おんじょどいの小屋

薩摩郷句誌「渋柿」

第576号

雑吟     三條風雲児選

一番槍 一(いっ)キロを 痩せた肥えたち 娘(おご)ん騒動(そど) [樋口一風]
二番槍 血税(けつぜ)ゆば 使(つ)こっ国会(こっか)や 揉(も)めどえっ [藤高春風]
三番槍 土用(どゆ)ん丑(うし) 一日(ひしち)鰻(うなっ)じゃ 気力(あや)は無(の)し [藤後一碧]
四番槍 広(ひ)れ宇宙(うちゅ)ん 隅(すん)で屁のよな 境(さけ)争(いさ)け [佐土原 隆]
五番槍 室内(うっ)の事(こ)ちゃ 嫁修行(よめしゅぎょ)んよな 鰥夫(やもめ)世帯(じょて) [津留見酎児]
六番槍 敷(し)かれちょい 長男(すよ)を気の強(つ)え 母親(はほ)が叱(が)っ [金井一馬]
七番槍 目が四つ あいよな姑(しゅと)い 気を遣(つ)こっ [平中小紅]

渋柿集

三條風雲児 娘(おご)ん衆(し)の キャンプ薪(たくん)じゃ 飯(め)しゃ炊(た)けじ
臍出しの 癖で浴衣は 窮屈(きくっ)のし
畑(はっけ)いな 降(ふ)らじ山(や)め降(ふ)い 馬鹿夕立(さだっ)
入れ歯どま 嵌(は)めじ爺様(じさま)も 心太(ところてん)
雷(かんなれ)を 朝かい落(お)とす 夏休(なっやす)ん
北ん斜面(ひら) まだ目が覚(さ)めん 合歓(あさねごろ)
また一(ひと)っ 病院(びょいん)な病(びょ)をば 見(み)しけ出(で)っ
上田 格 何(な)ゆしてん 呆(ぼ)えが魚釣(いおつ)や 勘が良(ゆ)し
負け箸戦(なんこ) 焼酎(そつ)が回れば 取(と)い戻(も)でっ
遅れ客(ぎゃっ) 皿も大(ふ)と小(こ)む 得揃(えそろ)わじ
灯篭(つろ)ん絵い 漫画が並(な)るだ 六月灯(ろっがっど)
闘鶏(けんかどい) 一(ひ)と声上(あ)げっ 飛(と)っかかっ
昨夜(ゆべ)ん虎 玄関の前(ま)へ 吐(は)っかぶっ
天吹(てんぶ)くば 握(にぎ)っ明治ん 顔(つら)いなっ
有川南北 疲(だ)れ鰯 白内障(そこひ)じゃろかい 目が濁(にご)っ
また石蕗(つわ)か こげん再々(はいと)じゃ 飽(あっ)がきっ
すい事(こっ)も 無(な)かでまた寝(ね)ろ 梅雨(ながし)あめ
泣(な)っ笑(わ)れが 壁越し分(わ)かい 長屋住(ず)め
大法螺(うぼら)吹(ふ)き 落花生(だっきしょ)殻も 倍散(ち)れっ
塚田黒柱 考(かん)げなし 顔(つら)どみ惚れたとが 間違(まっ)げ
好(す)っじゃっち 一日(ひして)一度(いっど)は 言わされっ
焼酎(しょちゅ)となあ 心中(しんじゅ)をしてん 良(え)ち吐(か)えっ
まだ一人(ひとい) 辞職(や)めじバッジい しがん付(ち)っ
隠居言(ちゅ)が 他人(ひと)が言(ゆ)しこは 楽(だっ)じゃ無(の)し
村田子羊 一年中(いっねんじゅ) 丼飯(どんぶいめし)の 健(さか)し女房(かか)
蟇蛙(いぼどんこ) 涼(すず)し背戸合(せどや)で 座禅(ざぜ)む組(く)ん
千尋腸(ぞぞわた)い 厄介(やっけ)な疣(いぼ)が 顔(つら)を出(で)っ
厳(いみ)し姑(しゅと) 胸ん奥(おっく)い 鬼(おん)ぬ飼(こ)っ
横(よん)ご泥鰌(どじょ ) 料理(じゅい)の最中(さなか)い 泥を吐(へ)っ
岩崎美知代 寝(ね)っ転(ころ)っ 嘘もくりくり 電話口(でんわぐっ)
食(く)な飲(の)んな 歩(あゆ)め走れち 恐(お)ぜ糖尿病(とうにょ)
人間に すれば百五歳(ひゃっご)ん 三毛が産(う)ん
六月灯(ろっがっど) 何歳(いく)ちなってん 弾(はず)ん胸
暑気払(しょっば)れん 婆(ば)ん冷水(ひやすい)で 生(い)っ上(きゃ)がっ

山椒集 題「熨斗(のし)」     上田 格選

韮(にら)ん葉ち 懐(つく)れ押し込(く)だ 熨斗袋 [棈松睦酔]
熨斗袋(のしぶく)れ 鉛筆(えんぴ)つ入れた 参加賞 [山崎 満]
頑張(きば)れよち 巣立(すだ)っの孫い 熨斗袋 [鈴木一泉]
五客一席 勝名乗(かっなの)い 手太刀(てだっ)で熨斗(の)すば 鷲掴(わしづか)ん [田代彦熊]
五客二席 品評会(ひんぴゅか)い 貰(も)ろた山鍬(やまか)あ 熨斗(の)す負(かる)っ [倉元天鶴]
五客三席 焼酎(しょちゅ)二本 熨斗(の)しゃ要(い)らんでち 括(きび)らせっ[江平光坊]
五客四席 中元の 熨斗(の)しゅ背負(かる)っ来た 丁寧(てね)な歳暮(せぼ) [仮屋一発]
五客五席 熨斗(の)す巻(め)たや 焼酎(しょちゅ)一本に 箔(はっ)が付(ち)っ [上籠若菜]
選者吟 手触(てざわ)いで ニコッちなった 熨斗袋

龍虎集 「時事吟」     有川南北選

戦車どま 落(ちゃ)やけっ何(ない)が 有事法 [樋口一風]
あせくれば 皆(みんな)あろそな 秘書疑惑(ぎわっ) [佐伯山神]
盗(と)られたも 知(し)たじ笑(わ)るちょい 田の神様(かんさ) [佐土原 隆]
四天王一席 世界一(せかいいっ) 手踊(ておど)い見せた かまと婆(ばあ) [菖蒲谷天道]
四天王二席 わががもへ 星(ほ)しひんなった 惜(お)し館長(かんちょ) [上籠若菜]
四天王三席 駄目虎が 厳(い)ね監督(かんとっ)で 生(い)っ上(きゃ)がっ [堂園三洋]
四天王四席 金バッジ 揚(あ)げ足取(と)いで 日を暮(く)れっ [津留見一徹]
選者吟 テレビ真似 鵜呑(ぐの)んのパンが 命(いの)つ取(と)っ

郷句相撲 題「昼寝(ひんね)」

横綱(東) ひと休(やす)ん ともた昼寝(ひんね)あ 日が落(お)てっ [小原庄太郎]
横綱(西) 海馬(とど)と豚 言(ちゅ)よな昼寝(ひんね)ん 肥満(だんべ)夫婦(みと) [塚田黒柱]
大関(東) 滅多(めっ)てせん 昼寝(ひんね)ん最中(さな)け 歯痒(はが)い客(きゃっ) [棈松睦酔]
大関(西) 昼寝(ひんね)場所 女房(かか)が早ばや 陣ぬ取(と)っ [馬迫 蛙]
関脇(東) 山小払(やまこば)れ つるっしたなあ 日は陰(かげ)っ [栫 路人]
関脇(西) 出れば金(ぜん) 婆(ばば)あ昼寝(ひんね)で 夢を見(み)っ [西 幸子]
小結(東) 昼寝(ひんね)をば 起(お)けたセールしゅ 叱(が)いたくっ [上籠若菜]
小結(西) 初孫(はっまご)は 可愛(む)ぞし昼寝(ひんね)を 起(お)けっ抱(で)っ [末村多櫛]
筆頭(東) 昼寝(ひんね)女房(かか) まだ目が覚(さ)めん 夕飯(ゆめし)時(どっ) [江平光坊]
筆頭(西) 腹ん胎児(こ)が 昼寝(ひんね)ん母(かか)を 蹴(け)い起(お)けっ [隈元都城男]
二枚目(東) 爺(じ)の昼寝(ひんね) 夕立(さだ)つ呼(よ)んよな わぜ鼾(いびっ) [有村土栗]
二枚目(西) 定年(てねん)亭主(とと) 所望(のぞ)だ昼寝(ひんね)も 飽(あっ)が来(き)っ [安藤孟宗竹]
三枚目(東) 昼寝(ひんね)すっ 思(と)もたや晩な 飲(の)んけ出(で)っ [福原福多]
三枚目(西) サイレンに 昼寝(ひんね)ん犬(いん)も 叫(おら)っ出(で)っ [坂元鶴山]
四枚目(東) 趣味も無(ね)で 昼寝(ひんね)をせんな 日が長(な)ごし [津留見酎児]
四枚目(西) 昼食後(ひい)からな 仕事(しご)ちなならん 昼寝(ひんね)癖 [郷田悠々]
五枚目(東) 俄か客(ぎゃ)き 昼寝(ひんね)茣蓙目(ござめ)を 隠(か)きっ出(で)っ [倉元天鶴]
五枚目(西) お昼寝ん 時間ちさいも 寝(ね)かされっ [藤後一碧]
六枚目(東) 金(ぜん)が無(ね)で 昼寝(ひんね)じゃ雨ん 日曜日 [永徳天真]
六枚目(西) やぜろし蠅(へ) 昼寝(ひんね)婆(ば)ん顔(つら) やれむしっ [満留ぐみ]
七枚目(東) 昼寝(ひんね)じゃろ 婆(ばば)が陣取(じんと)い 日向(ひなた)縁(えん) [有馬凡骨]
七枚目(西) 久振(さしかぶ)い 昼寝(ひんね)が嬉(うれ)し 里帰(さともど)い [森山厚香]
八枚目(東) 昼寝(ひんね)どん しちょって暇は 無(ね)ち吐(か)えっ [川村 明]
八枚目(西) 派手な唄 昼寝(ひんね)を起(お)けた 魚売(さかなう)い [鈴木一泉]
親方吟(東) 食飽(じっど)れっ 納戸ん隅(すん)で 蚊も昼寝(ひんね) [村田子羊]
親方吟(西) 稽古(けこ)後(あと)ん 昼寝(ひんね)い横綱(つな)ん 夢を追(う)っ [岩崎美知代]

その他の秀句 (順不同)

脚(あ)す組んだ 脛(すね)が威張った 脚線美 [永徳天真]
南国(なんごっ)ち 言(ゆ)が花見(はなん)どま 尻(げ)ちけなっ [田原大黒]
なっみたや 年金暮(ぐ)らしゃ 火(ひ)の車(くいま) [中村雲海]
早(は)よ寝(ね)れち 週末(しゅうま)ちなれば 子をば叱(が)っ [枦山一球]
見合(みえ)ん座(ざ)じゃ 上戸(じょご)が茶菓子も 食(く)てみせっ [前田セツ]
大物(おおもん)ち 手相見(てそみ)は言(ゆ)どん 定年(てねん)前 [諸木小春]
晩成(ばんせい)ち 言(ゆ)われた侭(ない)で 亭主(て)しゃ退職(やめ)っ [小森寿星]
釘(くっ)よっか 口(くっ)で繕(こそく)っ 呆(ぼ)え大工 [樋口一風]
唐船峡(とうせんきょ) 左利(ぎっちょ)がさがす 右回(みっまわ)い [郷田悠々]
折角(せっか)買(こ)た 水着(みっぎ)で母(かか)は 荷物番(にもっばん) [中間紫麓]
黄信号(きいしんご) 止まれば損ぬ したごたっ [江平光坊]
成(な)れんどん 子供(こど)ま政治家(せいじ)け すごちゃ無(の)し [金井一馬]
似(に)らん子い 出稼(でかせ)ぎゃ始終(はいと) 指(ゆ)ぶつもっ [福冨野人]
わが口(く)ちにゃ 入(い)れんよな物(と)を 義理(ぎ)い送(おく)っ [種子田 寛]
火を点(と)べっ 孫が嫁(い)たどち 亡妻かけ語(かた)っ [山内成泰]
立(た)っ上(ちゃ)がっ 言(ゆ)おちした時(と)きゃ け忘(わす)れっ [宮下珍竹]
熨斗(の)す付(つ)けっ 戻(もど)そごっあい 横道(おど)な嫁 [飯福小手毬]
出戻(でもど)いが 温和(おとな)し郷里(さと)い 波(な)む立(た)てっ [有馬凡骨]