飛(つ)で売(う)れっ [倉元天鶴]
秀三 良(よ)か芽立(めだ)っ 一葉(ひとは)残(のこ)さじ 新茶摘(つ)ん [谷口雲城]
秀四 色と匂(かざ) 新茶が映(は)ゆい 白薩摩 [小森寿星]
秀五 匙で貰(も)ろ 新茶が嬉(うれ)し 長病臥(ながねおい) [上山天洲]
軸吟 洒落た衆(し)が ハーブ新茶で 茶飲(ちゃの)むしっ [平中小紅]

第93回南日本薩摩郷句大会 兼題「欠伸(あくっ)」 植村聴診器選

特選 鼻ん穴(す)も そがらしゅ開(あ)けた 疲(だ)れ欠伸(あくっ) [川村 明]
秀一 ぐらしどん 欠伸(あく)ぶすい子を 塾(じゅ)き追(う)やっ [小宮路〆鯖]
秀二 婆(ば)が欠伸(あくっ) 総入歯(がんぶ)ゆ舌で 転(ころ)ばけっ [榎田和男]
秀三 社長(しゃちょ)相手(えて)ん 負け碁あ欠伸(あく)ぶ 噛(か)ん殺(こ)れっ [坂元鶴山]
秀四 豆腐(おかべ)買(こ)け パジャマが欠伸(あく)ぶ 連立((ての)っ来(き)っ [小瀬一峻]
秀五 二日酔(ふっかよ)い 焼酎(しょちゅ)臭(く)せ欠伸(あく)ぶ 女房(かか)が叱(が)っ [新地十意]
軸吟 CTで 聴診器どま 欠伸(あく)ぶしっ [植村聴診器]

第93回南日本薩摩郷句大会 兼題「営巣(すづくい)」 中村雲海選

特選 ぼえ燕 手抜(てぬ)くした巣が ひっ落(ちゃ)えっ [樋口一風]
秀一 茶髪(ちゃぱ)つ見(み)っ 鳥(とい)が営巣(すづく)い 欲(ほ)しち鳴(ね)っ [津留見酎児]
秀二 営巣(すづく)った 癌で頑丈(はって)な 亭主(て)す倒(た)えっ [岩崎美知代]
秀三 新(に)け家(え)いな 営巣(すづく)や駄目(ぼっ)ち 箒(ほ)きょ握(にぎ)っ [西 幸子]
秀四 器用(じく)な蜘蛛(こっ) 芸術品の 巣を作(つく)っ [堂園三洋]
秀五 白蟻(どっずい)の 営巣(すづく)い嬉(うれ)し 駆除業者 [米元年輪]
軸吟 営巣(すづくい)の 中途(つと)ん開発(かいは)ち 鳥(とい)が泣(ね)っ [中村雲海]

第93回南日本薩摩郷句大会 兼題「湿(しと)い」 村田子羊選

特選 モナリザを 皺婆(しわば)べなけた 酷(ひ)で湿(しと)い [堂園三洋]
秀一 泳(およ)っかて 湿(しと)った鯉幟(のぼ)や 暇が要(い)っ [永徳天真]
秀二 夜露(よ)ち湿(しと)っ 夜通(よひ)てベンチい 恋(こ)ゆ語(かた)っ [樋口一風]
秀三 ペイオフが 壺い諭吉(ゆき)ちょば 湿(しと)らけっ [上籠若菜]
秀四 茸(なば)作(つく)い 湿(しと)い加減に 苦労(くろ)が要(い)っ [下栗志乃]
秀五 雨続き 棚ん煎餅(せんべ)は ぐにゃっなっ [三條風雲児]
軸吟 寝小便(ねしべん)が 後(の)ちゃ畳(たたん)ずい 湿(しと)らせっ [村田子羊]

第93回南日本薩摩郷句大会 兼題「奥(おっく)」 堂園三洋選

特選 当(あ)たい籤(く)じょ 引(ひ)こち奥(おっく)い 手を入(い)れっ [永野寛二]
秀一 財布(ふぞ)次第(しで)で 奥(おっく)い通(と)えた 骨董屋 [津曲とっこ]
秀二 袋競(ふくろぜ)や 奥(おっく)で河豚(ふぐ)ん 値が決(き)まっ [三條風雲児]
秀三 娶(も)れ話(ばな)し 納戸ん奥(おっ)で 息(い)く殺(こ)れっ [小宮路〆鯖]
秀四 奥(おっく)ずい 混(ま)ぜくいたくっ 買(こ)わん奴(わろ) [小瀬一峻]
秀五 言(ゆ)放題(ほで)言(ゆ)っ 胸ん奥(おっく)を 空(から)いしっ [岩崎美知代]
軸吟 臍繰(へそく)いの 諭吉(ゆき)つ奥(おっく)で 黙(だま)らせっ [堂園三洋]

その他の秀句 (順不同)

どけ行(い)てん 八割(はちわ)や婆(ばば)ん 長寿会 [安藤孟宗竹]
稀(まれ)けんの 夫婦(みと)ん会話が 後(の)ちゃ諍(いさ)け [上籠若菜]
からオケ屋 焼酎(しょちゅ)がストレす 叫(おら)ばせっ [小瀬一峻]
野良(はい)仕事(しご)ち 膾(なま)しゃ手の甲(こ)い 貰(も)れあげっ [金井一馬]
貧暮(ひんぐ)らし 孝行(こうこ)は只(ただ)ん 口(くっ)でしっ [諸木小春]
家相(かそ)が良(え)で 家移(えなお)やせんち 貧乏神(びんぶがん) [江平光坊]
猫は良(よ)か 一夫多妻で 朝帰(あさもど)い [前田セツ]
合食(がっしょっ)が 乗(の)っ来(き)っ気まじ エレベータ [樋口一風]
わいずいか 言(つ)よな奴(わろ)ずい ビキニじゃっ [楠八重渓流]
終風呂(しめぶろ)あ 首(くっ)ずい浸(ち)けりゃ 腹が出(で)っ [東 竜王]
倦怠期 顔(つら)を見(み)いたび 欠伸(あく)ぶしっ [福冨野人]
桜島 錦江湾ぬ 灰皿(へざ)れしっ [富嶽]
太(ふ)て自慢(ぎら)を 太(ふと)か欠伸(あくっ)で 黙(だま)らせっ [花牟礼雲雀]
終(お)わったや 直(いっ)き欠伸(あくっ)が 手を叩(た)てっ [上園一笑]
欠伸(あくっ)ずい 写真に撮った 可愛(む)ぜ盛(さか)い [小宮路〆鯖]
逆さ箒(ぼ)き 欠伸(あく)ぶ付(ち)けてん 置(お)かん盃(ちょっ) [津留見一徹]
五十(ごじゅ)男(おとこ) 営巣(すづく)やしたが 嫁(き)てが無(の)し [山田竜生]